本ブログページでは言葉を教えるときの注意点として「今は何をターゲットにしてるのか?」を意識することについて書いていきたいと思います。
言葉を教えるときに少しやりがち、また迷う点でもあるかなと思う点です
ABA自閉症療育ではお子様に言葉を教えていくことがあります。
「名詞」「動詞」「色」「形」「対照概念(大きい、小さい等)」「カテゴリー(仲間)」「5W1H」「因果関係」「感想を言う」「説明を上手くする」
など、療育を通してお子様へ教えられることは多いです。
例えば、今、療育を通して上の例でも出した「名詞」を教えていたとしましょう。
「名詞」は結構序盤にやる課題かなと思います。
例え上のイラスト、
あなたが「これなんだ?」と聞いてお子様が「りんご」と答える課題(名詞を教えている課題)です。
これは表出課題と呼ばれるものの一種ですが、この課題の意図としては、お子様が「りんごを見て認識し、りんごと言える」ことを狙っており、
今、まだ安定してお子様はりんごを見て、りんごと表出(言葉で表現すること)ができないため、練習をしています。
イラストの男の子は「りんご」と綺麗に表現ができていますが、例えばこれがりんごを認識しているものの滑舌が不明瞭で「いんお」という言葉で表現をしていたとしたらどうでしょう?
「りんご」とは言ってそうだけど正しく「りんご」と発音できていない。
「りんご」を「いんお」と言ってしまっている。
どのように扱うか、「これは正しく課題に答えられていると言えるのか?」、判断に迷うような気もしませんか?
お子様がそのようなパフォーマンスを見せたこのとき、支援者側の対応として以下2つの選択肢が考えられると思います。
それは、
(1)「そうだね!りんごだね!」と言って褒めてあげる
(2)「りんご、だね。綺麗に言ってみよう!もう一回!」
の2つです。
『(1)「そうだね!りんごだね!」と言って褒めてあげる』は滑舌の明瞭度は気にせず、りんごと言えたことを褒めており、
『(2)「りんご、だね。綺麗に言ってみよう!もう一回!」』は滑舌が不明瞭だったことがあったために、綺麗に言い直すことを求めています。
実は(1)(2)は「どっちでも良い」、「どっちでもあまり変わらない」という問題ではありません。
(1)(2)の対応をしっかりと支援者側は意識して行い分けなければいけません。
(1)(2)どちらが良いかを決めるとき、ブログタイトルにある「今は何をターゲットにしてるのか?」がとても重要です。
今回はそのことについて「言葉を教えたいときの注意点」として書いていきましょう。
「今は何をターゲットにしてるのか?」を意識するー背景
上では今療育を通して「りんご」を教えている一場面を例として書きました。
それはあなたが「これなんだ?」と聞いてお子様が「りんご」と答える課題でした。
これはお子様が持っている知識を言葉で上手に表現できるよう、扱えるようにする課題です。
これを課題として導入して練習をしているということは、
お子様はまだ安定して「りんごを見てりんご」と認識し、表現することがまだ難しいことを表しています。
これは例えばまだリンゴを見ても、以前に教えた「バナナ」と言ってしまうことがある、などの状況です。
上では「りんご」を教えている一場面でお子様は「いんお」と言ってきました。
この「いんお」というパフォーマンスは、
園の先生が絵本を読んでいるときにりんごが出てきてお子様が指を刺して「いんお」と言った
とか、
お友達が「ぼくりんご好き」と言ったときにお子様が「いんお 好きなんだ」と言った
など前後の文脈を含めば周囲の人も「あぁこの子は今、りんごって言ったんだな」と解釈してくれるかもしれません。
でも文脈を含めて「いんお」と言っていても、周りの人は「この子、何を言っているんだろう」となり、言葉として機能しない場合もあるかもしれません。
お子様がそのようなパフォーマンスを見せたこのとき、支援者側として2つの選択肢を示しました。
それは、
(1)「そうだね!りんごだね!」と言って褒めてあげる
(2)「りんご、だね。綺麗に言ってみよう!もう一回!」
の2つです。
私は「ABA自閉症療育の目的は?」と聞かれたとき、
「教えた行動、またはやって欲しい行動が、お子様の日常の中で行動化され強化されること」
と答えます、と例えば『(ABA自閉症療育の基礎90)ABA自閉症療育でのお子様の般化を促す「代表例教示法」(https://en-tomo.com/2021/07/09/aba-general-case-programming/)」』
のページで書きました。
教えた行動、またはやって欲しい行動が、お子様の日常の中で行動化され強化されるためには、
教えた行動がお子様の日常の中で行動化したとき強化を受けなければいけません。
そして強化を受けるためには機能しなければいけません。
例えばりんごについて話したいとき「いんお」と言ってしまったことで周囲の人が理解できず、
「いんお」と言っても周りの人から特にリアクション(他に周りの人はよくわからず困惑)がなかった。
このようにやり取りが成立しない、となった場合「強化を受けるためには機能」するは難しく、せっかく学習した「いんお」が消去されてしまう
という結果になることもあるでしょう。
ここまでの内容を読めば、
(1)「そうだね!りんごだね!」と言って褒めてあげる
(2)「りんご、だね。綺麗に言ってみよう!もう一回!」
の2つの選択肢がある中で、
『(2)「りんご、だね。綺麗に言ってみよう!もう一回!」』が有力な選択肢に見えてくるかもしれません。
私が(2)を推しているようにも見えるでしょう
しかし「今、これを練習していると言うことは、まだ安定してお子様はりんごを見て認識し、りんごと表出(言葉で表現すること)ができない」という文脈を取り入れて考えたとき、この文脈の上では私が推奨したいのは『(1)「そうだね!りんごだね!」と言って褒めてあげる』です。
それはどうしてでしょうか?
