(ABA自閉症療育の基礎97)自閉症児の言葉を明瞭に綺麗するー文を話すときをどう明瞭に綺麗して行くか

本ブログページでは本章前回のブログページに引き続き自閉症児に言葉を教えるときに使えるABA自閉症療育のプログラム「音声模倣」についての手続きとポイントを書いて行きます。

本章前回のブログページでは「複音」の音声模倣にフォーカスして音声模倣の方法に触れてきました。


「複音」の音声模倣にフォーカスして音声模倣の方法は、

「(ABA自閉症療育の基礎96)自閉症児の言葉、複音音声模倣の方法ー単語を明瞭に綺麗に話す(https://en-tomo.com/2022/02/04/vocal-imitation-procedure-compound-note/)」でご紹介しています。


「(ABA自閉症療育の基礎96)自閉症児の言葉、複音音声模倣の方法ー単語を明瞭に綺麗に話す」のサムネイル

本ブログページでは「複音」の音声模倣からステップアップして、自閉症児の話す文章を明瞭に綺麗する方法を見ていきましょう。



自閉症児の話す文章を明瞭に綺麗する

本章これまでのブログページから「単音」、そして「複音」をどのように明瞭に、綺麗にして行くかを書いてきました。


「単音」とは「あ」「き」「す」「せ」「と」などの1音で表出される音で、

「複音」は「いえ」「さかな」「チョコレート」「だいこん」「はらっぱ」などの複数の音で表出される音でした。


本ブログページでは「文章」についてどのように音を明瞭に綺麗にして行くかについて書いて行きます。

文章が明瞭に綺麗に言えるとは、「ぼく きのう すーぱーで おにく かったんだ」というとき「ぼう きのう うーぱーで おにう あっあんだ」とはならずに言えることです。


本ブログページの内容は、

基本的には『(ABA自閉症療育の基礎95)自閉症児の言葉・発声を促すプログラム「音声模倣」、綺麗な発音はどう教える?構音の仕方(https://en-tomo.com/2021/11/05/vocal-imitation-procedure/)』でご紹介した、

「側音化高音(そくおんかこうおん)」や口内の筋力不足はある場合はまずそっちを解決してもらって、

そのような症状が見られないものの、音を続けて出さなければいけないときに発声が不明瞭になってしまうお子様向けの内容となります。


『(ABA自閉症療育の基礎95)自閉症児の言葉・発声を促すプログラム「音声模倣」、綺麗な発音はどう教える?構音の仕方』のサムネイル

そして本ブログページは少し発達の遅れが少ないお子様向けの内容になってしまうかもしれませんが、発達に遅れの大きいお子様でも「そういった方法で療育ができるように目的を持てば良いのか」と思ってもらえる内容になれると幸いだ、

という気持ちで書いて行きます。


本ブログページでご紹介する介入方法は3段階で成り立っており、


(1)お子様本人が綺麗に明瞭に話したいと言う動機付けを持つ

(2)繰り返しの文章で苦手な音を含む文章を練習する

(3)実際の日常場面の中で分化強化を受け、上達して行く


という3段階です。


Enせんせい

私自身が良く使う方法ですが、上手くやれば徐々に「文章」を話すとき音が明瞭に綺麗になって行きますので、

必要であれば是非チャレンジしてみてください


上にあげた(1)〜(3)の介入3つの段階について以下解説をして行きます。



(1)お子様本人が綺麗に明瞭に話したいと言う動機付けを持つ

(1)お子様本人が綺麗に明瞭に話したいと言う動機付けを持つということについて、個人的にはとても大切なことかなと思います。

例えばお子様本人が発声が不明瞭なことで悩んでおり、自分自身もなんとかしたいと思っているケースなどはやりやすいです。


ただ年齢も上がっていて小学校中学年くらいになっていたり(その状況が慢性化していて本人にとって普通になっている)、できないということを他者に告げることに抵抗感を持っているお子様の場合、お子様本人から「悩んでいる」と告白を受けることは少ないと思います。

そうでなくともお子様本人からこのような相談を受けることは少ないです。

ですのもしお子様から「できない」の話が出てきたときは真摯に受け止めましょう。


私自身がお子様の発声の明瞭性や綺麗さについて介入を求められるとき、お子様本人からではなく親御から相談されることがほとんどです。

例えばお母様から「太郎ですが、話していてたまに何を言っているのかわからないときがあるんです。私はわかるんですが、周りの人はわからないかもしれません」など相談があったとしましょう。


親御様側から相談されることがほとんど

詳しく聞いて行くことと太郎くんと接して行く中でアセスメントを重ねて行くとどうやら、ら行が単語のお尻につくときに不明瞭になることが多いことが判明するなど、そのようなことがあります。


