久しぶりの「ABA自閉症療育のエビデンスの章」ブログページです。
https://en-tomo.com/aba-therapy-evidence/ ⇦ 「ABA自閉症療育のエビデンスの章」
「焦点介入(ABA自閉症療育のエビデンス25)(https://en-tomo.com/2020/06/27/focused-interventions/)」
にて文章の最後、
これでABA自閉症療育のエビデンスの章は終了
と書いていたのですがエビデンスはアップデートされて行くので、またエビデンスを発掘することがあれば書いていこうという気持ちに変わり、グレーの太文字注釈をつけさせていただきました。
また当時「ABA自閉症療育のエビデンスの章」では「です・ます」調で書いていなかったのですが、現在はブログページを「です・ます」調で書いていますので、その点もご了承ください
このブログページでご紹介するLEAPの論文には「DTT」「NBI」「PRT」「PECS」などのキーワードが出てきますが、
過去の「ABA自閉症療育のエビデンスの章」のブログページで解説したものが多いので、もし気になる人は過去のページもご参照いただけると嬉しいです。
さて、
ABA:応用行動分析コラム9で「自閉症療育ー個別療育の方が良いの?それとも集団療育の方が良いの?ー児童発達支援の選択(https://en-tomo.com/2021/02/26/individual-or-group/)」というブログページを書いたのですが、
実は最初に上のブログページを書こうと思ったきっかけは「LEAP:Learning Experiences and Alternative Program(体験と代替学習のプログラム)」というプログラムの論文を読んだことがきっかけでした。
LEAPの論文から「個別療育か、集団療育か」というブログページを書こうという発想を得て、「ABA:応用行動分析コラム9」を書こうと思ったのですが、実際に書き始めてみると「LEAPの要素なくても成立するし、なんならない方がページのまとまりがある」と思ったのでLEAPをはしょったのですが、
LEAPの内容も興味深かったので少し紹介したいと思いこのブログページを書いています。
先に言っておけばLEAPについては私はこの論文を1本読んだだけで詳しいと言えるわけではないため、そのことだけご了承ください
とは言えABA自閉症療育をやる上でLEAPのこの論文は参考になることも多いと思ったことと、研究計画もしっかりしているので知っていて損はないとは思いましたのでご紹介したいと思いました。
LEAPは多くのABA要素を取り入れた包括的な療育パッケージです。
個人的にはPRTやESDM、JASPER、PECSと同じようにABAの1つと考えて捉えています。
このブログページはPhillip S. Strain・Edward H. Bovey (2011) の「Randomized, Controlled Trial of the LEAP Model of Early Intervention for Young Children With Autism Spectrum Disorders(自閉症スペクトラム障害の幼児に対する早期介入のLEAPモデルの無作為化対照試験)」
という論文をもとに書いていきます。
LEAPについてはこの論文しか読んでいないので、もし詳しい方がいましたらご連絡いただいて教えていただけると幸いです
LEAPの研究結果
この研究は「RCT:Randomized Controlled Trial(ランダム化比較試験)」という研究手法で行われました
RCTについては、
「準実験/RCT /メタ分析/系統的レビューの解説(ABA自閉症療育のエビデンス4)(https://en-tomo.com/2020/03/28/hierarchy-2/)」
でご紹介しましたが、個々の研究としては最上級のエビデンスを誇る研究手法としては信頼性の高いものです。
研究ではお子さんを、177人の介入群と117人の対照群にランダムに分けました。
介入群とは「LEAP」を行うお子さんたちで、対照群は「LEAP」を行わず一般的な支援を受けた子どもたちです。
先に研究の結果から言えば介入前は統計的に有意でなかったお子さんたちですが、
2年後にはLEAPを受けた子どもたちの方が有意に忠誠度、認知、言語、自閉症の症状、問題行動、および社会的スキルが高かったという結果となりました。
またこの結果は教員の経験や親御様の社会的地位(経済的地位)とは関係なく生じ、教師はLEAPを経験できたことは非常に良かったと評価したようです。
このような研究は実は他のABA介入の研究でもたくさん行われているのですが、
ざっくりいえばLEAPを受けたお子さんは、LEAPを受けなかったお子さんよりも統計的に有意に改善したということになります。
LEAP研究ではいったいどういったことが行われたのでしょうか?
