「(ABA自閉症療育の基礎16)オペラント条件付けの基本ユニット(https://en-tomo.com/2020/08/07/operant-basic-unit/)」
で紹介した、オペラント条件付けの基本ユニットのイラストで言えば
「ココ」と記載されているユニットについての説明となります。
これは、
「C:(Consequence):結果」というフレーム」
の中にあるところです。
私はオペラント条件付けの基本ユニットを紹介したページでも記載しましたが、行動を行ったあとに伴う結果について
「正の強化子:Positive Reinforcement」
「負の強化子:Negative Reinforcement」
「正の罰刺:Positive Punishment」
「負の罰子:Negative Punishment」
「中性刺激:Neutral Stimulus」
があると後輩には教えています。
上記の中から、
「正の強化子」が伴った場合には「正の強化」(もしくは、正の強化随伴性)
、
「負の効果子」が伴った場合には「負の強化」(もしくは、負の強化随伴性)
と呼ばれます。
提示型の正の強化、除去型の負の強化
「(ABA自閉症療育の基礎19)オペラント条件付け-強化とは?(https://en-tomo.com/2020/08/13/operant-conditioning-basic-reinforcement/)」のページで、
強化について私は、
特定の状況の下(A)で、特定の行動(B)が生起したとき、特定の結果(C)が伴う。
その後、特定の状況の下(A)で特定の行動(B)が増加した場合、それは強化と呼ぶと
後輩育成をするときに教えています。
と書きました。
「特定の結果が伴うことで、その結果が伴う直前の行動が増加した場合」、これを強化と呼ぶのですが、その例として
「
(教室で積極的に授業に参加した男の子)
先生が「答えが分かる人」と言ったとき(A)
挙手して答えを応えると(B)
先生が褒めてくれた(C)。
その後、先生が「答えが分かる人」と言ったとき(A)、
挙手して答えを応える行動(B)が増加した
」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「
(お腹が痛いので薬を飲む女性)
お腹が痛くなったとき(A)
痛み止めの薬を飲むと(B)
痛みがなくなった(C)。
その後、お腹が痛くなったとき(A)、
痛み止めの薬を飲む行動(B)が増加した
」
の2例を紹介し、この2つの例は「強化」の例でありそれぞれ「正の強化(Positive Reinforcement)」と「負の強化(Negative Reinforcement)」の例であると述べました。
上の例が「正の強化」で下の例が「負の強化」です。
「正の強化」が「提示型」の強化になります。
対して「負の強化」は「除去型」の強化です。
坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) は
環境に何かを付け加えることによる環境の変化を「提示型」
環境から何かを取り去ることによる環境の変化を「除去型」
と呼んでいます。
正の強化=提示型の例
「
(教室で積極的に授業に参加した男の子)
先生が「答えが分かる人」と言ったとき(A)
挙手して答えを応えると(B)
先生が褒めてくれた(C)。
その後、先生が「答えが分かる人」と言ったとき(A)、
挙手して答えを応える行動(B)が増加した
」
の例では、
というように「A(Antecedent)」の部分では存在しなかった「先生に褒められる(C:(Consequence):結果)」が、「挙手をして応える(B(Behavior):行動)」ののちに出現します。
このように「行動」する前になかった環境が、行動の後に出現するという結果を受け、その後行動が増加した場合、「正の強化」と呼ばれます。
負の強化=除去型の例
「
(お腹が痛いので薬を飲む女性)
お腹が痛くなったとき(A)
痛み止めの薬を飲むと(B)
痛みがなくなった(C)。
その後、お腹が痛くなったとき(A)、
痛み止めの薬を飲む行動(B)が増加した
」
の例では、
というように「A(Antecedent)」の部分に存在した「腹痛」が、「薬を飲む(B(Behavior):行動)」ののちに消失します。
このように「行動」する前にあった環境が、行動の後に消失(もしくは低減)するという結果を受け、その後行動が増加した場合、「負の強化」と呼ばれます。
ABAでは行動が増えた場合、それは「強化」と呼ばれます。
行動が増えたとき、その行動の前後の環境変化に注目し、
行動の前になかったものが行動ののちに出現し、行動が増えた場合を「正の強化」
行動の前にあったものが行動ののちに消失(もしくは低減)し、行動が増えた場合を「負の強化」
と呼びます。
正の強化と負の強化のそれぞれが持つ行動の機能(意味)
