本ブログページではABA自閉症療育を行なって行く上で出てくる「外れ値(はずれち):outliers」について書いていきます。
ABAの書籍であまり外れ値について書かれている参考書はないと思いますが、是非知っておいた方が良い考え方だと思うので本ブログページで外れ値について学んでいきましょう
参考書に出てこないのはもしかしたら私が言葉を覚え間違えているのかもしれませんが、私自身は本ブログページで書いている内容について「外れ値」として捉えて日々の療育に生かしています。
本章「ABA自閉症療育での行動の見方」ではお子様の「行動をどう見て行くか?」ということについて主に書いてきました。
私たちはお子様のことを愛していますし、お子様のことを理解したいと考えている親御様も多いでしょう。
私たちはお子様が何を考えていたのか(いるのか)について知るためには、真実として観察できる行動から予測するしかありません。
特に言葉の発達がゆっくりなお子様の場合は当てはまります。
実際に行動を観察して予測をする必要があるでしょう。
そうすることで初めてその行動をどう変化させるか、コントロールして行くかの道が開けるのだと思います。
実際に私のもとに来る親御様も「子どもが何を考えているか分からない」とおっしゃる方も多いです。
例えばこの先科学が進化して個人の脳内に生じる考えや感情という電気信号をUSBやクラウドという媒体にダウンロードでき、
それを解析できる技術が生まれてくれば可能になるかもしれませんが、
2021年の現在はそのようなことはできません
私たちは現代の真実としてお子様の頭をパカっと開けて中身を見て確証を得ることはできないので、
結局は行動を観察して可能性に当てをつけ、予測し、予測にそった対応(ABA自閉症療育でうところの介入)を行い、行動の観察を追う中で「正しかった」という可能性が高いことを確認するということが最善なのです。
こんな不便なことを言われてそれが「最善」と言われるとガッカリするでしょうか?
例えば上で書いたように、現在まだ例えば人の脳内をスキャンして読み取り「感情」「気持ち」「思想」「考え」「意味」などを知ることは不可能です。
私はでもそのような中で問題行動やお子様の成長促進をなんとかできるようなシステムが整っているということが大切なことだと思います。
※ 個人的には自分自身は脳内をスキャンして読み取られたくない(笑)
そのような自閉症のお子様の成長を促進してきたエビデンスについては「自閉症のエビデンス(https://en-tomo.com/category/aba-autism-evidence/)」で紹介をしてきましたね。
さて本ブログページで書いていきたい内容は「外れ値」についてです。
ABA自閉症療育で観察を通してデータを観察して行くときに知っておきたいものになります。
以下、「外れ値」について見ていきましょう。
データを分析するとき考慮する外れ値とは何か?
宮下 照子・免田 賢 (2007) は行動を変化させるためには、まず行動の観察から始めると述べました。
宮下 照子他 (2007) は行動観察のポイントを以下のように紹介しています。
(1) 何を観察するのかあらかじめ決めておく
(2) 観察する状況や時間を決めておく
(3) 行動を5W1Hで言い表せるように観察する
このような内容を紹介しているのですが私もそうだなと思いました
例えば、太郎くんの離席行動を観察すると決めたとき、
(1) 何を観察するのかあらかじめ決めておくについては、
席からお尻が離れた時間を記録する。記録の方法はストップウォッチ(もしくは先生の心の中のカウント)を用い、秒数を記録する
(2) 観察する状況や時間を決めておくは、
朝の会の時間だけ記録するようにする。他の時間でも離席は見られているが、全部の時間を記録することは大変なのでとりあえず朝の会の時間だけ記録する。朝の会の時間だけも大変だった場合は朝の会が始まってから3分だけ記録するようにする
(3) 行動を5W1Hで言い表せるように観察するは、
先生の立場の方の書き方をすれば『X月Y日の朝の会で、私が「今日の宿題を提出してください」と言ったとき、私が言ったことを聞こえたタイミングで、後ろを向いてドアの位置を確認したかと思えばそのまま教室から出ていきました』
というような内容です。
このような行動観察の記録があれば太郎くんへの介入方略が立ちやすく「じゃあどういうように支援すれば良いの?」という方略がある程度明確になります。
さて本ブログページの本題は「外れ値」。
本ブログページでは外れ値について見て行くときに分かりやすいよう以上の状態で太郎くんに対してどのような介入方略を行うかを決めたのちに、
その介入方略で生じた「外れ値」という形で本ブログページを進めていきたいと思います。
太郎くんの立ち歩きについてどのような介入を行う?
