ABAでは言語も行動と捉えます。
「行動」と言えば「身体を使った運動」や「すぐに動き出すこと」などをイメージされるかもしれません。
ABAでは言語も行動と捉える、というところを知っておいていただいて、「言語行動」、「言語」とイメージしたとき、
みなさんはどういったことをイメージするでしょうか?
・ 朝、職場の人と出会ったときに「おはよう」と交わす挨拶
・ 「ねーねー、ちょっと聞いてよ」と相手に話しかけること
・ 「それ、ちょっと貸してくれない?」という要求
・ 「私は、いいや。いらない」という主張
・ 誰も見ていない所で声に出して「頑張れ!やればできる!」と自分自身に言い聞かせる鼓舞
以上のものは「発声」という形で「言葉」を声に出して、他者もしくは自分自身に伝えるということなのですが、
私は一般的なイメージは上で例に挙げたように「言葉」を「発声」して音に変換し、「他者もしくは自分自身に伝える」イメージが最も一般的ではないかなと思います。
本章の1つ前のページ「ABAにおける言語行動、イントロダクション:おまけ【B.F.Skinnerの提唱した言語行動とチョムスキー】(ABA:応用行動分析学の言語行動1)(https://en-tomo.com/2023/11/03/introduction-of-verbal-behavior-in-aba/)」にて、
ABAでの言語行動の発展について、ざっくりと2つに分けるとすれば、
1、ABAに多大な貢献をしたB.F.Skinnerの提唱した言語行動
からの、
2、その後に登場した関係フレーム理論(RFT:Relational Frame Theory)
の2つの流れを汲んで現在、発展をしていると私は思っていますと記載しました。
本ブログページでは、「1、ABAに多大な貢献をしたB.F.Skinnerの提唱した言語行動」における言語行動の定義について見ていくことにしましょう。
スキナーが唱えた言語行動の定義
本当は簡潔に一言で分かりやすくスキナーの言語行動についてバシッと言えれば良いのですが、
スキナーの唱えた言語行動の定義について最初から分かりやすく簡潔に一言で表すことは難しいなと感じるところです。
そのため、スキナーの唱えた言語行動についていろいろな側面から「こういった特徴を持っているよ」という形でご紹介をして行き、最後にそれらをまとめてお示しできればと考えています。
では以下、見て行きましょう。
(1)発声は必ずしも必要ではない
スキナーの提唱した「言語行動」ですが、
スキナーの言語行動の定義では、声に出す(Verbal)ことは言語行動の必須の条件に含まれていません(参考 谷 晋二,2020)。
ここは普段私たちが「言語」を扱うことをイメージしたとき、少しギャップのある点ではないでしょうか?
谷 晋二 (2020) は頭の中で考えることも、動作やサインも文字も、スキナーの言語行動の定義を使えば言語行動のひとつの形態として扱うことができると述べました。
発声を伴わない言語行動のおもしろい例として谷 晋二 (2020) は、
ボタンを押すと店員がやってきて「御用はなんでしょう」とやってきてくれる
この行動は話し手が「すみません」と店員を呼ぶ行動と機能的には全く同一の機能を持っている
聞き手は店員で、店員がテーブルにやってくるという強化は聞き手によって提供されている
そのためこの場合のボタン押し行動は言語行動の1つである
というエピソードを紹介しています。
このようにスキナーの唱えた言語行動では、
(1)発声は必ずしも必要ではない
という特徴を知っておきましょう。
本ブログページ続きでも発声を伴わない言語行動の例も出てきますので、
今は「そうなんだ」というくらいの気持ちで読み進めていただければ幸いです
(2)言語コミュニティの他者(メンバー)によって強化される
谷 晋二 (2020) はスキナーの言語行動を定義したとき、
【1】言語コミュニティの
【2】他者(メンバー)によって
【3】強化される
の3つの重要な要素が含まれると述べました。
そのためスキナーの唱えた言語行動では、
(2)言語コミュニティの他者(メンバー)によって強化(罰)される
ものである、ということを知っておきましょう。
※ 小野 浩一 (2005) は「言語行動は聞き手を介した環境変化によって強化(弱化:罰のこと)される」と述べており、小野を参考に(2)の中に(罰)も入れました
※ 「強化」は行動を増加させる意味を持ち、「罰」は行動を減少・消失させるという意味です
上で出したボタンを押すと店員さんがやってくる例でも「他者のメンバー」によってボタンを押すという「言語行動が強化されている」ことがわかります。
このように言語コミュニティでは相互に影響し合う関係が出来上がっており、話し手の行動が聞き手によって強化され「機能する」関係が成り立っています(参考 谷 晋二,2020)。