例えば太郎くんと療育中に話をしていて「おばあちゃんと ーメン屋さんに 行って ーメン 美味しかった バイバイした おばあちゃんも さよなって いったんだぁ」と日常の話をしてくれたとしましょう。

その後、お母様とのお話の中で『太郎くん、単語の頭に「ら」が付く言葉は明瞭に言えていますが、文の途中とか最後に「ら」が付く時はちょっと音がはっきりしないですね』など伝え、

お母様の感じている日常のエピソードとすり合わせて行きます。


とりあえず他にも不明瞭なパターンも日常ではあるものの確かに「ら」は文頭では明瞭で綺麗に言えているものの、文頭以外では不明瞭で綺麗ではないということが確認できれば介入対象となるのですが、

しかし介入対象となったものの、問題は太郎くんが別に困っていない(本人も不明瞭さを自覚しているものの、どうにかなると思っていない)いない可能性があることです。


介入では、

発声を明瞭に、綺麗にして行くとき、お子様本人が意識をしてセルフモニタリング(自分自身で自分を観察)し、できれば「明瞭に、綺麗になりたい」と思える意識がとても大切になります。

そのため本人が明瞭に綺麗に話したいと動機付けを持ってくれることが大切です。


そのため『どうやら「ら」が文頭以外で文章の中で付いた場合、音は明瞭ではなく、綺麗ではない』というところまでアセスメントができたとしても、

太郎くん本人にそれを告げて、且つ太郎くん本人がそれを明瞭に綺麗にして行きたいと仕掛ける必要があります。


私自身はよほど抵抗感を強く持たれそうなケース以外では、

ストレートに太郎くんに対して『お母さんは、ちょっと太郎くんのお話を聞いていて、「ら」が聞こえにくいときがあるから、綺麗に「ら」って言えるようになって欲しいみたいだよ、だから先生と練習しよう』と太郎くんに伝えることが多いです。


またお子様本人が「ら」が不明瞭であるか、綺麗じゃないと自覚しているかはストレートに伝えてみるまでわかりません。


その後のお子様の反応は2パターンで、


(1) わかった。頑張ると乗っかってくる

(2) 黙っているや、話を逸らすなどでその話題を嫌がる


です。


「(1) わかった。頑張ると乗っかってくる」などと乗っかってきてくれる場合はそのまま介入を進めれば良いですが、

「(2) 黙っているや、話を逸らすなどでその話題を嫌がる」の場合は抵抗感を盛っているかもしれません。

その場合は必要であれば、「上手くなったら、太郎くんの欲しがっていた恐竜の人形買ってくれるようだよ!」など、

本来の意図とは違った外付けの別の強化子を用意する必要があることもあります。


(2)の場合は本人もそのことで嫌な思い出があったり、「わかっちゃいるけどさ、あんまり言わないでよ」と嫌悪的な話題として捉えている可能性もあるでしょう。

ここらへんはお子様の様子を見てですが、お子様本人が「修正する」という意向に納得してくれないと難しいことも多いため、

まずはお子様が「修正する」という意思を持ってこれから介入を始めるんだ、という合意を取ることが良いと思います。


お子様自身の動機付けも大切なため、一緒に頑張ると言う合意があることが大切

合意を取らず(どうしても取れない場合)に介入をする場合例えばお子様が「大乱闘スマッシュブラザーズ(任天堂のゲーム)」が大好きで、このゲームの略語は「スマブラ」です。

お子様から頻繁(1日に数回)、「スマブラ したい!」という要求があって、「スマブア したい」と語尾に付く「ら(本来はスマブラなのでスマブアは不明瞭)」が明瞭に言えたらゲームができる、など環境設定でお子様の音声を明瞭にして行くことも理論上は狙えると思います。


しかしやはり、私個人としてはお子様自身に合意を取ってからこれから音声を明瞭に、綺麗にして行くんだという共通認識を持って介入を始めることが肝要という考え方です。


Enせんせい

最悪なのは「話すこと自体が嫌悪的になってしまう」ことで、萎縮してしまって話す頻度自体が減ってしまうことだと思います


また合意を取らない介入は修正に時間がかかってしまうこと、上の例で言えば「スマブラ」以外の場面にはなかなか転移していかないことが考えられるため、

その場合は少し時間をかけて話し合い、必要であれば介入の時期をまたのちの機会とするが良いのではないかというのが個人的な考えです。


以上、文章を明瞭に話す、綺麗に話すときにお子様本人が綺麗に明瞭に話したいと言う動機付けを持つというフェイズでした。


基本的には言葉や伝えるときの雰囲気は選びつつも、ストレートに伝えて合意を取ってからスタートする。

必要であれば外付けの強化子も用意するがどうしても難しい場合は時期を遅らせるのも有りという内容でした。

以下、動機付けを持ったのち「(2)繰り返しの文章で苦手な音を含む文章を練習する」フェイズについて解説をして行きます。



(2)繰り返しの文章で苦手な音を含む文章を練習する

ここまでの例では『太郎くん、単語の頭に「ら」が付く言葉は明瞭に言えていますが、文の途中とか最後に「ら」が付く時はちょっと音がはっきりしないですね』ということがわかりました。


