本ブログページでは本章前回のブログページに引き続き自閉症児に言葉を教えるときに使えるABA自閉症療育のプログラムの手続きとポイントを書いて行きます。
本章前回のブログページでは「文章」を明瞭に綺麗に発音する練習方法をご紹介しました。
本章前回のブログページは「(ABA自閉症療育の基礎97)自閉症児の言葉を明瞭に綺麗するー文を話すときをどう明瞭に綺麗して行くか(https://en-tomo.com/2022/04/22/vocal-imitation-procedure-compound-sentences/)」です。
本ブログページでは綺麗さ、明瞭性とは少しテーマは違うものの言葉を使用するときに大切な「音量」「スピード」「抑揚」について教え方をご紹介して行きましょう。
綺麗さ、明瞭性があったとしてもロボットのような棒読みではコミュニケーションを取る際の言葉としてはあまり適切とは言えません。
例えば高木 隆郎 (2009)はカナー(Kanner)の述べた自閉症の特徴として抑揚のない、一本調子あるいは尻上がりの独特の話し方、ときには文章を棒読みしているような無感情の話し方も特徴的であると述べています。
カナーは自閉症を始めて報告した人物です。
現在の診断基準とカナーが述べた自閉症の診断基準は少し違うところもありますが、カナーが述べたタイプの自閉症は現在の自閉症の診断基準にも入ってくるでしょう。
以下のイラストのようなイメージです。
自閉症のお子様の中で「音量」「スピード」「抑揚」について困っているケースもありますので、教え方の方法をご紹介していきます。
もしあなたのお子様が言葉の遅れの無い(もしくは少ない)タイプの自閉症だった場合、「音量」「スピード」「抑揚」について修正することは比較的難しいことではありません
但し言葉の遅れが大きなお子様の場合は「音量」「スピード」「抑揚」について修正することは比較的難しくなる、と個人的には思っているところです
そのためまず簡単に言葉の遅れの無い(もしくは少ない)タイプの自閉症だった場合の「音量」「スピード」「抑揚」の修正方法について述べ、
その後言葉の遅れが大きなお子様の場合は「音量」「スピード」「抑揚」について書いて行きます。
また本ブログページで書いた方法以外にも修正方法、介入方法はあると思いますから、これ以外の方法がダメだ、というわけではありませんので、そのことだけご了承ください。
言葉の遅れの無い(もしくは少ない)タイプの自閉症への教え方ー「音量」「スピード」「抑揚」
言葉の遅れの無い(もしくは少ない)自閉症のお子様の場合で且つ3歳半ば以上をイメージしてください。
言葉の遅れの無い(もしくは少ない)場合、例えば『「大きい」や「小さい」』の概念を理解しているし、また「真似して」という言葉の意味も理解していると思います。
朝起きてお子様が「おはよう」と言ってきたとき、その音量があまりにも小さいことに困っていたとしましょう。
お子様が朝「おはよう」と言ってきたとき、「もう少し大きな声で言おう!真似して、おはよう」と「大きい声」というルールとお手本を見せてもう一度あいさつをさせるようにします。
そして大きな声で「おはよう」と言えたとき、たくさん褒めてあげて強化してあげてください。
スピードも同じで速すぎた場合は「もう少しゆっくり言おう!真似して、おは・よう」のように「ゆっくり言う」というルールとお手本を見せてもう一度あいさつをさせるようにします。
そしてお子様が上手に言えたとき、たくさん褒めてあげて強化してあげてください。
上のように「ルール」と「音声模倣(モデル学習)」で教えることが基本線です。
頭を悩ませるケースは「うちの子は声も小さいしスピードも早い」と上で書かれた症状が重複して現れている場合、例えば、
(1)大きさから修正するか?
(2)速さから修正するか?
(3)大きさと速さ、両方を並行して修正するか?
という点は少し悩むかもしれません。
ここに関しては(1)か(2)を採択し、音量かスピードのどちらか片方から修正をして、修正がかかればもう片方に取り組む、というスタンスで行ってあげてください。
「抑揚」というのはどうでしょうか?