例えば上記のようなことがあって、太郎くんが離席するきっかけが「先生が宿題の提出を求めたとき」が多かったとしましょう。
さらに朝の会開始から3分間だけ先生がストップウォッチを使って1週間のデータをとってくれていたとします。
データは以下のようになりました。
データは「太郎くんが先生の測っている3分間に立ち歩いた時間」です。
これ緑赤丸で表現して立ち歩き時間を示しています。
その他に「宿題を提出したタイミングのあとの太郎くんの行動変化の記述データ」も取ってくれました。
これはピンク色の吹き出しで示した記述データです。
特に今回注目したいのは「宿題を提出したタイミングのあとの太郎くんの行動変化の記述データ(ピンクの吹き出し)」です。
このようなデータがあれば先生も親御様も「宿題の提出」という先生の発信がトリガーとなって太郎くんはどうやら離席を開始するのだろう、という予測の目処が立ちます。
このようなときに取れるシンプルな介入方法は?
データにばらつきがあるのは「先生が宿題の提出を求めたとき」が日によって違ったからだとしましょう。
日によって「先生が宿題の提出を求めたとき」までの前置きは長くも短くもなります。
このようなデータがわかったことと他にわかったことは、例えば太郎くんは本当に毎日宿題をしていたのですが、1人で宿題をしており、親御様は宿題を確認していなかったとしましょう。
太郎くんは宿題はしたものの間違いが多いことで先生から責められることが耐えられなかったのかもしれません。
このような場合、最もストレートな介入方法は「宿題を親御様が確認をして、正解した状態で学校に行く」ことでしょう。
ABA自閉症療育の観点で言えばそうすることで「先生やクラスメイトから責められること」をなくすための行動(離席は負の強化行動である)は責められることがなければ生じる可能性が減少します。
そしてこれは家庭での親御様のサポートなどで実現可能です。
親御様も先生も太郎くんが学校で離席する報告は良いと思っていなくて何とかしたいと思っている。
そして行動を観察して見たところどうやら先生が「宿題を出せ」と言ったタイミングで離席することが続いているようだ。
家庭の事情があるものの、お母様も納得をして「じゃあ、宿題を私が確認をしてから登校させるようにします」ということでご家庭と先生で話がつきました。
このようになったとき、以下のようなデータが出現すれば介入成功ですね。
このようなデータが出現したら「あぁやっぱり私たちが思っていた当ては正しかったんだ。これで太郎くんも(朝の回に関しては)離席せず、落ち着いて過ごせるだろう」と思うでしょう。
太郎くんの頭をパカっと開けて真実を確かめることは不可能ですが、このように行動を観察して介入し「そういう意味で離席していたんだ!」という可能性が高いことを確かめることは可能です。
そう思っていたX月Y日の木曜日、データが急に以下のようになったとしましょう。
データは継続して取っていたのですが、そのデータは週の途中に現れました。
こうなったとき、このようなデータはどのように捉えれば良いでしょうか?
実はABA自閉症療育を行なっているとこのようなことは起こる事象です。
お母様、先生は不安になるかもしれません。
あれ?私たちの考えていたことは間違っていたの?
そう思っても仕方ないくらいデータが悪くなっています。
このことをどのように捉えれば良いでしょうか?
先生は「今日は調子が悪かった」と親御様へ説明しました。
しかし親御様はそのように言われても不安は拭えませんでした。
私は宿題をチェックして努力もしているのになんで?
「調子が悪い?本当に?前の状態に戻ってしまった(退行)のかも?」とか、色々な可能性を考えるでしょう。
でもとりあえずデータの観察を続けた。
多分そのときの気持ちは穏やかではありませんが・・・
その結果、
その次の週も同じように介入成功を保証するような安定した立ち歩きの無さが継続してみられました。
こんな感じでその1プロットがまるで何かの魔法にかかったような、説明ができない事象のように、「浮いた」ような形でデータとして残ることがあるのです。
これはどのように説明をすれば良い(捉えれば)のでしょう?
このようなデータを目の当たりにすることがあると、「なんじゃこりゃ?」とあなたは思うかもしれません。
実は大切なことですが、「心が折れずにデータを観察した結果」得られるときに初めて得られる感覚です。
あの日、データが突然悪くなった次の日に焦って介入方略を変更したり、データの観察のモチベーションがなくなり観察をやめてしまうとそのような感覚は得られないかもしれません。
もし本当にこのような何故か分からないが突然悪くなる日があるとすれば?
