このページは、
「(ABAの基礎16)オペラント条件付けの基本ユニット(https://en-tomo.com/2020/08/07/operant-basic-unit/https://en-tomo.com/2020/08/07/operant-basic-unit/)」
で紹介したイラストでいうと
「ココ」と書かれているところの紹介ページです。
ここまで出てきた「正の強化」「負の強化」「正の罰」「負の罰」「消去」という結果についてどのように判断すれば良いのかを書いていきます。
その結果は「正の強化」「負の強化」「正の罰」「負の罰」「消去」のどれだ?
「(ABA自閉症療育の基礎33)オペラント条件付けー「正の強化の消去」と「負の強化の消去」(https://en-tomo.com/2020/08/30/positive-negative-extinction/)」
のページでは、
「(ABA自閉症療育の基礎20)オペラント条件付けー正の強化と負の強化(https://en-tomo.com/2020/08/15/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement1/)」
で紹介した「正の強化」の例、
「
(教室で積極的に授業に参加した男の子)
先生が「答えが分かる人」と言ったとき(A)
挙手して答えを応えると(B)
先生が褒めてくれた(C)。
その後、先生が「答えが分かる人」と言ったとき(A)、
挙手して答えを応える行動(B)が増加した
」
上のイラストでは「A(Antecedent)」の部分では存在しなかった「先生に褒められる(C:(Consequence):結果)」が、
「挙手をして応える(B(Behavior):行動)」ののちに出現します。
これは「正の強化」なのですが、この例を引き合いに出し、
この行動を「消去」しようとした場合は、
「
先生が「答えが分かる人」と言ったとき(A)
挙手して答えを応えると(B)
先生が褒めてくれない(C)
」
という結果が随伴する必要があることを書きました。
そしてこのようなシチュエーションで「先生が褒めてくれない(C)」という結果としてお子さんを「無視」した場合「消去」として機能するのか、「罰」として機能するのかわからないと書いています。
もちろん「消去」として機能する可能性もあるのですが、男の子が小学生高学年くらいであった場合「先生は俺のことが嫌いなのか?」や「俺は先生に何か悪いことをしたのか?」、「周りの友達が俺が先生に無視されたことどう思っているだろうかー恥ずかしい」などの考えが生じる可能性があり、この場合は「罰」として機能するかもしれません。
・・・、
「消去として機能する?」
「罰として機能する?」
ナニヲイッテイルノか?
言っている意味はなんと無くはわかるけれども、良くわからないよ!
と思うかもしれません
この点についてこのページでは書いていきます。
B .F .Skinnerは「強化」をどう捉えたか?ー「効果の法則」のおさらい
「(ABA自閉症療育の基礎18)オペラント条件付けの起源「効果の法則」(https://en-tomo.com/2020/08/11/law-of-effect/)」
ではThorndike(エドワード L. ソーンダイク)の「効果の法則(Law of effect)」というものを紹介しました。
Thorndikeはネコを使った実験を行なっています。
ネコを「問題箱(Pazzle Box)」という箱に入れて、出てきたら餌が与えられるという設定を繰り返し行うと、だんだんとネコが問題箱から出てくる速さが早くなっていくのです。
坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) によればThorndikeはこの結果について、
「満足をもたらした反応は、それが繰り返されるとその場面と強く結合して、より起こりやすくなり、不快をもたらした反応は、逆により起こりにくくなる」
という「効果の法則」から説明しました。
「効果の法則」とは簡単に言えば、
「いい結果が続いた行動は個体にとって満足が伴うので、繰り返されるようになる → 行動が強まる」
「不快な結果が続いた行動は個体にとって不快が伴うので、繰り返されなくなる → 行動が弱まる」
ということなのですが、この解釈には
『行動の結果がある個体に対して「満足」をもたらしたのか「不快」をもたらしたのかをどのように知るのか?』
という疑問が乗ります。
小野 浩一 (2005) によればSkinnerは『行動の結果がある個体に対して「満足」をもたらしたのか「不快」をもたらしたのかをどのように知るのか?』 という点を解決するため、「効果の法則」に修正を加えました。
Skinnerは、
上のイラストのように
行動に環境変化が随伴した結果その行動が増加したとき、その変化は好ましい変化
行動に環境変化が随伴した結果その行動が減少したとき、その変化は嫌悪的な変化
捉えました。
このように捉えることで「満足だったか?」、「不快だったか?」という視点で測ることはなくなります。
つまり、行動がどのように推移したかという点に注目するということです。
ABAでは「正の強化」、「負の強化」、「正の罰」、「負の罰」、「消去」をどう判断するか?
