「(ABA自閉症療育の基礎9)エクスポージャー(曝露療法)(https://en-tomo.com/2020/07/23/exposure-therapy1/)」
ではエクスポージャーを大人相手もしくは言葉の遅れのない小学校高学年以上くらいの子どもに適応する際の方法について触れました。
このブログは療育をメインに書いていますので、このページからは言葉に遅れがあったり、幼児期でまだ言葉の理解の乏しいお子さんに対してどうエクスポージャーを適応するかについて書いて行きます。
このページで行うエクスポージャーは例えば5W1Hや因果関係(〜だから)といった簡単な言葉の理解があるお子さんに対してエクスポージャーを使用する方法です。
小学生高学年や大人ほどの言葉の理解はないものの、少し自身の気持ちのモニタリングも可能で基本的な会話のやりとりは可能というお子さんをターゲットとした場合を想定して書いています。
さらに言葉の理解が難しいお子さんに対してのエクスポージャーについては次のページを参照ください。
エクスポージャーは「馴化」を利用したものである
「(ABA自閉症療育の基礎9)エクスポージャー(曝露療法)(https://en-tomo.com/2020/07/23/exposure-therapy1/)」で
飯倉 康郎 (2005) を参考にし「エクスポージャー」は不適応的な不安反応を引き起こす刺激に持続的に直面することにより、その不安反応を軽減させる支援方法です。
条件づけられた不安反応はそれを引き起こす刺激に持続的に直面させると次第に減少していきます。
引き起こす刺激に持続的に直面させると次第に減少していく現象は「馴化(じゅんか):Habituation」と呼ばれる現象です。
加えて
私も飯倉と同じように考えていて、
エクスポージャーとは「恐怖」や「嫌悪感」や「不安」などが本人の受け入れられるレベルに下がるよう、それらを引き起こす刺激に曝露(さらされる)ことを計画的に行っていく支援方法だと思っています。
と記載しました。
そして、以下のようなイラストをイメージとして添付しました。
イラストでは「場面A」で賦活された恐怖が、時間が経過した「場面B」では少なくなっています。
これは大切なことですが「馴化」というものは、エクスポージャーで支援を行ったから起こるわけではありません。
エクスポージャーの支援をしたから「馴化」が生じたのではなくて嫌悪感のある刺激に当たり続けると嫌悪感に馴化(慣れ)が生じ、嫌悪感が無くなっていく自然界の現象を利用したものがエクスポージャーです。
このように考えられれば嫌悪感のある刺激に当たり続ける設定さえ組むことができればまだ幼かったりして、言葉の理解が少ないお子さんに対してであったとしてもエクスポージャーが適応できます。
幼いお子さんへのエクスポージャー
当たり前ですが幼かったりして言葉の理解が少ないお子さんに対してエクスポージャーを行う場合も「やりなさい」「なんでできないの?」と言う姿勢では行いません。
子どもが体験している恐怖や不安に共感し安心できる状況をまず作ってあげた上で支援を行なっていくという姿勢で行います。
文頭にも書きましたが以下から紹介していく仮想事例は5W1Hや因果関係(〜だから)といった簡単な言葉の理解があるお子さんに対してのエクスポージャーを適応する際の一例です。
実際に行う際にはもっとたくさんポイントはあるのですが、このページではエクスポージャーを使用する際の概要をつかんでいきましょう。
今後「仮想事例ページ」などを作っていく中でもっと詳しい細かい事例内容については記載していければと思います。
エクスポージャーがお子さんに適応できることについては
「(ABA自閉症療育の基礎9)エクスポージャー(曝露療法)(https://en-tomo.com/2020/07/23/exposure-therapy1/)」で根拠は簡単なものですが記載をしました。
エクスポージャー、太郎くんの事例
例えば「親族以外の人とお話をするのが怖い」お子さんがいたとして、その子が慣れない人とお話しすることができないということで親御さんが困っていたとしましょう。
便宜上お子さんの名前を「太郎くん」とします。
エクスポージャーについてMichael Neenan & Windy Dryden (2006) はクライエントに通常は避けている状況に身を置いてもらったり、そういった状況で普通は避けている活動をしてもらうことであると述べました。
この事例でも太郎くんに通常は避けている状況に身を置いてもらったり、そういった状況で普通は避けている活動をしてもらうことがターゲットとされます。
太郎くんは慣れない人とお話しする際に不安が喚起されているのかいつもそういった場面では緊張して下を向いてしまっていました。
太郎くんは最近ヒーローものの特撮作品が特にお気に入りのようでした。
