人間は「言語」を扱う生き物です。
しかし普段扱っているものの、あらためて「言語って何?」と聞かれると上手く言い表すことは難しいかもしれません。
本章はABAでの「言語」について書いていきます
今回は本章1発目ということでイントロダクション
「言語」は普段私たちが使用している身近なものです。
しかし自分自身がどのように獲得をしてきたのかも覚えていないこと、またその多様性から「言語って何?」と聞かれても答えるのが難しのではないかなと個人的には思います。
本ブログページは「ABA:応用行動分析学の言語行動」という新章としてスタートさせました。
ブログ内の「ABA自閉症療育で使う基礎理論」の章として書いていっても良かったのですが、今回新章としてスタートさせています。
「ABA自閉症療育で使う基礎理論」の章では主に「オペラント条件付け」や「レスポンデント条件付け」という学習理論を扱ってきました(その後、ABA自閉症療育に必要な内容を加筆してきた)。
※ 「ABA自閉症療育で使う基礎理論」は「https://en-tomo.com/category/aba-autism-treatment-basic-theory/」
私はABAでの「言語行動」は「オペラント条件付け」や「レスポンデント条件付け」という学習理論の基に成り立つ理論だと考えていますが、
この分野は切り離して考えても良い幅広い大きな分野だと思うため今回、別章としてスタートさせました。
まずは1ページ目ということでABAにおける言語行動の章、イントロダクション(導入)として以下書かせていただければと思います。
ABAにおける言語行動発展のざっくりとした流れ
ABAでの言語行動の発展について、ざっくりと2つに分けるとすれば、
1、ABAに多大な貢献をしたB.F.Skinnerの提唱した言語行動
からの、
2、その後に登場した関係フレーム理論(以下、RFT:Relational Frame Theory)
の2つの流れを汲んで現在、発展をしていると私は思っています。
支援で「ABA」と聞いたとき、「最もメジャーな支援対象領域は何か?」と言われると多くの専門家は本ブログページで扱っている「発達障がい」や「自閉症」と答えるのではないでしょうか?
ABAでもうつ病や不安障がい、強迫性障がいなども扱えるのですが「ABA」の支援でのメジャーどころは「発達障がい」や「自閉症」と認識されているように感じています。
そのようなABAの「発達障がい」や「自閉症」の範囲で「言語行動」と言った場合「1、ABAに多大な貢献をしたB.F.Skinnerの提唱した言語行動」を扱うことが多いです。
B.F.Skinnerが提唱した言語行動の流れも受け、今もRFTが発展しているABAの言語行動ですが、
ABAでメジャーな支援対象とされる「発達障がい」や「自閉症」領域ではあまりRFTは取り扱われず、
「発達障がい」や「自閉症」領域ではB.F.Skinnerが提唱した言語行動を使用した支援が主であることから、
「ABAでの言語行動 = B.F.Skinnerが提唱した言語行動」を認識している人も多いかもしれません。
個人的にABA自閉症療育では「1、ABAに多大な貢献をしたB.F.Skinnerの提唱した言語行動」を扱うことが多い理由ですが、
「ABA自閉症療育」は「幼児期」を対象に行われることが多いからだと思います。
例えば数多くの比較研究でのエビデンスも幼児期を対象に支援を行ったものが多いです
これは、「幼児期」の場合は大人と比べて言葉の発達もまだ未熟なため、複雑な言葉の理解に必要なRFTについての知識よりも、比較的シンプルな言葉の理解に必要なB.F.Skinnerの提唱した言語行動を重宝する、ということなのでしょう。
特に言葉の遅れている自閉症児や発達障がいの方への支援ではB.F.Skinnerの提唱した言語行動の知識は役立つものです。
例えばB.F.Skinnerの提唱した言語行動の考え方を重視した支援方法として「The Verbal Behavior Approach(VB:バーバルビヘイヴィア)」があり、発達障がいのあるお子様の言葉の促進に貢献しています(参考 Mary Lynch Barbera・tracy Rasmussen,2007)。
B.F.Skinnerの提唱した言語行動の知識はABA自閉症療育を行う上で知っておくべき知識です。
B.F.Skinnerの提唱した言語行動の知識は重要なため、あなたがABA自閉症療育の知識を集めていたとしたら、B.F.Skinnerの提唱した言語行動については目にしたことがあるかもしれません。
