ABA:応用行動分析18は「中学生自閉症児が自発的に宿題を行うよう親をトレーニングした研究」というタイトルで書いていきましょう
今回参考にする研究はPatricia Korzekwa Hampshire・Gretchen D. Butera・Scott Bellni (2016) の
「Self-Management and Parents as Interventionists to Improve Homework Independence in Students With Autism Spectrum Disorders(私訳:自閉症学生の自己管理、その親を子どもが独立し宿題を促す支援者にする)」という研究です。
今回この論文で紹介されるお子様は5名で中学生のお子様になります。
自閉症関連の事例研究で中学生が題材にされているものは個人的な感想としては珍しいです。
私自身はABA自閉症療育を行っていて、
小学生になると「先生うちの子やりなさいって言わないと宿題を全然しなくて困っているんですよぉ」という親御様の声をちらほら聞くことがあります
これは自閉症のお子様だけでないと思いますが、お子様からすれば宿題をすることに「強化子」が伴いにくいことは1つの原因でしょう。
親は例えば「宿題をしないと、勉強をしないと将来困るよ」とお子様に訴えることがありますが、お子様からすれば「そんな先のこと」や「そんな困るとか漠然と言われても」と感じ気が進まないのかもしれません。
私自身はそうでした。
宿題は気が進まない。
ABAの理論にセルフコントロール分野の研究(ブログ内にも記事があります)があるのですが、
人間も含め動物は「時間的に遅れてくる大きな強化子」について積極的に取りに行くことが難しいことがわかっています。
これは例えばお金のかかる海外旅行に行きたいからお金を貯めよう(時間的に遅れてくる大きな強化子)と決めても、その日、例えば疲れていると夜にビールをクイっと飲む(すぐに手に入る小さな強化子)ことがやめられず、思ったよりお金が貯まらない、
といった行動を人間も含め動物は取ってしまいがちということです。
大人で1年ほど先の未来であってもこうなのですから、まだ大人より小さいお子様に「将来」、「大人になったら」1年以上先の出来事について「大切なことだから」と漠然とお話されても動機付けが上がる人は稀でしょう。
さて、しかしそうは言っても親御様からすれば宿題をしないことは困ります。
学校の先生から注意されるかもしれないし、宿題を我が子がしないことで賦活される不安もあるでしょうし、また毎回声かけをしないと宿題に取り組まないということもストレスです。
そのようなお困り感を持っている親御様、今回の論文は参考になるかもしれません。
中学生自閉症児5名に自発的に宿題をさせた研究
ここから冒頭紹介した論文、Patricia Korzekwa Hampshire他 (2016) の研究を見ていきましょう。
研究に参加したのは地元の自閉症情報センターに関連する家族や専門会に送られるメールを通して集まった5組の中学生の自閉症を持つ家族です。
本研究では自閉症児本人ではなく親御様をお子様の宿題自立を促す介入者として鍛えます。
さて以下、参加者から研究内容を見ていきましょう。
中学生自閉症児5名に自発的に宿題をさせた研究・参加者
海外の論文では参加児童の名前が書かれていることが多いです。
この研究では「ヤコブ」「ウェイド」「ケリー」「チャーリー」「サム」の5名が参加しているのですが、それぞれ論文に書かれていたお子様の特徴について簡単に書いておきます。
ヤコブ・・・・・学校では自分の要求は伝えようとするが、友達や大人と会話をすることはめったにない
ウェイド・・・・非常に社交的、友達や大人とコミュニケーションをするけれども特定の話題についてどのように議論すればよいか苦労することがある
ケリー・・・・・親しみやすくクラスメートとの交流もあるが、ケリーの興味がある分野は年齢に応じていないことも多く孤立につながることもある
チャーリー・・・話をするのが好きだが、周りの人やその時の状況に合わせた話題を選ぶことなどのコミュニケーションの微妙な問題に苦労している
サム・・・・・・恥ずかしがり屋だけれども要求は伝えることができて、サムの興味のある分野の会話はする
研究にはこのようなお子様たちが参加しました。
うーん、やはり自閉症と言っても十人十色ですね。