この仮想事例では「太郎くんが親族以外のあまり関わりのない人との関わりが拡大していくこと」が目的とされました。
例えばお母さんと行っている療育支援の中で、お子さんの好きなヒーローを取り扱い「ヒーローになりきってあいさつをカッコよくしよう」という内容の紙芝居を作って楽しむ時間を作りました。
その時間を楽しんだあと「実際にヒーローになりきってやってみよう!」という設定で遊びを作ったとします。
太郎くんの場合、お母さんと関わることに対してはそんなに不安を持っていないため楽しんで取り組める可能性が高いでしょう。
療育を通して太郎くんが楽しんでくれたとすれば「ヒーローになりきってあいさつをすること」の動機づけが一時的に上がっている可能性があります。
動機付けが上がっているため「今度、幼稚園の先生にカッコよくあいさつしてみない?」などの太郎くんへの提案は、「実際にヒーローになりきってやってみよう!」という設定で遊びを行う前と比較して受け入れやすくなっているでしょう。
もし太郎くんが「良いよ」と言ってくれたとすれば、その後お母さんが幼稚園の先生役になって太郎くんとロールプレイを通して練習をしていきます。
※ ロールプレイを通した練習とは特定の場面を設定した中でそれぞれ役割を持ち、特定の場面の再現を行うことで練習する方法です
※ ここで「良いよ」と言ってくれたからといって、決してその言質は今後に幼稚園の先生にカッコよくあいさつしてくれる根拠と呼べるほど強くないことは自覚しておきましょう
ロールプレイの時に上手くできたことをしっかりと褒め本番でも頑張れるよう励ましましょう。
怖くても、不安であったとしても、太郎くんが今までよりもあいさつをしてくれる確率が上がるように関わりの中でいろいろと支援する側が太郎くんが受け入れられる形で仕掛けていくことが大切になります。
例えば「あいさつをしよう」と決めた朝、お母さんから「今日はヒーローのようにかっこよくあいさつできるかな?上手くできたら、太郎くんの好きなプリンを帰ってから一緒に食べましょうね」など、決行の日にさらに動機付けが上がるようにすることもコツの1つです。
もし実際に太郎くんが幼稚園の先生にあいさつができたとすれば「馴化」が生じ、太郎くんが幼稚園の先生に対してあいさつをするという不安は少し低減します。
この時、最初に他の幼児ではなく先生を対象にあいさつをさせたこともポイントと言えるでしょう。
これを繰り返し、抵抗感を減らし、先生にできた後は次はお友達にあいさつをすることにチャレンジしよう!といったように療育支援内容のプランを作成していくのです。
そもそも周りの人からはほとんどその理由や原因がわからない。
レスポンデント条件付けの学習から発生したのかすらわからない太郎くんがなぜか持っている不安。
太郎くんはその不安によって今まであいさつを避けてきていました。
不安によってあいさつを避けてきたので「実際にあいさつをした時にどういう結果」が起こるかという事実に触れてきませんでした。
実際に「あいさつ」を経験し、太郎くん自身が「問題なかった(むしろ、褒められたりしてあいさつをした方が良い結果があった)」という経験を積むことが問題解決を支えます。
すごい曖昧ですが子どものエクスポージャー(大人のエクスポージャーもですが)ってこんな感じです。
※これは「ルール」という行動が影響しているのですが、それについては今後のオペラント条件付けのページで解説して行きます
きっかけもわからないけど不安感を抱えるお子さんはいます
「この子は物心ついた頃からこうなんです」などと親御様伝えられることも多いです
理由や原因がわからないわからないまま解決に向かって進んでいくことがあります。
そういった場合があることを受け入れあまり原因追及にこだわらず、わからないままでも積極的に解決するためのアプローチを行いましょう。
結局は「変わった」という「結果が特に大切」です。
エクスポージャー支援のポイント
話を戻して上記のように「馴化」を生じさせることを狙うのですが上の方法には実はいくつかポイントが隠れています。
(ポイント1)先生にあいさつをする場面を事前ロールプレイを通して練習する
ロールプレイをする意味は2つあります。
1つはアセスメントのため、もう1つは成功確率を上げるためです。
アセスメントのためとはお子さんは幼稚園の先生に対してあいさつをすることを具体的にイメージできていないかもしれません。
そのため実際どうすれば良いかイメージがどれくらい固まっているかを確認するため、ロールプレイを通してお子さんが上手くできそうか確認しましょう。
その時、例えばお子さんが挨拶するタイミングで「幼稚園の先生が他の幼児と話していた場合はどうする?」、「幼稚園の先生が思ったよりも遠くにいた場合はどうする?」、「あいさつしようとしたタイミングで他の幼児が話しかけてきたらどうする?」など、いろいろな想定されうるシチュエーションをロールプレイし、お子さんが対応できるかどうかを確認します。