しかしあなたがABA自閉症療育の知識を集めていたとしても「2、その後に登場したRFT」についてはあまり目にしたことが無いと思います。
「2、その後に登場したRFT」は大人の言葉を使ったカウンセリングの際に用いられることが多いです。
ABA自閉症療育関連の書籍、日本語のものは私自身は結構読んでいると思いますが、テーマとしてRFTが取り扱われているところをほとんど見ません。
しかしABA自閉症療育で「1、ABAに多大な貢献をしたB.F.Skinnerの提唱した言語行動」を扱うことが多いからと言って、
「2、その後に登場したRFT」が自閉症療育には貢献しないかと言ったらまったくそんなことはないでしょう。
特に言葉の遅れが少ない自閉症や発達障がいの方達への支援では重要な役目を持つと思っていますし、
私自身もRFTを意識して支援を行っています
本章では「ABA:応用行動分析学の言語行動」ということで「1、ABAに多大な貢献をしたB.F.Skinnerの提唱した言語行動」だけでなく「2、その後に登場したRFT」も扱います。
RFTについてNiklas Törneke・Steven C. Hayes (2017) はRFTは人間の言語と認知を分析するための理論であり、研究プログラムで、ここ30年ほどの間で開発されてきたと述べています。
B.F.Skinnerは1904年に生まれ、1990年に亡くなっている(※)ようですが、
上の参考文献が発売されたのが2017年、30年前といえば1987年で、B.F.Skinnerの亡くなる数年前からRFTは開発が進んできたことになります。
※ B.F.Skinnerの生まれと亡くなった日についてはWikipediaを参考、ページ最下部の参考文献に有り
RFTはB.F.Skinnerの提唱した言語行動の考え方よりも後に開発されてきた比較的新しい理論です。
本章でB.F.Skinnerの提唱した言語行動、そしてRFTについてこれから本章で見ていければと思います。
以下、おまけです
おまけ:B.F.Skinnerの提唱した言語行動とチョムスキー
さて、本ブログページのおまけページとしてABA以外の言語研究についても簡単に触れておきましょう。
William .O’ Donohue・Kyle E. Forguson (2001) によればB.F.Skinnerの言語についての研究は1934年に始まりました。
この1934年はB.F.Skinnerが30歳のころでチョムスキーがB.F.Skinnerの言語研究への酷評を書いたのは1959年、奇しくもチョムスキーが30歳のころでした(参考 William .O’ Donohue他,2001)。
B.F.Skinnerの言語行動の理論はチョムスキーという学者によって批判されました
例えばどのような批判だったのでしょう?
小林 春美・佐々木 正人 (2008) の著書を参考にすれば、
言語獲得理論の現代的な流れの最初に位置するのがB.F.Skinnerの言語行動の行動主義アプローチであったが、チョムスキーはそれを強く批判し、言語獲得理論研究に革命的変化をもたらした
※ 本ブログのABA(応用行動分析学)は「行動主義アプローチ」にあたる
行動主義では子どもの姿を刺激と反応の連鎖を形成するだけのきわめて受動的なものと描いていると批判し、実は子どもは脳の中に言語のルールを持っており、
外界からの情報に基づいてそのルールを変更・完成させていく能動的なものだと主張した
子どもが独自のルールを持っている証拠の一つに、子どもは単純に正しい文法を獲得していくのではなく、一時期誤用することが挙げられる
英語の動詞の形態素獲得過程では、wentの代わりに子どもは一時期goedを使う時期がある
goの過去形は「-ed」を付けた「goed」ではなく「went」
大人はこんな間違いはしないので、これは大人の言葉の模倣とは考えられない
また、こうした誤りを大人がほめるはずはないから、強化されることもありえない
こうした独自の誤りを子どもが犯すのは、実は子どもが能動的に言語獲得に取り組んでいる証拠である
子どもが動詞の過去形の形態素-edを獲得する過程で、この形態素をいわゆる不規則動詞にまで誤って使ってしまったとしか考えられない
ーーー以上、小林 春美他 (2008) の著書を参考ーーー
以上のような主張でした。
そしてチョムスキーが創始した理論は「生成文法理論」と呼ばれます。
