(ABA自閉症療育の基礎37)オペラント条件付けー弁別刺激「弁別学習」

「(ABA自閉症療育の基礎36)オペラント条件付けー弁別刺激の確立、エピソード(https://en-tomo.com/2020/09/06/aba-operant-stimulus-control-episode/)」

のページでは「弁別刺激(Discrimination Stimulus)」が日常の中で確立するエピソードについて紹介してきました。

「弁別刺激」はイラストで言えば、


「ココ」と書かれているイラストの
「A(Antecedent):行動に先立つ環境、先行状況などと呼ばれる」の中にある、
赤い丸で囲まれている部分です

「ココ」と書かれているイラストの「A(Antecedent):行動に先立つ環境、先行状況などと呼ばれる」の中にある赤い丸で囲まれている部分です


ABA、特にオペラント条件付けを使用した療育では「C:(Consequence):結果」が大切で、専門家は行動の結果ー行動のあとに続く事象を分析し解決方法を探っていきます

このページからは「行動の前」についても考えていくことで、今までの知識をさらに拡大していくための内容です。



「弁別刺激」(刺激性制御)の確立

Raymond .G .Miltenberger (2001) は刺激性制御は、特定の先行事象が存在するときにのみ強化されることによって確立される。結果として、その行動はその後、先行事象が存在したときにのみ生起するようになる。行動が強化されたときに存在している先行事象を「弁別刺激(Discriminative Stimulus)」と呼ぶ

と述べています。

杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)「弁別刺激」について

a.その刺激があるときには

b.特定の行動が強化されたり弱化(※罰のこと)されたり

c.その刺激がないときには

d.その行動が強化も弱化もされない刺激

と述べました。


また杉山 尚子他 (1998) を参考にすると弁別刺激と非弁別刺激の存在があり、弁別刺激の下である行動を強化し、非弁別刺激の下では消去するという手続きを「弁別訓練」と呼びます。

杉山 尚子他 (1998) 「弁別訓練」を続けると「弁別刺激」が提示されているときに、その行動がより多くなり、このことを「刺激性制御」、または「刺激弁別が生じた」というと述べました。


「弁別訓練」については

例えばH. S. TERRACE (1963)はハトを使って「無誤学習(エラーレスラーニング)」の研究を行いました。

研究の中では「赤色のライトと緑色のライトの弁別」、「垂直線と平行線の弁別」のトレーニングが組み込まれました。

トレーニングは例えば下のイラストのように「赤色のライトが点いているときにキーを突くと餌が提示」され、「緑色のライトが点いているときにキーを突いても餌は提示されない」という設定が組まれます。

このような条件で試行回数を重ねていくとエサの出る赤色は強化子が出現する合図=「弁別訓練」となり、「赤色のライト」が「弁別刺激」としての機能を獲得していくのです。


オペラント条件付けハトの「弁別訓練」の例
このように「赤のときにはエサが出る」、「緑のときにはエサが出ない」などの
「結果」によって行動を変化させていく

※ 実際はライトとハトがつつく部分は独立して離れています。今回イラストを書いたあとそのミスに気がつきました(汗。正しい実験装置に興味がある人は「Skinner」「オペラント」「ハト」などのキーワードを組み合わせて調べてみてください


H. S. TERRACE (1963)の実験は無誤学習の実験であるため、彼の研究では最初から「赤色のライトははっきりとした照明」で提示し、「緑色のライトはかすかな照明からはじめて徐々に明度を上げていく」などの設定が組まれ、エラーが生じないような設定で組まれています。


Enせんせい

このような結果を何度も提示していくと、ハトは赤いライトがあるときに「つつく」ようになります。

これが「弁別」が確立したということなのですが、


H. S. TERRACE (1963)の実験では、

ハトがエラーをしないよう、

プロンプトフェイディングの手続きが組み込まれています

プロンプトフェイディングについてはまた別のページで解説をしていきましょう


以上のように、

特定の状況下では強化し、特定の状況下では強化しないということを繰り返すと、強化された特定の状況下は「弁別刺激」の意味を持つように確立され行動が制御されます。このことは「刺激性制御」の確立とも呼ばれます



「弁別刺激の確立」がどう自閉症児ABA療育に関わるのか

「弁別」の日常例として、

実森 正子・中島 定彦 (2000) 居間でくつろいでいるとき、玄関のチャイムが鳴れば玄関に出ていき、携帯の着信音が鳴れば携帯を取り出すだろう。チャイムと着信音に異なる反応(分化的反応)をするので、「弁別」しているというと述べています。

「(ABA自閉症療育の基礎36)オペラント条件付けー刺激性制御エピソード(https://en-tomo.com/2020/09/06/aba-operant-stimulus-control-episode/)」

