「自閉症児が親に与える影響(ABA自閉症療育のエビデンス19)(https://en-tomo.com/2020/06/15/autism-parent/)」
では自閉症児が親に与える影響について述べた。
このページでは逆に親が自閉症児に与える影響について紹介していこう。
母親からの賞賛や母子関係が与える影響
Ashley C. Woodman・Leann E. Smith・Jan S. Greenberg・Marsha R. Mailick (2014)が行った研究は自閉症者を持つ406の家族を約8.5年追った研究である。
参加者の大半は男性の自閉症者(75%)で、うち69%が知的な遅れを持っていた。
彼らの研究は406家族から、継続的にデータが採取できた313家族から、
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・ 母親に5分間、途切れることなく子どもについて話すように求めた内容もデータ化され、5分間の中で肯定的な言葉など子どもに対しての「母親の賞賛」に焦点が当てられた
・ お子さんの状態を知るための自閉症症状などに加え、「母子関係の質」が調査された
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以上のオレンジ色で示されたデータを採取し、取り扱った。
研究開始時点での自閉症者の年齢は10歳~49歳と幅広く、66%が家族と同居していた。
研究で約8.5年家族を追った結果、母親の賞賛レベルが高い家族ほどお子さんの非言語的コミュニケーションや不適応行動が減少し、社会的な関係性の改善など自閉症症状が予測できた。
また同じ家族内を時間を追って見ていくと時間経過に伴い母子関係の質が改善されると、社会的な関係改善や不適応行動の減少が関連しており自閉症症状の減少に関連していた。
研究では家族と別居している自閉症者もいたがこれらの効果は自閉症を持つ成人が現在、家族と同居いるかどうかにかかわらず維持され、母子関係の永続的な重要性を強調した。
ただし彼らは研究中に述べているが、この研究の主なデータは「母親」が対象で「父親」についてではないため、今後「父子関係の質」と「父親からの賞賛」についての研究が必要と述べた。
これは「自閉症児が親に与える影響(ABA自閉症療育のエビデンス19)(https://en-tomo.com/2020/06/15/autism-parent/)」
で紹介したKelly A. Allen・Terence V. Bowles・Linda L. Weber (2013)の研究と同じコメントではあるが自閉症の家族研究では母親に焦点が当てられることが多い。
これは母親が子を育て、父親が仕事に行くなどの「社会的な役割」がまだまだ根付いているためだと思われる。
ABA自閉症療育では子どもを褒めて育てよう
Ashley C. Woodman他 (2014)の研究から私が言えるはシンプルに「お子さんのことを褒める」ことはした方が良い。
ABAの観点からも褒めることはお子さんの成長に繋がる。
私は親御さんに対して「もし子どもに1回注意するのならば、3回は褒めるところを探して褒めてあげてください」とアドバイスをすることがある。
ABAでは「悪い行動を減らす」方法として「既にできている適切な行動を増やすことで、相対的に悪い行動を減らしていく」という考え方がある。
悪いところばかり目についてしまうのは理解できるがそこに注目するだけではなく「普段できている当たり前過ぎて目につかない適切な行動(例えば、名前を呼んだら見る、言葉で要求する、挨拶するなど)」を褒めていくことが大切である。
これは既にできている「良い行動」を増やす(強化する)ことで、相対的に「悪い行動」の割合を減らしていくという考え方となる。
これはお子さんの「問題行動の修正しよう」と考えた時、良いことを伸ばすことで相対的に悪いことの割合を減らしていくという考え方であり、非常に有用である。
この考え方を持っているだけで療育方法のアイディアが増加するだろう。
子育てストレスが与える成長への影響
Lisa A. Osborne・Louise McHugh・Jo Saunders・Phil Reed (2007)は2歳6ヶ月から4歳の自閉症児65人(男性59人、女性6人)の家族を対象に研究を行った。
彼らは早期療育の前後に親へアンケートを行い両親の子育てストレスと療育効果の関係を調べた。
研究で親は介入前にアンケートに答え、介入が始まった9~10ヶ月後に再びアンケートに答えている。
9~10ヶ月の間、子どものほとんど(75%)が週平均11時間の1:1の指導を中心とした介入(55%)、他には週5時間小グループ(週5時間)の介入を受けた。
