先に書いた「(ABA自閉症療育の基礎92)心理学教科書定番のバンデューラ「模倣」研究、ABA自閉症療育でも使える模倣についての研究(https://en-tomo.com/2021/07/30/albert-bandura-article/)」では、
心理学でも有名なアルバート・バンデューラの一連の研究をご紹介しました。
上のブログページでも最後に少し書きましたが、
私は例えば「あいさつをする」、「友達にものを貸す」、「折り紙を折る」、「宿題をする」、「自分の意見を言う」などのスキルと「模倣する」というスキルは等位ではないと思っています。
例えば上で紹介した各スキルが「学んで使用するスキル」だとすれば、「模倣」は「学び方のスキル」と捉えることができるでしょう。
上で紹介した各スキルを獲得していくときに、「模倣するというスキル(以下、模倣スキル)」を通して学習していくことで学習効率が上がり、習得率が増すと考えています。
そのためにお子様が「自発的に模倣できること」はスキル、学習の促進にとても大切な要素でしょう。
ではどうやって「模倣スキル」を促進していけば良いでしょうか?
ABAには「般化模倣(はんかもほう:Generalized imitation)」という言葉があります。
このブログページでは「般化模倣とは?」ということについて書いていきますが、般化模倣はお子様の模倣行動を促進する際に知っておくと良いキーワードです。
また模倣についてはさまざまな心理学の学派・派閥が促進する方法について述べているように思います。
例えば「ミラーニューロン」という言葉を聞いたことはないでしょうか?ミラーニューロンは模倣にも関連する観察学習において活性化するニューロンのようです。
他にも心理学で言えばピアジェという有名な方も模倣についての発達理論を述べています。
このように模倣については様々な広い分野で研究研究をされているのですが、
ABA自閉症療育内だけでも、模倣を促進する方法がいくつか存在するでしょう。
多分、ABA自閉症療育内だけでも私が知らない方法もありそうというくらい幅広いテーマですので、興味がある人は調べてみると色々な知見が出てくる分野だと思います。
私、模倣は専門だよ!と言えるほど今は詳しくはありませんが、
とても魅力的な分野ですね
ABA自閉症療育にも活かせる知見が多いのではないかと思います
これからも調べていきたい研究範囲です
さて、このブログページ内ではABA自閉症療育で模倣をどう教えるかというよりは、ABA自閉症療育にとって模倣のキーワードとなる「般化模倣」について書いて行きます。
まずブログページでは「般化模倣」について書いて行く前に「模倣」についての知見を少し書いていき、その後「般化模倣」について書いていきましょう。
またABA自閉症療育にはこの「般化模倣」を狙って模倣を教えるルートとして、DTTとNBIの2つが少なくとも存在すると思うのですが、
ABA自閉症療育で模倣をどう教えるかというテーマは次のページで書いていきます。
※ DTT = 「Discrete Trial Teaching(離散型試行訓練)」のこと、主にロバースが行なった「EIBI:Early Intensive Behavioral Intervention (早期集中行動介入)」で使用される
※ NBI = 「Naturalistic Behavioral Interventions:(自然主義的行動療法)」のこと、「Pivotal Response Treatment(機軸行動発達支援法)」や「ESDM:Early Start DENVER Model(アーリースタートデンバーモデル)」など複数存在し、DTTと比較して自然場面でスキルを教えることや子どものモチベーション、自然な強化子の使用などが意識される
「般化模倣」を学ぶ前にまずは人間はいつから模倣を示し出すのか?
について書いて行きましょう。
乳児の示す模倣行動について
Jonas Ramnerö & Niklas Törneke (2008) は私たちは人生で最初に面倒をみてくれる人の行動を模倣するように生物学的に準備されていると述べています。
これは人間は産まれながらに模倣行動がプログラミングされているということです。
それは本当なのでしょうか?