そのようなイレギュラーが起こることが普通にあり得るとするならば、
1回(1プロット、もしくは数プロット)イレギュラーがあったとしても「急な介入変更」をする必要はありません。
行動の観察にはときには忍耐も必要です。
もしこれが論文を執筆している研究者であれば「その日は都合があってセラピストの変更があった」とか、「雷が鳴っていて、その子は雷を怖がっていた」とか、「普段持ち歩いているぬいぐるみを選択していて、外出時に持ち歩くことができなかった」とか、
何か理由付けをする必要があるのですが、
本当のところを言えば、そのようになった「本当の真実」はわからないまま終わることが多いでしょう。
そのため理由を考えるとすれば先生の言った「今日は調子が悪かった」という内容が事実として当てはまることがあります。
調子が悪い原因は多岐に渡り「睡眠不足?」、「怖いことがあった」、「私たちが気づいていないだけでルーティンが崩れるタイミングがあった」、「フラッシュバック」、「窓から飛行機が飛んでいるのがその日見えた」など、
普段お子様の日常にない何かが起こったという理由で一旦は分析(解釈)して良いのです。
このようなデータは早い段階で元に戻った(良い調子に戻った)けれども、短期間大きく崩れた。
理由の推測はできるものの本当かどうか確かめることが難しい場合はそのデータを「外れ値」とみなす。
「外れ値」というものは起こり得る可能性があるものだという前提でABA自閉症療育を行うと、そういった姿勢で行動を観察することが大切です。
本当にまるで「株価」のように良くわからない下落(行動の悪化)が突然、予想外に起こることがあります
あなたも今まで安定していた日常が突然イレギュラーな方向に行くことがあるでしょう?
こういったとき心は平穏に、いつも通りに観察を続けて行くことが大切です。
あなたのそのようなイレギュラーな日は過去体験からのフラッシュバックなのか、もしくは周りの人は理解できない(観察できない)けれども自分の中の事前に決めていたルールが達成できないという日だったなのか、
いろいろな可能性がかなり幅広くあってもしかすると自覚もできていないのに、友達から「今日疲れてる?」とか言われる日がありませんか?
あれ?そう?私今日そう見えているのかな?
確かになんか超悪いけどやっぱり調子悪いのかな?
お子様にもそういう日があることは不思議ではありません。
「お子様にもそういう日が当然ある」ことは「私にもあるから子供にもあるだろう」というロジックで説明できると思うのですがどうでしょう?
さいごに
本ブログページでは「外れ値」について書いてきました。
「外れ値」とは一言で言えば理由の推測はできるものの本当かどうか確かめることが難しい場合のことでしたね。
イレギュラーなもので少し冷静になって出現しても観察を続けることが大切なものです。
本ブログデータで言えば、
このようなデータが出現したとき、正直私は慣れているのであまり動揺しませんが初めてこのような「崩れ」を見た人は動揺をするかもしれません。
本ブログページでお伝えしたかったのは「外れ値」というものが普通に存在するし、理由はわからないものの人には「調子が悪い日」というものは確かに存在し、そのような日は観察しているデータが悪くなる可能性があるということでした。
行動はある程度「生活している中でのコンディション(一般的な言い方をすれば「調子」)」によって幅(ブレ、外れ値も含めて)があるのが(あなた自身の経験から考えても)普通だとすれば、お子様もそのような幅がある可能性が高いと思います。
このようなロジックが自然だとすれば、ブログ内ではずっと書いてきていますが短期間のイレギュラーによって支援の方法(介入方法)を変えるというのはナンセンスです。
「外れ値」という概念を知って、意識して「その場その場のデータの変動」に惑わされず、ある程度の期間で行動を観察し、介入効果があるかどうかを判断する
このような視点を持って日々のABA自閉症療育を行なっていただければ良いなと個人的には思っています。
本ブログページでは「外れ値」について書いてきました。
次のページでは「クレバーハンス」というものについて書いていきましょう。
「クレバー(賢い)ハンス(馬ハンス)」という、過去にあった賢い馬ハンスから来た名称のものですが、ABA自閉症療育でも知っておくべきものだと思います。
残念なことにクレバーハンスを行ってしまうとABA自閉症療育で期待される療育効果が一気に少なくなってしまうでしょう。
そのため次のページでクレバーハンスについて書いていきます。
【参考文献】
・ 宮下 照子・免田 賢 (2007) 新行動療法入門 ナカニシヤ出版