「できない」理由はどんな可能性があり、どうアセスメントするか?(ABA自閉症療育での行動の見方15)

本ブログページで「できない」理由にはどんな可能性があり、どうアセスメントするかということについて書いて行きましょう。


Enせんせい

本ブログページの内容を意識してお子様の行動をアセスメントすると「できる/できない」以上にお子様への理解が深くなると思います


例えばお子様に「りんご」を見せて「これ何?」と聞いたとしましょう。


「これなんだ?」と聞いてお子様が「りんご」と答える

イラストのようにお子様から「りんごだよ」などと返ってくれば、お子様が「りんごの名称」を知っている確率が高いことの証明になります。

「知っている確率が高い」という書き方をしたのは、例えばお子様にりんごを見せて名前を尋ねたとき「りんご」と答えるのだけれども、

ばななやぶどう、車や新幹線、トマトやなす、ライオンや猫を見せ「これ何?」と聞いたときも「りんごだよ」と返ってくるのであればこれは結論が変わってくると思います。

その場合はりんごを見せられたときもりんごとは言えたけれども、「りんごは何?」を本当は知らない可能性も出てくるでしょう?


このことは「りんご」を見せて「これ何?」と聞く以外に、他のばななを見せたときには「ばなな」と答えられる、

車を見せたときには「くるま」と答えられる、

トマトを見せたときには「トマト」と答えられる、

ライオンを見せたときには「ライオン」と答えられる、

など確認できていれば特に問題にならないので良いのですが、理解が難しいのは「りんご」と答えられなかったときです。


例えば「これは何?」と聞いたとき、お子様が黙っている

答えられない場合、どのようなパターンの「答えられない」が考えらるでしょうか?

最初にできないときの理由を考える必要がなぜあるのかということから書いて行きましょう。



なぜ「できなかった」理由をアセスメントする必要があるか?

本ブログページは「できなかった」、上の例で言えばお子様に「りんご」を見せて「これ何?」と聞いたとき「りんご」と返ってこなかった場合、その理由をどうアセスメントすれば良いか?

ということを書いて行くのですが、どうして「できなかった」理由をアセスメントする必要があるのでしょう?


「できなかった」とき、「できるようにして行く」ということが求められることが多いと思うのですが、

答えはシンプルで「できなかった」理由によって介入方法が少し変わってくるからです。


答えられない場合、どのようなパターンの「答えられない」があるでしょうか?

「答えられない」場合のパターンをご紹介しましょう。

例えば「りんご」と答えられないパターンは例えば以下5つの結果の分岐が考えられます。


・ りんごを見せられ「これは何?」と聞かれても黙っている

・ りんごを見せられ「これは何?」と聞かれると「れんぞ」などりんごに近い音を出すものの、明らかにりんごではない答えをする

・ りんごを見せられ「これは何?」と聞かれて「ばなな」と答える(別の名称を言う)

・ りんごを見せられ「これは何?」と聞かれて「りんご」と答えるときと、「ばなな」と答えるときがある(正解するときもあれば、不正解の時もあり、正解と不正解が入り混じる)

・ りんごを見せられ「これは何?」と聞かれても黙っているが、他の場面(例えばあなた以外の人の前)では答えることが確かに確認されている


このように「できない」場合にはいくつものパターンが存在します

本ブログページでは上に書かれた「りんご」と聞かれて答えられなかったときの5つの結果に分岐したパターンをどう理解すれば良いのかをそれぞれ解説して行きましょう。

その中でそれぞれの分岐に対応した介入の方向性について書いて行きます。



りんごを見せられ「これは何?」と聞かれても黙っている

お子様に「りんご」を見せて「これ何?」と聞いたとき、お子様が黙っていて答えない場合、どういった可能性があるでしょうか?