抑揚が無いとは使用する言葉の音調が平坦なことです。
今はSiriなど機械音声も発達して本当に人が話しているように聞こえることもありますが、一昔前の機械音声を思い出してみてください。
音調が平坦でそのような話し方を実際にヒトがすれば少し違和感があるな、と感じたと思います。
例えば「そうなんですね」を音調を変えずに言うと少し変な感じに聞こえるでしょう。
お子様の使用する言葉で言えば何か尋ねられて「いいよ」と承諾する応答をする際、音調が平坦だと少し違和感があるように聞こえると思います。
抑揚に関しては音声模倣が使えるのですが「ルール」は入れるのが少し難しいかもしれません。
抑揚をルールで入れるのであれば「今の音はちょっと高く、次は低く」と音調を示すルールを示す必要があるのですが、幼児の場合、周りのお子様も含めて音の高低についてのルールは音量やスピードと比較すると理解することが難しいと思います。
そのため模倣で修正をかけて行くことが基本線です。
例えばお母様が「一緒にお買い物行こうか」と言ったとき、お子様が抑揚のない調子で「いいよ」と言ったとすれば、お手本を見せ、
お手本「い(→)い(⤴︎)よ(→)」、音の調子を真似させるようにします。
※ 地域によって抑揚の付け方に違いがあると思うので親御様が普段使用している抑揚の付け方でモデルを出すようにしてください
このようにお手本を見せてもう一度、応答をさせるようにし、お子様が上手に言えたとき、たくさん褒めてあげて強化してあげましょう。
毎回修正から入らなければいけないパターンに陥ったら
ここまで言葉の遅れの無い(もしくは少ない)タイプの自閉症への教え方として「音量」「スピード」「抑揚」の方法をご紹介してきましたが良くあるパターンもご紹介します。
(1)ここまで紹介してきた方法で修正をする
(2)そのときは修正がかかって褒めてあげることができる
(3)ただ毎回、次の機会では前回と同じように声が小さかったり、速かったり、抑揚がなかったりして修正することを繰り返している
このようなパターンに陥ってしまう可能性もあるでしょう。
このようなパターンに陥ってしまったときどうするかも書いておきます。
毎回、次回のとき、前回と同じように声が小さかったり、速かったり、抑揚がなかったりする場合は、
お子様が行動を起こす前に事前にプロンプトを入れるようにします。
例えばイラストのタイミングでプロンプトを入れてみてください。
イラストのタイミングでお子様が行動を起こす前にプロンプトを入れます。
このとき最初は「待ってね、母さんが先に上手に言うから、真似してよ見ててよ」など直接的な表現でプロンプトを入れます。
それで上手くできることが続いたら直接的な表現を緩和していき、
例えばお手本を抜いた形で「大きな声で言うんだよ」というプロンプトにシフトする。
そしてその後、直接的でない間接的な「どうするか覚えてる?(大きな声などの直接的なキーワードを抜く)」という形にさらにシフトし、プロンプトをフェイディングしていってください。
するとこの例で言えば最終的にはプロンプトが無い状態でも大きな声で「おはよう」と言えるようになると思います
もしひらがなが読めるお子様の場合はひらがなを使ったプロンプトも効果的です。
例えばおはようという場所に「おおきな こえ」と書いた紙を貼っておいてお子様と朝対峙したときにその紙を指差して注目させます。
そして徐々にその紙に書いているワードを、
(1)「おおきな こえ」
(2)「おおきな こ」
(3)「おおきく」
(4)「おおき」
(5)「おお」
(6)「お」
(7)白紙
と言ったようにプロンプトをフェイディングして行くことも可能です。
お子様に合う方をチョイスし行ってみてください。
言葉の遅れが大きなタイプの自閉症への教え方ー「音量」「スピード」「抑揚」
ここまで言葉の遅れの無い(もしくは少ない)タイプの自閉症への教え方として「音量」「スピード」「抑揚」の方法をご紹介してきましたが、
「ルール」と「音声模倣」で教えることを基本線として書いてきました。
言葉の遅れが大きな自閉症のお子様では『「大きい」や「小さい」』、『「はやく」や「ゆっくり」』といったルールが使用できない(概念としてまだ習得していない)場合があるでしょう。
また模倣についても細かいニュアンスまで模倣し切ることが難しい場合があり、声量やスピード、抑揚と言ったところの模倣を求めることが難しい場合があります。
ではどのようにして教えることができるでしょうか?
