ブログページではこれまでABAの理論(例えば、強化、罰、消去など)をご紹介し、基本的にはどのような関わりがお子さんに影響を与えるのかという視点でブログを作成してきました。
このブログページでは、
実は親御様もお子さんの行動から影響を受け、療育を行うことに対する「療育行動」が強化されたり、消去されるという内容を書いて行きます。
この内容を見てもらい、
親御様側が療育行動が強化されるよう、療育をどのように行うのかを考え、できるだけ親御様も正の強化を受けながら素敵な療育ライフを歩んでいただければと思う次第です。
お互いが強化されるー相互作用・理論編
大河内 浩人 (2007) は行動分析という学問をあえて一言で表すことを試みるのならばそれは「個体と環境との相互作用を明らかにする学問」だと述べました。
この「個体と環境との相互作用」という言葉はすごく大切です。
お子さんの適切な行動に対して、親御様は強化子となる賞賛を提示したとします。
上の内容に当てはめると「お子さん」は「個体」です。そして「親御様」は「環境」となるのですが、一般的な「環境」という言葉の使い方とは少し違うかもしれません。
ABAでは親御様の関わりも環境として説明されることがある、ということには注意しておきましょう。
「環境」というのは親御さんやその他お子さんに関わる同年齢の人や先生との関わり、他にはお子さんが触れる部屋にあるアイテムや、ボタンを押すとアプリが開かれたというそのアイテムからのリアクション、他に例えばお子さんが何かを食べた時に感じる舌からの刺激などのことで、
ABAでは簡単に言えば「行動の前にある事象」と「行動に伴う結果」を環境と呼びます。
「相互作用(Interaction)」は「お互いに影響を与え合う」と読み替えてもらって構いません。
このように考えれることで、
どのような解釈が可能となるでしょうか?
お子さん(個体)の適切な行動に対して、親御様(環境)は賞賛(強化子)を提示したとします。
その瞬間、親御様(個体)は強化子となる賞賛を提示したことのフィードバック(例えば、嬉しそうにしている)をお子さん(環境)側から、受け、実は自分もお子さんから強化されているのです。
療育を行っている中でお子さんの成長やリアクションが親御様の療育行動に影響を与えます。
このように、あるときは一方が個体側であり環境側であり、またあるときはもう一方が個体側であり環境側であり、お互いが影響を受け合います(相互作用)。
私たち「療育をする側」は「する側」だけが「影響を与える側」だと思いがちです。
でも決してそうではないという視点を持っていること、
個人的にこの視点を持っていることは自分自身の療育行動を維持するモチベーションに関わってくる大切なポイントだと思っています。
このようにお互いが影響を与え合う連続的な関わりという相互作用の存在が前提です。
このような前提がある中でABAでは問題行動などを分析するツールとして以下のような行動を「先行状況」「行動」「結果」に分けて分析する方法があります。
ABAで問題解決で上のように行動と前後を分けて分析することは非常に有用なのですが、
これは分析のために一場面をあえて切り取り分析することが問題解決において便利であるために場面を切り取って使用するということに他なりません。
このような前提を意識しなければ「分析する側」「分析される側」という立ち位置で見てしまい、自分自身もお子さんに強化されるということを忘れてしまいます。
この前提を忘れてしまっては「療育をする側」は「する側」だけが「影響を与える側」と考えてしまうでしょう。
お互いが影響を受けるということについて、
Skinner. B. F (1956) の書いた面白いエピソードをご紹介します。
オペラントボックスという実験装置に入っている2匹のネズミが会話をしているイラストがあるのですが、
一方のネズミが「よぉ、俺はこいつを条件づけたぜ!俺がレバーを押し下げるたびにこいつは食べ物を中に落とすんだ」ともう一方のネズミに話しかけています。
このことについて、
Skinner. B. F (1956) は私たちが研究している被験体は、私たちが被験体を強化するよりもずっと効果的に私たちを強化すると述べたのでした。
これは実験室だけのエピソードではありません。
上記のエピソードを療育に適用したとすると?