ABA自閉症療育を行う上でも参考になることが多く有りましたのでご紹介します。
LEAPは「NBI(Naturalistic Behavioral Interventions:自然主義的行動療法)」にの要素を多く取り入れて包括的なパッケージを作っています。
以下LEAPについて解説をしていきますが、
自閉症療育で効果を出すにはこういうことを行うことが大切なんだな、という気持ちで読んでもらえれば幸いです。
実際に理想的にABAを実施する場合も以下のような流れで行っていくことも1つの正解かと思いますので、
LEAPを知って行く中で日々のABA自閉症療育のヒントとしていきましょう
LEAP研究から学ぶLEAPのエッセンス
ブログページの最後に私なりのLEAPの要約を書いていきますが、まずはPhillip S. Strain他 (2011)のLEAPについて解説をしていきます。
Phillip S. Strain他 (2011) はLEAPについて、
1. 就学前の教室(日本でいう幼稚園や保育園)で1日目からフルタイムで参加する。つまり初日から全体活動に全部参加する
2.発達に遅れのあるお子さんにとって質の高い環境を設定する(例えば有意義な社会的活動の機会を設定する、時間のスケジュール化、小グループを作る、健常に発達しているお子さんが介入に参加するなど)
3.学習目標は般化された行動変化が達成されるまで指導が続く。プロンプトを使用しデータを毎日チェックし更新する
4.家族のためのスキルトレーニングを行います。食事、就寝前、着替え、地域での外出など日常生活におけるストレスを減らしより多くの喜びを経験するのに十分な行動教育戦略を成人家族に提供することに重点を置く。つまりペアトレをして日常の中でもトレーニングしてもらう
5.LEAPの強度は、個人がサービスを提供するために支払われる1週間あたりの時間数によって定義されない。1週間あたりの療育時間について言及される研究は多いですがLEAPでは定義されない
時間数の定義はされないが(a)有意義な機会の数を大切にする(b)選択した目的機能を大切にする(c)子どもの関わりを最大にしエラーを最小にする指導方法を選択する(d)選択した介入を忠実に実行するスタッフの能力を大切にする(e)子どもたちが最適とは言えない介入にさらされるのを最小限に抑えるデータシステムおよび意思決定のルールを使用することを大切にする
7.LEAPは(a)仲間(クラスメイト)の介入(b)エラーレス学習(c)時間遅延プロンプト(d)偶発的指導(e)PRTなど科学に基づいたさまざまな介入アプローチを利用しているトレーニング(f)PECSおよび(g)PBS(ポジティブビヘイビアサポート)を取り入れる
8.大人と子どもの比率は(1:5)、フルインクルージョン(教室で受講するすべてのサービスに参加する)し平均17時間は同等にするように努める
以上の内容を主軸に療育支援を行っていくと述べています。
ほぼABAの欲張りセットじゃないか!と個人的には思いました
大切なことは「ほぼABAの欲張りセットじゃないか!と思った」のですが、このような支援体制を整えると効果が出たという結果が大切だと思います
以上のようなLEAPの内容をお子さんに行うことで自閉症療育の効果的な介入が可能だったという研究が本研究です。
1点注意点としてはこのような支援体制を整えないと効果が出ない、というわけではないのでその点は注意してください。
例えばLEAPにはABAの手法の一つ「DTT(離散型試行訓練:discrete trial teaching)」が入っていませんが、DTTも療育効果を上げるエビデンスを持っています。
論文中Phillip S. Strain他 (2011) は「この研究はDTT以外の行動教育の戦術が幅広い発達上の改善をもたらす」と記述しており、DTT以外の「NBI(Naturalistic Behavioral Interventions:自然主義的行動療法)」の要素をあえて取り入れていることが伺えました。
LEAPの研究からみる個人的な考察
以上のようなLEAPの条件を整え2年間LEAPを続ければ対照群のお子さんと比較してLEAPを受けたお子さんは成長を遂げたわけですが、
私から見たLEAPの大きな特徴は
(1) 最初からフルタイムで健常児の集団に参加させた(1対1の指導を行わず最初から集団に入れた)
(2) 大人と子どもの比率が5:1と手厚い
この2点です。
その他の点はABA自閉症療育で「良い」と言われている点を取り込んだ形だと思うのですが、
上記2点についてはあまり目にしたことがありません
(1)に関しては、例えば最初は1対1の個別指導、そして2人、4人と小集団の中で支援して行くモデルがABAの王道かと思っていますので、最初からフルタイムに入れることでも効果が出るということは注目点です。
(2)について言えば、そのような支援体制が実際に日本でも整えられるのか?というところはどう行えば良いのか課題点として考えるところです。
