ABA自閉症療育で行動を測定するときの心構えー私たちの記憶は結構曖昧(ABA自閉症療育での行動の見方9)

ABA自閉症療育をテーマとしている本ブログ内で以前「ABA自閉症療育での行動の見方」という章を書いてきました。


この章内では「潜在的行動と健在的行動」や「行動の記録方法」などについて書いてきたのですが、

この章も今後発展させて行きたいなという気持ちになり新しくこの章についてもブログページ更新をやって行きたいと思います!


さてブログページでテーマとしたいのは「ABA自閉症療育で行動を測定するときの心構えー私たちの記憶は結構曖昧」という内容です。

私のブログでは珍しい「心構え」という文字が入ったタイトル。


Enせんせい

「ABA自閉症療育での行動の見方」がテーマでしょ?

行動測定なのに「心構え」ってなんやねん、見たまんま測定したらええんちゃうの?


そう思うかもしれませんが「行動を正しく記録する」というのは方法論以前に実は難しい問題を抱えているのです。


行動測定の方法については「行動をどう測定する?(ABA自閉症療育での行動の見方7)(https://en-tomo.com/2020/07/06/behavior-view-base4/)」で記載をしましたが、

まずは心構えも大切だろうと、そういった気持ちで書いていきます。


(ABA自閉症療育での行動の見方7)行動をどう測定する?のサムネイル

本当に「心構え」は大切です。

一旦、少し以下のエピソードを見てください。



「最悪」と感じるエピソードから行動測定を考える

例えば私たちは生活の中で「最悪」と感じるタイミングがあるでしょう?


それは例えば商談のとき、少し余裕を持って家を出たにもかかわらず電車が止まってしまっていて(もしくは渋滞?)、困った。


自分自身には裁量がなく例えば電車の場合「タクシーで別の駅まで行っていいか?」と上司へ聞こうと電話してもタイミング悪く上司は電話に出ず、困った。


「困った・・・」

少し待ったけれど電車も動かないし上司の折り返しもないため、結果的に別の路線で行こうと思って、理由と上司にメールで「少し遅れます」の報告をして別の駅へ向かって歩き出した。

別の路線で行ったら上司との集合時間には遅れるものの、商談の時間には十分間に合うことは分かっていたため、それが自分なりのベストかなと考えていた。

なぜベストか?と考えたかといえば、実は「少し遅れる」というのは商談の時間に遅れるのではなく、上司との待ち合わせの時間に遅れるという意味だからだった。

商談に遅れることはなく、また少し余裕を持った時間に集合できることもわかっていたからだ。


もともとは1時間ほど前に集まって最終打ち合わせをしようという話になっていたのだが、

最終的には上司と会えたのは商談の35分前だった。

そこから急いで2人で最終打ち合わせをしたのだが雰囲気は悪くなかった。


結果的に商談は失敗した。

ただこれは予測通りで、もともと個人的には勝率の高い商談とは自身は思っていなかったのでやっぱりという気持ちもあった。

実は上司とも事前にそのような話はしていた。


しかし先方の態度がほとんど上司と私の話に興味を示さなかったこと、またその後タイミング悪く別のアポイントを取っていた会社の商談予定についても「キャンセルで」という電話がかかってきた。

帰り、上司から「やはり商談の日に待ち合わせに遅れてくるのは良くない。そう言う日は早く家を出るようにしないと」と言われ叱責された。

今回の商談について上司は打ち合わせに私が遅れてきて最終準備が難しかったことも理由の一つとして本社に上げるようなことも言っていた。


「は?ちょっと待って!」確かに私は遅れたが、それは私のせいなのか?


「話が違うじゃねぇか・・・」

上司のかなりイライラした態度が私に伝わってくる。


あなたは「え?」と言う気持ちであった。


あなた

え?ちょっと、マジすか?


もし当日イレギュラーがあればすぐに電話をしてくるようにと言ったのに、電話に出なかったのはあなたでは?