行動を変化させようと療育をしている親側が、実はお子さんの行動変化により、実は親御様側の方がお子さん側から強化を受け、療育行動が強化される
このように捉えることができるのです。
お互いが強化されるー相互作用・療育編・強化
お子さんに対して強化子を提示するとお子さんの行動が増えて行きます。
これはABA自閉症療育オペラント条件付けの基本、強化の原理です。
このとき行動を増やした結果を強化子と呼ぶため、正確には「褒めること」はイコール強化ではありませんが、お子さんが行動した結果として強化子が提示されれば、お子さんの強化子を提示される前の直前にあった行動は増えて行きます。
親御様がお子さんの行動を強化したいという目的を持ってお子さんの行動が強化できたとき、親御様から見たとき以下のエピソードような現象が生じています。
以下は例えば親御様がお子さんの言葉のトレーニングをしている時期に生じた一場面です。
お子さんはなかなか自発的に言葉を使用する様子が見られず、親御様はお子さんに「貸して」ということをプロンプトフェイディングと強化法によって教えています。
トレーニング場面で「貸して」ということは増えてきたものの、
なかなかトレーニング場面以外では自発的に「貸して」と言って来ないことに少し不安になっていました。
そんなとき例えば以下のようなことがあったら?
子ども:欲しいおもちゃを見つめている
母親:お子さんの様子を観察している
子ども:「貸して」と言葉で要求してきた
このようなエピソードがあれば、親御様はお子さんに療育を行っていく動機付けが上がるはずです。
つまり、お子さんが適切な行動を行う、または増えるという結果は親御様にとっての「強化子」となるのです。
親御様にとって何の行動の強化子になるか?
・ もっと「貸して」というトレーニングする行動
・ 療育を通してもっといろいろなことを教えて行く行動
このような結果は、親御様の療育行動の強化子です。
以上の内容を見て少し勘の良い人は強化子は直前の行動を強めるのじゃないの?と思われたかもしれません。
それはそうなのですが大人の場合は特に子どもよりも言語的な部分が成熟していますので、教えたことが時間的に遅延してやってきたとしても、そこに因果関係があると捉えられた場合にはルールによって行動が強化されます。
また行動は連鎖化されますので、一連の連鎖化された中で療育行動が強化されるという説明も可能でしょう。
いずれにせよ、
親御様はトレーニングの直後にお子さんの成長が見られなくとも、自分が教えていた行動が時間的に遅延して発揮されたときでもそのお子さんのパフォーマンスから強化(影響)を受けることが可能です。
時間的にあまりにも離れている、
例えば1年前に教えていたことができるようになった、などの場合は時間的な成長かも?
という気持ちも強くなるので、その場合はそうはならないかもしれませんが
時間が遅れて強化されるパターン以外に、もちろん親御様が療育中、お子さんに直前の行動が強められる瞬間もあります。
例えば無発語のお子さんがいたとして、
子ども:欲しいおもちゃを見つめている
母親:「て」、「て」と、発語を促すプロンプトを出す ※貸しての「て」を言わせたい
子ども:「て」と言葉で要求してきた
このような場合はお子さんから即時強化を受けることによって、親御様にとって大きな療育行動の強化子となるでしょう。
「うわ!できた!嬉しい!」という瞬間です。
熊 仁美・竹内 弓乃 (2015) は子育て・保護者支援について重要なのは今ある問題行動を減らすことではなく、子どものポジティブな行動レパートリーを1つでも増やし、適切に振る舞える時間を伸ばしていくことが療育の最大の目的であると述べています。
そのため親御様がお子さんの療育による変化から療育行動が強化されどんどんと良い循環にハマって行くことは私はとても大切だと感じるところです。
お互いが強化されるー相互作用・療育編・消去
療育が上手くいった瞬間に親御様がお子さんからの強化を受け、自らの療育行動が強化されていくと言う内容を書きましたが、
お子さんは成長が促され親御様はさらにお子さんの成長を促すために行動するため、これは良い循環かと思います。
しかし、お互いが影響を受け行動が増えると言うことはその逆もあると言うことです。
例えば先程のエピソード無発語のお子さんに対して、
子ども:欲しいおもちゃを見つめている
母親:「て」、「て」と、発語を促すプロンプトを出す
子ども:欲しいおもちゃを見つめている
このようなことが続くとどのような現象が起こるでしょうか?
