オペラント条件付けの基本ユニットの内容ではなく、少しマニアックな内容「選択行動」、
「(ABAの基礎54)オペラント条件付けー「選択行動」自閉症児の衝動性と我慢(セルフコントロール)(https://en-tomo.com/2020/11/05/aba-choice-behavior/)」
のページでは「選択行動」を学ぶことで自閉症のお子さんの「衝動性」と「我慢」について扱えることを書きました。
ABA(応用行動分析)では
「衝動性」は、
衝動性 = 遅れてくる大きな遅延大強化を選択せず、すぐに手に入る即時小強化を選択すること
、
「我慢(セルフコントロール)」は、
我慢 = すぐに手に入る即時小強化を選択せず、遅れてくる遅延大強化を選択すること
と定義されます。
「衝動性」と「我慢」を扱う上での大切なポイントとして我慢は「あきらめる」こととは違うということは大切なポイントですので覚えておきましょう。
ABA自閉症療育では、お子さんに「あきらめなさい」と言い、あきらめることを教えることは、決して「我慢」を教えることではありません。
自閉症のABA療育だけではなく「行動経済学」などにも影響を与えている「選択行動の研究分野」ですが(参考 島宗 理, 2019)、
このブログページでは「選択行動研究」の有名な研究Howard Rachlin・Leonard Green (1972) の「COMMITMENT, CHOICE AND SELF-CONTROL1」を紹介します。
「選択行動」の理解を深めていきましょう。
このブログページでは「選択行動」の理論がどのようなものなのか、代表的な研究を見ていきます。
オペラント条件付けー選択行動の研究背景
ここまで、この章でみてきたオペラント条件付けの理論では以下のイラストのユニットを学ぶ中で
特定の刺激のもと(弁別刺激)で行動が生じ、そのあとに伴う結果があり、その後、特定の刺激(弁別刺激)のもとで行動が増加した場合を強化と呼ぶ、
ということを学んできましたが、
「選択行動」が扱う実験手続きはもう少し、若干複雑です。
「選択行動」を扱う研究は例えば「並列スケジュール」、「並列連鎖スケジュール」という実験装置を用いて行われるのですが、
例えばHoward Rachlin他(1972) の場合、簡単に言えば
「右と左の2つのキーが存在しており、どちらか1つを選択する。選択したキーによって結果(強化子の量)が変わるのだが、どちらか1つを選択すると暗転し選択機会は終了する」
という設定で行われたました。
2つのうち、1つのキーを選択する
そしてその選択によって結果が変化する
という設定です
実験の中で選択機会は何度もやってくるので1度限りの選択というわけではありませんが、
上のような実験の設定は私たちの人生で起こる毎日の選択に、どこか似ているように思わないでしょうか?
Howard Rachlin他(1972) は論文の導入部、男性が給与を一部貯金する契約を例に以下のように述べています。
貯金の契約(※ 契約はCommitmentを私訳)を考えている男性は、
(A) 契約してお金を貯金する
(B) 契約をしないで、お金を使い続ける
(C) 契約をしないで、お金を貯金する
という3つの選択肢が存在する。
Howard Rachlin他(1972) はこのようなエピソードを導入部で書いているのですが、
私たちはどういった条件で上のような選択機会の決定をするのでしょうか?
「選択行動」の研究とは、上のような内容の答えを見つけようとする研究です。
どういった条件で、どういった選択を生態は行うのか?