(その後、電話は繋がったが既に別の駅に歩き始めていたし、そのことを伝えたときには普段の調子で「そうか、わかった。気をつけてな」と言っていたのに)


あなた

あなたそう言ったよね?


それにいつもより少し早く家を出ていたことも伝えたよね?

もしタクシーで来ていたらその費用は経費で出たの?商談には十分間に合う時間に着くのに?


Enせんせい

もし上のようなことがあったら、モヤモヤした気持ちになると思いませんか?


そんなことが今月20日、月の半分が過ぎたタイミングで起こったとしましょう。


週末イライラしたまま迎えた月末27日、友人と会ったとき「今月マジで最悪やったわ」とあなたは言うでしょう。

そして事情を説明します。


「マジで今月さ、最悪だったんだけどー」

ここで考えて欲しいです。

「今月マジで最悪やったわ」とあなたは言うのですが、それは事実でしょうか?


今月、イライライベントのあった20日までに既に半分以上の時間をあなたは既に過ごしています。

このような事実があるのにあなたは友人に「今月マジで最悪やったわ」と事実以上の話をするのです。

でもこれは何も話を盛って友人の興味を惹こうとしたわけではないと思います。

あなた自身は本当に「今月マジで最悪やったわ」と感じている(評価している)し、それをそのまま友人に話しているだけなのです。


もし以上のようなエピソードに共感できた場合、今回テーマとしたい「ABA自閉症療育で行動を測定するときの心構え」について知る必要があります。


意識せず実感したものを直接に体験したまま評価し、普段を過ごしていては「正確に行動を測る」ことはとても難しいでしょう。

でもそれは人間の普通の状態だと思いますし、私もそうです。


例えば「お酒を控えよう」、「運動をしよう」、「ご飯の量を半分にしよう」、「読書をしよう」、「掃除をしよう」など毎日の生活習慣に取り入れる(取り入れたい)何かしらの習慣をイメージしてください。

あなたは毎日の中にそれを取り入れようと少し意識していました。

そんなあなたに私から「先々週の金曜日はやった?」、「先週は7日中、何回やった?」と聞かれたら?

答えることが難しい人の方が多いと思います。


「覚えてない」これが本当じゃないですか?

このように実は意外と人間は自分の普段の行動は覚えていないし、また上のサラリーマンの例のように直前に印象的な出来事があれば、その出来事に過去の記憶が巻き込まれた形で評価をしてしまいがちです。


Enせんせい

上の例はサラリーマンの仕事を想定しましたが、テーマをABA自閉症療育にするとどうなるでしょうか?



