言葉を教えたいときの注意点ー「今は何をターゲットにしてるのか?」、二重課題を避ける(ABA自閉症療育テクニック27)

本ブログページでは言葉を教えるときの注意点として「今は何をターゲットにしてるのか?」を意識することについて書いていきたいと思います。


Enせんせい

ABA自閉症療育ではお子様に言葉を教えていくことがあります。

など、療育を通してお子様へ教えられることは多いです。


例えば、今、療育を通して上の例でも出した「名詞」を教えていたとしましょう。

「名詞」は結構序盤にやる課題かなと思います。


「これなんだ?」と聞いてお子様が「りんご」と答える課題(名詞を教えている課題)

例え上のイラスト、

あなたが「これなんだ?」と聞いてお子様が「りんご」と答える課題(名詞を教えている課題)です。

これは表出課題と呼ばれるものの一種ですが、この課題の意図としては、お子様が「りんごを見て認識し、りんごと言える」ことを狙っており、


イラストの男の子は「りんご」と綺麗に表現ができていますが、例えばこれがりんごを認識しているものの滑舌が不明瞭で「いんお」という言葉で表現をしていたとしたらどうでしょう?


「りんご」とは言ってそうだけど正しく「りんご」と発音できていない。

「りんご」を「いんお」と言ってしまっている。

どのように扱うか、「これは正しく課題に答えられていると言えるのか?」、判断に迷うような気もしませんか?


お子様がそのようなパフォーマンスを見せたこのとき、支援者側の対応として以下2つの選択肢が考えられると思います。


それは、

の2つです。



実は(1)(2)は「どっちでも良い」、「どっちでもあまり変わらない」という問題ではありません。

(1)(2)の対応をしっかりと支援者側は意識して行い分けなければいけません。


今回はそのことについて「言葉を教えたいときの注意点」として書いていきましょう。


注意点を見て行きましょう


「今は何をターゲットにしてるのか?」を意識するー背景

上では今療育を通して「りんご」を教えている一場面を例として書きました。

それはあなたが「これなんだ?」と聞いてお子様が「りんご」と答える課題でした。


これを課題として導入して練習をしているということは、

お子様はまだ安定して「りんごを見てりんご」と認識し、表現することがまだ難しいことを表しています。

これは例えばまだリンゴを見ても、以前に教えた「バナナ」と言ってしまうことがある、などの状況です。


上では「りんご」を教えている一場面でお子様は「いんお」と言ってきました。

この「いんお」というパフォーマンスは、



とか、



など前後の文脈を含めば周囲の人も「あぁこの子は今、りんごって言ったんだな」と解釈してくれるかもしれません。



お子様がそのようなパフォーマンスを見せたこのとき、支援者側として2つの選択肢を示しました。

それは、

の2つです。


私は「ABA自閉症療育の目的は?」と聞かれたとき、

と答えます、と例えば『(ABA自閉症療育の基礎90)ABA自閉症療育でのお子様の般化を促す「代表例教示法」(https://en-tomo.com/2021/07/09/aba-general-case-programming/)」』

のページで書きました。


『(ABA自閉症療育の基礎90)ABA自閉症療育でのお子様の般化を促す「代表例教示法」』のサムネイル

教えた行動、またはやって欲しい行動が、お子様の日常の中で行動化され強化されるためには、


例えばりんごについて話したいとき「いんお」と言ってしまったことで周囲の人が理解できず、

「いんお」と言っても周りの人から特にリアクション(他に周りの人はよくわからず困惑)がなかった。

このようにやり取りが成立しない、となった場合「強化を受けるためには機能」するは難しく、せっかく学習した「いんお」が消去されてしまう

という結果になることもあるでしょう。


ここまでの内容を読めば、



の2つの選択肢がある中で、


『(2)「りんご、だね。綺麗に言ってみよう!もう一回!」』が有力な選択肢に見えてくるかもしれません。


Enせんせい

しかし「今、これを練習していると言うことは、まだ安定してお子様はりんごを見て認識し、りんごと表出(言葉で表現すること)ができない」という文脈を取り入れて考えたとき、この文脈の上では私が推奨したいのは『(1)「そうだね!りんごだね!」と言って褒めてあげる』です。


それはどうしてでしょうか?

教えた行動が機能しなければ上で書いたように日常の中で消去(使ってもしょうがないと思ってお子様が使わなくなる)も生じる可能性もある中で、私は『(1)「そうだね!りんごだね!」と言って褒めてあげる』を推しています。

その理由を以下、書いていきましょう。



「今は何をターゲットにしてるのか?」を意識するーどうして?