親御様の行動に対して結果の変化が生じないことが続く、
答えは親御様の療育行動が「消去」されてしまうことになります。
「(ABA自閉症療育の基礎31)オペラント条件付け-消去(https://en-tomo.com/2020/08/25/operant-extinction/)」
この行動したのちに変化が生じないという過程は、内容は上のURLの消去の定義に当てはまる内容です。
親御様が行動しても変化が起こらなければ、親御様の行動は消去され減少・消失してしまうでしょう。
「消去」はRaymond G. Miltenberger (2001) を参考にすれば
「正の強化」を受けてきた行動の消去では「正の強化子」が行動に随伴しないようにする。
過去に「負の強化」を受けてきた行動の消去では、嫌悪刺激を行動が起きた後でも撤去しない
という手続きによって生じるのですが「消去」には「消去バースト」という現象が伴う可能性があることも特徴です。
小野 浩一 (2005) を参考にすれば消去バーストではしばしば情動的な反応が伴い、近くの攻撃対象に対して攻撃行動が生じる可能性もあります。
お子さんの行動変化が生じない場合は消去が生じ、消去に伴う消去バーストによってお子さんに対してイライラしたり、また声を大きくまたは荒くしてしまったりと、攻撃的な反応をしてしまうかもしれません。
これは消去バーストという現象なので、「あなたの性格が悪い」とか、そういった類のものではないでしょう。
お子さんに対してイライラしてしまうなどの点については「消去バースト」によるものと自身については捉えらて考え、解釈すれば良いと思いますが、
この「消去」によって療育行動が減少・消失してしまう循環が続くことはお子さんの成長にとって生産的ではありません。
やはり療育を行うのであればしっかりと成果(お子さんの成長)を感じることで、親御様自身もお子さんから強化を受けながら療育行動が強化されていく循環の中で療育を行なっていく必要があります。
お子さんの目に見える行動の変化が、良くも悪くもあなたの療育行動に影響を与えるのです。
お互いが強化されるー相互作用・療育編・方法
お子さんの成長が促され、親御様の療育行動が強化されるためにポイントとなることはどういったことでしょうか?
「(ABA自閉症療育のエビデンス8)では、どうするか?(https://en-tomo.com/2020/06/01/that-way/)」
で記載した内容ですが、
コツは
・ お子さんがすぐに獲得できそうなものから始める
・ 親御さん側がここが変わって欲しいと動機付けを高く持てるところから始める
・ 生活の中で教える機会を多く持てることを教える
・ 他の人も協力してくれることを教える
など、いろいろ方法を選択する基準は考えられます。
個人的にABA家庭療育をまず始めようと思った場合は、上の選択基準から「生活の中で教える機会が多く(少なくとも毎日ある)持てて、お子さんがすぐに獲得できそうなものから始める」というものを選択すると良いと思います。
「すぐに獲得できそうなもの」とは例えば「貸して」と言って欲しい場合、最初のターゲットを「て」と言わせるなどに下げ、達成基準を低くした場合も含んで大丈夫です。
ABA家庭療育を自分で始めようと思った場合はある程度のモチベーションはすでにあると思いますので「教える機会がある程度生活の中にあり、これだったらできそう」というターゲットを選択してください。
例えばそれはお子さんの成長具合によりますが例えば、
無発語等、できることがかなり少ない場合
= お菓子などお子さんが欲しいアイテムをもらうとき、タッチなど簡単な動作を行うように教える
ものの名前は言えるものの、それ以外の用途などは難しく、言えるものの数がかなり少ない
= まだ言葉で使用できていない言えそう・知ってそうな動詞を使用して要求させる。例えば「抱っこ」など言わせ、その言葉の使用に対して「抱っこ」という結果を提示することで要求・動詞を教えていく
お話に少し違和感があるが、言っていることはなんとなく理解できる
= 「クッキー 食べる」などのお子さんの要求語に対して「どこで食べる?」、「誰が食べるの?」など5W1Hの質問を出し答える練習をし、より具体的に要求できるよう教える
以上のようなマンドトレーニングを行っていっても良いでしょう。
またお子さん側のことも考慮すれば「スモールステップ」という療育姿勢も大切です。
このスモールステップの療育姿勢はお子さん側の療育に対するモチベーションに関わってくると思います。
「(ABA自閉症療育の基礎61)オペラント条件付けースモールステップの指導とシェイピング(https://en-tomo.com/2020/11/25/operant-small-step-shaping/)」
で記載しましたが、
山上 敏子 (1998) は親訓練の著書の中で指導の進め方について2つのポイントを紹介しています。
1つ目は「子どものできる行動から出発する」こと、2つ目のポイントは「子どものペースに合わせて一歩ずつ」行うことです。
子どもに新しい行動や複雑な行動を教えるときには「これなら自分にもできる」あるいは「できそうだ」と子どもにやる気を起こさせなければいけませんし、
いきなり難解すぎる問題を提示してもやる気を失ってしまうかもしれません。
以上のお子様側からの視点も意識して、
親御様側・お子様側のお互いが動機付け高く取り組める療育設定を組み、親御様側・お子様側双方が療育の時間が強化的であるという状態
が作れると本当に素晴らしいと思います。
さいごに
ABA自閉症療育って難しいよね、面倒くさいよ
ABA自閉症療育を始めようか迷っているんよ、不安なんよ
不安の中でABA自閉症療育を始めたんよ・・・
でも・・不安は続いているんよ・・・
今日も不安の中でABA自閉症療育を続けているんよ・・・
このようなこともあると思いますが、
私はこのブログページで書いてきたようにできるだけお子さんからの強化を受け、親御様側がABA自閉症療育を実践できる循環を目指した療育指導を行っていきたいという気持ちで療育を行なっています。
私たち専門家が1日の中でお子さんと関われる時間は限りなく少ないでしょう。
例えば週1回私がご家庭にご訪問し2時間の療育を提供する。
1日は24時間、生活時間は1日16時間(睡眠時間8時間)だとすれば、7日間だと112時間の生活時間があり私が関われるのはたったその中の2時間だけで、50分の1以下の時間です。
年齢にももちろんよるでしょうが特に幼児期の場合、お子さんの生活時間の大半は、親御様と過ごす時間ではありませんか?
