ブログ内「教材」の章ではABA自閉症療育で使用する絵カード教材を投稿することも始めましたが、ABA自閉症療育ではカードを使ってお子様に知識を教えることを行うことも多いです。
カードを使う利点ですが例えば「車」や「電車」というのを教えるとき、「車」や「電車」の視覚刺激があった方が便利でしょう。
全てを実物で行うとなると「車」や「電車」を教えるときガレージに行ったり、駅へ行ったり、街に出て一緒に散歩しなければいけません。
他にも虫や楽器を教えるとき、例えば虫のセミ。「写真」や「絵カード(イラスト)」がなければセミの視覚刺激(実物)は夏の季節しか得ることのできない刺激となってしまいます。
楽器もすべて実物で教えるとなったら大変です。
ではABA自閉症療育では「写真」や「絵カード」を使ったどのような課題を行うことができるのでしょうか?
本ブログではABA自閉症療育で行われる「写真」や「絵カード」を使ったメジャーな課題、
・ マッチング課題
・ 受容課題(じゅようかだい)
について簡単に解説を行い、それぞれの課題がお子様に何を求めているのか、また課題設計のコツを書いていきます。
本ブログの内容が明日からのABA自閉症療育へ活かせる内容となれば幸いです。
では以下、見ていきましょう。
マッチング課題
マッチング課題では例えば、
(1)3つの別々の絵カードをお子様の前に提示します
(2)次に、3つの絵カードのうち同じ絵カードを1枚お子様へ「同じして」や「一緒して」と伝えて渡します
(3)お子様が同じ絵カードを重ね合わせることができれば正解となります
もし最初から3択(3つの別々の絵カード)が難しい場合は1枚(1択)の絵カードをお子様の前に提示し、同じ絵カードを1枚お子様へ「同じして」や「一緒して」と伝えて渡し、お子様が同じ絵カードを重ね合わせることを求めても構いません。
特にお子様が課題設定自体に「何をすれば良いのか?」という認識でいるため、課題に対する学習準備を行う場合などは1枚(1択)の絵カードから始めれば良いでしょう。
また上の例では「絵カード」を使用していますが物体でも構いません。
例えば3枚の紙皿を用意し、それぞれの紙皿に「消しゴム」「積み木」「指人形」を入れ、お子様へ「消しゴム」を渡し、消しゴムの乗っている紙皿に渡した「消しゴム」を入れる、という形でマッチング課題を行っても良いです。
私的なイメージですが絵カード(2Dのアイテム)を使うよりも実際の物体(3D)を使用した方が課題設定としては難易度が低いように思います
さて、このようなマッチング課題ですがこのマッチング課題はお子様へ何を求めることを行なっている課題なのでしょうか?
マッチング課題がお子様に求めていること
上で書いてきたマッチング課題ですが「視覚刺激ー視覚刺激のマッチング」を行なっている課題です。
「視覚刺激」とは目から受容できる刺激と思ってもらって構いません。
マッチング課題は「見た目が同じもの同士を一緒にしている」課題と言えます。
「視覚刺激ー視覚刺激のマッチング」という視点に立てば、例えば、
「トラ」と「ライオン」と「ヒョウ」を並べて「トラ」を渡してマッチングさせるよりも、
「トラ」と「飛行機」と「りんご」を並べて「トラ」を渡してマッチングさせる方が簡単です。
「トラ」と「ライオン」と「ヒョウ」は皆「目がある」「足が4本ある」「胴体がある」「色の系統が似ている」など見た目の共通項が「トラ」と「飛行機」と「りんご」と比べて多いことがわかるでしょう。
「トラ」と「飛行機」と「りんご」は「目や足、胴体の有無が違う」、「色の系統も違う」と、「トラ」と「ライオン」と「ヒョウ」の並びと比べると視覚刺激間にギャップがあります。
このように考えると「マッチング課題」を簡単にしようと思ったとき、選択肢の視覚刺激間のギャップを大きくすれば大きくするほど、マッチング課題は簡単になる、と考えることが可能です。
もしあなたのお子様がマッチング課題に詰まっていてなかなかクリアできないときは本内容をヒントに、
スモールステップの課題設計を行い、少し難易度を下げて行なってみることはいかがでしょうか?
