「(ABA自閉症療育の基礎4)レスポンデント条件付けの基本ユニット(https://en-tomo.com/2020/07/17/respondent-basic-unit/)」では、
という、レスポンデント条件付けにおける基本的な5つのユニットについて紹介をしました。
「(ABA自閉症療育の基礎5)レスポンデント条件付けの原理1(https://en-tomo.com/2020/07/18/responsive-conditioning-base1/)」に引き続きこのページはレスポンデント行動を引き起こすレスポンデント条件付けの基本原理の解説ページです。
レスポンデント行動を引き起こすレスポンデント条件付け手続きのことをこのブログでは「レスポンデント強化」と呼びます。
レスポンデント条件付けにおけるレスポンデント強化手続き
先のページ「(ABA自閉症療育の基礎5)レスポンデント条件付けの原理1(https://en-tomo.com/2020/07/18/responsive-conditioning-base1/)」の内容を整理しましょう。
図1のようにもともと「えさ」という「US:無条件刺激」は犬にとって「唾液(UR:無条件反応)」を引き起こす機能を有していました。
図2のように「えさ」という「US:無条件刺激」を提示するほんの少し前に「メトロノームの音」を繰り返し提示(対提示)します。
もともと「メトロノームの音」という刺激は犬にとって唾液を引き起こす機能を有していません。
このようなもともと「唾液(UR:無条件反応)を引き起こす機能を機能を有していない刺激のことを「中性刺激」と言います。
図3のようにもともと「メトロノームの音」という刺激は犬にとって唾液を引き起こす機能は無いため「メトロノームの音」はこの段階では上で書いた「中性刺激」です。
このことは大切なことですので、意識しておきましょう。
もしメトロノームの音という「中性刺激」が犬にとって唾液を引き起こす機能を有していなかったにもかかわらず、唾液を引き起こすことが生じるようになった場合「何かしらの学習が生じた」と考えます。
図4ーAのように「えさ(US:無条件刺激)」を提示するほんの少し前に「メトロノームの音(中性刺激)」を繰り返し提示(対提示)することを行います。
すると図3で犬の唾液を誘発することのなかった「メトロノームの音(CS)」が犬の唾液を誘発する機能を持ちます(図4ーB)。
この時、中性刺激によって引き起こされるようになった反応(唾液)は「CS:条件反応」と呼ばれます。
これが「レスポンデント学習」と呼ばれ「レスポンデント強化」と呼ばれる手続きです。
「US:無条件刺激」と中性刺激を繰り返し対提示すると、中性刺激が本来引き起こさなかった、USが引き起こす反応を誘発するという学習が生じ「CR:条件刺激」の機能を獲得するのです。
図5のように「CS:条件刺激」は「CR:条件反応」として唾液を誘発する機能を有するよう学習が生じます。
これがレスポンデント強化によって、レスポンデント条件付けが成立する原理です。
レスポンデント条件付けの成立条件
島宗 理(2019)はレスポンデント条件付けの成立に影響する大きな要因について紹介をしています。
1つ目の要因は誘発刺激(USやCS)と中性刺激の「提示順序」です。
「(ABA自閉症療育の基礎5)レスポンデント条件付けの原理1(https://en-tomo.com/2020/07/18/responsive-conditioning-base1/)」
でも紹介をしましたがレスポンデント条件付けにはいくつかのバリエーションがあります。
島宗 理(2009)によれば「同時条件付け」によるレスポンデント条件付けが一番条件付けを成立させる影響力がでかいようです。
レスポンデント条件付けにいくつかのバリエーションがあることを知ると、日常の実に様々なシチュエーションの中で学習が起こってしまうか理解できます。
2つ目の要因は誘発刺激(USやCS)と中性刺激の「時間差」です。
誘発刺激と中性刺激が提示される時間差が近ければ近いほど条件付けが生じる確率は高くなります。
3つ目の要因は誘発刺激(USやCS)と中性刺激が「対提示される確率」です。
レスポンデント条件付けでは誘発刺激(USやCS)と中性刺激が全ての試行で連続して対提示された方が、3回に1回や5回に1回対提示されるよりも学習が早く進みます。
その他の要因としてあげられているものは「誘発刺激(USやCS)の強さ」や「誘発刺激(USやCS)と中性刺激の類似性や共通性」、「試行間間隔の長さ」です。
「誘発刺激(USやCS)の強さ」は強い方が学習の影響力を高め、「誘発刺激(USやCS)と中性刺激の類似性や共通性」は高い方が学習の影響力を高め、「試行間間隔の長さ」は長い方が学習の影響力を高めます。
レスポンデント強化によってレスポンデント条件付けを達成するために、いろいろな条件があるのですね
二次条件付け