Phillip S. Strain他 (2011) によればLEAPはLovaas(1987) の研究のように介入開始時に高機能であった子どもが改善したというデータではなかったようです。
※ Lovaas(1987) については「O. Ivar Lovaas、1987年(ABA自閉症療育のエビデンス2)(https://en-tomo.com/2020/03/22/ivar-lovaas1987/)」を参照
LEAPでは、
高機能(もともとIQが比較的高かったお子さん)以外のお子さんにも効果がある、ということは注目点ですね。
またPhillip S. Strain他 (2011) は介入効果を出すための週17時間の介入は他の介入と比較して効率的であるとも述べています。
時間数について例えばKatarzyna Chawarska・Ami Klin・Fred R .Volkmar (2008) は自閉症児への効果的な介入の要素として最低週5日、1日5時間の集中的な訓練への能動的な参加と述べており、一般的に効果的と言われている時間数よりも17時間は少ないです。
ただし週17時間の介入には家庭でのペアレントトレーニングは入っていませんので、ペアレントトレーニングによる親御様のお子さんへの介入時間を入れれば17時間を超えることが予想されますのでそこは注意点だと思います。
LEAPを要約する
以上LEAPについてご紹介をして来ましたが、私たちはLEAPから何を学び、ABA自閉症療育を実践していけば良いのでしょうか?
以下、箇条書きでLEAPから学ぶ私が思うLEAPの大切な点の要約ご紹介しブログページを閉じたいと思います。
・ 介入時間はある程度確保する必要はある。例えばLEAPは集団ではあるが初日からフルタイム参加であり、且つペアレントトレーニングによって日常生活も親が教えるように促している
・ グループワーク、健常発達のお子さんが介入に参加することを推奨しているが、手厚い大人の配置もあり、エラーレス学習も施されているため多くの学習機会で質の高い学習が可能となっている
・ 学習目標を毎日チェック・更新して、最適と言えない介入についてはあまり行わないようにする
・ 子どもから自発的に出現した行動を丁寧に扱う
以上です。
これらの支援ポイントは何かLEAP以外の自閉症療育を行なっていく上でも参考にしたい部分となります。
さいごに
ABA自閉症療育の「NBI(Naturalistic Behavioral Interventions:自然主義的行動療法)」にかなり似ている(というかNBIの一種として考えていいんじゃないか?)、という印象を持ったLEAPですが、
最初から集団に入れフルタイムで療育をすることは他のABA自閉症療育と比較して特異点かと思いました。
最初は1対1の方が良いの?
それとも、最初からLEAPにしたがって健常発達のお子さんの集団に入れた方が良いの?
という点については今回ご紹介したRCT研究の結果だけではわかりません。
これは研究でLEAPの対照群がABAの個別療育ではなかったことや、RCTは確かに強力な研究ですが1つの研究から判断することは難しいからです。
ただし、LEAPが教えてくれた療育エッセンスは自閉症療育を行なっていく上で多くのヒントがありました。
LEAPの内容から学び毎日の療育生活が有意義なものになるよう祈っております。
色々な方法があるしどれが良いかわからないと頭を抱えてしまうかもしれませんが、基本的に共通項、例えば療育時間をしっかり確保するとかがあるのでその点は実践する上で参考にしてください。
エラーレス学習のためにプロンプトフェイディングをする、
行動を増やすために強化を行う、
視覚支援などの環境調整(弁別刺激のコントロール)をする、
など基本的なABAのエッセンスの応用によってさまざまな包括的な療育パッケージが生まれている、と考えてもらっても良いでしょう。
また何か自閉症療育、ABA自閉症療育のエビデンスに触れることがあればご紹介していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
【参考文献】
・ Katarzyna Chawarska・Ami Klin・Fred R .Volkmar (2008) AUTISM SPECTRUM DISORDER IN INFANT AND TODDLERS:Diagnosis, Assessment, and Treatment 【邦訳: 竹内 謙彰・荒木 穂積 (2010) 乳幼児期の自閉症スペクトラム障害 診断・アセスメント・療育 クリエイツかもがわ】
・ Phillip S. Strain・Edward H. Bovey (2011) Randomized, Controlled Trial of the LEAP Model of Early Intervention for Young Children With Autism Spectrum Disorders. Hammill Institute on Disabilities 31(3) 133–154