PBS:Positive Behavior Support(ポジティブビヘイビアサポート)(ABA自閉症療育のエビデンス22)

「マインドフルネスとメタ分析(ABA自閉症療育のエビデンス21)(https://en-tomo.com/2020/06/17/mindfulness-evidence/)」

では「マインドフルネス」について紹介をした。

このページでは「PBS:Positive Behavior Support(ポジティブビヘイビアサポート)」を紹介をする。

「マインドフルネス」が親の心を整える作用を持つ方法であるとすれば「PBS」は発達に遅れのあるお子さんに対して親がどのように関わっていけば良いのか対策を示す指針と方法である。


Enせんせい

ストレスに対処するため「マインドフルネス」から自身のメンタルコントロールを覚える。そして、実際の行動問題や子育てについては「PBS」を使用することで対処をしていく。



PBSの概要

Edward G. Carr・Glen Dunlap・Robert H. Horner・Robert L. Koegel・Ann P. Turnbull・Wayne Sailor・Jacki L. Anderson・Richard W. Albin・Lynn Kern Koegel・Lise Fox (2002) は「Positive Behavior Support: Evolution of an Applied Science(積極的な行動サポート:応用科学の進化)」という論文を発表した。

この論文は「PBS」を定義し背景やこの後のビジョンについて声明を出したものとなる。

彼らはPBSの主な目的は個人がライフスタイルに関わる関係者(例えば教師、雇用主、両親、友人など)と楽しむ機会が得られる支援を行い、生活の質の向上を目指すことであると述べ、

上記の主な目的を達成するために個人が社会的に受容される方法で自分の目標を達成できるよう支援することが大切で、そうすることで問題行動を減らす、無くすことも重要となると述べた。



Edward G. Carr他 (2002) によれば過去研究で主な介入実施者は「専門家」、場所は「施設(例えば、研究室)」であったが、もっと個人の生活に密着した方法、家族や友人などが様々な場所で介入に関与する必要性がある。

「PBS」にはポジティブ行動を教えて強化、拡大するために必要な全ての教育方法が含まれポジティブ行動の出現機会を増やすため、介入方法はシステマティックに計画、変更される。

またノーマライゼーションとして障がいのある人たちがそうでない人たちと同じ環境で生活し、平等なチャンスに恵まれることや、インクルージョンとして障がいのない人たちが、障がいのある人たちの生活に積極的に参加することの大切さが強調されている。

そして障がいのある人たちの「生活状況」「寿命」「健康」「文化性」「安全性」などの個人的なニーズを満たすことにも焦点を当てる。


要約すれば

「PBS」は

障がいを持つ個人の生活の質の向上を目指した方法である

達成のためには問題行動の減少が重要となる

支援は様々な人や場所でオーダーメイドで計画される

ノーマライゼーションやインクルージョン、健康、寿命など、複合的な観点から個人のニーズを満たすように支援をしようとする考え方

である。



PBSで勧められる介入戦略

またEdward G. Carr他 (2002)によれば「PBS」では「個人の価値」が大切にされ「個人の尊厳と選択」が尊重される。

そのため「PBS」では人間性を低下させたり品格を低下させると判断される介入戦略は避けられることも特徴である。

そのため「親が自閉症児に与える影響(ABA自閉症療育のエビデンス20)(https://en-tomo.com/2020/06/16/parent-autism/)」

で紹介をしたが

『既にできている「良い行動」を増やす(強化する)ことで、相対的に「悪い行動」の割合を減らしていくという考え方』


できていることを褒めて増やし、相対的に不適切な行動を行う時間を減らしていく

という方法で療育を進めていくことは、PBSにおいて推奨される1つの療育手段と考えられる。



ABA自閉症療育で過去にあった介入戦略

例えばO. Ivar Lovaas・James Q. Simmons (1969) 自閉症児が自傷行動を行った際「電気ショック」を与えることで自傷行動を消失させることを目的とした研究を行っている

結果的に研究で自傷行為は減少したが現代では「PBS」が提唱したように、この支援方法は人間性を低下させる、品格を低下させると判断されるためなかなか認められないであろう。

※また別のページでもこの研究を紹介できればと思うがABAの基礎理論から「電気ショック」のような生態にとって罰となる可能性の高い結果を直前の行動に与えることは、即効性の高い行動減少の効果があることが分かっている

ただO. Ivar Lovaas他 (1969) も倫理的な問題は自覚し研究を行っていた。

研究内で子どもの自傷行為が激しく例えば「自分の歯で指を噛み、そのため右手小指の第一関節を切断する必要があった」という子どものエピソードが描かれている。

だから「電気ショックを使って良いという判断」が正しいかどうかは皆様に委ねるとして、このような理由から倫理的な問題は自覚しながらも「すぐに自傷行為を辞めさせる必要がある」という正義を持って「電気ショック」を使用したようである。

またこのような研究が行われた背景にはO. Ivar Lovaas他 (1969)の研究がかなり前の研究であり当時の時代背景があったことも書いておきたい。

※ちなみにこのO. Ivar Lovaasは

「O. Ivar Lovaas、1987年(ABA自閉症療育のエビデンス2)(https://en-tomo.com/2020/03/22/o-ivar-lovaas1987/)」で紹介した、

ABA早期療育の有名な研究を行った著者でもある



介入戦略に対する新しい考え方

例えばEdward G. Carr・V. Mark Durand (1985) を参考にすれば過去、O. Ivar Lovaas他 (1969) のように子どもの自傷行動などといった深刻な問題行動に直面した時、ABAは「消去手続き」、「タイムアウトや過剰修正、電気ショックなどの罰」によって解決を試みた時代があった。