最後に少し本題とズレるかもしれませんが「全く視覚的に同じものをマッチングするわけでもないマッチング課題」も存在します。
例えばカテゴリー課題、ソーティング(分類)、仲間分けなどと呼ばれる課題です。
これは例えば「トラ(どうぶつ)」と「飛行機(のりもの)」と「りんご(くだもの)」をお子様の前に並べ、「ゾウ(どうぶつ)」をお子様へ渡します。
お子様が「トラ(どうぶつ)」と「ゾウ(どうぶつ)」をマッチングさせれば正解というもので、
これは「どうぶつという仲間」という属性を視覚刺激によってマッチングさせた、という課題です。
このような課題は「視覚刺激ー視覚刺激のマッチング」ではあるもののここまで紹介してきたような「全く視覚的に同じものをマッチングするわけでもないマッチング課題」の例と言えるでしょう。
さて、次は「受容課題」について見ていきましょう。
受容課題
受容課題では例えば、
(1)3つの別々の絵カードをお子様の前に提示します
(2)次に、3つの絵カードのうち1枚についてお子様へ「◯◯とって」や「◯◯ちょうだい」、「◯◯さわって」と伝えます
(3)お子様が伝えられた絵カードを取る・触ることができれば正解となります
もし最初から3択(3つの別々の絵カード)が難しい場合は1枚(1択)の絵カードをお子様の前に提示し、お子様へ「◯◯とって」や「◯◯ちょうだい」、「◯◯さわって」と伝え、お子様が伝えられた絵カードを取る・触ることを求めても構いません。
特にお子様が課題設定自体に「何をすれば良いのか?」という認識でいるため、課題に対する学習準備を行う場合などは1枚(1択)の絵カードから始めれば良いでしょう。
O.Ivar Lovaas (2003)の日本語版マニュアルでは「理解性ラベルング」と呼ばれている課題です。
また上の例では「絵カード」を使用していますが物体でも構いません。
例えばお子様の前に「消しゴム」「積み木」「指人形」を置き、お子様へ「消しゴム取って」と伝え、消しゴムを取る・触る、という形で受容課題を行っても良いです。
私的なイメージですが受容課題までできるようになっているお子様であれば、特に理由がなければ物体でなく、写真や絵カードで受容課題を進めていけば良いと思います
さて、このような受容課題ですがこの受容課題はお子様へ何を求めることを行なっている課題なのでしょうか?
受容課題がお子様に求めていること
上で書いてきた受容課題ですが「視覚刺激ー音声刺激のマッチング」を行なっている課題とも言えます。
「視覚刺激」とはマッチング課題のときと同様に目から受容できる刺激です。
「音声刺激」とは例えば「トラの絵カード(視覚刺激)」をお子様の前に置き「トラ 取って(音声刺激)」という声かけのことです。
受容課題は「目の前に置かれた選択肢(視覚刺激)」とどれを選択するかを伝える「言葉掛け(音声刺激)」という、「視覚刺激ー音声刺激のマッチング」課題と言えます。
「視覚刺激ー音声刺激のマッチング」という視点に立てば、例えば、
「イカ」と「カイ」と「スイカ」を並べて「イカ」を渡してマッチングさせる(受容課題)よりも、
「イカ」と「しんかんせん」と「ライオン」を並べて「イカ」を渡してもらうよう伝えた方が簡単です。
「イカ」と「カイ」と「スイカ」は音が似ているでしょう。
「ika」「kai」「suika」と母音(aiueo)のところでも似ている音があるだけでなく「イカ」と「カイ」は音の数も一緒です。
「イカ」と「しんかんせん」と「ライオン」は上のものと比べて「発音されている音と音の間にギャップがある」ことや「音の数も違う」と、「イカ」と「カイ」と「スイカ」の並びと比べると音声刺激間にギャップがあります。
このように考えると「受容課題」を簡単にしようと思ったとき、選択肢の音声刺激間のギャップを大きくすれば大きくするほど、受容課題は簡単になる、と考えることが可能です。
また受容課題でもマッチング課題のように視覚刺激間のギャップを持たせることも大切になるでしょう。
例えばマッチングのところでも出した例ですが「トラ」と「ライオン」と「ヒョウ」は見た目(視覚刺激)が似ています。
受容課題では「音声刺激間のギャップ」と「視覚刺激感のギャップ」という2つの要素を設計に入れることで難易度の調整が可能かと思いますので、
もしあなたのお子様がマッチング課題に詰まっていてなかなかクリアできないときは本内容をヒントに、
スモールステップの課題設計を行い、少し難易度を下げて行なってみることはいかがでしょうか?
