(ABA自閉症療育の基礎51)オペラント条件付けー強化子「プレマックの原理」

このページはイラストで言えば、


「ココ」と書かれている「強化子」についてです

「ココ」と書かれているところの内容です。


「(ABA自閉症療育の基礎19)オペラント条件付け-強化とは?(https://en-tomo.com/2020/08/13/operant-conditioning-basic-reinforcement/)」

では私は強化について、

特定の状況の下(A)で、特定の行動(B)が生起したとき、特定の結果(C)が伴う。

その後、特定の状況の下(A)で特定の行動(B)が増加した場合、それは強化と呼ぶ

このとき、行動を増加させた結果を「強化子(Reinforcer)」と呼ぶと

私は後輩育成をするときに教えていますと記載してきました。


このように強化子について捉えるだけでもABA自閉症療育に生かすことは充分可能です。

しかしこのように紹介してきた強化子の定義では

「(ABA自閉症療育の基礎49)オペラント条件付けー強化子の循環論と「要求/動因低減説」(https://en-tomo.com/2020/10/25/reinforcer-circular-theory/)」

のページで紹介したように、循環論に陥ってしまい永遠に結論が出ない(未来を予測できない!)可能性があります。

循環論とは、

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質問者「どうしてラットのレバー押しが増加したの?」 

学 者「ビールを与えることによって強化されたからだよ」 

質問者「ビールが強化子であることをどのように知るの?」 

学 者「レバー押しを増加させたからだよ」 

質問者「どうしてラットのレバー押しが増加したの?」 

学 者「ビールを与えることによって強化されたからだよ」 

質問者「ビールが強化子であることをどのように知るの?」 

学 者「レバー押しを増加させたからだよ」

(参考 James E. Mazur, 2006)

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Enせんせい

上のような議論を循環論といいます

答えがグルグルと回り、

結論が出ません


この循環論を避けるためには、強化子についてもっと強固な定義が必要です。

このページでは強化子について循環論を避けるために提唱された、

「強化子とは何か?」

についての1つの考え方の成功例「プレマックの原理(Premack Principle)」について述べていきます。

同じように強化子についての循環論を避けることができた「反応遮断化理論(Response Deprivation theory)」については次のページで紹介させてください。



強化子とは?ープレマックの原理

「プレマックの原理(Premack principle)」「強化子とは何か?」を解いた一つの解答例だと思っています。

「強化子とは何か?」とは確かに強化子は直前の行動を増やす結果だけれども、果たして、

「どういった結果を行動に伴わせれば将来、その行動が増えるのか?」を教えてくれる一つの解答と言い換えられるでしょう。

ちなみに「プレマックの原理」の名前にあるプレマックは人名で


この本ではプレマックのチンパンジーの研究が紹介されています
※著書は参考文献に記載David Premack・Ann Premack (2003) 

この本を書いた人で動物の研究者をされています。


Raymond .G .Miltenberger (2001) 「プレマックの原理」について、

正の強化の一つのタイプで、起きにくい行動(低頻度行動)の生起に伴って、起きやすい行動の機会を設定することによって、起きにくい行動がより起きやすくなること

と述べました。

簡単に言えば人や動物にとって自分が良く行う行動機会は、あまり行わない行動の強化子になるよという内容です。


杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998) プレマック博士は強化子をそれまでとはまったく別の見方をした研究者であると紹介しています。

杉山 尚子他(1998) プレマック博士の考え方(プレマックの原理)について、

たとえばレバー押しが餌で強化されることも、餌が好子(※ 強化子のこと)なのではなく、餌を食べるという行動に従事する機会が好子になっていると考える

と述べました。


「行動のあとに続く、行動機会が強化子となる」

もしかすると今まで「強化子」について、

・行動のあとに伴って提示される「アイテム」(例えば、「お菓子」「おもちゃ」「ゲーム」など)

・行動のあとに伴って提示される「人との関わり」(例えば、「褒められる」「抱っこ」など)

というイメージがあったかもしれませんが、

「プレマックの原理」に従えば

行動(A)のあとに続く結果が行動(B)を行う機会であり、

行動(B)を行う機会が行動(A)のあとに続くことで、行動(A)の頻度が増える(強化子となる)

という「行動機会が行動を強化する」というロジックが完成するのです。


大河内 浩人・武藤 崇 (2007) は強化子について注意すべき点として2点紹介しています。

・ 1点は人によって強化子が何かということが変わってくること、

・ 2点目は強化子は刺激や物だけでなく、何かの反応をする機会であってもよいこと

と述べました。


大河内 浩人他 (2007) は2点目については「プレマックの原理」であると述べています。

個人的に思うことは以下の内容を読んでいただければ分かりますが「プレマックの原理」は上記の1点目、2点目の両方をフォローできる理論です。


James E. Mazur (2006)

・ のどの渇いた動物にとって強化子とは水なのか、それとも飲水行動なのか?