私個人の考えとしては「生成文法」では人間が持っている言葉の力があり、その言葉の力が開花していく中で言語獲得をして行くと考えるチョムスキーの理論の立場、
環境との相互作用を通して言語を学習し獲得して行くという立場の「行動主義(ABAも含む)」、このような違いがあるのかなと考えています。
どちらが正しいということも無いように思うのですが、本章で解説していくのは「ABA、行動主義の立場から言語行動」です。
言語とひとことで言っても「行動主義アプローチ」や「生成文法理論」など、いろいろなアプローチがあります。
小林 春美 (2005) を参考にすれば、B.F.Skinnerとチョムスキーの理論以外にも「社会言語学」などもあるようです。
心理学の枠組みの中でさえ「言語行動」というものにもさまざまな立場がある、ということについて今回お伝えしたいこともあり、チョムスキーとB.F.Skinnerのエピソードを引き合いに出しおまけとしてご紹介いたしました。
本章で書かれている「言語行動」は心理学分野の知識です。
しかし心理学と言ってもいろいろとあり、本章で扱うのは『心理学分野の1つであるABAから見た「言語行動」』、という点を最初にお伝えさせていただきました。
さいごに
本ブログページは新章「ABA:応用行動分析学の言語行動」の最初にページでした。
「言語」、そして「言葉」は私たちが普段から使っているものです。
しかし「言語って何?」と聞かれると、なかなか答えるのは難しいでしょう?
本章では「言語って何?」についてABAの観点から考えて行く、という趣旨で書いていきます。
そして、本ブログはABA自閉症療育のブログです。
そのため「言語って何?」ということをABAで書いて行く中で自閉症療育にも使えるようなことも書いていければなと思っています。
本ブログページでも書きましたが、ABAでの言語行動の発展について、ざっくりと2つに分けるとすれば、
1、ABAに多大な貢献をしたB.F.Skinnerの提唱した言語行動
からの、
2、その後に登場した関係フレーム理論(RFT:Relational Frame Theory)
の2つの流れを汲んで現在、発展をしていると私は思っていると書きました。
特にABA自閉症療育については幼児期を対象に書かれているものが多いです。
そのためABA自閉症療育を調べている中で「1、ABAに多大な貢献をしたB.F.Skinnerの提唱した言語行動」についての知見は触れることはできるものの、
「2、関係フレーム理論(RFT:Relational Frame Theory)」に対しての知見にはあまり触れる機会がない、私はそう思っています。
しかし、RFTの知見も充分ABA自閉症療育に役立つ知識です。
本ブログの本章で一緒にABAの「言語行動」について学んでいければと考えていますので、どうぞよろしくお願いいたします。
【参考文献】
・ 小林 春美 (2005)【中島 義明・繁桝 算男・箱田 裕司 (2005) 新・心理学の基礎知識 Psychology:Basic Facts and Concepts 有斐閣ブックス】
・ 小林 春美・佐々木 正人 (2008)新・子どもたちの言語獲得 大衆館書店
・ Mary Lynch Barbera・tracy Rasmussen (2007) The Verbal Behavior Approach How to Teach Children with Autism and Related Disorder 【監訳 杉山 尚子 訳 村上 裕章 (2021) 言語行動 VB指導法 発達障がいのある子のための言語・コミュニケーション指導 学苑社】
共有:
・ Niklas Törneke・Steven C. Hayes (2017) A Professional’s Guide to Using the Science of Language in Psychotherapy 【監訳:武藤 崇・大月 友・坂野 朝子 訳:大槻 友・大屋 藍子・上村 碧・佐藤 友哉・坂野 朝子 (2021) メタファー 心理療法に「ことばの科学」を取り入れる 星和書店】
・ William .O’ Donohue・Kyle E. Forguson (2001) The Psychology of B.F.Skinner 【邦訳: 佐久間 徹 (2005) スキナーの心理学 応用行動分析(ABA)の誕生 二瓶社】
・ Wikipedia https://00m.in/1b0B7