ABA自閉症療育、行動測定の心構え

例えば「自由時間にお友達を叩いてしまう」というお子様をイメージしてみてください。

名前を「太郎くん」としましょう。


お友達を叩いてしまう太郎くん

あなたは太郎くんがお友達を叩いてしまうことで困っていました。


あなた

困ったわね・・・


太郎くんは学校に対して、また太郎くんの通う学校は以下の条件であると考えてください


・ 太郎くんは1週間5日小学校に通っている

・ 太郎くんは通常学級に通っている

・ 自由時間は「朝授業が始まる前」、「2時間目と3時間目の間」、「4時間目と5時間目の間(給食後)」、「放課後」の4つに大きく分けられる


以上の条件で生活している太郎くん。

※ ちなみにブログ内で出てくる事例はフィクションです。ノンフィクションの場合は「親御様から聞いた」などノンフィクションであることがわかるように書いていきます



私たちは直近のデータに影響を受ける

私は現在、結構多くのお子様と関わらせてもらっているので1ヶ月に1回とか3ヶ月に1回といったようなペースでしかお会いできないご家族様も多いです。


Enせんせい

こういったケースでは「今月はどうでしたか?」や「(この3ヶ月で)困ったこととかありますか?」などと聞くことが多いです


上で書いたお子様をイメージしてくださいね。


私が「今月はどうでしたか?」や「困ったこととかありますか?」質問をしたとき、

親御様から「最近、太郎が小学校でお友達を叩いてしまって困っています」とお話がありました。

以下少し私とお母様のやりとりを見てみましょう。

※ このやりとりはフィクションです


私:「そうなんですね。それは大変ですね。いつからですか?」

母:「最近、ずっとです」

私:「毎日ですか?」

母:「はい。毎日です」

私:「(現在9月4週目の金曜日だとして)9月1日から学校が始まって、夏休みが明けてからそれから毎日ですか?」

母:「そうです」


上のような会話は決して珍しくありません。


ここで2つ分岐があります。

(1) 叩いた日や回数などを例えば手帳に記録している。この記録はお母様が記録したものでも、先生が連絡帳に記録したものでも構いません

(2) 叩いた日を記録していない


最初は、以下(1)の場合だったとして話を続けていきます。

※ その後(2)のパターンについても書いていきます


私:「そうなんですね。ちなみに最後に叩いたのはいつだったか覚えていますか?」

母:「今日です」

私:「なるほど。それは大変ですね。その1個前はいつでしたか?」

母:「えぇと・・・(手帳を開いて、今日は金曜日です)、水曜日ですね」

私:「そうなんですね。その前は?」

母:「火曜日です」

私:「その前は?」

母:「月曜日です」

私:「その前は?」

母:「先週の金曜日です」

私:「先週の木曜日は叩きましたか?」

母:「先週の木曜日は・・・、えーと、叩いていませんね。でも水曜日は叩いています。その前の火曜日も!」

ーーーーー


以上の内容を見て矛盾を感じた人もいると思います。

お母様は私とお話をする前に「毎日叩いている」と私に相談を持ちかけています。


Enせんせい

でも上の会話を振り返ると実は毎日ではないのですね


どうやら「木曜日は叩いていない」ということが2週連続で続いています。


これはお母様が私にオーバーに困ったことを伝えようとして「毎日叩いて困っている」とご報告されたわけではないでしょう。

これは上で例として出したサラリーマンが「今月マジで最悪やったわ」と感じていたようにです。


お母様は体感としては「今」、毎日叩いていたと感じているし(もしくは私との会話の中で気づきがあって「あれ?」とお母様本人も気付き出しているかもしれませんが)、嘘をつこうという気持ちはないでしょう(このときに私に嘘をつくメリットはありませんね?)。


さてここからの進め方はどうなるでしょうか?

質問、分析したいことはこの1点です。


「お友達を叩く木曜日と、その他の曜日で何が違うんですか?」


大袈裟すぎない表現だと思いますが、この点が分析できれば大抵の問題は解決に導けます。


とても大切です!

例えばあなたは「分析」とは何の答えを求めて行う作業だと思いますか?

「統計処理」や「背景の知識」から導き出した「答え」が分析と呼ばれるのでしょうか?


私は分析とは「A条件とB条件の差を知ること」だと考えています。

「条件間を比較した結果」が「分析結果」です。


違いを見つける作業が「統計処理」や「機能分析」なのですが、それはあくまで手法でしかありません。

これは統計研究でもシングルケーススタディでも一緒で、このことについてはまたシングルケーススタディの章で書いていければと思いますが、

私はこのように思っているので「A条件(木曜日:攻撃行動の起こらない条件)とB条件(その他の曜日;攻撃行動が起こる条件)の差を知ること」が問題解決に繋がると信じています。


Enせんせい

どうして「A条件とB条件の差を知ること(分析)」が問題解決を導くのか?