佐伯 胖 (2008) を参考にすれば生後平均32時間(最短は42分)の赤ちゃんの「舌出し」模倣が観察されり、
また大人が赤ちゃんに「舌出し」のモデルを見せている間すぐに真似できないようにおしゃぶりを口に入れ、2〜3分後におしゃぶりを取り出したところ「舌出し」の模倣が観察されたりしたようですが、
これら産まれてすぐの赤ちゃんに対しての模倣研究にはその研究方法から反論もあるようです。
佐伯 胖は2008年の論文ですが、生後すぐの模倣についてはもしかすれば現在も議論が分かれているところなのかもしれません。
上で出てきた赤ちゃんの「舌出し」の模倣研究はMeltzoffという研究者のグループが示した研究結果なのですが、Meltzoffは行動分析の専門書にも引用されています。
例えばHenry D. Schlinger, Jr (1995) はMeltzoffを参考に、
(1)生後14ヶ月の乳児と24ヶ月の乳児はモデルが対象物に対して行なった行動を24時間模倣できなくされても、その後でモデルの行動を正確に模倣する
(2)生後9ヶ月の乳児は観察期から24時間経過してデモンストレーション期が設けられたとき、対象物に対する任意の行動を正しく模倣する
(3)生後2週から3週の乳児はモデルの行動を見てからしばらくして模倣する場合、唇をすぼめたり、口を開けたり、舌を突き出したり、顔の動きを正しく模倣する。また指を次々と動かしたりするような動きも模倣する
(4)新生児(平均して生後32時間)は口を開けたり、舌を突き出すことを正しく模倣する
(5)生後72時間までに乳児は少なくとも2つの顔の動きを正しく模倣することが可能
以上のことを述べました。
小野 浩一(2005) も人間において模倣行動は生後間もない乳児にも認められ、またサルや鳥など一部の動物においても自然発生的な模倣が認められるように学習によらない模倣の存在も指摘されていると述べています。
ヒトが産まれながらにして模倣することが生得的に備わっているかどうか、という点については私の方では決定的な答えがわからないですが、以上のような知見から考察できることは、
ヒトは元来、特に教えられなくても、また強化子が無くとも「模倣行動」を行う可能性があるということです。
自閉症児については例えばZwaigenbaum L・Bryson S・Rogers T, Roberts W・Brian J, Szatmari P (2005) がカナダの生後6ヶ月と12ヶ月の自閉症児65人を対象とした研究で、
アイコンタクトや視線を追うこと、視覚的注意、社会的微笑、模倣、社会的な関心と情動調整の難しさ、非典型的な感覚重視の行動などにおいて自閉症の行動特徴が見られたことを報告しました。
上記の研究の研究意義としては、65人のお子様はのちに自閉症と診断されたお子様たちだったため、自閉症診断の予測として以上のような知見は活かせます。
Zwaigenbaum L他 (2005) を参考にすれば「模倣」が乏しいことは1つの自閉症の特徴と言えるかもしれません。
またO.Ivar Lovaas (2003) も発達に遅れのある子どもは人の行動を模倣することが遅かったりかけたりする。模倣は学習にとって非常に重要で、そして有効な手段であるが、模倣による学習ができないと新しい行動を学習する上で著しい遅れを示すことになると述べています。
ちなみに発達に遅れがあるお子様(自閉症や精神遅滞、ADHDやLDなど)全員が模倣について乏しいのか?
というと、そんなことはないでしょう
私は実際に多くのお子様と関わってきましたが、その中で「模倣」ができる発達に遅れのあるお子様も多く見てきました。
だからここまでの文章を見て「発達に遅れがある = 模倣ができない」というようには捉えないでください。
とは言え発達に遅れのあるお子様が全体的な傾向で見れば模倣が得意ではないということは事実でしょう。
また特に自閉症の傾向が高いお子様ほど周囲の刺激に反応することが難しかったり、行動と結果の因果関係の確立が未成熟であるためか、確かに模倣がなかなか難しいお子様もいます。
ただそのようなお子様であったとしても「模倣できること」は大切ですので、諦めずに教えていきたいです。
さて、ここまで模倣と発達に遅れのあるお子様の模倣について書いてきました。
「模倣する行動」をどのように教えていけば良いかについては次のページで書いて行くとして、
次の項ではABA自閉症療育で模倣を考えるときにキーワードとなる「般化模倣」について書いていきましょう。
ABA自閉症療育で大切、般化模倣とは?
望月 昭 (1978) は模倣行動についてバンデューラ派による観察学習と行動分析(ABA)派の般化模倣について評論を書いています。
望月 昭 (1978) を参考にすればバンデューラ派による模倣では観察するのみで学習が成立することに重点を置いて模倣について研究されている(※認知的理論)ことに対し、
行動分析派の考え方ではモデルが観察者の前である特定の行動を行い、観察者が同一の行動を示した場合に強化を与える、
そうすると直接強化を受けていないモデルに対する一致反応(般化模倣)もの頻度も変化する、というところに重点を置いて模倣の研究がされているようです。
※ 望月 昭は1978年の評論であるため現在は少し違うかもしれません
少し話が逸脱しますが、
Albert Bandura(バンデューラ)・Dorothea Ross・Sheila A. Ross (1961) が研究の考察で社会的模倣はスキナーが示唆したように連続した近似値を強化する必要がなく、新しい行動の獲得を早めるあるいは短縮することができるとして、
伝統的な学習理論、オペラント条件付けとレスポンデント条件付けの理論に観察学習、模倣の原理を組み込もうと考えていたことを考慮すれば、
個人的にはのちにバンデューラの研究とABAの研究が、模倣について別の方向性で研究を始めたことはとても興味深いトピックです。
話を戻してSidney W. Bijou・Emilio Ribes (1996) は般化模倣について、