・ 子どもにとって強化子とはおもちゃなのか、それともおもちゃで遊ぶ行動なのか?

・ サルにとって強化子とは景色の見える窓なのか、それとも見る行動なのか?

と述べ、

行動と行動の結びつきで強化随伴生を述べた方が正確だとプレマックは提案したと述べました(参考 James E. Mazur ,2006 )

行動が行動の強化子になる

これは画期的な発見です。


Enせんせい

例えば

「ランニング」というあまり行わない習慣行動(低頻度行動)を強化したい人は、

「ランニング」のあとに好きな「Youtubeを見る」という機会を結果を伴わせるようにすれば、

「ランニング」という行動が強化できる

という理論になります


自分自身が、自分自身の行動を強化できる

という専門用語でこのことは「自己強化(self reinforcement)」と呼ばれることも可能です。


このように、行動のあとに行動の機会があれば、直前の行動を強化できる「プレマックの原理」ですが、

日常例ではどのようなものがあるでしょうか?

Jon・Baily ・ Mary・Burch (2006) 「プレマックの原理」を使用した支援方法の例として「雑用が終わるまでテレビを観るのはダメですよ」と伝える方法を紹介しています。


プレマックの原理は日常にありふれています

このような指示は親子間で日常的に行われますね?

一般的に行われる「好きなこと」を行うためには「やりたくないこと」をやってからですよ。

・ 宿題をしてから遊びに行きなさい

・ テスト勉強をしたらゲームをしていいですよ

・ この大学に入るために勉強すると、自分がしたい趣味ができる時間ができる

・ 君がこの仕事をしたいのならば、まずはこの業務を成功させてからでないと

これらは当たり前に使用されますがABAの用語では「プレマックの原理」となります。

小野 浩一 (2005) 「仕事が終わったら、音楽を聴く」のようにプレマックの原理にあてはまることは私たちの日常に多数あると述べてます。



プレマックの原理をABA自閉症療育で使用する「自由反応場面」

上のイラストでは「プレマックの原理」の一般例をJon・Baily他 (2006)の「雑用が終わるまでテレビを見るのはダメですよ」から見ましたが、あまりにも普通すぎて少し拍子抜けしたかもしれません。


Enせんせい

「プレマックの原理」の真骨頂はここからです

「プレマックの原理」をABA自閉症療育に

使用するためにどうすればいいかみていきましょう


Paul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) 「プレマックの原理」について

低頻度の直後に高頻度の行動が続くならば、低頻度の行動の生起確率を高める作用を示す

と述べました。

これはここまで見てきた内容と同じですが、

どのようにして「高頻度の行動」、「低頻度の行動」を見極めれば良いでしょうか?

「高頻度の行動」、「低頻度の行動」ってつまり何か?

これがわからなければ「プレマックの原理」をABA自閉症療育で使用することはできません。


磯 博行 (2005) は「プレマックの原理」について、ベースラインにおいて観察された高い出現確率の行動はそれに伴う低行動確率の行動に対して強化子として働き、低い出現確率の行動は高い出現確率の行動の罰子として働くというものであったと述べました。

磯 博行 (2005) は加えて「プレマックの原理」は不十分であることもわかっており、この原理をさらに発展させたものが「反応遮断化理論」であるとも述べています。

「反応遮断化理論」は次のページで紹介するため一旦置いておくとして、

さて、磯 博行 (2005) の述べた「プレマックの原理」で重要なことはオレンジ色の下線を引いた「ベースラインにおいて観察された」という一文です。

この「ベースラインにおいて観察された」ということが「高頻度の行動」、「低頻度の行動」を見極めを可能にします。


William・O’ Donohue  & Kyle E. Forguson (2001) プレマックのモデルに従えば、活動の強化効果はしたいことが何でもできるという自由事態で子どもが実際にどの程度の頻度でそれをするかに現れることになる

標的行動の反復頻度と強化行動の反復頻度の2つを測定するのがベースラインデータということになる

ごく一般的に言えばなんの拘束状態もない状態で、子どもがどんなことをするかを測定したベースラインデータは、子どもの嗜好ヒエラルキーを示していることになる

と述べました。

ベースラインは、何も操作をしていない状況で自由にできるシチュエーションと考えてもらえれば良いと思います。

つまり何の制限もかけずに「自由にしていいよ」という状態で、個人が好きなように過ごせる中で計測した「高頻度の行動」、「低頻度の行動」を「プレマックの原理」では扱えば良いのです。

このような自由反応場面の中で多く行った行動(高頻度行動)は、あまり行わなかった行動(低頻度行動)の強化子になる。

このように「プレマックの原理」について覚えておけば良いでしょう。


実森 正子・中島 定彦 (2000) 「プレマックの原理」によれば、反応(※ 行動のこと)の自発頻度を知れば、どの反応がどの反応を強化できるか事前に知ることができると述べています。

もしあなたのお子さんにとって強化子が見つけられず、適切な行動を強化することができないというシチュエーションい悩んでいたとした場合、先人の残してくれたこの「プレマックの原理」に頼ってみてはいかがでしょうか?