1つ目のシンプルな答えはお子様がそれが何かわからない(名前を知らない)という可能性です。

もし「ばなな」や「ぶどう」「みかん」、その他のいろいろな単語について名前を聞いてみても同じように黙っていた場合はもしかすると「これ何?」という質問の意味がわかっていない可能性もあるでしょう。


この場合は「知らない」ということなので、教えていけば良いです。

教え方はいろいろありますが例えばりんごのカードを提示しながら「これ何?(2秒ほど時間を空けて)りんご」と音声モデルを提示します。

お子様が「りんご」と模倣できれば強化しましょう。

この場合ピンク色の下線部分「りんご」はプロンプトとなりますので、

徐々にプロンプトフェイディングを行なっていくことでりんごのカードを見せられて「これ何?」と質問をされたときに、「りんご」と一人で答えることができるようになって行きます。


2つ目の他の可能性は「間違えてはいけない(間違えるのは良くない)」と思っており「(正解かどうか不安があるため)黙っている」ということもあるかもしれません。

この場合は例えば笑顔で「間違えても大丈夫だよ」などと言ってもう一度尋ねてみるなど、不安が下がるような声かけを試してみましょう。


もしそれでも難しそうであれば「り?」と1文字目だけヒントを出して「りんご」と答えられるかどうかも試してみてください。

まったくりんごを知らなかった場合は「りんご」と「り」のみのヒントによって偶然に答えられる確率は著しく低いです。


「り?」と1文字目だけヒントを出して「りんご」と答えられ、それ以降「りんご」と自信を持って答えることが観察されれば「正解した安心感から自信を持って答えるようになった」と考えることもできますし、

また単に忘れていたけど一回言ったら思い出した、というように理解することも可能(3つ目の可能性)でしょう。


お子様の様子から普段だったのか忘れていたのか判断することになると思うのですが、忘れていた場合にはもう一度教えれば良いのであまり問題となりません。


4つ目の可能性は他の行動が相対的に強化されている場合です。

例えばりんごの絵カードの名前を聞かれて黙っているとお母様が「もういい!」と言って課題を終了してくれる場合など、4つ目の可能性に当たるでしょう。

お子様から見れば「りんご」と答えるよりも黙って待っている方が有利な結果(自由に遊べる)が手に入るのため、

相対的に黙って課題の終了を待つ行動が強化され出現している状態です。


そして5つ目の可能性として「抑制されている」ことも考えられるでしょう。

例えば理不尽ですがお子様に「りんご」を見せて「これ何?」と聞いたとき、お子様が「りんご」と答えたとき、聞いた側が頭をパシッ叩くことが過去にあったなど、

「りんご」と答えることでお子様に不利益が生じる場合あり得ます。


またこのような抑制は実際に叩かれたという直接経験がなくともルールによって生じることもあるでしょう。

例えば会社で明らかに上司が悪いと思っているのに、上司から「おい、今回の失敗は何が原因だと思う?正直に言ってみろ!」と言われたとき、

「上司のせいです」と言ったことはなくとも、その後の結果を考えれば「言わない方が良いだろう」という気持ちになることを想像することは難しくありません。


答えることによって自身に不利益が被ったことがある(またはそう予測される)状況では抑制がかかって黙っていることがあるのです。


4つ目の他の行動が相対的に強化されている場合と5つ目の抑制されている可能性に対しての介入はまたのちに書いて行きます。


以上、お子様に「りんご」を見せて「これ何?」と聞いたとき、お子様が黙っていて答えない場合にどういった可能性があるかについて、


1、それが何かわからない(名前を知らない)

2、「間違えてはいけない(間違えるのは良くない)」と思っており「(正解かどうか不安があるため)黙っている」

3、忘れていた

4、他の行動が相対的に強化されている(この場合は黙って待つ行動が強化されている)

5、抑制されている

5つ理由の可能性をご紹介しました。


ここの項が5つと一番可能性が多く、これ以降の項目のものは5つも可能性はありません

以下で他の4つ、

・ りんごを見せられ「これは何?」と聞かれると「れんぞ」などりんごに近い音を出すものの、明らかにりんごではない答えをする

・ りんごを見せられ「これは何?」と聞かれて「ばなな」と答える(別の名称を言う)

・ りんごを見せられ「これは何?」と聞かれて「りんご」と答えるときと、「ばなな」と答えるときがある(正解するときもあれば、不正解の時もあり、正解と不正解が入り混じる)

・ りんごを見せられ「これは何?」と聞かれても黙っているが、他の場面(例えばあなた以外の人の前)では答えることが確かに確認されている


についても解説して行きますがここで出てきた5つの可能性が他の場合でも考えられることがあります


Enせんせい

本ブログページの最後にそれぞれに対応した可能性リストを作成し載せておきますので、今ここで覚えなくても大丈夫です



「れんぞ」などりんごに近い音を出すものの、明らかにりんごではない答えをする

りんごを見せられ「これは何?」と聞かれると「れんぞ」などりんごに近い音を出すものの、明らかにりんごではない答えをする。

この場合はどうでしょうか?