機能的に同じ反応クラスに属する他の強化された練習機会が存在すると、強化されない模倣反応が起こることが観察されるようになること
と述べています。
なかなか難しい言い回しですね
以上の定義をかなり噛み砕いて、ざっくりと般化模倣とは?と説明するとすれば、
般化模倣とは模倣することを強化することで、別の教えていない行動についても模倣するようになる
ということです。
長谷川 芳典 (2015) は、
他者(モデル)の動きや発声と同じトポグラフィーの行動をすることは「模倣」と呼ばれるが、 模倣がたびたび強化されると、「マネをする」こと自体が強化されるようになると述べています。
前項で「模倣は生得的に獲得されている能力か?」というテーマを少し書きましたが、これについて獲得されている能力かどうかということはわからないものの、ABAの般化模倣の理論では、
後天的に模倣を強化することで模倣することそのものを促すことができる
ということを知っておきましょう。
これは「模倣すること」を促すと言っても良いですし、教える、強化できると言っても良いと思います。
例えばABA自閉症療育のプログラムに「動作模倣」というプログラムがあるのですが、
O.Ivar Lovaas (2003) は動作模倣プログラムの究極の目的は子どもに般化模倣を教えることであると述べました。
私の経験上かなり自閉症の傾向が強いお子様についてはなかなか般化模倣が見られるまでに時間がかかる(もしくは、般化模倣が見られても範囲が限定されている)お子様もいらっしゃいますが、
「教える方法がある」ということが大切だと思います。
また最後になってしまいましたが、
般化模倣は模倣を自発的に行うようになるということから、般化オペラント(般化したオペラント行動)であると考えることも覚えておいてください。
さいごに
本ブログページでは「乳児の模倣について(ヒトは産まれ持って模倣する能力を持っているか?)」、「発達に遅れのあるお子様の模倣」、
そして「般化模倣とは?」ということについて書いてきました。
本ブログページでお伝えしたかった一番の内容は、
あなたのお子様が模倣を行わない(もしくはほとんど行わない)場合であっても、ABA自閉症療育では「般化模倣」という研究分野から模倣を促す方法がある、
ということです。
どのように「般化模倣」を強化すれば良いのかについては次のページで書いて行きます。
また今回は触れませんでしたが、
私は個人的には模倣を促す方法として、模倣を強化する「般化模倣」以外に「共同注意(Joint Attention)」を強化することを行うことも多いです。
共同注視を強化する理由を以下に述べましょう。
模倣を行うためには例えば「注意過程」、「保持過程」、「運動再生過程」、「誘因と動機付け過程」が必要と言われているのですが(James E. Mazur, 2006)、
※これはABAというより、バンデューラの認知的な理論で言われています
共同注意ができることで「注意過程」、「誘因と動機付け過程」についてフォローできるのではないかと個人的には思っているからです。
共同注意も重要なキーワードですので、共同注意についてもまたどこかで書いていければと思います。
話を戻して、次のページではどのように「般化模倣」を強化すれば良いのかについて書いていきましょう。
【参考文献】
・ Albert Bandura・Dorothea Ross・Sheila A. Ross (1961) Transmission of Aggression Through Imitation of Aggressive Models. The Journal of Abnormal and Social Psychology 63(3) p575–582.
・ 長谷川 芳典 (2015) スキナー以後の心理学(23) 言語行動、ルール支配行動、関係フレーム理論 岡山大学文学部紀要 64巻 p12-25
・ Henry D. Schlinger, Jr (1995) A Behavior Analytic View of Child Development 【邦訳 園山繁樹・根ヶ山 俊介・山根 正夫・大野 裕史 (2003) 行動分析学から見た子どもの発達 二瓶社】
・ James E. Mazur (2006) LEARNING AND BEHAVIOR:6Th ed. 【邦訳 磯 博行・坂上貴之・川合伸幸,訳 (2008) メイザーの学習と行動 日本語版 第3版 二瓶社】
・ Jonas Ramnerö & Niklas Törneke (2008)The ABCs of HUMAN BEHAVIOR:BEHAVIORAL PRINCIPLES FOR THE PRACTICING CLINICIAN 【邦訳: 松見純子 (2009)臨床行動分析のABC 日本評論社】
・ 望月 昭 (1978) 観察学習と般化模倣ー社会的学習への行動分析的アプローチー 心理学評論 Vol21 No3 p251-263
・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】
・ 小野 浩一(2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館
・ 佐伯 胖 (2008) 模倣の発達とその意味 「保育学研究」 第46巻第2号
・ Sidney W. Bijou・Emilio Ribes (1996) New Directions in Behavior Development 【邦訳: 監訳 山口 薫・清水 直治 (2001)行動分析学からの発達アプローチ 亜細亜印刷株式会社】
・ Zwaigenbaum L・Bryson S・Rogers T, Roberts W・Brian J, Szatmari P (2005) Behavioral manifestations of autism in the first year of life. International Journal of Developmental Neuroscience. 23 (2-3): p143 – 152