オペラント条件付けー消去のおさらい
オペラント条件付けにおける「消去(Extinction)」については、
「(ABAの基礎31)オペラント条件付け-消去(https://en-tomo.com/2020/08/25/operant-extinction/)」
に記載をしました。
このページで記載をしたのですが、オペラント条件付けにおける「消去」とは
「消去」とは「行動」に伴う(行動を増加させる)「強化子」を撤去することによる行動減少・消失が起こる現象
のことです。
この現象をABA療育に応用して使用する場合を「消去手続き」と言います。
ページ内ではお子さんの問題行動を減少・消失させたい場合、「罰」よりも「消去」の使用を優先すると書きました。
しかしPaul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) を参考に、
消去手続きにおいて例えば
・ 攻撃性が引き起こされること
・ 般化のしにくさ
・ 集団に対して使用する際の難しさ
など消去手続き使用について注意すべき点を述べていることを紹介し、「罰」も「消去」も問題行動を消失・減少させる際のファーストチョイスにならないと書きました。
「罰」については
「ABA自閉症療育で使う基礎理論(https://en-tomo.com/aba-basic/)」
の章で25から30にまとめられています。
「罰」も「消去」も問題行動を消失・減少させる際のファーストチョイスにならないと書きましたが、とはいえ「消去手続き」はのちに書いていきますが単独使用をしないだけで、ABA療育では使用する手続きです。
そのためこのページで「消去手続き」に伴う「消去バースト(Extinction Burst)」と「自発的回復(Spontaneous Recovery)」という現象について知っていきましょう。
消去バースト(Extinction Burst)
「消去バースト(Extinction Burst)」は消去過程で見られる特徴です。
日本行動分析学会 (2015) は消去を行うと、その後、反応バースト(※ 消去バーストのこと)として、問題行動が一時、それまでよりも増加する。その後、一定時間をかけて徐々に減少するという経緯をたどることが多いと述べています。
「消去手続き」を導入した場合、最初から徐々に行動が減少していくかといえばそうではなく、最初は一時的な増加が見られることが多いのです。
小野 浩一 (2005) は消去直後に消去バーストという急激な反応頻度の増加と反応強度の増加がみられる。そのときヒトを含む生態はしばしば情動的な反応を示す。また、近くに攻撃する対象があると攻撃行動が起こることがある。
ーーー(中略)ーーー
さらに「消去誘発性行動変容(Extinction-induced Variability)」という、今までに無いさまざまな行動を生態は示しはじめる。
と述べました。
Raymond .G .Miltenberger (2001)も著書の中で「消去バースト」についていくつかの特徴をあげています。それは、
・ 頻度の増大
・ 維持時間の増大
・ 強度の増大
・ 新しい行動が一時的に起きることがある
という内容です。
小野 浩一 (2005) やRaymond .G .Miltenberger (2001)の内容に合致しますが、私は後輩指導をする際、「消去バースト」について
消去に伴って生じる、一時的な行動頻度・維持時間・強度の増加と、それに伴う、強化を取りに来るため一時的に行動変容が起こる現象
と教えています。
加えて具体例として「自動販売機」のエピソードを伝えることが多いです。
私は仕事に行く際は電車を利用します。
ほぼ毎朝同じ駅から出発するのですが、家を出て、2分ほど、2回道を曲がった先に自動販売機があるのですが、出勤前にその自動販売機でブラックコーヒーを買うことが私の習慣です。
このような習慣がある人間が、以下のイラストのような場面に直面した場合、どうなるでしょうか?