本ブログページは介入方法などを伝えるページではないのでざっくりと記載しますが、

違いを確認していくと例えば「木曜日だけ算数の時間」がなかったとしましょう。

その他の曜日に算数はあります。


ここから会話の続きです。


私:「なるほど。木曜日だけ算数がないんですね。それは、興味深いですね。ちなみに、算数がないことと、太郎くんがお友達を叩かないことについて何か気づくことはありますか?」

母:「太郎は特に算数が嫌いなので、もしかしたらそれでイライラするのでしょうか?」

私:「かもしれませんね。んー、今学校で使っている国語と算数の教科書をお借りしていいですか?あと今それらがどこをやっているか教えてくれませんか?」

母:「わかりました」


その後ABAセラピー中、太郎くんに今学校で行っている国語と算数の問題を教科書を用いて学校の先生のような刺激の出し方で提示し続けたとしましょう。

以下は家庭で行うセラピーの一例です。

学校場面のデータでないことは注意してください。


提示の順番は、

1:国語の問題(7分)

2:休憩(3分)

3:算数の問題(7分)

4:休憩(3分)

5:国語の問題(7分)

6:休憩(3分)

7:算数の問題(7分)

8:休憩(3分)


上のような設定でABAセラピー中の時間、40分を使用したとしましょう。


セラピーの結果、以下のイラストのようになったとします。


国語の問題後の休憩中に叩いた数と、算数の問題後の休憩中に叩いた数の比較

イラストのようにABAセラピー中、お子様は算数後の休憩中叩くことが多かったです。

少し極端な結果を描きましたが、イラストのように算数後の休憩で合計7回叩くことがあり、国語後の休憩では1回しか叩きませんでした。


Enせんせい

上のデータのようにABAセラピーの算数後、3分間という学校よりも短い休憩の中で平均3.5回(3回と4回の平均)叩いていることが観察されたとすれば?


学校でも週に4回算数の時間のあと休憩があるので4✖️3.5回で14回、週に10回以上の頻度です。

※ 実際には学校場面とセラピー場面の違い、学校の生徒と療育の先生、という場面や人の違いがありますから実数とはいえませんが参考にはなるでしょう

仮に学校で1週間に10回以上お友達を叩くことがあればお母様は「毎日お友達を叩いて困る」と感じても仕方ありません。


もしこのようなことがあったとき、この分析はどの程度信頼のおけるレベルと言えるでしょうか?


今回は<国語の休憩時間1回><算数の休憩時間1回><国語の休憩時間1回><算数の休憩時間1回>というように、各時間に1プロット(データの点が1つ)でデータを採取しました。

個人的にはセラピー時間の問題もある(既に40分使用している)のでここまでのデータから分析して介入を実施しても良いと思います。


そこまでしなくても良いと思いますが、これをもっと固い分析に昇華させる方法もご紹介しましょう。


<国語の休憩時間3回><算数の休憩時間3回><国語の休憩時間3回><算数の休憩時間3回>というように、各時間に3プロット(データの点が3つ)でデータを採取したとすれば分析のレベルが昇華します。

どのレベルまで昇華するかというと、

各時間に3プロット(データの点が3つ)でデータを採取するところまでやれば実は「科学的に根拠がある」と言っても過言ではないレベルで信頼がおけるレベルになります。


今回の例のものはプロット数が1つのため科学的根拠があるとまでは認められないと思いますが、これは「A-B-A-Bデザイン」と呼ばれるシングルケーススタディのデザインです。

例えばRobyn L. Tate・Michael Perdices・Ulrike Rosenkoetter・Skye McDonald・Leanne Togher・William Shadish・Robert Horner・Thomas Kratochwill・David H. Barlow・Alan Kazdin・Margaret Sampson・Larissa Shamseer・Sunita Vohra (2016) はこのようなデザインを「With drawal /Reversal Design」と記しエビデンスがあるものと紹介しています。

以下は各時間に3プロット(データの点が3つ)でデータを採取するところまでやったデータの例です。


科学的な根拠(エビデンス)があると言われるレベルのアセスメント

但しここまで分析をすることのデメリットとして、1プロットのデータを作るのに国語or算数の模擬授業(7分)+休憩(3分)=10分」時間がかかる点には注目しましょう。