5人全員が普通学級に参加しており、必要に応じて個別のサポート(課題に対する修正/適応)を受けていました。
中学生自閉症児5名に自発的に宿題をさせた研究・集められたデータ
Patricia Korzekwa Hampshire他 (2016) の研究では毎日ある数学の宿題に焦点をあて、独立した宿題行動が達成できるかどうかが測られました。
ドリル課題を扱い、自立した宿題の達成率は完了した課題の総数として定義されています。
また親御様によっていろいろなプロンプトを使用するであろうことからプロンプトを以下のようにタイプ分けしました。
プロンプトは、
(a)言葉による指示(「宿題に戻りなさい、宿題に戻って」など)
(b)言葉によるサポート(宿題についての情報提供や指示など)
(c)物理的なサポート(お子様を宿題の場所に誘導するなど)
(d)ジェスチャー(宿題を指さしたり、宿題を叩くなど)
という4つのタイプに分類され頻度もカウントされています。
※今回の研究ではプロンプトはタイプ分けされているだけで(a)から(d)にフェイディングしたなどの手続きはないのでその点は注意
中学生自閉症児5名に自発的に宿題をさせた研究・介入方法
Patricia Korzekwa Hampshire他 (2016) の研究で私が面白いと思った点は行われたメインの介入が1時間のペアレントトレーニングを3回だけということです。
これは非常に興味深いことでしょう。
私はこのブログページで親御様家庭療育推進派となんどか述べており、また家庭でABA自閉症療育ができるように、という想いを込めて本ブログを運営しています。
親御様の関わりが変われば実際にお子様の行動が変化するという内容の研究です。
親御様の受けたペアレントトレーニングの内容は、
1回目・・・自己管理(セルフマネージメント)の理論的根拠と介入の仕方を親に教えた
2回目・・・子供が使用する自己管理システム、データ収集とデータの記入方法、子どもの宿題の管理/確認方法、宿題完了後の強化方法について親に教えた
3回目・・・親が自分の子どもにフィットする形でこれらを個別化した
という内容でした。
また研究中は親に継続的なコーチングやサポートを週に1回受けてもらいました。
つまりこの研究で行われた内容は、
3回のペアトレのあと介入がスタートし、その後は継続的なコーチングやサポートを週1で親が受けたという内容です。
介入では例として以下のイラストのような自己管理シートが使用されました。
各項目をクリアすると横の欄(”X”=Finishedの欄)にお子様が自分でハンコを押していきます。
赤色の枠で囲まれた「Math」が算数なので「この時間に行うドリル課題を完了した数」が今回の介入が成功したかどうかという指標でした。
「Math」以外の活動は家に帰ってからお子様が過ごす動きのルーティンが記載されていました(例えば「Math」の3つ上、一番上にある「Lay homework out on kitchen table」は「宿題をキッチンのテーブルに並べる」です)。
そして、
青色の枠で囲まれた「Finished! Now I get what I am working for!(終わり!これで目標達成!)」というところまで活動を進めて行くとお子様に合わせた強化子が提供されました。
また宿題を行っているときはお子様が親御様にヘルプを求めても良いという設定が組まれました。
わからないときは親御様が助けてくれることが保証されていたことも大切なポイントですね。
研究の結果を見ていくと介入前のお子様たちのパフォーマンスは、
「ウェイド」と「チャーリー」は研究参加前からある程度高い宿題の自立が達成されていましたが、
「ヤコブ」と「サム」は日によると言った感じで、
「ケリー」はほとんど宿題の自立が達成されていませんでした。
しかし介入後のデータでは全員が介入前と比較して宿題の自立率が向上しました。
また介入後2週間、3週間などその後のデータの追試も行われていますが彼らの宿題の自立行動は高いパフォーマンスを保ったままでした。
親御様は介入が進んで行く中でお子様が宿題を完遂する上でより自立するようになっていくことに伴い、親御様自身が邪魔にならないプロンプトを使用するようになって行きました
そしてお子様の進捗状況を監視することにあまり注意を払わなくなって行ったようです
このようになれば最高だと思います
冒頭で書いた「先生うちの子やりなさいって言わないと宿題を全然しなくて困っているんですよぉ」という親御様の声が解決された形です