自分に置き換えて考えてもらえれば幸いです。
(1)上のイラストのように、毎朝120円入れてボタンを押せばコーヒーが出てきていたのに、今日はコーヒーが出てきません。
(2)私はとりあえず、あと何回か購入ボタンを押してみると思います(頻度の増大)
(3)「反応が悪いのかな?」とも思いつつ、普段は1秒も押していないであろう購入ボタンを3秒くらいギューっと押してみたり(維持時間の増大)、
(4)普段よりも力を込めて押し込んでみたりします(強度の増大)
(5)普段しないお釣りのレバーをガチャガチャやってみたり、バンバンと数回自販機を軽く叩いてみるかもしれません。また、携帯電話で「ジュース 自動販売機 出ない」など、検索をするかもしれませんね(新しい行動が一時的に起きることがある)
このように普段、行動(お金を入れて購入ボタンを押す)に強化(コーヒー)が伴っていたもかかわらず、一度「消去」が始まる(お金を入れても、コーヒーが出てこない:行動しても強化が伴わない)となれば、「消去バースト」が始まるのです。
また上の例のように「消去バースト」はなにも自閉症児や発達に遅れのあるお子さんだけが示す反応ではなく、誰にでも生じる現象であることは覚えておきましょう。
このような現象が生じる可能性があるため「消去手続き」を療育に取り入れる場合には注意しなければいけません。
例えばPaul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) は
大声で叫ぶような問題行動を無視しようとする場合に、しばしば陥りがちな誤りがあります。
大声を出しても、これまで得ていた強化が期待できなくなったとき、生徒はより大きな声を頻繁に出すようになります。
そんなとき、しびれを切らして「おやおやどうしたの、大丈夫だよ。何が欲しいの」と言ってしまいがちです。
しかしそれは、大声を以前のレベルよりも強いレベルで強化していることになります。
その大声は強くなったレベルで残ってしまいます。
いったん消去手続きを始めたら、問題行動がどんなにエスカレートしようと無視し続けなければいけません。
と述べています。
「消去バースト」によってお子さんに叩かれることとか、家の中のものを投げられることとかが生じるため「消去手続き」をABA療育で用いる場合は注意が必要です。
叩かれるは我慢できるかもしれませんが、例えばリモコンをTVに向けて投げられてTVにヒビが入ったとき、我慢(無視し続けられる)できますか?
「消去手続き」によってこのような「消去バースト」が発生することを知識として知っていれば、TVの画面が破損するなどのリスクを抑える環境設定をしてから「消去手続き」を行おうという気持ちになるでしょう?
起こり得る可能性について、事前に把握しておく方が賢明です。
ABA療育の強みは「このようなことを今後したとき、こういった行動(結果)が生じる可能性がある」と、ある種未来が予測できる点にあるでしょう。
「消去手続き」を行うときは「消去バースト」が生じる可能性が高いことについては私たちは自覚しておき、「消去手続き」を行うのであればしっかりと消去が続けられる環境設定をしておく必要があります。
またこのように見ると一見して「消去バースト」について悪い印象を持ってしまうかもしれません。
しかし例えばWilliam・O’ Donohue & Kyle E. Forguson (2001) は
「消去バースト」について、生活態は、強化の中止(※ 消去のこと)に対して反応生起頻度や反応強度を一時的に増大させる。これを消去バーストという。
消去バーストは進化論的には合目的的な特徴なのである。自然環境内では、随伴性が次々に変わっていく。反応の多様性、強度、頻度が増大する消去バーストは、生活態の行動が新しい随伴性にうまくヒットする確率を高めてくれる
と述べています。
ヒトを含め動物が今の環境(随伴性)に合わなくなった(強化が無くなった)ときに、それを打開するための試行錯誤パターンが「消去バースト」と言えるでしょう。
このように考えれば「消去バースト」は私たちが生きていく(種の生存の)ために必要な一つの機能とも言えるのです。
またこの「消去手続き」による「消去バースト」を逆手にとって新しい行動を教える方法があります。
それは「シャイピング(Shaping)」と呼ばれる方法です(参考 実森 正子・中島 定彦, 2000)。
「シャイピング」についてはまたのちのページで記載していきます。
自発的回復(Spontaneous Recovery)
「消去バースト」と同じように「自発的回復(Spontaneous Recovery)」は「消去手続き」を行う際には知っておいて欲しいキーワードです。
Raymond .G .Miltenberger (2001) は消去のもう一つの特徴として、消去された行動が生じなくなってしばらく経った後に、その行動が再び生じることがあると述べている。
Raymond .G .Miltenberger (2001) はこの現象を「自発的回復(Spontaneous Recovery)」と呼び、自発的回復は自然な現象であるが、自発的回復が生じた時に消去の手続きが続いている場合にはその行動はそれほど長く続かないと述べました。