という研究テーマ、
この研究分野はABA自閉症療育にも生かせます。
さぁここから、Howard Rachlin他(1972) の実験内容を見ていきましょう。
前情報として
この実験には「ハト」が出てきて赤色と緑色のライトを見分けて選択し、
「ハト」が色に対応したキーを突く行動を行うのですが、
ハトは赤色と緑色のライトを見分けることができます
このことは事前知識として知っておいてください
オペラント条件付けー選択行動の研究
では、
Howard Rachlin他(1972) の行なった実験手続きを見ていきましょう。
実験に参加したのは5羽のハトです。このハトたちは実験前に体重を80パーセントの重さまで調整されていました。
この体重操作は実験で使用するエサが確実に「強化子」として機能するための準備なのですが、
「(ABA自閉症療育の基礎41)オペラント条件付けー般化勾配(https://en-tomo.com/2020/09/20/generalization-gradient/)」
で紹介したGeorge S. Reynolds (1961)のハトを使った般化勾配を実証する実験でも同じように実験前にハトの体重は80パーセントの重さまで調整しています。
このような強化子として餌を確立させる実験手続きは、
メジャーな実験準備です
確立操作の「遮断化」として、餌の強化子としての機能を確立させます。
実験室には2つのキーがありました。
この2つのキーは8.9センチ離れた位置に位置づけられています。
キーの上には電球が設置されており、この電球はさまざまな色に光らせることができました。
1回の実験セットはハトが50回キーを突くことを1セットとしています。
50回の試行は「10回の強制試行(Forced Trials)」と「40回のフリー試行(Free Trials)」に分けられていました。
実験では10回の強制試行に続いてその後、40回のフリー試行が訪れるという流れです。
ハトが25回キーを押すまではキーは白色の電球で照らされています。
最初10回の強制試行では片方のキーだけが照らされそちらのみ選択できるようになっており、
その後は両方のキーが照らされ両方のキーをハトが自由に選択可能です。
強制試行のときに照らされていないライトのキーを押してしまった場合は、証明が落とされその後エサは出てこないという設定で強制力を持たせました。
ハトが25回キーを押したとき、それまで白色だった電球の色が変化し、2つのキーの上に照らされる電球が赤色と緑色に光の色に変化します。
ここからが「選択」条件のスタートです
Howard Rachlin他(1972) の行なった実験手続きでは、
赤色を1回つつくと2秒間の食料へアクセスする機会が発生しますが、その後自動的に6秒間停電が発生しました。
緑色を1回つつくと4秒間の停電が発生し、その後に4秒間の食料へアクセスする機会が発生しました。
上の条件では、赤色を選択すると即時小強化が手に入り、緑色を選択すると遅延大強化が手に入ります。
ハトが、
赤色を突くとすぐに食料にありつけますがそれは2秒間でしたが、
緑色を突くと少し遅れて倍の4秒間の食料にアクセスする機会が手に入るという実験設定でした。
オペラント条件付けー選択行動の実験結果1
上のような選択場面があったとき、あなたならばどちらの照明があるキーを選択するでしょうか?
5羽のハト全てが赤色のキーを突き、実験中この割合が95パーセントを下回ったことはありませんでした。
つまりこの実験結果を見ればハトは即時小強化を選択した、ということになります。
少し待てば倍の餌(強化子)が手に入るにもかかわらず、ハトはすぐ手に入る二分の一の強化子を手に入れ続けたのです。
動物は即時性強化を好む傾向があるのかもしれないということがこの結果から示されました。
では動物はどうしたら「遅延大強化」を得るために行動することができるのか?
ここからがこの実験の面白いところです
選択行動のさらなる実験、衝動性とセルフコントロール
Howard Rachlin他(1972) はさらにどのような条件であればハトが即時小強化ではなく、遅延大強化を選択するのか?
について調べていきます。
このことを調べるためにHoward Rachlin他(1972) は以下のイラストのような実験セットを組みました。
上のイラストのように赤色と緑色の次回の選択肢が示されるまでの時間をT秒遅延させていきます。
「T秒」のTは代数で例えば2秒とか6秒とか10秒とか、可変の変数が入るのですが、
Howard Rachlin他(1972) の組んだ実験セットとは、
ハトは1回の選択ののち強化子(エサ)が手に入る反応機会までの時間(T秒)がどれくらい遅れると、即時小強化ではなく、遅延大強化を選択するのではないか?