加えて両方からも介入を受けたお子さんも多く、他に言語療法(31%)や食事療法(60%)を受けているお子さんもいた。
研究に参加した家族の1週間あたりの平均介入時間は15.6時間であった。
Lisa A. Osborne他 (2007) の研究では1週間あたり15.6時間以上介入を行ったグループを「高時間グループ」と呼び、それ以下を「低時間グループ」と呼んだ。
研究の結果両親の子育てストレスは「低時間グループ」には影響しなかったが、「高時間グループ」では子育てストレスが高いと子どもが受ける療育の利益が減少してしまうことがわかった。
彼らは早期療育を計画する際は子育てストレスを考慮すべきと述べている。
彼らは両親のストレスレベルを減らすサポートすることは、時間のかかる早期療育プログラムにおいて、子どもがより大きな成果を達成することを助けるかもしれないと述べた。
高ストレスを抱えて療育をするのは勿体ない
Lisa A. Osborne他 (2007)の研究から言えることは、
「EIBIに必要な要素と診断の課題点(ABA自閉症療育のエビデンス7)(https://en-tomo.com/2020/04/05/eibi-essence/)」
や
「では、どうするか?(ABA自閉症療育のエビデンス8)(https://en-tomo.com/2020/06/01/that-way/)」
で紹介した早期療育を時間やコストをかけて行ったとしても、両親が高い子育てストレスを抱えながら行ってしまっては勿体ない。
その場合、親はストレスを自分でコントロールしなければ勿体ないだろう。
療育の効果が減少してしまう可能性があると言う、データが出ているのだ。
ただ「そうは言っても(子育てに)ストレスを感じる」という意見は私も今まで療育で関わってきた親御様からたくさん聞いてきた。
これは特別な悩み事ではない。たくさんのご家族様が感じているメジャーな問題だろう。
とはいえママ友などに「子ども育てるのってここストレスになるよね」などの悩み事を話したとして、自閉症児の親御様は共感してもらえない内容も多く、人に話を聞いてもらうことでストレス発散することもなかなか難しい場合がある。
※私はカウンセラー、療育家として親御様と関わるので親御様は私には話してはくれるがそれをママ友に共有しない・できない、ということは実は多かったりする
個人的には同じような悩みを持つ「自閉症児のコミュニティ」に参加することはそういった悩みを共感できると言うことで意味はあると思うが、そういったコミュニティに合わないとか、そもそもそういったコミュニティがないと言った人もいる。
では「どうやってストレスに対処すれば良いか?」について、次のページから方法を紹介していく。
このページでは親が自閉症児に与える影響について研究を紹介した。
次のページからは親のストレスをコントロールする研究を紹介する。これらは「マインドフルネス(Mindfulness)」と「PBS:Positive Behavior Support(ポジティブビヘイビアサポート)」という方法である。
これらの方法について簡単に紹介したのち、この2つをミックスした方法のエビデンスを紹介する。
【参考文献】
・ Ashley C. Woodman・Leann E. Smith・Jan S. Greenberg・Marsha R. Mailick (2014) Change in Autism Symptoms and Maladaptive Behaviors in Adolescence and Adulthood: The Role of Positive Family Processes. Journal of Autism and Developmental Disorders, DOI 10.1007/s10803-014-2199-2
・ Kelly A. Allen・Terence V. Bowles・Linda L. Weber (2013) Mothers’ and Fathers’ stress Associated with parenting a child with Autism spectrum Disorder. Autism Insights 10.4137/AUI.S11094
・ Lisa A. Osborne・Louise McHugh・Jo Saunders・Phil Reed (2007)Parenting Stress Reduces the Effectiveness of Early Teaching Interventions for Autistic Spectrum Disorders. Journal of Autism and Developmental Disorders Jul;38(6):1092-103. Epub Nov 20.