例では「単語の頭に付く/付かない」を出していますが、他にもさまざまなパターンがあります。

例えば「ささき」というフレーズで「さあき」と言ってしまって、同じ言葉が2回連続で出てきたときに不明瞭になってしまうなど、いろいろなパターンがあるので、お子様によってアセスメントが必要です。


ここまででも少し触れましたがお子様によっては複数のパターンの滑舌の悪さが重複している場合もあります。


例えば、

・ か行は全般的に明瞭でなく、綺麗ではない

・ ら行は単語の頭に付く/付かないで単語の頭についた時にのみ明瞭で綺麗

・ さ行も「ささき」のように続けて言うときは明瞭ではなく綺麗でなくなる


など複数のパターンを抱えて明瞭でなく綺麗でないという状況に陥っているお子様もいます。

もちろん特定の1つのパターンのみで明瞭でなく綺麗でないという状況に陥っているお子様もいるので、どういったパターンで言葉が明瞭でないかアセスメントをして行きましょう。


色々なパターンがあります

また1つのパターンのみで明瞭でなく綺麗でないという状況に陥っていると思っていたお子様も介入を進めて行く中で、実は別のパターンでも明瞭でなく綺麗でないという状況に陥っていたということがあとからわかることもあるでしょう。

その場合は1つのパターンをクリアしてからもう一つのパターンの練習をする、と順にターゲットを導入して進めて行くと良いです。


以上、いろいろなパターンを抱えるお子様について書いてきましたが、どうやって練習をしていけば良いのか以下書いて行きましょう。

本項「(2)繰り返しの文章で苦手な音を含む文章を練習する」とは、ここまで紹介してきた「ら行」が文頭以外に付くと不明瞭になってしまう太郎くんの例に従って書いて行くと、


<1> おともだちが さよなと いった

<2> あしたか さと まったする  

<3> いいか ぼくか い たべます 

<4> よになば くいそに きいな ほしが かがやく

<5> き しい まい ゆきが ゆた あすは は


以上のような文章を最初は文字を見せながら朗読させます。

文章を朗読させる前に『「おともだちが さよならと いった」って言ってみて』と明瞭で綺麗なモデルも提示して介入を行いましょう。


Enせんせい

<1>から順に<5>に数字が増えるにつれて難易度が上がっているのですが、単純に苦手な音の数が多いため難易度が高いと考えてください


最初モデルを提示し、ひらがなも見ながら朗読させ明瞭に綺麗に言えるように練習をして行きます。

もしどうしても明瞭に、綺麗にならない場合は本章前のブログページを見てもらって、単音の音声模倣や複音の音声模倣の練習を行ってください。

綺麗になるスピードは徐々にで大丈夫で数ヶ月掛けても良いという意識で行きましょう。


もしひらがなを見て明瞭に、綺麗に言えるようになったら次のステップではひらがなを無くします。

文章を見せないで例えば『「おともだちが さよならと いった」って言ってみて』と言うだけにして、明瞭に綺麗に言うように練習をして行ってください。


以上が「(2)繰り返しの文章で苦手な音を含む文章を練習する」の内容となります。

次は「(3)実際の日常場面の中で分化強化を受け、上達して行く」の内容です。



(3)実際の日常場面の中で分化強化を受け、上達して行く

ここまでの内容で、お子様本人も自身の話す言葉を明瞭に綺麗にしたいという動機付けを持っており、且つお手本があって意識している状態だと明瞭に綺麗に言えるようになっています。


ここからの介入方法ですが最初は『今から母さんと5分間お話をしよう。もしその中で練習した「ら」がもうちょっと綺麗に言えるなって思ったら話を止めて、母さん言うからそのときは綺麗に言い直してみよう』と伝え、

フリートークを行っていきます。


以下お母様とお子様の会話の例を見て行きましょう。


母:今日なにたべたい?

子:ハンバーグ

母:ハンバーグ?母さんはお魚が食べたいな

子:そうなの?じゃあお魚でいいよ

母:ありがとう!フライか焼いたのか、どっちが良い?

子:フイがいいかな

↑「フイ」と文頭に付かない「ら行」が出現し綺麗に言えた!