しかしRaymond .G .Miltenberger (2001) は自発的回復が生じた時、その行動がもう一度強化されると消去の効果が失われるとも述べています。
「(ABA自閉症療育の基礎23)オペラント条件付けー強化スケジュール(https://en-tomo.com/2020/08/18/aba-operant-reinforcement-schedule/)」
のページで紹介た内容に「間欠強化スケジュール」というものがあります。
このページでは、
「連続強化スケジュール」とは「標的行動のたびに強化子を提示する手続き」
と比較し、
「間欠強化スケジュール」について「標的行動が数回生じたときに1回強化子を提示する手続き」
と紹介をしました。
これは行動に対してたまに強化を行う手続きなのですが、過去の実験から間欠強化スケジュールの方が消去されにくいことがわかっています。
つまり自発的回復によってたまに起こってしまった行動(ほとんどは問題行動)に対してたまに強化してしまうことは「間欠強化スケジュール」への移行を促し、問題行動を長期的に残してしまう要因になるのです。
「自発的回復」が起こったときに強化を与えるということを行うということは、お子さんの問題行動を長く維持させてしまう可能性があるため、注意しなければいけません。
また、個人的にその他の消去に伴う「自発的回復」について知っていて欲しい理由も述べさせてください。
親御様は一度問題行動が「0」になると「解決した」と思います。
これは当たり前かと思いますが「自発的回復」の原理を考えれば、問題行動が一定期間「0」になったあとにピョコッとまた、たまに起こることがあるのです。
親御様は「今日は調子が悪いのかな」とか「やっぱり、行動が直ってなかった」などの理由づけをします。
「今日は調子が悪いのかな」と思った場合には「今日くらいはいいか」という気持ちで強化してしまい「間欠強化スケジュール」の沼にはまりがちです。
また「やっぱり、行動が直ってなかった」と思った場合には本当はうまく行っている支援に対してうまく行っていないと考えてしまい、療育のモチベーションが低下するでしょう。
そのため私は「消去手続き」を導入する際には「自発的回復」については自然に生じる現象であることに納得をしてもらい、「自発的回復」が生じるのは当たり前なので、もし長く問題行動が出て欲しくないのであれば強化しないように念押しするようにしています。
さいごに
このページでは「消去手続き」に伴う「消去バースト(Extinction Burst)」と「自発的回復(Spontaneous Recovery)」という現象について書いてきました。
この2つの現象と「消去に伴う行動減少」を加え、消去については以下のようなイメージで行うように後輩には伝えています。
「消去手続き」によって行動を減少・消失させようと思うと上のイラストのような経過をたどることが自然です。
でも知らなかったら「消去バースト」でビビってしまうし、「自発的回復」で驚いてしまいます。
そのような気持ちになってしまうことは知らなければ普通ですから、「消去手続き」を行うためにこのようなことを知っていることはとても大切です。
「(ABAの基礎31)オペラント条件付け-消去(https://en-tomo.com/2020/08/25/operant-extinction/)」
ではRaymond G. Miltenberger (2001) は消去手続きは「正の強化」を受けてきた行動の場合と、「負の強化」を受けてきた行動の場合でそれぞれ手続きが異なることを指摘しています。
と記載をしました。
この点も「消去手続き」をABA療育で取り入れる場合には知っておいた方が良いでしょう。
次のページでは「正の強化」の場合の消去と「負の強化」の場合の消去についてもう少し詳しく見ていきます。
【参考文献】
・ James E. Mazur (2006) LEARNING AND BEHAVIOR:6Th ed. 【邦訳 磯 博行・坂上貴之・川合伸幸 訳 (2008) メイザーの学習と行動 日本語版 第3版 二瓶社】
・ 実森 正子・中島 定彦 (2000) 学習の心理 第2版 サイエンス社
・ 日本行動分析学会 責任編集:山本 淳一・武藤 崇・鎌倉 やよい (2015) ケースで学ぶ行動分析学による問題解決 金剛出版
・ 小野 浩一(2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館
・ Paul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) Applied Behavior Analysis for Teachers:Fifth Edition 【邦訳 佐久間 徹・谷 晋二・大野 裕史 (2004) はじめての応用行動分析 二瓶社, p216-238
・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】
・ William・O’ Donohue & Kyle E. Forguson (2001) The Psychology of B.F.Skinner 【邦訳: 佐久間 徹 (2005) スキナーの心理学 応用行動分析(ABA)の誕生 二瓶社】