レスポンデント条件付けでCRを誘発するようになったCSを別の中性刺激と対提示することを繰り返すと、この中性刺激が新しくCRを誘発するようになります。
この現象は二次条件付け(second-order conditioning)と呼ばれるものです。
いったん条件付けを行ったCSは他の刺激に対してUSのような強化機能を持ちます。
さらに三次条件付けを行うことも原理的には可能です。
(参考, 今田 寛・中島 定彦 ,2003)
このことをお子さんのABA療育でどのように生かせるのかという視点から以下の内容をみましょう。
例えばお子さんがお父さんに大きな声で「怒られる(怒号:US:無条件刺激)」時に「眉間にシワ(中性刺激)が寄っている」ことが多かったとします。
※ 眉間にシワが寄っていることは、もともとお子さんの恐怖を引き起こさない「中性刺激」です
「怒号(US:無条件刺激)」はお子さんの「恐怖(UR:無条件反応)」を引き起こすとすれば、このことが繰り返されるとお父さんが「眉間にシワを寄せる行動」は「中性刺激」から「CS:条件刺激」の機能を持つようになり、「恐怖(CR:条件反応)」を引き起こす可能性があります。
ここまでは上で見てきたレスポンデント強化によるレスポンデント条件付けの内容と同じです。
このようなレスポンデント強化によって条件付けが生じた場合、
例えばお父さんが野球の試合を見ていて、贔屓が点を取られた時に「眉間にシワを寄せる行動(CS:条件刺激)」を行ったとすれば、今まで中性刺激であった野球の試合が、「眉間にシワを寄せる行動(CS:条件刺激)」と対提示されることとなり、新しく「野球の試合(CS2:条件刺激2)」の機能を獲得する可能性があります。
こうなれば「野球の試合(CS2:条件刺激2)」はお子さんの「恐怖(CR2:条件反応2)」を引き起こすのです(二次条件付け)。
このようにレスポンデント学習が連鎖をしていけば「なぜこれに対してこんなに恐怖や嫌悪感を抱くのかは分からないものの、なぜかイヤだ」というものが生まれてきます。
そのため私たちが意識をしていなくとも日常の様々なシチュエーションでレスポンデント条件付けが生じます。
レスポンデント消去
以上のようにレスポンデント条件づけによって学習が成立し新しい行動を行うようになるのですが、成立した学習を消す方法はないのでしょうか?
レスポンデント強化によって条件付けが成立する定義を思い出しましょう。
レスポンデント強化によって条件付けが成立すし、学習が生じることをレスポンデント強化と呼びます。
レスポンデント強化の定義は「中性刺激がUS(無条件刺激)と繰り返し対提示されることにより、中性刺激がCS(条件刺激)の機能を持つこと」でした。
実はレスポンデント強化によって条件付けられた学習を消去する「レスポンデント消去手続き」があります。
「レスポンデント消去手続き」は小野 浩一(2005)によれば、
「CSのみを単独で提示する」ことで生じます。
上の二次条件付けの例で書いたお父さんの眉間のシワのエピソードでみていきましょう。
ー(お父さんの眉間のシワのエピソード)ー
「怒号(US:無条件刺激)」はお子さんの「恐怖(UR:無条件反応)」を引き起こすとすれば、このことが繰り返されると、お父さんが「眉間にシワを寄せる行動」は「中性刺激」から「CS:条件刺激」の機能を持つようになり、「恐怖(CR:条件反応)」を引き起こす可能性があります。
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お父さんが「眉間にシワを寄せる行動」は「中性刺激」から「CS:条件刺激」の機能を持つようになった場合、「眉間にシワを寄せる行動(CS)」は「恐怖(CR:条件反応)」を引き起こすのですが、
その後「眉間にシワを寄せる行動(CS)」と「怒号(US:無条件刺激)」が対提示されないことが続くと、CSのみを単独で提示することになります。
このようなことが続けば「レスポンデント消去手続き」が生じ、理論的には「眉間にシワを寄せる行動(CS)」は「恐怖(CR:条件反応)」を引き起こさなくなるのです。
これは「CSのみを単独で提示する」ことであり、「レスポンデント消去」の例となります。
あえて「理論的には」と下線を引いて書いたのは「レスポンデント消去手続き」だけでは恐怖や不安、嫌悪感などを消せない場合もあるからです。
しかし、理論的には「CSのみを単独で提示する」ことで「レスポンデント消去手続き」になることは知っておきましょう。
次のページでは「レスポンデント条件付け」によって「恐怖」を条件付けた古典的な研究を紹介します。
【参考文献】
・ 今田 寛・中島 定彦 (2003) 学習心理学における古典的条件づけの理論 培風館
・ 小野 浩一(2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館
・ 島宗 理 (2019) 応用行動分析学 ヒューマンサービスを改善する行動科学 新曜社