このページではオペラント条件付けの「消去(Extinction)」についてみていきましょう。
今ページは、
「(ABAの基礎16)オペラント条件付けの基本ユニット(https://en-tomo.com/2020/08/07/operant-basic-unit/)」
で紹介したイラストでいうと
「ココ」と書かれているところの紹介ページです。
またこのページは「オペラント条件付け」のページになります。
「(ABA自閉症療育の基礎6)レスポンデント条件付けの原理2(https://en-tomo.com/2020/07/19/responsive-conditioning-base2/)」
では「レスポンデント条件付け」における「消去」の手続きを紹介し「レスポンデント消去」と呼びました。
「レスポンデント消去」に対応してオペラント条件付けでの消去を「オペラント消去」と呼ぶこともあります。
普通、ABA療育で「消去」と言った場合、レスポンデント条件付けの消去ではなく、このページで紹介するオペラント条件付けの消去を指す場合が多いです。
そのためこのブログ内で「消去」と記載があった場合、基本的にはこれから紹介する「オペラント消去」のことであると思って読んでください。
オペラント条件付け-消去
実森 正子・中島 定彦 (2000) はそれまで強化されていた反応(※ 行動のこと)に対して強化子の呈示を中止すると、その反応は減少しついには条件付け前の水準(オペラント水準)に戻る、これを「消去」というと述べました。
「オペラント水準」とは行動が強化される前の水準(レベル、量)のことです。
「(ABA療育での行動の見方5)ABAでは行動の後が大切だが、前も考える理由(https://en-tomo.com/2020/07/04/before-action-reason/)」
では、
例えば「ABAについて知りたい、療育について知りたい」と思いブラウザーを開いたのは過去に「分からないことがあった時に検索をして解決した」という個人史があるからである
と問題行動だけでなく今あなたが行っている行動の多くは「既に学習された行動」であると書きました。
これは「わからない時は最初にとりあえずGoogleで検索する」などは現代人が「強められてきた(強化されてきた)」行動パターンと言えるでしょう。
もし何かわからないことがあったとき、ブラウザーを開いて検索をするという行動が強化されているとします。
結果、わからないことの答えに近づける内容の答えが見つかることでこの行動は強化されるのですが、何かわからないことがあったとき、ブラウザーを開いて検索をしても、何も答えに近づく内容がない(強化子が手に入らない)ことが続くとどうなるでしょうか?
きっと、私たちの行動は前の水準に戻るはずです。
つまり、何かわからないことがあったとき、ブラウザーを開いて検索をするという行動が減少していくでしょう。
小野 浩一 (2005) は「消去」について連続強化や部分強化(※ 間欠強化のこと)で強化されている行動に対して、強化子の提示を停止する手続きを「消去」と呼ぶと述べました。
小野 浩一 (2005) は消去手続きが実行されると、生起した行動にもはや何の環境変化も随伴しないので、今まで強化によって維持されていた行動は減少し、最終的には消失すると述べています。
実森 正子他 (2000) や小野 浩一 (2005) が述べているように、
「消去」とは「行動」に伴う(行動を増加させる)「強化子」を撤去することによる行動減少・消失が起こる現象です。
この現象をABA療育で意図的に使用した場合「消去手続き」と呼ばれます。
消去には「消去バースト(Extinction Burst)」と「自発的回復(Spontaneous Recovery)」という現象が伴うことは知っておく必要があるでしょう。
「消去バースト」と「自発的回復」については次のページで解説をしていきます。
オペラント条件付け-消去によくある誤解
ABA療育でなくとも、少し療育について知っている人は「消去」という言葉を既に聞いたことがあったかもしれません。
「消去」は療育において問題行動を減らす手段として紹介されるシーンが多いでしょう。
私が思う良くあると思う誤解は「消去 = 無視をする」という誤解です。
例えばお子さんの泣きがあったときなど「無視をする」ことで泣きを減らそうというように教えられたことがあるかもしれません。
しかし消去とはこのページで見てきたように「強化子の撤去」の手続きであるため、決して「無視」をするということでは無いのです。
Raymond G. Miltenberger (2001) は消去手続きは「正の強化」を受けてきた行動の場合と、「負の強化」を受けてきた行動の場合でそれぞれ手続きが異なることを指摘しています。