「今は何をターゲットにしてるのか?」を意識することの最も大切な点は、

と言い換えられると思います。

しっかりと増やしたい行動を見定め、狙って行うことこそが大切です。


ここまで書いてきた例では、

今、これを練習していると言うことは、まだ安定してお子様はりんごを見て認識し、りんごと表出(言葉で表現すること)ができない

という前提条件のもとに書かれています。


「お子様はりんごを見て認識し、りんごと表出(言葉で表現すること)ができない」について上の方で、

とも書きました。


まだリンゴを見ても、以前に教えた「バナナ」と言ってしまうことがある場合、

「りんご」を「いんお」と言ったとき、本人はバナナではなく「りんご」と言おうとして言っている可能性が高そうな状況において、

お子様本人が「いんお」と表現してしまったとき、私たちが「りんご、だね。綺麗に言ってみよう!もう一回!」と言うことは、

となる可能性があるでしょう。


専門用語で「二重課題(にじゅうかだい)」という言葉があります。


この例で言えば、



という課題に加えて、



という2つの課題を同時に行なっていると言えるでしょう。



課題難易度が上がってしまう二重課題


そのような課題設定はしばしば難しい


木村 剛英 (2021) によれば二重課題は繰り返しトレーニングし鍛える方法はあるものの、

まだ明確な結論は得られていないものの、その転移効果は限定的であり乏しい可能性があるとのことのようです。


上の「転移効果」とは、二重課題を上手くするトレーニングでは、そのトレーニングを通してトレーニング上で上手くなったとしても、それが生活の中でありふれている二重課題が上手くなることに関連する、

という意味で(ABAでいう般化のようなもの)、その転移効果は限定的であり乏しいということであれば、そのトレーニングの効果自体がどうか、という話になります。


渡邉 慶・船橋 新太郎 (2015) も我々は日常生活において同時に複数の課題(二重課題)を遂行しなければいけない場面にたびたび遭遇するが、

二重課題における個々の課題のパフォーマンスは、それぞれの課題を単独で行ったときよりも低下するおとが知られておりこのことは「二重課題干渉」と呼ばれていると述べました。

渡邉 慶他 (2015) によれば二重課題干渉は脳の限られた処理資源の配分を巡って2つの課題が競合するために起こると考えられているとのことです。


Enせんせい

「二重課題」と呼ばれることは「あまり良くない」と療育でしばしば言われることがあり、

体感としても「正直効率良くないよな」とか「あまり良いわけではないな」と思っていたところ、

この度調べてみると客観的にも「やっぱり良くないんじゃないか?」という意見を目にすることができたことは良かったです。


Enせんせい


上で「今は何をターゲットにしてるのか?」を意識することの最も大切な点は、

と言い換えられると思いますと書きましたが、

ABA自閉症療育を行うとき、



を意識することが大切です。


「・ 安定してお子様がりんごを見て認識し、「りんご」と表出することを目指す」場合、

これは安定してお子様がりんごを見て認識し、「りんご」と表出することを強化することを意識した場合、とても大切だと思います。


もし今、滑舌が問題で明瞭生を上げていくことが課題であった場合は、

課題の順番としては「りんごを認識して表出する」ことができている上で、「りんご、だね。綺麗に言ってみよう!もう一回!」という関わりも大切になってくることもあるでしょう。

このとき『課題の順番としては「りんごを認識して表出する」ことができている上で』ということは大切です。


明瞭生が大切、ということももちろんです。

このようなときはりんごを覚える課題とは違う意識を持って、


「音声模倣」についてはいくつかのページで分けて書きましたが例えば『(ABA自閉症療育の基礎95)自閉症児の言葉・発声を促すプログラム「音声模倣」、綺麗な発音はどう教える?構音の仕方(https://en-tomo.com/2021/11/05/vocal-imitation-procedure/)』から追ってご観覧いただければ伝わるのではないかなと思っています。


『(ABA自閉症療育の基礎95)自閉症児の言葉・発声を促すプログラム「音声模倣」、綺麗な発音はどう教える?構音の仕方』のサムネイル

ここまで書いてきましたが、ブログタイトルにもある「今は何をターゲットにしてるのか?」を常に意識し、

について書いたブログページでした。

そうしないと「二重課題」となってしまい、課題がお子様にとってもの凄くハードルの高い課題となってしまうかもしれません。


本ブログページに出てきた「二重課題」という言葉を少し覚えておいてもらって、これからお子様へ療育をするときに意識してもらえれば嬉しいです。



さいごに

ABA自閉症療育は「何の行動を増やすか」を大切にしていると言えます。

これは「何の行動を強化するか?」とも言い換えられるでしょう。


本ブログページは、


お子様に何かを教えているとき、例えば本ブログページでは「りんごを認識して表出する」ことを例に出したのですが、

そのとき滑舌が不明瞭であれば、それはそれで気になるでしょうし、不安にもなるでしょう。


ただ、そういったとき一度「今は何をターゲットにしてるのか?」を考え直し、振り返って、

ということを意識して療育を行っていただければよいなと思います。


本ブログページがみなさまの日々のABA自閉症療育の参考になれば幸いです。

また次回もどうぞよろしくお願いいたします!



【参考文献】

・ 木村 剛英 (2021) 二重課題干渉により生じる問題の解決を目指して 基礎理学療法学 第24巻第一号 p46-52

・ 渡邉 慶・船橋 新太郎 (2015) 二重課題の神経生物学:二重課題干渉効果と前頭連合屋の役割 霊長類研究 31. P87-100