(ABA自閉症療育の基礎28)オペラント条件付け−罰を使ったABA療育支援研究

「(ABA自閉症療育の基礎25)オペラント条件付け−罰(https://en-tomo.com/2020/08/20/operant-conditioning-basic-punishment/)」

のページ内で「罰(Punishment)」とは

特定の状況の下(A)で、特定の行動(B)が生起したとき、特定の結果(C)が伴う。

その後、特定の状況の下(A)で特定の行動(B)が消失・減少した場合、それは罰と呼ぶ

と紹介しました。



罰は支援の方法として適切ではない

現在では支援を行う際、罰の使用は最小化されるべきであると考えられています(J.M Johnston・Richard M Foxx・John W Jacobson・Gina Green・James A Mulick ,2006)。

ABA療育ではできるだけ「罰」を使用せずにお子さんの成長を促すことが大切です。

例えばPositive Behavior Support(ポジティブビヘイビアサポート)という考え方があるのですが、「PBS」では「個人の価値」が大切にされ「個人の尊厳と選択」が尊重されます

Edward G. Carr・Glen Dunlap・Robert H. Horner・Robert L. Koegel・Ann P. Turnbull・Wayne Sailor・Jacki L. Anderson・Richard W. Albin・Lynn Kern Koegel・Lise Foxが「Positive Behavior Support: Evolution of an Applied Science, 2002)。

※「PBS」については

「(自閉症ABA療育のエビデンス22)PBS:Positive Behavior Support(ポジティブビヘイビアサポート)(https://en-tomo.com/2020/06/18/positive-behavior-support/)」を参照


「罰」は非常に強力で迅速な行動変容を伴います。

しかし現在は「罰」を使用してのABAで療育支援を行うことは推奨されていません。

それは上に書いたような倫理的な問題もあるのですが「罰」には副次的な効果があり、ネガティブな効果も作用するためです。

このネガティブな「罰」の効果については次のページで書いていきますが、このページでは「罰」を使用した研究から「罰」がどのような支援効果を示すのかを見ていきましょう。



電気ショック(罰)を用いた行動変容支援

William・O’ Donohue  & Kyle E. Forguson (2001)は正の罰とは生活体の反応の直後に電気ショックのような刺激が提示されることを意味すると述べました。

確かに電気ショックのような強力な「罰」を行動のあとに提示をすると、強力な行動変容が生じます。

人間に対して電気ショックで行動変容をするというのは今では倫理的に難しい介入方法です。

過去の研究では、例えば自傷行為を行う3人の精神遅滞児に対しO. Ivar Lovaas・James Q. Simmons (1969)が電気ショックを使って自傷行為を減らそうとした研究があります。

この研究ではのちに紹介する「消去(Extinction)」と「罰」を使用してお子さんの自傷行為を減らすことを試みました


現代ではこのような内容の研究は倫理的にも許容されず、行うことが難しいでしょう



O. Ivar Lovaas他 (1969)の研究、「消去」の結果

O. Ivar Lovaas他 (1969)の研究では「消去」による自傷行為の減少結果が記載されています。

3人のうち2人のお子さんのデータが記載されており、90分間のセラピーを続けると

1人は10日、もう一人は自傷行為がなくなるまで53日を有しました。

「消去」による行動減少を狙った場合、お子さんによって上記のような時間がかかったようです。

「消去」についてはまたのちのページで記載をしていきますが、論文中「消去」の結果については以下のようなグラフが記載されています。


O. Ivar Lovaas他 (1969)の研究「消去」の結果。2人の結果が示されたが、
赤色で示されたお子さんは「自傷行為」が無くなるまで53日を有した

こののちに「消去」についての解説ページも設けていきますが、「消去」は一瞬で問題行動を消失させる手続きではありません。

お子さんにもよりますが「消去は行動を徐々に減らす」、このことは覚えておきましょう。



O. Ivar Lovaas他 (1969)の研究、「罰」の結果

対して「罰」は劇的な行動消失を示します。

「罰」の手続きとしてO. Ivar Lovaas他 (1969)はお子さんが自傷行為を行った(行動した)あと「電気ショック」を与えました。

消去のときと比較し、一瞬にして自傷行為が無くなることが分かります。

以下のイラストをご覧ください。


O. Ivar Lovaas他 (1969)の研究で電気ショックという「罰」を使用した結果、
「自傷行為」が一瞬で焼失した

O. Ivar Lovaas他 (1969) の論文では上のイラストのような劇的な行動頻度の減少が記載されています。

お子さんの自傷行為に「罰」として電気ショックを伴わせると自傷行為の急激な消失が見られました。


しかしO. Ivar Lovaas他 (1969)の研究ではお子さんに「罰」を与えた人の前では自傷行為が消失・減少したものの、お子さんに「罰」を与えていない人の前ではまた自傷行為は復活したとも述べられています。