Raymond G. Miltenberger (2001) は
「正の強化」を受けてきた行動の消去では「正の強化子」が行動に随伴しないようにする。
過去に「負の強化」を受けてきた行動の消去では、嫌悪刺激を行動が起きた後でも撤去しない
と述べました。
「無視」の場合は「正の強化子」が行動に随伴しないようにする手続きになります。
「無視」の場合、
「(ABAの基礎20)オペラント条件付けー正の強化と負の強化(https://en-tomo.com/2020/08/15/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement1/)」
で紹介をした、行動のあとに伴う強化子が「人からの注目」の「注意引き(Attention)」や「要求行動(Tangible)」行動であった場合は有効になる可能性があります。
しかし「逃避・回避行動(Escape)」や「感覚刺激行動(Sensory)」の場合は有効な手段になりません。
特に「負の強化」である「逃避・回避行動(Escape)」の場合、Raymond G. Miltenberger (2001) を参考にすれば消去手続きは嫌悪刺激を行動が起きた後でも撤去しないように行わなければいけないため、消去手続きとしては機能しないでしょう。
例えば、お子さんに勉強をするよう促したタイミングや、嫌いな野菜を食べるよう促したタイミングでお子さんが泣いたとします。
この場合その泣きを消去しようとして、お子さんを無視したとしても消去手続きとしては機能せず、お子さんの泣きが今後減っていくことを期待することは難しいでしょう。
なぜならば、勉強をするよう促したタイミングや、嫌いな野菜を食べるよう促したタイミングでお子さんが泣いた行動の意味が「勉強」や「野菜」を撤去して欲しいという機能を有している可能性があり、
その場合親御さんが「無視をする」という結果はお子さんから見たときに「勉強」や「野菜」の撤去が成立するからです。
さいごに
このページでは行動を減少・消失させる方法、「消去」を紹介しました。
行動を減少・消失させる方法は「消去」の他に過去に紹介した「罰」があります。
「罰」は副次的な効果が伴いますのでABA療育で行動を減らす結果操作を行う場合には「罰」よりも「消去」が優先されます。
とは言っても「消去」も万能かといえばそうではなくPaul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) は
消去手続きにおいて例えば
・ 攻撃性が引き起こされること
・ 般化のしにくさ
・ 集団に対して使用する際の難しさ
など消去手続き使用について注意すべき点を述べています。
「罰」については
「(ABA自閉症療育の基礎25)オペラント条件付け-罰(https://en-tomo.com/2020/08/20/operant-conditioning-basic-punishment/)」
、
「罰の副次的な効果」については
「(ABA自閉症療育の基礎29)オペラント条件付け−罰の副次的効果(https://en-tomo.com/2020/08/23/punishment-secondary-effect/)」
を参照ください
「罰」も「消去」も問題行動を消失・減少させる際のファーストチョイスにならないとすれば一体、どうすれば良いでしょうか?
このことについては少し先のページで記載をしていきます。
このページでは「消去」について紹介をしてきましたが、
特に消去手続きを導入する際には消去に伴う「消去バースト」と「自発的回復」という現象が伴うことを知っておく必要があります。
「消去バースト」と「自発的回復」について次のページで解説をしていきます。
【参考文献】
・ 実森 正子・中島 定彦 (2000) 学習の心理 第2版 サイエンス社
・ 小野 浩一 (2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館
・ Paul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) Applied Behavior Analysis for Teachers:Fifth Edition 【邦訳 佐久間 徹・谷 晋二・大野 裕史 (2004) はじめての応用行動分析 二瓶社
・ Raymond G. Miltenberger (2001) Behavior Modification:Principle and Procedures/ 2nd edition 【邦訳 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】