プロットを12個並べるためには120分、2時間かかってしまいます。

どこまで分析して介入するかは(時間やお金などの)費用対効果も考慮しましょう。


そのためどこまでアセスメントをするべきか?という点にはいつも頭を悩ませますが、

概ね個人的な意見としては、最初にご紹介したデータ(各時間1プロットずつの40分間で採取したデータ)の結果から、学校場面でも「算数」が原因となって「お友達を叩いている」と一旦考え、介入しても良いレベルの分析結果だと思います。


またプロットを増やす以外に他にもう少し分析を固くするということであれば、

・ お母様にも同じことをしてもらい同じ結果になるかどうか見る

・ 別日にもう一度確認する

などでもっと分析結果を固くすることができるでしょう。

上のオレンジ色の2つに関しては行っても良いかなと思います。


Enせんせい

あくまであなたが行う療育は研究ではありませんので、際限なく分析結果を固くすることに意味はないと思います

しかしある程度介入方針を決めるためにはその介入の選択理由として「分析」は行う必要があります


療育における「分析」とは「介入方法」など今後の方針を決めるために行うと言っても過言ではないでしょう。


例えばGhaleb H. Alnahdi (2013) シングルケーススタディはあなたのお子さんに行っているその介入が有効・効果的かどうか評価し判断できると述べています。

そのため「介入方略」を行なっている途中も継続してデータを分析することでその介入が有効か、効果的かという判断にも使える方法です。

もし「問題行動」に困っているのならば、簡単に問題行動の頻度という指標でも大丈夫なので上のようなグラフを描いてみてはいかがでしょうか?

発見があるはずです。



問題行動の原因についての分析が進んだその後ー介入を考える

ここまで分かったときの介入方法はどうなるでしょうか?

ここまでで分かったことは、太郎くんの「叩く」という行動はどうやら算数時間のあとにある休憩時間に集中していそうだという仮説です。

この仮説に対して介入方略を実行していくとすれば?

以下のようなものが考えられます。


(A)算数の授業の負担を減らすために算数の授業中は先生からヒントをたくさんもらったり、算数授業後のハイリスクな時間には常に先生に付いてもらう

(B)算数の授業は通級を利用し、本人にあったレベルのお勉強をする

(C)事前に予習をしていき授業についていけるようにする

(D)算数の授業後にお友達を叩くと言う行動が出現している可能性があるため、算数の授業後は太郎くんを職員室に連れて行ってクールダウンさせる

(E)イライラしてもお友達を叩かず、我慢する練習をする(強化子などの基本知識に加えて、ホームワーク設計やセルフマネージメントの知識が必要)

などが考えられるでしょうか?


上のようにいくつかの介入方略が考えられたとき、その中から何かを選択しなければいけません。

例えば上の(A)ー(E)に対応させて介入を選択する場合、以下のような選択条件を考えてみましょう。


(A)は、ご家庭の負担は少なくなりますが、学校側の人的資源の問題がありますのでお伝えしたときに学校がどのようにお話ししてくるかが重要です

(B)は、学校で利用できる制度を利用する(但し全ての学校が太郎くんに通級を利用させてくれるわけではないでしょう)という内容になりますが、特にご家族様が「普通学級で過ごさせたい」というニーズが強い場合は選択肢に入らないかもしれません

(C)は、ご家庭の負担は大きいですが学校側の負担は軽いです

(D)もありだと思います。個人的には結構好きな選択肢ですが、先生も次の授業の準備などがありますから学校のリソース次第かもしれません。とはいえ例えば、補助の先生にその時間だけ見てもらうということなどは叶いやすいかなとも思います

(E)が一番ありだと思いますのである程度、お話ができるお子様だったら私は最初にこれを狙います


私は(E)を狙いたいですが、お話が難しいお子様の場合は(A)ー(D)を狙うことが現実的でしょう。

お話が難しいお子様の場合、最初は(D)を狙うかな?