このとき、慣れてくれば止める必要はありませんが、フリートークをはじめた最初の数日は一旦止め、

「すごい!今、フライのら、すっごい綺麗だったよ!さすが!母さん嬉しい!!」などと褒めてあげてください。

そしてフリートークを続けます。


母:そっかぁ。じゃあフライにしようかな。よるご飯までに一緒にお買い物に行こうね

子:うん!よ(よる)ご飯までに買い物行こう

↑「よ」と文頭に付かない「ら行(る)」が出現し綺麗に言えなかった。


このとき一旦止め、『今、「よる」が「よう」になってたよ。今言った「うん!よう(よる)ご飯までに買い物行こう」をもう一回、「よる」に気をつけて言い直してみて』と伝え、

全文を言い直させます。


全文言い直させるときは「母さん、もう1回言うから、もう1回太郎くんも同じように言ってね」と伝え、

母:そっかぁ。じゃあフライにしようかな。よるご飯までに一緒にお買い物に行こうね

とお母様側もおお直し、お子様に、

子:うん!よるご飯までに買い物行こう

と言い直させてください。


このときなかなか言い直しが上手くいかないときはひらがなで文章を書いて見せてあげるなど良いでしょう。

どうしても上手くいかないときは「よる」の単語だけ抜き出し、「よる」という単語だけ練習します。

以上のように時間を決めてフリートークの場面を作り、フリートークの中で出てきた機会を利用して修正をして行きましょう。


Enせんせい

「言い直し」はお子様にとって負荷があるかもしれませんが、本人の動機付けが上がっており、自分自身でも明瞭に綺麗になりたいという気持ちがあれば、

言い方がお子様本人にとって受け入れられやすい(キツく言わないとか)言い方であればそこまで嫌悪的にならないはずです


またフリートークの中でお子様が明らかにターゲットを避ける、上の例で言えば文頭につく「ら行」以外で「ら行」を使用しないように話している場合はお子様が避けている可能性があります。

その場合は例えば「フイにする?かあげにする?」など2択を出して答えてもらい、ターゲット行動がフリートーク中に出現するよう仕掛けてください。


お子様が避けている可能性がある場合はお子様も抵抗感がある可能性があるため、2択に対して応えたとき不明瞭で綺麗でなかったとしても、

『「フライ」、勇気出して「ラ」言えたね。母さん嬉しいよ!絶対綺麗になるから、一緒に頑張ろうね』などと抵抗感が少なくなるだろう働きかけを忘れないようにしましょう。


ある程度フリートークで綺麗に言えるようになってきたとき、次のステップに進みます。

次のステップではお子様に「私とのおしゃべり(フリートークのこと)は上手になったね。あとは、毎日の生活の中でもし直した方がいいなっていう瞬間があれば私からまた言うね」などと伝え、

日々の生活の中で修正していくようにしましょう。


このときもコツは生活の中で明瞭に綺麗に言えたときも積極的に強化することです。

例えば「ねーねー、月がきいだよ かあさん」とお子様から報告があったとき『「本当!綺麗だね!あと、今「月がきれい」の「きれい の れ」めっちゃ良かったよ!』などと褒めて行きましょう。


お子様からすればここまでの介入方法とは意識して綺麗に言う範囲が拡大して行く介入法です。

最初はフリートーク5分、そこから生活の中に拡大して行きます。


フリートーク5分からいきなり全生活に拡大することの負荷が強いと思う場合は、

フリートーク5分から10分、15分やってから生活全般で、というルートでも構いません。

ここらへんについてはお子様によって調整してください。


綺麗に言えたときはこまめに褒めてあげてくださいね

以上が「(3)実際の日常場面の中で分化強化を受け、上達して行く」の内容となります。



さいごに

本章の音声模倣のページではこれまで単音、複音、そして本ブログページでは文章を明瞭に綺麗にして行く、ということをテーマに扱ってきました。

音声模倣のパターンはこれで網羅できたのでしょうか?


例えばO.Ivar Lovaas (1977) は音声模倣においてお子様の声の大きさの介入方法を紹介しました。

O.Ivar Lovaas (1977) は50年ほど前の本ですが、内容を参考にすれば「小さき」や「大きく」というワードを乗せて音声模倣を行い、音量の調整をする手続きが書かれています。

個人的な実体験で言えばその手続きは「大きい」や「小さい」という意味を理解していることを前提として、且つ、その音声量をコントロールする力が必要ですが、

このように「音量」「スピード」「抑揚」といったようなここまで紹介をした単音、複音、文章以外の話に必要な(自然に見える)構成要素というのも必要な場合があるでしょう。


ここまでで長く明瞭に綺麗に話すためにどうすれば良いか?

ということをご紹介してきました。


次のページでは「音量」「スピード」「抑揚」でつまづいているお子様に対して、どのようにしてABA自閉症療育を行い、改善を目指して行くのか、その方法について書いていければと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。



【参考文献】

・ O.Ivar Lovaas (1977)The Austistic Child 【梅津 耕作 (1979) 自閉症の言語ー行動変容によるその発達ー 岩崎学術出版 p205-206】