1つ目は誤学習している可能性です。

これは「りんご」のことを勘違いして「れんぞ」であると誤って学習してしまった状態と言えます。


例えば私は「シチュエーション」のことを30歳を超えても(そのため比較的に最近知ったのだが)、「シュチュエーション」と思っていました。

本ブログはここ2年ほどで作っているものなので「シチュエーション」とブログ内で使用するとき他ページでも記載されていますが、例えば20代に作った書き物は「シュチュエーション」と記載されているはずです。


Enせんせい

卒論も修論も、以前作成していたホームページも(涙)


「シチュエーション」の意味も使い方も理解しているものの、名称を誤って「シュチュエーション」と覚えている、

これは「りんご」のことを勘違いして「れんぞ」と覚えているということになります。


この場合の介入方法は「れんぞじゃなくて、りんごだよ」と教えてあげれば良いでしょう。

もしひらがなが読めればひらがなで書いてあげて「りんご」であることを示してあげても良いです。


しかし誤学習が問題となるケースとして、発達の遅れが大きいお子様の場合、一度誤って学習してしまうと修正が効きにくいことがあります。

また自閉症の症状が重めのお子様も修正が効きにくいです。


自閉症の特徴として一度学習した行動を柔軟に変化させることが苦手であるということがあるのですが、

例えばRobert L. Koegel・Amber A. Bharoocha・Courtney B. Ribnick・Ryan C. Ribnick・Mario O. Bucio・Rosy M. Fredeen・Lynn Kern Koegel (2012) は偏食指導を自閉症児に行なった研究で自閉症の柔軟性の無さについて述べています。


そのためお子様に何かを教えていくとき、基本は誤学習しないようにエラーレス(エラーが生じにくい設定で)で教えていくことが賢明です。

もし誤学習をしてしまってなかなか修正が効きにくいときは「(ABA自閉症療育の基礎89)ABA(応用行動分析)の基礎「強化履歴」、「忘れる」は可能か?過去の学習(経験)は私たちにどう影響を与える?(https://en-tomo.com/2021/07/02/aba-reinforcement-history/)」

でも書きましたが、誤学習した「れんぞ」を消去して「りんご」を強化するという方向性で見るのではなく、

新しく「りんご」という学習をさせる気持ちで学習を上書きした方が修正が早いでしょう。

この件については上のURLのページをご参考ください。


『(ABA自閉症療育の基礎89)ABA(応用行動分析)の基礎「強化履歴」、「忘れる」は可能か?過去の学習(経験)は私たちにどう影響を与える?』のサムネイル

2つ目の可能性は明瞭に「りんご」と言う能力が伴っていない場合です。

綺麗なモデルを見せマネするように求めても、ひらがなが読める場合ひらがなで「りんご」と書いて「読んで」と言っても、「れんぞ」と返ってくる、

このような場合、この可能性が考えられるでしょう。


自閉症のお子様の中には発声が不明瞭でなかなか綺麗に発音できないお子様がいて、このようなとき私は「音声模倣」というプログラムを使用して音声を明瞭にしていくことを目指すことが多いのですが、

音声模倣については「(ABA自閉症療育の基礎95)自閉症児の言葉・発声を促すプログラム「音声模倣」、綺麗な発音はどう教える?構音の仕方(https://en-tomo.com/2021/11/05/vocal-imitation-procedure/)」をご参考ください。


『(ABA自閉症療育の基礎95)自閉症児の言葉・発声を促すプログラム「音声模倣」、綺麗な発音はどう教える?構音の仕方』のサムネイル

3つ目の可能性は先ほども出てきた他の行動が相対的に強化されている場合もあるでしょう。

例えば「れんぞ」と言うことがボケとして成立していて、周囲がそれを聞いて「れんぞって何!面白い!!」となり、周囲からの注目が高まる場合です。


また他にも「れんぞ」と言えば「もういい!」と言ってお母様が課題を終了してくれるなど、

課題の終了が伴うなども正しく「りんご」と答えず、「れんぞ」という行動が強化される要因となるかもしれません。


以上りんごを見せられ「これは何?」と聞かれると「れんぞ」などりんごに近い音を出すものの、明らかにりんごではない答えをする場合にどういった可能性があるかについて


1、誤学習している

2、明瞭に言う能力が伴っていない

3、他の行動が相対的に強化されている


3つ可能性をご紹介しました。



りんごを見せられ「これは何?」と聞かれて「ばなな」と答える(別の名称を言う)

りんごを見せられ「これは何?」と聞かれて「ばなな」と答える(別の名称を言う)の場合はどうでしょうか?


