PRT VS PECS(ABA自閉症療育のエビデンス15)

PRTとPECSの比較研究

PRTとPECSと比較したRCTを紹介しよう。

「PECS」は日本でも聞き馴染みのある「ペクス」のことで「PECS」は日本語では「絵カード交換式コミュニケーションシステム」と呼ばれる、正しい名称は「Picture Exchange Communication System」である。



Laura Schreibman • Aubyn C. Stahmer (2014) は今までPRTやPECSを行ったことのない20ヶ月~45か月(平均29.21ヶ月)のお子さんたちを対象に研究を行った。

研究に参加した39人の子どもたちはそれぞれPRTグループ(20人)とPECSグループ(19人)にランダムに振り分けられた。

彼らによればPRTとPECSは同じABAの原理に基づく方法だが、違いとしてPRTは言葉による戦略を通じて、PECSは絵による戦略を通じてコミュニケーションを教えるという違いがあった。

彼らによればPRTとPECSは同じようにコミュニケーションを促進するためにその基礎として「動機づけ」、そして「子どもからの働きかけ」を重視するアプローチである。



この研究ではIQによるカットオフの基準はなかったが9つ以下の分かりやすい単語の理解は持っているお子さんが参加対象とされた。

研究では最初の15週間、親は週2回のペアレントトレーニングに参加し、家で週に2回、2時間の療育を行った。15週間経過した後の8週間は、親は週1回のペアレントトレーニングに参加し、家で週に1回、2時間の療育を行った。

家で療育を行ったのは学生であった。

15週間+8週間で23週間となり、だいたい半年くらいの研究期間となる。

研究ではペアレントトレーニングが組み入れられており、学生が療育を行っていない時間は親がお子さんに療育を行っていた。



研究の結果PRTとPECSの両方で言葉の少なかった子どもたちが、音声でのコミュニケーションで同様の大きな利益を得たことが示さた。具体的には、研究に参加した78%の子どもたちが少なくとも10の言葉を使用するようになったことが報告された。

PRTとPECSとの唯一の違いは参加した親たちがPRTよりもPECSの方が家庭で実施することに困難を感じたという点であった。

Googleなどで「PECS」を検索すると出てくるが、PECSでは絵カードを使ってコミュニケーションを教えていくがその際、絵カードを収納するブックを使用する。


PECSBookのイラスト。GoogleやYahooで画像検索するとすぐ出てきますよ

Laura Schreibman他 (2014) PECSでは絵やブックを準備し療育を開始する前に子どもが自分のブックを持っていることを確認する必要があるなど、PRTと比較してより多くの努力が必要なことが報告された親の困難の増加に寄与したと考察した。



PECSでも言葉の獲得が促進された

研究の中でも述べられているがこの研究の1つ注目すべき点はPECSを使用しても言葉の獲得が促進されたということである。

PECSは絵カードを使用してコミュニケーションを教えていくため「言葉の出現が遅くなるのではないか?」と懸念されることがある。

PECSでは子どもは絵カードを使ってコミュニケーションが成立するため、子どもは「言葉を使わなくても良いと思ってしまうのではないか?」という懸念である。

このような懸念について実は私も関わっている親御様や後輩から質問を受けたことがある。

この1つの研究だけで断言することは難しいがPRTと同じようにPECSでも子どもが要求したい機会を利用し、動機達成を叶えるようにシステム化されている。

そのためABAの基礎から理論的に考えてもPECSで言葉の使用が促進されると私も思っている。

PECSで療育を行うことは言葉を使っていく上での弊害にはならないだろう。



ここまででPRTについてのエビデンスは終了する。

「NBI(自然主義的行動療法)とDTTの対比(ABA自閉症療育のエビデンス10)(https://en-tomo.com/2020/06/04/dtt-nbi/)」で

「PRT」は「NBI(Naturalistic Behavioral Interventions:自然主義的行動療法)」の1つであることを書いた。

その後、

「PRTのエビデンス(ABA自閉症療育のエビデンス11)(https://en-tomo.com/2020/06/05/prt-evidence/)」

「DTT VS PRT(ABA自閉症療育のエビデンス12)(https://en-tomo.com/2020/06/05/dtt-vs-prt/)」

「PRTについて(ABA自閉症療育のエビデンス13)(https://en-tomo.com/2020/06/06/that-prt/)」

「PRISM(ABA自閉症療育のエビデンス14)(Pivotal Response Intervention for Social Motivation(https://en-tomo.com/2020/06/07/prismpivotal-response-intervention-for-social-motivation/)」

においてPRTのエビデンスから最先端の手法までを書いてきた。

※2020年6月11年現在の最先端の技法です

次のページではPRT以外のNBI「ESDM:Early Start DENVER Model(アーリースタートデンバーモデル)」について触れて行こうと思う。



【参考文献】

・ Laura Schreibman • Aubyn C. Stahmer (2014)A Randomized Trial Comparison of the Effects of Verbaland Pictorial Naturalistic Communication Strategies on SpokenLanguage for Young Children with Autism. Journal of Autism and Developmental Disorders, May;44(5)p1244-51