1週間の間で2時間の療育提供、それだけでも意味があるように療育サービスを提供しますが、
やはりその他の時間でも療育ができたほうがお子さんの成長はさらに促されるように思います
またブログページの内容から少し外れる内容かもしれませんが、他の視点から1点注意喚起をさせてください。
親御様が療育にストレスを抱えてしまうと療育の効果が減少してしまう可能性を示す研究もあります。
例えばAshley C. Woodman・Leann E. Smith・Jan S. Greenberg・Marsha R. Mailick (2014)が自閉症者を持つ406の家族を約8.5年追った研究では、
母親の賞賛レベルが高い家族ほどお子さんの非言語的コミュニケーションや不適応行動が減少し、社会的な関係性の改善など自閉症症状が予測でき、
また同じ家族内を時間を追って見ていくと時間経過に伴い母子関係の質が改善されると、社会的な関係改善や不適応行動の減少が関連しており自閉症症状の減少に関連していることが示されました。
このようなことを考慮してもこのブログページで書いてきたように「消去」による悪循環の療育・お子さんとの関わりではなく、お子さんとの良質な母子関係・親子関係の療育を目指すことが大切です。
「(ABA自閉症療育のエビデンス20)親が自閉症児に与える影響(https://en-tomo.com/2020/06/16/parent-autism/)」
上のURLにいくつかAshley C. Woodman他 (2014)のような親御様側が自閉症児に与える影響について書いていますので、ご参照いただけると幸いです。
このブログページで親御様もお子さんに強化されることを学んできました。
私たちはお互いが影響を与え、受け合うという「相互作用」の中で関わっているのです。
昔先輩に聞いたことがあったんです。
「どうやったらABA上手くなりますか?」って
すると先輩は「上手く行くABAをする」と答えました。
当時は良くわからなかったけれども結果操作的でものすごくABAの回答だったのだなと今は思います。
今は凄く良い答えだなと思うのですがABAが上手くいくことでクライアント様の改善が見られたとき、私自身「やった」「できた」と強化を受け、もっと上手くなりたいと動機付けられてきました。
皆様も是非そのような療育ライフをお過ごしください!
次のページでは「問題行動」はどのように学習され発展していくのか?ということをテーマに書いていきます。
実はこのブログページで書いてきた親御様とお子さんの相互作用「問題行動」については、この相互作用の中で学習され悪化していくことが多いです。
次はそのことについて書いていきましょう。
【参考文献】
・ Ashley C. Woodman・Leann E. Smith・Jan S. Greenberg・Marsha R. Mailick (2014) Change in Autism Symptoms and Maladaptive Behaviors in Adolescence and Adulthood: The Role of Positive Family Processes. Journal of Autism and Developmental Disorders, DOI 10.1007/s10803-014-2199-2
・ 熊 仁美・竹内 弓乃 (2015) 「編:日本行動分析学会 責任編者:山本 淳一・武藤 崇・鎌倉 やよい ケースで学ぶ行動分析学による問題解決 金剛出版 p46-47」
・ 小野 浩一(2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館
・ 大河内 浩人 (2007) 「大河内 浩人・武藤 崇 編著 行動分析 ミネルヴァ図書 p1-12」
・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】
・ Skinner. B. F (1956)A case history in scientific method. American Psychologist, 11. 221-233【邦訳 スキナー著書刊行会 (2019) B.F. スキナー重要論文週Ⅰ 勁草書房
・ 山上 敏子 (1998) 発達障害児を育てる人のための親訓練プログラム お母さんの学習室 二瓶社