スキナー (1977) はオペラントの分析では、言語行動は所与の言語環境で行動に付随する後続事象によって決定されている、と述べていますが、
話し手が「言語行動」を発動し、聞き手がその行動を強化されるコミュニティ、という関係が言語行動の成立には必要です。
「他者のメンバーによって強化される」はわかりやすいように思いますが、「言語コミュニティの」というところはどのように考えれば良いでしょうか?言語コミュニティの中で共通理解がない例を考えてみましょう
例えば『「こっちおいで」というハンドサイン』をイメージしてください。
手の甲を上にして、指を折り曲げて相手に近くに来ることを示します。
この「こっちおいで」のハンドサイン、実はアメリカでは別の意味を持つようで「あっち行け」の意味を持つハンドサインとなるようです(参考 EXS BLOG サイト観覧日 2024.4.19)。
もしあなたが相手に近くに来て欲しいとき『「こっちおいで」というハンドサイン』を用いれば日本では相手が近くに来てくれるため、この言語行動は強化されるでしょう。
しかし別の言語コミュニティ、上の例ではアメリカで使用したとしてもあなたが達成したい目的の結果を『「こっちおいで」というハンドサイン』は達成できないため、
言語行動は強化されず、『「こっちおいで」というハンドサイン』は言語行動として成立しません。
このように言語行動が成立するためには「言語コミュニティの」というところは定義から外すことができないのです。
武藤 崇 (2011) の著書にも考えさせられる例が記載されていたのでご紹介します。
武藤 崇 (2011)の紹介した例では、
ある発達障がいの生徒がのどが渇いたとき、両手を合わせるサインを担任から指導されました
指導後、教室内で両手を合わせるサインが安定して出現するようになりました
その生徒が休日コンビニで、飲料品が陳列されている冷蔵棚に向かって何度も手を合わせることがありました
店員は「あの子は何を拝んでいるだろう」と思い、その子には何もしませんでした
このようなエピソードでした。
武藤 崇 (2011) は『コンビニでの両手を合わせる行動は「言語コミュニティの」という定義から外れるため「言語行動」ではない』と述べています。
少し上でご紹介したのは、「日本」と「アメリカ」という国も母国語も違う「言語コミュニティ」の違いにより言語行動が成立していない例でしたが、
その下でご紹介したコンビニの例は日本の国内の例であり、
スキナーの言っている「言語コミュニティ」というのは「国や母国語の違い」ではない、という点は注意したいところです。
(3)「独り言」や「思考」も言語行動
「言葉を扱う」ことをイメージしたとき「独り言」や「思考」も「言葉を使った行動である」と考えられたかもしれません。
ここまで「(2)言語コミュニティの他者(メンバー)によって強化される」とも言ってきましたので、他者の存在しない「独り言」や「思考」は言語行動ではないのでしょうか?
br>もしかすると「独り言」や「思考」は「言語」ではあるものの、「行動ではない」と思われたかもしれません。
『そもそも「独り言」は分かるけど「思考」って行動なん?何も身体は動いてないけど?』
というようにです。
まず「思考」は「行動か否か」についてABAの立場からお答えします
「ABAでは思考は行動」
スキナーは行動を顕在的行動(overt behavior:2人以上の人によって観察できる行動)と潜在的行動(covert behavior:皮膚の内側で生じている行動)の2つに分けられると述べ、両方とも研究すべきと考えました(参考 William・O’ Donohue & Kyle E. Forguson ,2001)。
「思考」は上にある「潜在的行動(covert behavior:皮膚の内側で生じている行動)」に該当し、
ABAでは「思考」は「行動」です。
スキナーの考える「行動」とは、観察できる行為だけでなく例えば、考えたり、感じたり、思い出したりするなどの自分の内部で起こっていることも含め、「有機体(生活体)が行うすべてのこと」を行動として捉えます(参考 Jonas Ramnerö & Niklas Törneke, 2008)。
「思考」も含め「有機体(生活体)が行うすべてのこと」が行動とABAでは考える、ということが分かったところで本題、「思考」は「行動」ではあるものの「言語行動」かどうかです。
「言語行動」は「(2)言語コミュニティの他者(メンバー)によって強化される」と言ってきましたが、他者の存在しない「独り言」や「思考」は言語行動かどうか、に話を戻します。
例えば「独り言」や「思考」はどういったときに行われるでしょうか?