ということがテーマの実験セットでした。
オペラント条件付けー選択行動の実験結果2
結果としては、
上のイラストの「T」の時間が長くなればなるほどに、
ハトは遅延大強化を選択するようになりました。
これは、
ハトは1回の選択ののち強化子(エサ)が手に入る反応機会までの時間が遅れることで即時小強化ではなく、遅延大強化を選択するという実験結果です。
具体的には「T」が10秒のとき、4羽のうちの1羽のハトが緑色の遅延大強化が手に入る電球の下のキーを突く割合を増やし、
「T」が16秒のとき、5羽のうちの4羽のハトがが緑色の遅延大強化が手に入る電球の下のキーを突く割合を増やしたのです。
(まぁ、全部のハトが16秒で洗濯しなかった、というのも味わい深い実験結果かと個人的には思いますが・・・)
Howard Rachlin他(1972) は研究で「T」が増加することによって、即時小強化ではなく遅延大強化を選択することを見出したのでした。
Howard Rachlin他(1972) の研究、簡易解説
Howard Rachlin他(1972) の研究を簡単にまとめれば、
(1)AとBのどちらかをキーを突く選択機会がある
(2)Aを突くとすぐに少量の餌が出てくるが、Bを突くと少し待たされて多量の餌が出てくる
(3)AかBを選択したのち、待ち時間(イラストの「T」)が発生する
(4)「T秒後」にまた、AとBのどちらかをキーを突く選択機会がある
このような選択機会でどう行動するか?
Howard Rachlin他(1972) の研究はこのような研究でした。
結果は上に示したとおりです。
さいごに
このブログページではHoward Rachlin他(1972) の研究について紹介をしてきました。
個人的にこの研究で大切だなと思う点が3点あります。
それは、
・ 動物は即時性強化を好む傾向があるのかもしれない
・ 強化量は同じ(※)であっても、次の反応(選択)機会までが遠い場合、遅延大強化を選択しやすい
※ 赤色は2秒間の食料アクセス、その後自動的に6秒間停電発生。緑色は4秒間の停電発生、その後4秒間の食料アクセス
・ 即時性強化を選択していた場合でも、状況が変わると遅延大強化を選択するように変化する可能性がある
という3点です。
上記3点はABA自閉症療育において知っておいて損のない知識でしょう。
遅延大強化を選択する行動を「セルフコントロール」というのですが、
James E. Mazur (2006)は子どものセルフコントロール に言及しています。
James E. Mazur (2006)は子どもの、
セルフコントロールがどのように学習されるかに関係なく、子どもが幼いうちに遅延大強化子を選択できるようになることは長期にわたる効果を持つようである
と述べています。
具体的にはJames E. Mazur (2006)は子どもが幼いうちに「セルフコントロール」の能力を得ることの恩恵として、
「課題集中」、「目的追求」、「誘惑への抵抗力」、「フラストレーションに耐えること」をあげました。
「子どもの」と書いており、これはなにも自閉症児に限ったことではありません。
セルフコントロール(我慢)を鍛えることは長期的なお子さんの優良な結果を導く可能性があります。
このページではHoward Rachlin他(1972) の研究を見てきました。
次のページでは重度の行動障害(Behavior Disorders)のある自閉症児や精神遅滞児に対して、
衝動性とセルフコントロールの観点から我慢を教えるため行動介入を行った研究、
Timothy R. Vollmer・John C. Borrero (1999)の研究を見ていきます。
Timothy R. Vollmer他 (1999)の研究は、
他者に対して攻撃的な行動をするお子さんを取り上げ、お子さんの攻撃行動を抑制し、社会的に認められる適切な行動に攻撃行動を変えていく研究です。
Timothy R. Vollmer他 (1999)の研究は、
どのように自閉症児、発達障がい児の衝動性を克服しセルフコントロール、つまりは「我慢」を教えていけば良いのかのヒントになるでしょう。
【参考文献】
・ George S. Reynolds (1961)CONTRAST, GENERALIZATION, AND THE PROCESS OF DISCRIMINATION1. Journal of the Experimental Analysis of Behavior. October 1961 https://doi.org/10.1901/jeab.1961.4-289
・ Howard Rachlin・Leonard Green (1972) COMMITMENT, CHOICE AND SELF CONTROL1 . JOURNAL OF THE EXPERIMENTAL ANALYSIS OF BEHAVIOR 17,15-22 No. 1(JANUARY)
・ James E. Mazur (2006) LEARNING AND BEHAVIOR:6Th ed. 【邦訳 磯 博行・坂上貴之・川合伸幸,訳 (2008) メイザーの学習と行動 日本語版 第3版 二瓶社】
・ Timothy R. Vollmer・John C. Borrero (1999) EVALUATING SELF-CONTROL AND IMPULSIVITY IN CHILDREN WITH SEVERE BEHAVIOR DISORDERS. JOURNAL OF APPLIED BEHAVIOR ANALYSIS. 32, p451–466 No. 4 (WINTER)