Enせんせい

(E)は積極的に狙いたい介入方略ですが、

(E)の問題は、

・ 他と比べてお子様の言語能力が必要なことと

・ 支援者側にも専門的な知識やテクニックが必要

ということが問題


また今回は「(1) 叩いた日や回数などを例えば手帳に記録している。この記録はお母様が記録したものでも、先生が連絡帳に記録したものでも構いません」という条件で話を進めてきました。

ここまでの流れが可能だったのは「データがあった」からです。


では、

「(2) 叩いた日を記録していない」場合はどうでしょうか?

この場合はデータがありません。


「データがないぞ・・・現状について何となくしかわからないぞ・・・」


叩いた日を記録していなかった場合はどうなるのか?

データがなかったということは「木曜日は叩いていなかった」という事実に気が付いていない状態です。

特に時間的な制約等がある場合は専門家の判断に任せてアセスメント不十分の段階で決め打ちするのも1つの方法ですが、

固くより確実に行動問題を改善したいのであれば「どういった状況で叩いているのか、データを取ってください」が答えになるでしょう。


専門家にアドバイスを聞く場合、決してその料金が安いと思わない値段なのであるならば、

まさにセーブ途中から始められるような状態の「データは取り終わっています(ある程度の収集をしています)」から専門家にアドバイスを求めることを始める方が経済的にも時間的にも効率的です。


Enせんせい

基本的に専門家が集めるデータというのはある程度決まっていると思います


専門家が集めるデータは例えば以下のようなものです。

下に行けばいくほど情報の精度は高まります。但しデータ採集のコストは上がります。


(あ)「その日の家庭でのコンディション(睡眠不足とか)」と「学校であったかなかったか(あった/なかったの2分)」

(い)「その日の家庭でのコンディション+頻度(学校で何回あったか)」

(う)「その日の家庭でのコンディション+頻度+場面(例でいうと何の休憩時間か)」

(え)「その日の家庭でのコンディション+頻度+場面+問題行動の前後状況(前の状況を文章で記録する)」

(お)「その日の家庭でのコンディション+頻度+場面+問題行動の前後状況+問題行動の維持時間」

(か)「その日の家庭でのコンディション+頻度+場面+問題行動の前後状況+問題行動の維持時間+親御様や先生(大人の場合は自分自身が)はなんで問題行動が起こっているかの主観的な評価」


ABAの専門家は特に自閉症療育の専門家でなくとも共感できるのではないでしょうか?


もし「お子様の行動で困っているんだよなぁ」という状況があってこの先専門家に相談しようと思うのであれば、


(い)「その日の家庭でのコンディション+頻度(学校で何回あったか)」

はあって欲しくて、さらにもっとできれば、

(え)「その日の家庭でのコンディション+頻度+場面+問題行動の前後状況(前の状況を文章で記録する)」


くらいのレベルは最低限記録していると少なくとも1回(もしかすると数回)のセラピー時間分の経済的コストを安く抑えることくらいはできると思います。

(い)、(う)、(え)くらいの情報があることは介入を計画するとき、ありがたい情報です。


しかしここまで書いてきてなんですが、

実は「データをどのように採取したか?」というデータ採集の方法が正確であったかどうか、という方法論的な問題は残っているので、確実に介入に繋げられるとまでは言えません。


Enせんせい

なんやねんそれ、と思った人もいると思います


でも確実に言えることを1つお伝えしましょう。

あなたのお子様の問題行動はこれからも続いていく可能性が高いとすれば?

「お友達を叩く」以外の他の問題行動も見られる場合はデータを上手く取る技術の向上は無駄になるか?