① 今日食べる晩御飯の献立の手順を組むとき?
② どうして良いかわからないから、いろいろと対策を考えるとき?
③ 何か失敗したときに「大丈夫」と言うとき?
④ 部屋で一人でゲームをしていて、ゲームに勝利した際、思わず「ヤッター」と言ったとき?
上に書いたようにさまざまな例があげられるでしょう。
実は上の例は全て、「言語」を用いて自分自身に影響を与えています。
「① 今日食べる晩御飯の献立の手順を組むとき?」や「② どうして良いかわからないから、いろいろと対策を考えるとき?」は、
言語を使ってこれからの行動を組み立てているので「自分自身に影響を与えている」と言われてもわかりやすいでしょう。
そののちの自分の行動に影響を与えます。
『③ 何か失敗したときに「大丈夫」と言うとき?』は自分自身をなぐめたり、奮い立たせているときに使うイメージです。
なぐさめていた場合は現在の自分の心情にも影響を与えるでしょうし、そこで力を回復し、次の行動に移りやすくするという機能(目的)も持つかもしれません。
奮い立たせていた場合は「次どうしようか?」と既に戦略を練っているかもしれませんね。
やはり「自分自身に影響を与えている」と言えるでしょう。
『④ 部屋で一人でゲームをしていて、ゲームに勝利した際、思わず「ヤッター」と言ったとき?」』はどうでしょう?
このときも「ヤッター」ということで自身のテンションが上がり、そののちの行動に影響を与える(例えば気分の向上が生じる)と言えるでしょう。
さてこのとき、私が「独り言」や「思考」を言ったのですが、その「独り言」や「思考」は私が聞いている
ということに気がつきます。
つまり、聞き手として「私(自分)」が「独り言」や「思考」では存在するのです。
谷 晋二 (2020)は、
独り言や思考は聞き手なしで生起しているように見えますが、話し手と聞き手は同一人物であると考えると述べました。
三田村 仰 (2017) は独り言というのは「自分で言って、自分で聞く」という行動だ(話す行動と聞く行動)と述べています。
このようにスキナーの唱えた言語行動では、
(3)「独り言」や「思考」も言語行動と捉える
と覚えておいてください。
この場合は聞き手が自分であることで成立をします。
(4)言語行動は「話し手」の行動
ここまで「話し手」と「聞き手」という言葉が出てきました。
すぐ上でご紹介したことですが、「独り言」や「思考」の際は「話し手」と「聞き手」が自分自身、同一人物であると考える、ということもご紹介しました。
スキナーの言語行動では「話し手」の行動を「言語行動」、「聞き手」の行動を「ルール支配行動」と呼びます(参考 三田村 仰,2017)。
「ルール支配行動」についてはまた先のページでご紹介をして行きますが、
Steven C. Hayes・Kirk D. Strosahl・Kelly G. Wilson (2012) は人間は「ルール支配行動」によって直接的な体験を通じて学習するのが有効ではない致死的でさえあるような状況に対して、
直接的な体験なしで正確に、また効果的に反応する(例えば高圧送電線を直接体験なしに避ける)ことが可能だと述べました。
Steven C他 (2012) は「ルール支配行動」のおかげで人間はかなり後から生じる環境変化にも対応し振る舞うことができるようになったと述べ、
『「おじさんと良い関係を築いておけば、20年後には遺言にあなたの名前を入れてくれるわよ」というルールに今からでも反応することが可能だ』という少しユニークなエピソード例も紹介してくれています。
このような「ルール支配行動」ですが良い点だけでなくデメリットもあり、
特にそのデメリットが精神疾患に大きく関わっていると考えられるのですが、
それは本章またのちのブログページでご紹介させてください
「言語を扱う」とき、「話し手」と「聞き手」が存在します。
その中でスキナーの唱えた言語行動では、
(4)言語行動は「話し手」の行動
ということを覚えておきましょう。
ここまで「言語行動」をご紹介してきましたが、上で少しご紹介をした「ルール支配行動」もスキナーが考えついたものです(参考 三田村 仰,2017)。
そのためスキナーは「言語」について「話し手の行動 = 言語行動」、「聞き手の行動 = ルール支配行動」と分類して考えた、と覚えておいてください。
さいごに
ここまで「スキナーの唱えた言語行動の定義」というブログタイトルで書いてきて、スキナーの唱えた言語行動の特徴として以下4点、
(1)発声は必ずしも必要ではない
(2)言語コミュニティの他者(メンバー)によって強化(罰)される