教えた行動が機能しなければ上で書いたように日常の中で消去(使ってもしょうがないと思ってお子様が使わなくなる)も生じる可能性もある中で、私は『(1)「そうだね!りんごだね!」と言って褒めてあげる』を推しています。
その理由を以下、書いていきましょう。
「今は何をターゲットにしてるのか?」を意識するーどうして?
「今は何をターゲットにしてるのか?」を意識することの最も大切な点は、
増やしたい行動を明確にできるから
と言い換えられると思います。
しっかりと増やしたい行動を見定め、狙って行うことこそが大切です。
ここまで書いてきた例では、
今、これを練習していると言うことは、まだ安定してお子様はりんごを見て認識し、りんごと表出(言葉で表現すること)ができない
という前提条件のもとに書かれています。
「お子様はりんごを見て認識し、りんごと表出(言葉で表現すること)ができない」について上の方で、
「これは例えばまだリンゴを見ても、以前に教えた「バナナ」と言ってしまうことがある、などの状況」
とも書きました。
まだリンゴを見ても、以前に教えた「バナナ」と言ってしまうことがある場合、
「りんご」を「いんお」と言ったとき、本人はバナナではなく「りんご」と言おうとして言っている可能性が高そうな状況において、
お子様本人が「いんお」と表現してしまったとき、私たちが「りんご、だね。綺麗に言ってみよう!もう一回!」と言うことは、
お子様から見た課題難易度を著しく上げてしまう行為
となる可能性があるでしょう。
専門用語で「二重課題(にじゅうかだい)」という言葉があります。
この例で言えば、
・ まだ安定してお子様はりんごを見て認識し、りんごと表出できない
という課題に加えて、
・ 滑舌の明瞭性に課題、があり明瞭に言葉を伝えることが難しい
という2つの課題を同時に行なっていると言えるでしょう。
課題難易度が上がってしまう二重課題
正しく「りんごと表出する」ことと「明瞭にりんごと表出する」ことの2つを求めること、このような2つの課題が重なることを「二重課題」と呼ぶことが療育でしばしばあります。
木村 剛英 (2021) は2つの課題を同時に行う「二重課題」は我々が日常生活で何気なく行う一般的な課題であるが、
二重課題を行うと二重課題を構成する課題のうち片方、もしくは両方の課題成績がしばしば低下する、と述べました。
木村 剛英 (2021) によれば二重課題は繰り返しトレーニングし鍛える方法はあるものの、
まだ明確な結論は得られていないものの、その転移効果は限定的であり乏しい可能性があるとのことのようです。
上の「転移効果」とは、二重課題を上手くするトレーニングでは、そのトレーニングを通してトレーニング上で上手くなったとしても、それが生活の中でありふれている二重課題が上手くなることに関連する、
という意味で(ABAでいう般化のようなもの)、その転移効果は限定的であり乏しいということであれば、そのトレーニングの効果自体がどうか、という話になります。
渡邉 慶・船橋 新太郎 (2015) も我々は日常生活において同時に複数の課題(二重課題)を遂行しなければいけない場面にたびたび遭遇するが、
二重課題における個々の課題のパフォーマンスは、それぞれの課題を単独で行ったときよりも低下するおとが知られておりこのことは「二重課題干渉」と呼ばれていると述べました。
渡邉 慶他 (2015) によれば二重課題干渉は脳の限られた処理資源の配分を巡って2つの課題が競合するために起こると考えられているとのことです。
「二重課題」については「いけない」ということを私は慣例的に療育を始めたころに聞き始め、療育を行なっている人の中では一般的なことかと思っていました
今回、このブログ記事を書くにあたり「二重課題」を少し調べてみたところこのような論文に出会え、
「二重課題」はやはりあまりお子様に何か教えるときには良くないのかなぁと分間からも感じることができました
「二重課題」と呼ばれることは「あまり良くない」と療育でしばしば言われることがあり、
体感としても「正直効率良くないよな」とか「あまり良いわけではないな」と思っていたところ、
この度調べてみると客観的にも「やっぱり良くないんじゃないか?」という意見を目にすることができたことは良かったです。
ABA自閉症療育の観点を強くしてこのことを見たときはどうでしょう?