また場所(部屋)が変わっても自傷行為は復活することもわかりました。

O. Ivar Lovaas他 (1969) の研究では「罰」を与えていない人の前ではお子さんは自傷行為を行うため、「罰」を与えていない人も「罰」として電気ショックを与える、

また場所(部屋)が変わっても自傷行為を行う場合も、違う場所でも「罰」として電気ショックを与えることで行動修正に成功しています。



O. Ivar Lovaas他 (1969)の研究は現在行うことが難しい

O. Ivar Lovaas他 (1969)の研究は非常にインパクトがあります。

現在では倫理的にもこのような研究は許されないでしょう。

Edward G. Carr・V. Mark Durand (1985) は子どもの自傷行為などといった深刻な問題行動に直面したとき、ABAは「消去手続き」、「タイムアウトや過剰修正、電気ショックなどの罰」によって解決を試みた時代があったと述べています。

このような実験を行えるということ自体が、既に過去の産物であると言えるでしょう。

「昔の人は倫理観がなかったのか?」と言われると、そういうわけではないと思います。

O. Ivar Lovaas他 (1969)の研究では子どもの自傷行為が激しく、例えば「自分の歯で指を噛み、そのため右手小指の第一関節を切断する必要があった」というエピソードが書かれています。

電気ショックを受けることと小指を失うこと、天秤にかけた場合、どちらが正義かは正直わからないです。

だから「電気ショックを使って良いという判断」が正しいかどうかという議論の余地はありますが、このような理由もあり

O. Ivar Lovaas他 (1969)は倫理的な問題を自覚しながら「すぐに自傷行為を辞めさせる必要がある」というこで「電気ショック」を使用したようです。



さいごに

このページではO. Ivar Lovaas他 (1969) の研究を参照し「罰」が行動に与える劇的な結果について述べました。


「(ABA自閉症療育の基礎25)オペラント条件付け−罰(https://en-tomo.com/2020/08/20/operant-conditioning-basic-punishment/)」

のページで、

「強化」は行動を増加させる、対して「罰」は行動を消失・減少させると聞くと、「罰は強化の反対なんだな」と思うかもしれません。

しかしまったく反対のことであるかと言えばそうではありません。

例えば「罰」には「強化」には無い、行動を減らす以外の副次的な効果が伴います。

と記載をしました。

「罰」には「強化」にはない副次的な効果が伴います。

この「罰」の副次的な効果はABA療育において「罰」の使用を控える理由になり得るのです。

「罰の副次的な効果」はお子さんの成長にとってネガティブな影響を与える可能性があります。



【参考文献】

・ Edward G. Carr・Glen Dunlap・Robert H. Horner・Robert L. Koegel・Ann P. Turnbull・Wayne Sailor・Jacki L. Anderson・Richard W. Albin・Lynn Kern Koegel・Lise Foxが「Positive Behavior Support: Evolution of an Applied Science (2002) Positive Behavior Support: Evolution of an Applied Science. Journal of Positive Behavior Interventions Volume 4, Number 1,Winter p4–16, 20

・ Edward G. Carr・V. Mark Durand (1985) REDUCING BEHAVIOR PROBLEMS THROUGH FUNCTIONAL COMMUNICATION TRAINING. JOURNAL OF APPLIED BEHAVIOR ANALYSIS No2 p111-126

・ J.M Johnston・Richard M Foxx・John W Jacobson・Gina Green・James A Mulick

(2006) Positive Behavior Support and Applied Behavior Analysis. The Behavior Analyst Spring; 29(1)p 51–74.

・ O. Ivar Lovaas・James Q. Simmons (1969) MANIPULATION OF SELF-DESTRUCTION IN THREE RETARDED CHILDREN. JOURNAL OF APPLIED BEHAVIOR ANALYSIS No3, 143-157

・ William・O’ Donohue  & Kyle E. Forguson (2001) The Psychology of B.F.Skinner 【邦訳: 佐久間 徹 (2005) スキナーの心理学 応用行動分析(ABA)の誕生 二瓶社】