(3)「独り言」や「思考」も言語行動と捉える
(4)言語行動は「話し手」の行動
についてご紹介をしてきました。
また「言語行動」とは呼ばないものの関連するキーワードとして「ルール支配行動」という単語にも触れています。
さて、本ブログページ冒頭で、
そのため、スキナーの唱えた言語行動についていろいろな側面から「こういった特徴を持っているよ」という形でご紹介をして行き、
最後にそれらをまとめてお示しできればと考えています
と書きました。
上の(1)から(4)を総括し、スキナーの言語行動について本ブログでは、
言語行動とは「話し手」と「聞き手」が存在する言語コミュニティ内で強化(罰)されることで成立する「話し手」の行動を指し、自分自身が「話し手」と「聞き手」ともなれる行動であり、発声は必ずしも必要ではない
と定義しましょう。
上の定義の中に「強化されることで成立」とありますが、このことを達成するためには、行った「言語行動」が強化を受ける必要があります
例えば誰かが「寒い・・・」と言ったときをイメージしてみてください。
「寒い・・・」というフレーズが同じでも、
・ 好きな人に「大丈夫?」と言って欲しいとき(相手から注目が欲しい)
・ エアコンの設定温度を上げて欲しい(相手に設定を変える要求を叶えて欲しい)
・ 部屋で一人でいて、自分自身に言い聞かせたとき(自分自身に言い聞かせ、次の行動に影響を与える)
いろいろな場面でいろいろな意味合いを持ち、使われることがわかります。
この『「寒い・・・」というのがどういった意味か?』はそのときの前後の状況、文脈を含んで考えなければいけませんし、
その「寒い・・・」という言語行動が強化を受けるためには、その「寒い・・・」という言語を使用した結果に対して、目的を叶える(機能的な)結果が提供されなければいけません。
言語行動はこれまで他のブログページでご紹介をしてきた「オペラント行動(オペラント条件付けで学習可能な行動、自分で自発できる行動)」です。
そのため行動を起こしたときの前後の状況、文脈を含んで考える必要があります。
最後に、
言語行動 = オペラント行動
ということも覚えておいてください。
スキナーは「話し手」の扱う「言語行動」を7つに分類しました。
次の本章ブログページで7つに分類された「言語行動」についてご紹介して行きますので、どうぞよろしくお願いします。
【参考文献】
・ EXS BLOG サイト観覧日 2024.4.19 https://exs-i.com/blog/ryugaku-info/us-life/hand-sign-come-on/
・ Jonas Ramnerö & Niklas Törneke (2008)The ABCs of HUMAN BEHAVIOR:BEHAVIORAL PRINCIPLES FOR THE PRACTICING CLINICIAN 【邦訳: 松見純子 (2009)臨床行動分析のABC,日本評論社】
・ 三田村 仰 (2017) はじめてまなぶ行動療法 金剛出版
・ 武藤 崇 (2011)ACTハンドブック 臨床行動変化によるマインドフルネスなアプローチ 星和書店
・ 小野 浩一 (2005) 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館
・ Skinner. B. F (1977)Why I am not a cognitive psychologist. Behaviorism, 5 p1-10 【邦訳 スキナー著作刊行会 (2020) B. F. スキナー重要論文集Ⅱ 勁草書房】
・ Steven C. Hayes・Kirk D. Strosahl・Kelly G. Wilson (2012) Acceptance and Commitment Therapy The Process and Practice of Mindful Change 【邦訳: 武藤 崇・三田村 仰・大月 友 (2014) アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)第2版ーマインドフルな変化のためのプロセスと実践ー 星和書店】
・ 谷 晋二 (2020) 第二章 関係フレーム理論 【谷 晋二(編著) 言語と行動の心理学 行動分析学を学ぶ 金剛出版】
・ William・O’ Donohue & Kyle E. Forguson (2001) The Psychology of B.F.Skinner 【邦訳: 佐久間 徹 (2005) スキナーの心理学 応用行動分析(ABA)の誕生,二瓶社】