ABA自閉症療育では「何の行動を増やすか」を大切にしていると言えます。
上で「今は何をターゲットにしてるのか?」を意識することの最も大切な点は、
増やしたい行動を明確にできるから
と言い換えられると思いますと書きましたが、
ABA自閉症療育を行うとき、
・ 安定してお子様がりんごを見て認識し、「りんご」と表出することを目指すのか
・ 滑舌の明瞭性に課題があるため、明瞭に「りんご」と表出することを目指すのか
を意識することが大切です。
「・ 安定してお子様がりんごを見て認識し、「りんご」と表出することを目指す」場合、
お子様が仮に「いんお」という不明瞭な発音であったとしてもバナナではなくりんごを認識して表出している可能性が高いため、しっかり強化し、りんごを認識して間違えず正しく表出する確率を高めていくことが大切でしょう。
これは安定してお子様がりんごを見て認識し、「りんご」と表出することを強化することを意識した場合、とても大切だと思います。
「何の行動を増やすか」と考えたとき、このとき明瞭生ではなく安定してお子様がりんごを見て認識し、「りんご」と表出することを強化することを増やしたいのです。
もし今、滑舌が問題で明瞭生を上げていくことが課題であった場合は、
課題の順番としては「りんごを認識して表出する」ことができている上で、「りんご、だね。綺麗に言ってみよう!もう一回!」という関わりも大切になってくることもあるでしょう。
このとき『課題の順番としては「りんごを認識して表出する」ことができている上で』ということは大切です。
明瞭生が大切、ということももちろんです。
このようなときはりんごを覚える課題とは違う意識を持って、
個人的には「明瞭生は明瞭生を練習するプログラムで上げるのだ!」という意識を持ち、「音声模倣」のプログラムを用いて明瞭生を上げていくのが良いと思っています。
言葉を教える課題と音を綺麗にする課題(音声模倣)は別で考えて行うのが良いでしょう。
「音声模倣」についてはいくつかのページで分けて書きましたが例えば『(ABA自閉症療育の基礎95)自閉症児の言葉・発声を促すプログラム「音声模倣」、綺麗な発音はどう教える?構音の仕方(https://en-tomo.com/2021/11/05/vocal-imitation-procedure/)』から追ってご観覧いただければ伝わるのではないかなと思っています。
ここまで書いてきましたが、ブログタイトルにもある「今は何をターゲットにしてるのか?」を常に意識し、
強化したいことをしっかりと決めた上で療育を行うということが大切だよ、
について書いたブログページでした。
そうしないと「二重課題」となってしまい、課題がお子様にとってもの凄くハードルの高い課題となってしまうかもしれません。
本ブログページに出てきた「二重課題」という言葉を少し覚えておいてもらって、これからお子様へ療育をするときに意識してもらえれば嬉しいです。
さいごに
ABA自閉症療育は「何の行動を増やすか」を大切にしていると言えます。
これは「何の行動を強化するか?」とも言い換えられるでしょう。
本ブログページは、
私たちは「何の行動を増やすか」、「今は何をターゲットにしてるのか?」を考えて療育をやって行くことを伝えたくて書いたブログページです。
お子様に何かを教えているとき、例えば本ブログページでは「りんごを認識して表出する」ことを例に出したのですが、
そのとき滑舌が不明瞭であれば、それはそれで気になるでしょうし、不安にもなるでしょう。
ただ、そういったとき一度「今は何をターゲットにしてるのか?」を考え直し、振り返って、
明瞭生が問題なのであれば明瞭生は別の機会を作って教える
ということを意識して療育を行っていただければよいなと思います。
本ブログページがみなさまの日々のABA自閉症療育の参考になれば幸いです。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【参考文献】
・ 木村 剛英 (2021) 二重課題干渉により生じる問題の解決を目指して 基礎理学療法学 第24巻第一号 p46-52
・ 渡邉 慶・船橋 新太郎 (2015) 二重課題の神経生物学:二重課題干渉効果と前頭連合屋の役割 霊長類研究 31. P87-100