上のような考え方がABAでは存在します。
ABAでは「考える」「思う」「感じる」などの皮膚の内側で起こる目に見えない「潜在的行動(covert behavior)」も行動と捉えますが、
※ 参考:「(ABA療育での行動の見方3)顕在的行動と潜在的行動(https://en-tomo.com/2020/07/01/overt-behavior-covert-behavior/)」
基本的には「行動」が「増加」したか「減少」したかという、その後の行動の推移によって判断をしていくのです。
そのため、お子さんの行動に対して親側が与えた結果が「強化」なのか、「罰」なのか、「消去」なのか、ということはその後のお子さんの行動の推移を追わなければわからないのです。
「正」と「負」は、ここまでのページでみてきたように前後の環境変化を示す記号です
その後のお子さんの行動の推移を追うことでわかることは
親側が与えた結果が「強化」なのか、「罰」なのか、「消去」なのかということになります
私は後輩指導をする際、以下のようなイラストを示し「強化」、「罰」、「消去」についての行動推移を説明することが多いです。
「ベースライン」とはまだ何も「手続き」を加えていないフェイズだと考えてください。
実際は「罰」と「消去」はわかりやすく曲線で書いていますが、「強化」と同じようにギザギザと推移していきます。
黒い点線のところで「強化」、「罰」、「消去」いずれかの介入を行なったとしましょう。
黒い点線は「ここから介入する」というスタートラインと思ってください。
赤い線は「強化」です。
「強化」ではグラフで示されているようにベースラインの時よりも行動が増えていくことがわかります。
青い線は「罰」です。
グラフで示されているように「罰」が導入されてすぐに、行動が減少・消失することがわかります。
緑の線は「消去」です。
グラフで示されているように「消去」が導入されてすぐに、「消去バースト」が生じます。その後徐々に行動頻度が減少していくのですが、消失後に「自発的回復」が生じることがポイントでしょう。
消去バースト」と「自発的回復」については、
「(ABA自閉症療育の基礎32)オペラント条件付けー「消去バースト」と「自発的回復」(https://en-tomo.com/2020/08/26/extinction-burst-extinction-induced-variability/)」
を参照してください
このように自分が何かお子さんの行動に対して「結果」を与えたとき、その後お子さんの行動がどのような頻度で推移していくかに注目し、
それが、「強化」なのか「罰」なのか「消去」なのか判断する。
ABA療育ではこのようにお子さんの行動を解釈するようにしてください。
例えば「無視」という結果1つとっても、ある人には「罰」になるし、ある人には「消去」として機能する。またシチュエーションによっては「強化」にもなる。
これはとても大切なことなのです。
さいごに
ここまでのページではページ冒頭に示しましたが
「(ABAの基礎16)オペラント条件付けの基本ユニット(https://en-tomo.com/2020/08/07/operant-basic-unit/https://en-tomo.com/2020/08/07/operant-basic-unit/)」
で紹介したイラスト
「C:(Consequence):結果」
のところにフォーカスして書いてきました。
奥田 健次 (2012)は行動分析学(※ABAのこと)について書いた本の中で
『人や動物の行動の原因について考えるときは「真逆」に見なければならないのである。つまり、その行動がなぜ起きるのかについての理由を考えるとき、その行動の前に何が起きたのかを考えるよりも、その行動の後に何が起きたのかを考えなければならない』
と述べています。
オペラント条件付けは主に「結果」によって行動が影響を受けると考えますから、その後の行動頻度の増減の度合いを見て、結果から「強化」だったのか、「罰」だったのか、「消去」だったのかを判断します。
これがオペラント条件付けの本質です。
そのためオペラント条件付けを知る上でここまで示してきた「結果」のところの知識があることは重要でしょう。
次のページではここまでの内容をまとめたページについて書いていきます。
【参考文献】
・ 奥田 健次 (2012) メリットの法則 行動分析学・実践編 集英社新書
・ 小野 浩一 (2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館
・ 坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) 行動分析学 行動の科学的理解をめざして 有斐閣アルマ