URL内で示したエピソードも併せて見ていただくとより日常の中での「弁別」について理解が深まるでしょう。

「(ABA自閉症療育の基礎36)オペラント条件付けー刺激性制御エピソード」のURL内のエピソードでは、

男の子が朝「おはよう」とあいさつをすることが、日常の中でどのように「弁別訓練」を受けて『知らない人に手当たり次第「おはよう」と言わないこと』や『夜に「おはよう」と言わないこと』が弁別されていくのかが書かれています。


「携帯の着信音が鳴っても、そりゃ玄関に行かないよ」、『そりゃ夜に「おはよう」とは言わないわ』と思われたかもしれません。

このようなことはあまりにも当たり前に感じ、

同時に「ABA療育の何に活かすの?」と思ったかもしれません。


しかし幼いお子さんや自閉症児のお子さん、発達に遅れのあるお子さんが新しい知識を得ることがすなわち、「弁別」が確立したと同義語である場合が多いです。

例えば「赤い果物」をみせると「りんご」と応えるお子さんがいたとしましょう。

これは「りんごが目の前にある」先行状況下で「りんご」と応えたことで強化された来歴があるからと考えられます。

しかしもしかすれば、お子さんは同じように赤い果物、「いちご」をみせても「りんご」と答えてしまうかもしれません。

この場合、お子さんへは「いちごが目の前にある」先行状況下では「いちご」と言えるよう練習をする必要があるでしょう。


Enせんせい

もし周りの子は「いちご」をみて「いちご」と言えるのであれば、

できれば、

同年代のお子さんが知っている・できることは

教えて行ってあげたいです


O.Ivar Lovaas (2003)「弁別訓練」を「弁別学習」と呼んでいますが、

O.Ivar Lovaas (2003)自らのプログラムについて弁別学習について複雑で柔軟な行動の獲得を助ける上で不可欠の過程である。本書で示すさまざまな指導プログラムは、弁別学習によって支えられている

と述べています。


「弁別学習」とは

「りんご」をみて「りんご」と応える

「いちご」をみて「いちご」と応える

「ばなな」をみて「ばなな」と応える

という基本的な語彙の確立から、


「先生には敬語を使う」が、「友達には使わない」

「どこに行ってきたの?」と聞かれると「人名ではなく場所を答えられる」

「悲しそうなお友達がいたとき」に「悪口で追い討ちをかけるのではなく大丈夫?と聞く」

と言ったもう少し高度な意味合いを持つ、

特定の状況下での、適切(周りから受け入れられる、強化される)行動をも学ぶ学習といえるのです。



さいごに

このように行動のあとだけではなく、前も考えて支援に組み込むことでより強力で幅広い支援が可能となります

行動のあとだけでなく、行動の前も組み込んで考える考え方は、

「(ABA自閉症療育の基礎27)オペラント条件付け-4つの随伴性と三項随伴性(https://en-tomo.com/2020/08/22/aba-contingency/)」

のページで記載したような「三項随伴性(Three-term Contingency)」と呼ばれるものです。

このブログ内では「行動」とその前後の「環境」から成り立つパターンを「三項随伴性(Three-term Contingency)」と呼ぶと紹介しています。

島宗 理 (2019) ABAの分析の基本単位として、オペラントにおいては先行事象、行動、後続事象からなる「三項随伴性」が基本単位となると述べました。


このページ内では「弁別学習」によって幼いお子さんや自閉症児のお子さん、発達に遅れのあるお子さんに対して基本的な語彙の確立などが関わっていることを書きました。

どうやって「弁別学習」を行なっていけば良いのか?

例えば1つの方法としてO.Ivar Lovaasの行なった方法として「DTT(離散型試行訓練:discrete trial teaching)」という方法があります。

この方法はお子さんの「弁別学習」を促進することができる方法です。

「(自閉症ABA療育のエビデンス6)EIBIの特徴とDTTの解説(https://en-tomo.com/2020/03/31/dtt/)」

でも触れましたが次のページでも簡単にDTTについて触れていきましょう。

DTTについては伝えたいボリュームも多くなるため、この章では簡単に伝え、また別章を立ててDTTについては紹介していければと思っています。



【参考文献】

・ H. S. TERRACE (1963) ERRORLESS TRANSFER OF A DISCRIMINATION ACROSS TWO CONTINUA. JOURNAL OF THE EXPERIMENTAL ANALYSIS OF BEHAVIOR ,APRIL VOLUME 6, NUMBER 2

・ 実森 正子・中島 定彦 (2000) 学習の心理 第2版 サイエンス社

・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】

・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】

・ 島宗 理 (2019) 応用行動分析学 ヒューマンサービスを改善する行動科学 新曜社

・ 杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)行動分析学入門 産業図書