成功確率を上げるためとは上に書いたいろいろな想定されうるシチュエーションをロールプレイし、お子さんが対応できなかった場合に対応できるように練習をしていく行程です。
例えば上の例でいえば、
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「幼稚園の先生が他の幼児と話していた場合はどうする?」→「先生が話し終わるまで少し待つ」
「幼稚園の先生が思ったよりも遠くにいた場合はどうする?」→「近づいて行ってあいさつする。その時、お母さんも一緒についてきてもらって大丈夫」
「あいさつしようとしたタイミングで他の幼児が話しかけてきたらどうする?」→『お母さんから他の幼児に「一緒に先生にあいさつしよう」と言って、先生にあいさつする』
など、その子ができそうな範囲の中での適切な解決策を伝授して行きます。
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など起こり得るであろう予想外の対応についてロールプレイを通して練習をしていくことで成功確率を上げていくことが大切です。
お子さんが実際に行動化してくれて、その中で成功経験を積むためにどうするか?がこの支援の最大のポイントと言えます。
(ポイント2)決行の日にさらに動機付けが上がるようにする
決行の日にさらに動機付けが上がるよう「今日はヒーローのようにかっこよくあいさつできるかな?上手くできたら、太郎くんの好きなプリンを帰ってから一緒に食べましょうね」とお母さんは声かけをしていました。
この時にお子さんが「やっぱりできない」と言ってきた場合、無理に実行することはないでしょう。
決行の日に朝から準備させることで行動するタイミングを明確化することでお子さんの気持ちの準備が整うよう設定します。
このポイントを生かす簡単なコツとしては練習をした次の日が決行の日であるとなおさら良いです。
お子さんが「やってみよう」と思えた日から、あまり日が開かない方がいいと思いまうす。
そのため決行の日はできるだけ練習をしてから、時間的に近い方が良いでしょう。
(ポイント3)最初に他の幼児ではなく先生を対象にあいさつをさせる
エクスポージャーは嫌悪的な刺激(この場合は慣れていない人に対してあいさつをする場面)に対して行動すること(この場合はあいさつ)を求めます。
コツとして大切なことは特に最初は「失敗をさせない」ことです。
相手が先生ではなく幼児のお友達であった場合は例えば無視される可能性もあります。
相手も別に無視をしようと思っていたわけでなく太郎くんが緊張して行ったあいさつは声がか細く、聞こえていなかったために結果的に無視をした結果となるかもしれません。
相手に悪気はなくともこの場合太郎くんは傷つきます。
「やっぱり上手くできなかった」となり状況がもっと悪くなってしまう可能性があるでしょう。
「お母さんがうまくできるって言ったけれども、失敗したじゃないか!」
ですのでもしあいさつをさせるならば、例えば先生を相手に行う(仲の良いママ友とかでも良いですね)などの工夫をして絶対に成功させましょう。
か細い声であったとしても「いいね!」
ただ口が動いただけで声は出なかったとしても「頑張ったね!」
口も動かせずただ先生の方をみただけだったとしても「すごいね!」
と言ってあげてください
親御さんと先生は事前に連絡を取り合い、決行の日、お子さんが何かしらアクションを起こした場合、上のように褒めることでお子さんの「頑張ってやってみてよかった」という気持ちを強めてあげることに努めます。
上記のように支援すると「馴化」が生じ、お子さんが抱える嫌悪感や不安感が徐々に減っていくことでしょう。
最後に今日先生とあいさつできたから、明日はお友達とあいさつしようね!と飛ばしながらやるのはやめた方が良いです。
「先生と4日連続であいさつすることができた。次はお友達とできそうかな?お友達の中でも次郎くんだったら優しそうだから大丈夫かな?それとも、最初は次郎くんのお母さんにあいさつしてみる?」など徐々にゆっくりとしたペースで行っていくことが大切になります。
さいごに
不安や恐怖や嫌悪感は、それを誘発する刺激や場面に当たり続けると、徐々に「馴化」によって減少します。
このページで紹介したエクスポージャーは例えば5W1Hや因果関係(〜だから)といった簡単な言葉の理解があるお子さんに対してエクスポージャーを使用する方法でした。
次のページではエクスポージャー支援を行う際のポイントについて見て行きましょう。
【参考文献】
・ Michael Neenan & Windy Dryden (2006) Cognitive Therapy in nutshell 【邦訳 監訳:大谷 彰 訳:玉井 仁 (2007)わかりやすい認知療法 二瓶社】