V. Mark Durand and Daniel B. Crimmins (1988) は自閉症児への自傷行為の研究で「Motivation Assessment Scale :動機付け評価尺度(MAS)」を開発しました。
「MAS」はお子さんの自傷行為の機能(意味)について、
「注意引き(Attention)」
「要求行動(Tangible) ※事物獲得行動とも呼ばれる」
「逃避・回避行動(Escape)」
「感覚刺激行動(Sensory) ※自己強化、感覚強化とも呼ばれる」
のどれにあたるか?を測るためのアンケートです。
療育を仕事にしている人は一度は聞いたことがあるかもしれませんが、
人が行動をする意味をざっくり4つに分けるとすれば、上記の4つに分類できます。
また、機能分析のページで詳しく書いていきますが、
簡単に言えば
「注意引き」とは「人からの注目や関わりという結果を求めて行動すること」
「要求行動」とは「物や活動という結果を求めて行動すること」
「逃避行動」とは「嫌悪的な状況や刺激が出現した際、それらを除去(もしくは低減)させる結果を求めて行動すること」
「回避行動」とは「嫌悪的な状況や刺激が出現しないよう行動すること」
「感覚刺激行動」とは「身体へ入ってくる感覚や刺激などの結果を求めて行動すること」
です。
私は空想など、一人で、自分の皮膚の内側で完結する結果を求めて行動した場合は「感覚刺激行動」と後輩に教えています。
行動の機能(意味)について、注意引きや回避などは、療育現場では良く言われるキーワードです
さて、上の4つの機能を見てもらえれば気がつく人は気がつくと思うのですが、
「注意引き(Attention)」
「要求行動(Tangible)」
「感覚刺激行動(Sensory)」
の3つは「正の強化」です。
「逃避・回避行動(Escape)」
「感覚刺激行動(Sensory)」
の2つは「負の強化」です。
「感覚刺激」だけどちらでもあり得る可能性があります。
例えば「得られる爽快感を求めてランニングをする」場合などは「正の強化」による「感覚刺激行動」と言えるでしょう。
対して「痒みの軽減を求めて背中を掻く」場合などは「負の強化」による「感覚刺激行動」になります。
このように行動の意味を知ることは療育を行っていく時に非常に大切です。
ABA療育で大切なことの1つとして、同じ形の行動であっても前後の文脈によって意味が違うことに注目するということがあります。
行動の型だけでは意味が理解できない
例えば「泣いている子ども」を想像してください。
お母さんが台所で料理に集中しているとき、突然泣き出すお子さんがいてお母さんが困っていたとします。
お母さんはすぐにお子さんのもとに行き「何か怖いことがあった?大丈夫よ!」と慰めます。
しかし、お母さんが料理をしているときにこのお子さんはよく泣くのでした。
この場合は「お母さんの関わり」が「強化」となっている可能性があります(注意引き)。
このような「注意引き」の場合、お子さんに教えたい行動は、例えば「ねーねー母さん」と、自ら泣かずにお母さんにアクセスする行動です。
別のお母さんは、お子さんに課題を行うように伝えたとき、泣き出すことで困っていました。
お母さんはお子さんに「わかったわ。そんなに嫌ならもういいわ」と言い課題を取り下げます。
この場合は「課題の消失」が「強化」となっている可能性があります(逃避行動)。
このような「逃避行動」の場合、お子さんに教えたい行動は、例えば「いやだ」と、自ら泣かずにお母さんにお願いする行動です。
上記の例から分かるように同じ「泣き」であっても、行動の前後の状況によって「教えるべき行動」が違います。
まったく見当違いの行動を教えていても、なかなか問題行動は減ってくれません。
行動の機能を理解するためにも、このページで書いてきた「提示型=正の強化」、「除去型=負の強化」というものの存在を知り、適切な教えるべき行動を考えていきましょう。
さいごに
このページでは「正の強化」と「負の強化」について書いてきました。
ABAでは行動が増えた場合、それは「強化」と呼ばれます。
行動が増えたとき、その行動の前後の環境変化に注目し、
行動の前になかったものが行動ののちに出現し、行動が増えた場合を「正の強化」
行動の前にあったものが行動ののちに消失(もしくは低減)し、行動が増えた場合を「負の強化」
と呼ぶ、このことをこのページでは学んできました。
次のページでは「正の強化」と「負の強化」を知っていることで使える、ABA療育のポイントについて書いていきます。
【参考文献】
・ 坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) 行動分析学 行動の科学的理解をめざして 有斐閣アルマ
・ V. Mark Durand and Daniel B. Crimmins (1988) Identifying the Variables Maintaining Self-Injurious Behavior. Journal of Autism and Developmental Disorders, Vol. 18, No. 1