ここまで出てきた可能性の中で、


1、誤学習している

2、他の行動が相対的に強化されている


この場合でも可能性としてあり得るでしょう。


この場合の「誤学習している」は「りんご」の名前を誤って「ばなな」と覚えてしまっている場合です。


「なんじゃそりゃ?」なんでそんなことが起こるの?と思うかもしれません

あなた

あり得ない!


あり得ない!と思うかもしれませんが、

例えばスーパーでお母様が「太郎くんこれはりんごだよ、りんご」と声かけをしていたときにお子様の目線がたまたまばななに向いていた。

視界に入ったばななとお母様のばななという音声が結びついて誤学習が生じるという可能性も否定できないでしょう。


この場合の介入の方向性は上でも書いたように「上書き」を目指し、りんごのカードを見せながらプロンプトを多めに使い(例えば大きめの声で「りんごー」とモデルを見せる)、再学習を促します。


「他の行動が相対的に強化されている」場合、理由の特定は難しいですがどうやら間違えることが強化されている状態です。

ふざけることが楽しいのか、課題の終了を期待しているのか、理由は不明ですが介入では「これだったらやってもいいかな?」と思うよう課題を設定します。

例えば、「1回だけりんごって言ってみて。それでお勉強はおしまい」や「りんごって言ったら、抱っこしてあげる」など、「まぁりんごって言ってみるか」とお子様が思いそうなシチュエーションを設定しましょう。

そしてお子様が正しく「りんご」と言えたとき、いつもよりも強めに強化します。


Enせんせい

この場合はもともと「それはりんごである」と知っていますから、

相対的に正しく答えることが強化されれば解決するでしょう


また強化子を強めに使用するため、細かく丁寧に療育を行うのであれば強化子を正しくリダクションしていく必要があります。

強化子のリダクションは効き慣れない言葉かもしれません。


島宗 理 (2019) を参考にすれば強化子のリダクションとは、

新しい行動を形成した後、その行動を維持するのに「強化子」の量を減らしたり、頻度や確率を減らしていく手続きで臨床・実践ではよく行われている技法です。

強化子のリダクションについて詳しくは「(ABA自閉症療育の基礎43)オペラント条件付けー強化子のリダクションとプロンプトフェイディング(https://en-tomo.com/2020/10/04/reduction-fading/)」で記載しました。


「(ABA自閉症療育の基礎43)オペラント条件付けー強化子のリダクションとプロンプトフェイディング」のサムネイル

本ブログページ上の方で「4つ目の他の行動が相対的に強化されている場合と5つ目の抑制されている可能性に対しての介入はまたのちに書いて行きます」と書きましたが、

これが「他の行動が相対的に強化されている」場合の介入方法です。


抑制されている可能性があるときの介入方法はまた下の方で記載します。


次にりんごを見せられ「これは何?」と聞かれて「りんご」と答えるときと、「ばなな」と答えるときがある(正解するときもあれば、不正解の時もあり、正解と不正解が入り混じる)場合を考えて行きましょう。



「りんご」と答えるときと「ばなな」と答えるときがある(正解するときもあれば、不正解の時もあり、正解と不正解が入り混じる)場合

「りんご」と答えるときと「ばなな」と答えるときがある(正解するときもあれば、不正解の時もあり、正解と不正解が入り混じる)場合はどうでしょうか?


このようなとき正解と不正解の割合がポイントとなります。


例えば10中9回は「りんご」(正解)、1回が「ばなな」(不正解)の場合はほとんど問題となりません。

「りんご」と言えたときにしっかりと承認(そうだねりんごだねと伝える、褒める)していくことで正答率はさらに上昇し、間違えなくなることが期待できます。


10中9回は「ばなな」(不正解)、1回が「ばなな」の場合はどうでしょう?