さいごに

「プレマックの原理」は循環論に陥ることなく、「強化子とは何か?」という1つの答えをもたらすことを可能にする理論だと思います。

基本的にABA自閉症療育ではお子さんは褒められたり、抱っこされたり、くすぐられたりすれば喜び、その結果は強化子として機能していることが多いです。

ですので冒頭書いたように、

強化について、

特定の状況の下(A)で、特定の行動(B)が生起したとき、特定の結果(C)が伴う。

その後、特定の状況の下(A)で特定の行動(B)が増加した場合、それは強化と呼ぶ

このとき、行動を増加させた結果を「強化子(Reinforcer)」と呼ぶと

と覚えておくだけで充分かとも思っています。


しかしもし褒められたり、抱っこされたり、くすぐられたりしてもほとんど喜ばない(強化子としてそれらの結果が機能していないと予測される)場合には、

他のもっとマニアックな方法に頼りましょう!

その1つの選択肢がこのページで紹介した「プレマックの原理」です。

方法は簡単で部屋で自由にお子さんに過ごして貰えば良いでしょう。

親御様側は自由に過ごすお子さんを観察し、自発的に行う高頻度行動「X」を見極めれば良いのです。

高頻度行動「X」さえわかればもしあなたが「ひらがなプリント」をお子さんにやらせたいと思ったとき、

「ひらがなプリントができたらXができる」

という設定で「ひらがなプリント」を行う。

これだけで「ひらがなプリント」を行う行動が強化される可能性が「プレマックの原理」にはあります。

日常的に当たり前に行っていそうな「プレマックの原理」ですが、あらためて知見として捉えることで、

ABA自閉症療育で詰みそうになったとききっとあなたを助けてくれるアイディアとなるでしょう。


「プレマックの原理」について例えば、

高頻度の行動のあとに伴う反応は、低頻度の行動を強化できますがその逆はできない

Kevin P Klatt and Edward K. Morris (2001) は述べています。


磯 博行 (2005) も「プレマックの原理」は不十分であることもわかっており、この原理をさらに発展させたものが「反応遮断化理論」であると述べました。

次のページではプレマックの原理のその先、「反応遮断化理論」について書いていきます。



【参考文献】

・ David Premack・Ann Premack (2003) ORIGINAL INTELLIGENCE 【邦訳: 長谷川 寿一 (2005)心の発達と進化 チンパンジー、赤ちゃん、ヒト】 新曜社

・ 磯 博行 (2005)【中島 義明・繁桝 算男・箱田 裕司 (2005) 新・心理学の基礎知識 Psychology:Basic Facts and Concepts 有斐閣ブックス】

・ James E. Mazur (2006) LEARNING AND BEHAVIOR:6Th ed. 【邦訳 磯 博行・坂上貴之・川合伸幸,訳 (2008) メイザーの学習と行動 日本語版 第3版 二瓶社】

・ 実森 正子・中島 定彦 (2000) 学習の心理 第2版 サイエンス社

・ Jon・Baily & Mary・Burch (2006) How to Think Like a behavior Analyst : Understanding the Science That Can Change Your Life 【邦訳: 澤 幸祐・松見純子 (2016) 行動分析的 ”思考法” 入門ー生活に変化をもたらす科学のススメー】 岩崎学術出版社

・ Kevin P Klatt and Edward K. Morris (2001) The Premack principle, response deprivation, and establishing operations. The Behavior Analyst. 24, 173-180 No. 2 (Fall)

・ 小野 浩一 (2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館

・ 大河内 浩人・武藤 崇 (2007) 行動分析 ミネルヴァ図書

・ Paul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) Applied Behavior Analysis for Teachers:Fifth Edition【邦訳 佐久間 徹・谷 晋二・大野 裕史 (2004) はじめての応用行動分析 二瓶社

・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】

・ 杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)行動分析学入門 産業図書

・ William・O’ Donohue  & Kyle E. Forguson (2001) The Psychology of B.F.Skinner 【邦訳: 佐久間 徹 (2005) スキナーの心理学 応用行動分析(ABA)の誕生 二瓶社】