Edward G. Carr他 (1985) が上のように述べたことを書いたので「消去手続き」、「タイムアウト」、「過剰修正」についても現代は使用しない過去の介入方のように思うかもしれない。

さすがに電気ショックは使わないが「消去手続き」と「過剰修正」については私は今でもたまに使用することがある。もちろん親御様の許可をとって行うが、私以外のABA療育家でも使用している人はいると思う。療育家の好みによるとは思うが、私は「タイムアウト」についてはほとんど使ったことがない。「消去手続き」、「過剰修正」、「タイムアウト」の理論と方法については別の章で紹介をしていく

そのような経緯からEdward G. Carr他 (1985) は「問題行動がどういった状況で出現するのか」を観察し「問題行動の目的」を分析しようと試み研究を行った。

彼らは研究の中で「大人からの注目の不十分さ」や「与えられた課題の困難さ」があった時に、子どもが問題行動を引き起こしていることを発見した。そこで彼らは「電気ショック」などの罰を使用するのではなく例えば難しい課題があった場合は子どもに「わからない」と口頭で答えることを教えた

※彼らの研究では上記の理由で問題行動を引き起こしていることを発見したが、問題行動の要因は「注目の不十分さ」と「課題の困難さ」だけでなく、状況を分析することでそれ以外の要因で問題行動が生じることも過去の研究では分かっている。あくまで、彼らの研究ではそうだった、というように読み取って欲しい

子どもが「わからない」と言えた場合ヒントが出され、褒められ、くすぐられるなど楽しい活動が与えられた。

結果、正しく「わからない」と相手に伝える行動が増加し問題行動は減少した。

彼らは「罰」を使用しなくても、問題行動が減少できるということを研究で証明したのである。



PBSでも勧められる機能分析

Edward G. Carr他 (1985)が研究で行ったような子どもが問題行動を行う目的を分析することを「行動の機能を分析」するという。

ABAでは行動の機能を分析する方法を「機能分析」と呼ぶ。

「機能分析」を行うことで問題行動の意図が読みとれ、問題行動を減らすための、他の適切な行動を考えることができる。

「では、どうするか?(ABA自閉症療育のエビデンス8)(https://en-tomo.com/2020/06/01/that-way/)」

の文中でも軽く触れているがABAで自閉症療育を行うとなった場合、基礎の理論を用いて行う機能分析は大変有用な武器になる。

問題行動があった時、対処するためのかなり有用なアプローチである。



他の人もPBSで機能分析が大切と述べている

Meme Hieneman(2015) も「PBS」についてABAと他分野のエビデンスに基づき、戦略を組み合わせた支援であると述べているが、PBSにおいても「機能分析」は大切なツールであると述べている。

Meme Hieneman(2015)は「PBS」は複雑な社会環境で生活する個人が抱える行動課題を解決し、自立や参加を促し全体的な生活の質を改善するプロセスであると述べている中で、

問題行動を取り扱う際は「行動の機能に重点をおいた介入法」を取る重要であり、

そのためには「周囲の協力」、「代替行動の設計」、「自然な強化子の使用」、「緻密な評価プロセス」、「社会的妥当性」などが必要になってくるが「機能分析」が必要となる

と述べている。

「機能分析」の方法については、また別の章で記載して行く。


機能分析では、お子さんが行動を行っている意味(行動の機能)を分析する


最後に

このページの序盤Edward G. Carr他 (2002)の論文の内容を見てきたように「PBS」にはかなり幅広い考え方が含まれる。

「PBS」とは問題行動に対してどうアプローチしていくのかも含め、障がいをもった人々の生活が豊になるための多方面からのアプローチの指針である。

「PBS」とは障がいがある人に対してどのように社会側がアプローチをして関わりを持っていけば良いかを示した指針と方法の考え方であった。

かなり幅広い内容であるため今回なんとなくかもしれないが「PBSとはなんぞ?」という概要をこのページで掴めていただければ嬉しい。

このページを読んで「PBSの考え方は素晴らしい」と思う人もいただろうし「かなり周りの人からの協力を仰ぐため、本当にそんなこと可能なの?」と理想論的に思い懐疑的になった人もいたかもしれない。


次のページからはいよいよここまでで紹介した「マインドフルネス(Mindfulness)」と「PBS:Positive Behavior Support(ポジティブビヘイビアサポート)」を組み合わせた、親のストレスをコントロールする研究を紹介しよう

「親が自閉症児に与える影響(ABA自閉症療育のエビデンス20)(https://en-tomo.com/2020/06/16/parent-autism/)」

でも紹介したが、ABAの療育を本格的に行っていこうとするのならば、親御様自身が自らの育児ストレスをコントロールできることは大切なことと思う。



【参考文献】

・ Edward G. Carr・V. Mark Durand (1985) REDUCING BEHAVIOR PROBLEMS THROUGH FUNCTIONAL COMMUNICATION TRAINING. JOURNAL OF APPLIED BEHAVIOR ANALYSIS No2 p111-126

・ Edward G. Carr・Glen Dunlap・Robert H. Horner・Robert L. Koegel・Ann P. Turnbull・Wayne Sailor・Jacki L. Anderson・Richard W. Albin・Lynn Kern Koegel・Lise Foxが「Positive Behavior Support: Evolution of an Applied Science (2002) Positive Behavior Support: Evolution of an Applied Science. Journal of Positive Behavior Interventions Volume 4, Number 1,Winter p4–16, 20

・ Meme Hieneman(2015) Positive Behavior Support for Individuals with Behavior Challenges. Behav Analysis Practice No8 p101–108

・ O. Ivar Lovaas・James Q. Simmons (1969) MANIPULATION OF SELF-DESTRUCTION IN THREE RETARDED CHILDREN. JOURNAL OF APPLIED BEHAVIOR ANALYSIS No3, 143-157