この場合はここまで出てきた「誤学習している」という可能性が高いと捉え、上書きするイメージでプロンプト多量、教えていけば良いでしょう。


一番問題となるのは10中5回は「りんご」(不正解)、5回が「ばなな」(不正解)などの場合です。

※ 正確に5回5回でなくともりんご6回ばなな4回、りんご6回ばなな6回などもこのケースに含めて考えることが多い


Enせんせい

正確な割合でなくても大丈夫ですが、だいたい五分五分に答えが分かれる場合、

どのように捉えて考えれば良いでしょうか?


この場合を私は「混乱している状態」と呼んでいます。

お子様本人も「どっちかが正解であるとはわかっているものの、どっちだったか確証が持てない状態」と考えると良いでしょう。


大人を例に出して考えてみます。


例えばアプリケーションやサイトに登録するとき、パスワードを作成して登録するでしょう?

このとき全てのサービスで別々のパスワードを個別に作成して管理している人は少ないと思います。

たった1つだけのパスワードで全サービスを使用しているということもないと思いますが、3つ−4つのパスワードを使用してサービスの管理をしていないでしょうか?


例えば特定のサービスを利用するとき、パスワードを入れたらエラーが出たとします。


パスワードが違って「うっ」となることがありますね

すると別のあてのあるパスワードを入力しますね。

無事パスワードが通ったとしましょう。


それから10日後同じサービスを利用する際またパスワードを求められると、また同じように間違うことがあるでしょう?

また日によっては1発でパスワードを通す日もあるでしょう。

このシチュエーションは「Aだったけ?Bだったけ?んー、Aって答えようかなー、でも、一旦Bで!」という状態です。


これは「どっちか(もしくはどれか)が正解であるとはわかっているものの、どっち(どれ)だったか確証が持てない状態」と言え、

お子様が「りんご」と答えるときと、「ばなな」と答えるときがある(正解するときもあれば、不正解の時もあり、正解と不正解が入り混じる)場合のケースで言えば、

10中5回は「りんご」(不正解)、5回が「ばなな」(不正解)の場合を表していると思います。


これが「混乱している状態」です。

お子様の場合、不安が賦活される場面(例えば、正解することが強く求められているときなど)では特に混乱が生じやすいイメージもあります。


介入方法としては「混乱」の場合も上書きするイメージでプロンプト多量、教えていけば良いでしょう。

但し誤学習しているときと違い、不安によってエラーが生じやすいということを考慮すれば、プロンプト多量でエラーレスを狙っていくものの、

間違ってしまったときも「大丈夫だよ」という姿勢で関わり、「違うよ」「間違い」など不安が賦活されそうな言葉掛けは控えるなど介入中に配慮が必要です。


Enせんせい

「りんご」と答えるときと、「ばなな」と答えるときがある(正解するときもあれば、不正解の時もあり、正解と不正解が入り混じる)場合は、

正解と不正解の割合から誤学習なのか混乱なのかをアセスメントし介入方法を少し変えて行きます


誤学習なのか混乱なのか、ということで大きく介入方法こそ変わりませんが、不安によって答えが揺れやすい混乱はいかに不安の要因を取り除いてあげながら療育できるかを意識しましょう。

また一度修正がかかってもその後また不安が賦活されるシーンでは誤学習の場合と比較して間違えやすいようにも思いますし、少し長い目で見てあげることが大切です。


最後、「りんごを見せられ「これは何?」と聞かれても黙っているが、他の場面(例えばあなた以外の人の前)では答えることが確かに確認されている」場合について書いて行きましょう。



りんごを見せられ「これは何?」と聞かれても黙っているが、他の場面(例えばあなた以外の人の前)では答えることが確かに確認されている場合

最後にりんごを見せられ「これは何?」と聞かれても黙っているが、他の場面(例えばあなた以外の人の前)では答えることが確かに確認されている場合はどうでしょうか?


この場合ここまで出てきた「他の行動が相対的に強化されている」可能性もあるでしょう。


例えばりんごの絵カードの名前を聞かれて黙っているとお母様は「もういい!」と言って課題を終了してくれるけどお父様は答えるまで課題を終了してくれない、ということがあったとします。

お子様からすればお母様、お父様どちらに対しても課題の終了という強化子を取りに行く場合、お母様、お父様それぞれに対して行動を使い分けることでより早く強化子を手に入れることができる場合、このような行動の使い分けが生じる可能性があるでしょう。


母親と父親で方法が違う

お母様の前では黙って課題の終了を待つ行動が、対してお父様の前では課題に答える行動が強化され、結果的に両者の前でのお子様のパフォーマンスに違いが出る可能性があります。