O.Ivar Lovaas (2003)のマニュアルを参考に介入方法をご紹介していきます。
また以下の方法は言葉の遅れの無い(もしくは少ない)自閉症のお子様に対しても使用することができるでしょう。
話すときの声の大きさを教える
お子様に声の大きい、小さいの弁別(区別)を教えて行くのですが、
O.Ivar Lovaas (2003)のマニュアルでは子どもがすでに模倣できる単語や句で大きい声や小さい声を促すものを使用すると記載されています。
例えば「ガオー」や「ヤッホー」は大きい声に適しており、「ベイビー(あかちゃん)」や「キティ(ねこちゃん)」は小さい声に適しているようです。
洋書なので日本で言えば小さい声は「しー」や「こそこそ」などが適しているように思います。
手続きとしては例えば「ガオー」を使用して声の大きさをシェイピングして行きましょう。
シェイピングとは目的行動に近づけて行くよう強化して行くことですので支援側が大きな声で「ガオー」とモデルを出し、お子様が「ガオー」と模倣できたときに強化するのですが、
声の大きさが前よりも大きくなっていくことを強化して行きます。
次に同じように小さい声を「しー」などでシェイピングしましょう。
そのあと「ガオー」と「しー」のモデルをランダムに提示してお子様が声の大小を弁別できるようにする、という手続きです。
ここまでは大きな声は「ガオー」、小さな声は「しー」でしたが、次は大小を同じ単語や句を使用して練習します。
例えば「大きな声でおはよう」、「小さな声でおはよう」と支援者側が示すモデルに反応して、お子様は声の大きさを模倣できるような練習です。
最後、色々な単語を使ってランダムに課題を行いましょう。
1回目「(小さい声で)さようなら」、
2回目「(大きい声で)頑張ったよ」、
3回目「(小さい声で)おやすみ」、
4回目「(小さい声で)りんりんりん」、
5回目「(大きな声で)バイバーい」、
6回目「(小さい声で)ぱたぱた」、
7回目「(大きい声で)できたー」、
8回目「(大きい声で)おなかへったー」、
9回目「(小さい声で)あめ ひたひた」、
10回目「(大きい声で)もういっかい やるー」、
などのようにです。
ここまで来ればお子様は意識して声の大小を使い分けることが可能になっているとみて大丈夫ですので、ここからは「大きな声で」や「小さな声で」という指示に反応して声の大小をコントロールするという指示を聞く課題に移行して行きます。
指示を聞く課題についてはまた次のブログページでご紹介できればと思いますが、声の大小の調整は以上の手続きで教えることが可能です。
またここまでザーッと書いてきましたが、以上の手続きを1日で進めるというイメージで行わないでください
数日、数週間、お子様によって違いはありますが、数ヶ月かけるということもあると思いますから、少しずつ上手になって行くという意識で取り組んでいきましょう。
話すときの速さを教える
お子様に声の速い、遅いの弁別(区別)を教えて行くのですが声の大きさを教えたときと方法はほとんど変わりません。
つまり、
(1)速く言う(例えば1秒以内に「ダダダ」と言う)ことができるよう、速く言ったモデルに反応するよう練習しシェイピングする
(2)次に遅く言う(例えば3秒かけて「ティーティーティー」と言う)ことができるよう、遅く言ったモデルに反応するよう練習しシェイピングする
(3)練習した『1秒以内の「ダダダ」』と『3秒かける「ティーティーティー」』をランダムで言い分ける練習をする
(4)特定の単語や句を選択(例えば「むむむ」)し、『1秒以内の「むむむ」』と『3秒かける「むむむ」』をランダムで言い分ける練習をする
(5)他のさまざまな単語や句でもできるよう練習する
(6)「早く言う」、「ゆっくり言う」という音声の指示に落とし込む
以上の手続きです。
本ブログページでは(1)から(5)について丁寧に書いてきました。
(6)の音声指示に落とし込む方法についてはまた次のページでご紹介したいとは思いますが、以上の手続きでお子様の言葉のスピードを練習することが可能です。
話すときの抑揚を教える
お子様に声の抑揚(高い、低い)を教えて行くのですがここまで書いてきた手続きとほとんど変わりません。
(1)高く言う(例えば「ウィー」)ことができるよう、高く言ったモデルに反応するよう練習しシェイピングする
(2)次に低く言う(例えば「ダーン」と言う)ことができるよう、低く言ったモデルに反応するよう練習しシェイピングする
(3)練習した『高い「ウィー」』と『低い「ダーン」』をランダムで言い分ける練習をする
(4)特定の単語や句を選択(例えば「はーい」)し、『高い「はーい」』と『低い「はーい」』をランダムで言い分ける練習をする
(5)他のさまざまな単語や句でもできるよう練習する
以上の手続きです。
声の大小やスピードと違って抑揚についてはあまり音声指示「高く言って」や「低く言って」という練習はしなくても大丈夫だと思います。
理由は幼児が日常場面で「もう少しこうやってごらん」というようにモデルを見せられて声の高低を教えられることはあっても、あまり「高く言って」や「低く言って」と指示される機会は少ないと思うからです。
さいごに
本ブログページでは綺麗さ、明瞭性とは少しテーマは違うものの言葉を使用するときに大切な「音量」「スピード」「抑揚」について教え方をご紹介し、
言葉の遅れの無い(もしくは少ない)自閉症のお子様への教え方、言葉の遅れが大きな自閉症のお子様への教え方を書いてきました。
言葉の遅れの無い(もしくは少ない)自閉症のお子様への教え方の中で「毎回修正から入らなければいけないパターンに陥ったら」という項を書きましたが、このテクニックは他にもいろいろなところで使えるテクニックです。
また言葉の遅れが大きな自閉症のお子様への教え方の中で書いてきた(1)から(5)の弁別を促す手続きもお子様に何かを教えようと思ってときに使えるテクニックでしょう。
本ブログページでも「次のページで記載します」と書いていた、弁別できたことを音声の指示に落とし込む方法について次のページでは書いて行きます。
【参考文献】
・ 高木 隆郎 (2009) 第1章 児童分裂病と早期幼児自閉症 【編集 高木 隆郎 自閉症 幼児期精神病から発達障害へ 星和書店 p 3-4】
・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】