研究の限界としてはPatricia Korzekwa Hampshire他 (2016)も述べていますがデータが算数のデータしか取り扱っていない点があげられます。
論文の中でも書かれているのですが自閉症というお子様の特徴としてドリル課題以外の推論等が必要な課題について今回は扱われませんでした。
例えば「国語の文章題」などの宿題なのですが、このような課題を自立させるためにはもう一工夫必要になってくる可能性があります。
Patricia Korzekwa Hampshire他 (2016)の研究ではお子様の家に帰ってからの活動をリスト化し、そのリストを完遂すれば強化子がGETできるという戦略を設定し、加えて親御様から子どもへの強化的な関わり方なども練習され、戦略的にお子様の宿題行動の自立が促されました。
「やりなさい」、「やりなさい」と注意することも大切だと思いますがもし2週間、1ヶ月くらい、その関わりを続けてもお子様のパフォーマンスに変化がない(少ない)とすれば、一旦その方法はお子様にフィットしていないのだと考え、別のアプローチを検討してみてはいかがでしょうか?
別のアプローチを検討する際、Patricia Korzekwa Hampshire他 (2016)の研究は参考になると思います。
さいごに
本ブログページでご紹介したPatricia Korzekwa Hampshire他 (2016)の研究は宿題行動を扱っていますが、算数の宿題のみ扱われました。
宿題は算数だけではないため国語も含めた全ての宿題に本ブログページでご紹介した内容を適用するとなれば、本ブログページでご紹介した方法以外のギミックも組み込んでいく必要もあるかと思いますが、参考になる内容だったと思います。
本ブログページで紹介した介入方法に興味を持たれた方は「自己管理」や「セルフマネージメント」で研究を検索すると日本語の論文も出てくるでしょう。
私が学部生時代、友達が「セルフマネージメント」で卒論を書いていました。
そのとき確か参考文献で同じような手続きの論文を使用していたはず!
文中で少し触れましたが、本ブログページでご紹介した研究の個人的に面白いなと思っている点は専門家が直接お子様に何も介入をしていないという点です。
親御様にアドバイスをし、実行できるためのトレーニングを行った結果、実際にお子様の行動変容が生じました。
このような取り組みは「ペアレントトレーニング」や「親訓練」、「親への行動介入」と呼ばれるものです。
本ブログではペアレントトレーニングと書いていきますが、ペアレントトレーニングは本ブログページでご紹介した「セルフマネージメント」以外にもさまざまなものが存在します。
例えばブログ内で度々出てくる「PRT:Pivotal Response Treatment」の集団ペアレントトレーニングの研究などもあります(参考 Mendy Boettcher Minjarez・Sharon E. Williams・Emma M. Mercier・Antonio Y. Hardan, 2011)。
PRTのペアレントトレーニングも親御様が普段からお子様にどう関わったら良いか?ということを説明し練習して行く内容です。
私もペアレントトレーニングをやっていましたのでコロナが落ち着きましたらまた再開したいと思います。
そのとき、もし興味のある方は是非ご参加くださいませ。
ではまた!
【参考文献】
・ Mendy Boettcher Minjarez・Sharon E. Williams・Emma M. Mercier・Antonio Y. Hardan (2011) Pivotal Response Group TreatmentProgram for Parents
of Children with Autism. Journal of Autism and Developmental Disorders. 41:92-10
・ Patricia Korzekwa Hampshire・Gretchen D. Butera・Scott Bellni (2016) Self-Management and Parents as Interventionists to Improve Homework Independence in Students With Autism Spectrum Disorders. Preventing School Failure, 60(1), 22-34