「他の行動が相対的に強化されている」可能性以外に考えて欲しい重要な可能性はその先行状況下で抑制がかかっているです。


本ブログページ上の方で、

例えば理不尽ですがお子様に「りんご」を見せて「これ何?」と聞いたとき、お子様が「りんご」と答えたとき、聞いた側が頭をパシッ叩くことが過去にあったなど、

「りんご」と答えることでお子様に不利益が生じる場合に抑制がかかって黙ることがあり得ると書きました。


上の例は少し極端ですが「(ABA自閉症療育の基礎49)オペラント条件付けー確立操作とレスポンデント条件付け(https://en-tomo.com/2020/10/24/respondent-operant-affect-each-other2/)」のブログページで扱った話題も交えて少し別の視点から考えて行きましょう。


(ABA自閉症療育の基礎49)オペラント条件付けー確立操作とレスポンデント条件付けのサムネイル

例えば「りんご」について問う前に他にいろいろな果物の名前をお母様がお子様に聞いていて、そのときの正解が少なくお母様の機嫌がめちゃくちゃ悪くなって行ったとします。


おいおいおいー!全然正解せえへんやないか!?(怒)


だんだんと「これは何?」と聞く口調がキツくなり、また眉間にシワも寄っていきました。

過去、お母様の口調がキツくなり眉間にシワが寄っていくとそれはそのあとに叱咤が来る合図であると経験から知っていましたので、お子様は徐々に恐怖も感じています。


このようなシチュエーションで「りんご」とわかったとしても「万一にでも間違えてはいけない」と思ってしまえば、黙って答えないこともあるのです。

上の例では課題中お母様の機嫌が悪くなっていったことを例として書きましたが、

慢性的に間違えることが許されないことが続いていたとすれば、普段からお母様が何か答えを求めたときは萎縮してしまい、黙っていることが多い、ということになってしまう可能性もあります。


このことにはとても注意したいです。

このような場合は母親の前では答えないものの、他の人の前では抑制がかかっていないため答える、ということがあり得ます。

そしてこのような状態になってしまっていた場合、介入方法は少し長い目で見てあげる必要があるでしょう。

お子様から見たときこれは「母親の前で答えを言う」ことでネガティブな結果が返ってくると思っている状態です。


だから答えられたときにはいっぱい強化してあげる必要があるし、これ以上抑制がかからないように仮に上手くできなかったとしても本人が嫌な気持ちにならない結果を返すことが肝要でしょう。

例えば間違ったときも「やろうと試みたことは褒める」などの対応が良いと思います。


「試みを強化する」ことは「PRT:Pivotal Response Treatment」というABA自閉症療育の方法でも推奨されている方法です(参考 Robert L.Koegel・Lynn kern Koegel,2012)


お子様の抑制が強まらないよう、抑制がかからないように気をつけ、親御様自身がセルフコントロールしていく必要があります。

これは実践してみれば「言うは易く行うは難し」でしょう。


本ブログページ上の方で「抑制されている可能性があるときの介入方法はまた下の方で記載します」と書きましたが、

このようなお子様の抑制を弱めて行く普段からの関わりが「抑制されている可能性がある」場合の介入方法です。


またりんごを見せられ「これは何?」と聞かれても黙っているが、他の場面(例えばあなた以外の人の前)では答えることが確かに確認されている場合、

もう一つの重要な可能性は「クレバーハンス効果」が生じている可能性です。


クレバーハンスについては『お子様への不適切な関わりを「クレバーハンス」から学ぶ(ABA自閉症療育での行動の見方13)(https://en-tomo.com/2021/12/03/view-of-behavior-clever-hans/)』で記載しましたが、

このことも非常に気をつけなければいけません。


『お子様への不適切な関わりを「クレバーハンス」から学ぶ(ABA自閉症療育での行動の見方13)』のサムネイル

例えばあなたがりんごのカードを見せたとき、確かにお子様は黙っているのに、お父様が聞いたときは答えられると、二人の前でそれぞれ見せるパフォーマンスが違ったとしましょう。