正しくデータを取れるよう訓練される習慣はあなたのお子様の良い方向への変化に影響を与えます。

これは非常に学ぶことが大切な価値のある知識とテクニックです。



さいごに

本ブログページでは結局は時間的なコストや経済的なコストを考慮すれば、1日の中でちょっとだけ時間を使って記録を取っておくことが効率的な療育を導くという内容でした。

データ最終は慣れると1日10分もかからないことの方が多いでしょう。

「ちょっとデータ記録しておくか」、という心構えが大切です。


心構えということで少し個人的な話もしましょう。

例えば私は今ストレッチにハマっています。

実は私は身体が硬いことに少しコンプレックスを持っていて、身体が柔らかいことに対して憧れがあるのです。

これは自分が学生時代スポーツをやっていたにもかかわらず、身体が周りの人と比べて固かったことが要因かなと思うのですが、身体が柔らかい人を羨ましいと思います。


「いいなー」「羨ましいなー」と思っていました

ストレッチの専門店にも通って1年以上になり、日常でもストレッチを行うことでみるみる身体の柔軟性が改善してきました(まだそれでも人と比べて固いというレベルかもしれませんが)。

これは私に取ってとても嬉しいことで、その成果に「正の強化」も感じていましたし、感情的にポジティブな気持ちも体感していました。


でも忙しくなるとストレッチの習慣がどうしても後回しになります。

最近、前よりも忙しくなり、ストレッチをしなくなり、少し身体の不調を感じることが多いです。

ストレッチを毎日しなくなったことに対して、「1日10分くらいなんだからできるでしょ?忙しいと言っても」と言われると返す言葉がありません。

その通りです。


私の中で価値のあったストレッチの習慣はどうして今、継続していないのでしょうか?

「習慣強度」という言葉があるのですが、私の三十何年の人生に生活の中でストレッチをするというのはこの1年ほどで身についた習慣です。

私は30代半ばなので、私の人生年数で割ってストレッチが習慣づいていた時間の割合を計算すれば、私の「意識してストレッチをした時間(日数)」は人生のたった3パーセント未満の時間に該当します。

そのため私にとってストレッチはまだまだ弱い「習慣強度」です。

これは単純に「私の人生の中で習慣にしていた時間が短いから」、と考えてください。


「習慣強度」を高めるためには「ちょっとしんどいけど、意味があって決めたことだからしんどいなかでやる」と、毎日の中で習慣にしたい行動を積み重ねる必要があります。

だんだんと習慣化し、負担は楽になって行くはずです。


Enせんせい

普段データを取っていない人がデータ取りを行うという習慣を手に入れることが簡単なものではないことは分かっていますが、

それでも「ちょっと困ったな」と思うことがあったら少し面倒くさいですが本ブログページで書いてきたようにデータを採取してみてください


専門家は自身の扱えるツールを使って皆様を支援します。

それは人によってはパソコンだったり、数式だったり、法律だったり、手先の器用さだったりするでしょう。

多くの専門家が自身の仕事に合わせたツールを使うのですが、ABA自閉症療育の専門家が扱うツールの一つが「正しく取得されたデータ」です。

ABA自閉症療育の専門家はそのデータを分析して問題解決の介入を考案します。


母:「困っています、データはこんな感じです」

私:「じゃあ、こうしてみましょう」


「そうすれば良いのか!」という介入方略を考案

こういったやりとりが可能になります。


「データをどう取れば正しくなるか?」はブログ内で学んでいただければ幸いですが、まずはそういった習慣作りから。

その習慣が行動問題解決の第一歩、少し面倒ですが大切です。


次のページでは「行動を期間で観察して比較し考える」ということについて書いていきます。



【参考文献】

・ Ghaleb H. Alnahdi (2013) Single-subject designs in special education: advantages and limitations. Journal of Research in Special Educational Needs 

・ Robyn L. Tate・Michael Perdices・Ulrike Rosenkoetter・Skye McDonald・Leanne Togher・William Shadish・Robert Horner・Thomas Kratochwill・David H. Barlow・Alan Kazdin・Margaret Sampson・Larissa Shamseer・Sunita Vohra (2016) The Single-Case Reporting Guideline In BEhavioural Interventions (SCRIBE) 2016: Explanation and Elaboration. Archives of Scientific Psychology 4, p 10–31