ここまで書いてきたように抑制がかかっていないかどうか考えるのと同時にお父様が「意図しないプロンプト」を出していないかどうか考えることも大切です。


クレバーハンスは「クレバー(賢い)な(馬)ハンス」を意味していて、昔いた賢い馬の名前なのですが、この馬はなんと読み、書き、計算ができ、前足の蹄(ひずめ)を踏み鳴らして回答することができたのでした(参考 Roger R.Hock, 2002)


Enせんせい

めちゃめちゃ賢い馬だったんですね


しかしのちにハンスは実際に読み、書き、計算ができたわけではなく、質問者のリアクションをヒントに蹄を鳴らすタイミングを見て対応していたことがわかりました。


話を戻してお母様がりんごのカードを見せたときお子様は黙っているのに、お父様が聞いたときは答えられるというとき、

クレバーハンスを参考にして考えればお父様は(無意識に)ヒントを出している可能性があります。

実はお父様と違ってお母様はヒントを出していないため、結果的にお子様は答えない(黙っている)という可能性も考慮しましょう。


クレバーハンス効果を防ぐためにはお互いが目の前で同じように課題を行ってみて、自分たちのやり方に齟齬がないかどうか確認をしてみてください。

考え方の順番としては最初にクレバーハンスを疑ってみて、クレバーハンスではなさそうだとなったときに抑制されている可能性を考慮します。


結果的にクレバーハンスであった場合の介入方法ですが、「意図しないプロンプト」を出している側が自身の行動をコントロールし、意図しないプロンプトを出さないよう訓練する必要があるでしょう。

「意図しないプロンプト」を出さない状況で教えていく、これがクレバーハンスが生じていたときの介入方法となります。


以上、長かったですが「できなかった」という結果はどのような可能性があるのかをまとめてきました。

以上の結果は下の表にまとめています。


本ブログページのまとめ


さいごに

「できなかった」という結果があったとき、それがなぜできなかったのか?を考えることもABA自閉症療育では非常に重要でしょう。

重要である理由は介入方略が変わってくるからです。


基本的には

「何かわかっていない(知らない)」や「誤学習」、「忘れていた」の場合はプロンプトを多めにしてエラーレスの方向で修正する


「混乱」、「不安で間違えたくない」の場合も同じですが、不安が賦活されることでパフォーマンスが落ちる可能性があるため「間違ってもいいよ」などの言葉掛けを意識することと、今後不安が賦活されるシーンではまた間違う可能性が上がることも知っておくこと


「明瞭に言う能力が伴っていない」場合は音声模倣で明瞭性を上げることを目指します


「他の行動が相対的に強化されている」場合は「これだったらやってもいいかな?」と思う課題設定を作って行動化させ強めに強化を入れ、正しい行動の方が強化価値が高まるように関わる


「抑制されている可能性がある」場合は答えられたときはいっぱい強化する、これ以上抑制がかからないよう上手くできなかったときも本人が嫌な気持ちにならない結果を返し抑制が弱まるよう関わりを変える


「クレバーハンス」の場合は「意図しないプロンプト」を出している側が自身の行動をコントロールし、意図しないプロンプトを出さないよう訓練する


以上、長かったですが最後まで読んでくださってありがとうございました。


次のページでは主に無発語のお子様を対象とした内容です。


タイトルは「言葉を話さない人がモノを知っていることをどう証明するか?」、次のページもどうぞよろしくお願いいたします。



【参考文献】

・ Robert L. Koegel・Amber A. Bharoocha・Courtney B. Ribnick・Ryan C. Ribnick・Mario O. Bucio・Rosy M. Fredeen・Lynn Kern Koegel (2012) Using Individualized Reinforcers and Hierarchical Exposure to Increase Food Flexibility in Children with Autism Spectrum Disorders. Journal of Autism and Developmental Disorders. 42(8): 1574–1581

・ Robert L.Koegel・Lynn kern Koegel (2012) Pivotal Response Treatment for Autism Spectrum Disorders 【邦訳 小野 真・佐久間 徹・酒井 亮吉 (2016) 発達障がい児のための新しいABA療育 PRT  Pivotal Response Treatmentの理論と実践 二瓶社】

・ Roger R.Hock (2002) Forty Studies That Changed Psychology: Explorations into the History of Psychological Research, 4th Edition 【(監訳) 梶川 達也・花村 珠美 (2007) 心理学を変えた40の研究 ピアソン・エデュケーション】

・ 島宗 理 (2019) 応用行動分析学 ヒューマンサービスを改善する行動科学 新曜社