最後に少し本題とズレるかもしれませんが「目の前に置かれた選択肢の名前を呼ぶ」以外の受容課題も存在します。
例えば物の用途、物の機能などと呼ばれる課題です。
これは例えば「くつ」と「スプーン」と「ぼうし」をお子様の前に並べ、「履くもの とって」をお子様へ伝えます。
お子様が「くつ」を取ることができれば正解というもので、
これは物の用途を伝えられその用途に対応した物を選択する、という課題です。
このような課題は「受容課題」ではあるもののここまで紹介してきたような「名前を伝えられて伝えられた名前の物を選択する」という以外の受容課題の例と言えるでしょう。
他にも「トラ(どうぶつ)」と「飛行機(のりもの)」と「りんご(くだもの)」をお子様の前に並べ、「どうぶつ」をお子様へ伝え、「トラ」のカードを取ってもらう「どうぶつという仲間」という属性で選択する課題もあります。
受容課題はいろいろなアレンジが効くと思っていて、
お子様の好きな食べ物(例えば唐揚げ)と嫌いな食べ物(例えばピーマン)を並べ「好き 取って」と言って「好き」などの趣向性を示す言葉を教えて行ったり、いろいろとできることもあるでしょう。
マッチング課題、受容課題、そして表出課題
ここまで、
・ マッチング課題
・ 受容課題
について紹介をしてきました。
多くの場合、同じ内容を扱うのであれば「受容課題」よりも「マッチング課題」の方が簡単です
「同じ内容を扱うのであれば」というのは、例えばお子様にもよると思いますが、
『「くつ」「スプーン」「ぼうし」という身の回りのものの』を教えるとき「受容課題」よりも「マッチング課題」の方が簡単という意味となります。
ただ同じ内容を扱わない場合、例えば『「くつ」「スプーン」「ぼうし」という身の回りのものの』の受容課題を練習中のお子様であっても、
例えば『「1」「2」「3」と「●」「●●」「●●●」』という数のラベルと個数のマッチングができる、というわけではございません。
ABA自閉症療育ではここまでご紹介してきたマッチング課題、受容課題に加えて「表出課題(ひょうしゅつかだい)」というものがあります。
O.Ivar Lovaas (2003)の日本語版マニュアルでは「表現性ラベルング」と呼ばれている課題です。
表出課題ではマッチング課題や受容課題と違ってお子様の前に選択肢を並べておくことはほとんど行いません。
表出課題は例えば「くつ」の絵カードをお子様に見せ「これ何?」と聞き、お子様が「くつ」と基本的には言葉で答える課題です。
「基本的には言葉で」と書いたのは例えば音の表出がほとんど得意ではないお子様の場合は「タイピング」や「書字」、「サイン言語」などで答えても良い、と考えているからです。
上で一般的に同じ内容を扱うのであれば「受容課題」よりも「マッチング課題」の方が簡単と書きましたが、
一般的に同じ内容を扱うのであれば「表出課題」よりも「受容課題」の方が簡単と言えるでしょう。
つまり、
「表出課題」 > 「受容課題」 > 「マッチング課題」
というレベル順で、もし簡単な課題設計として考えるのであれば、
「マッチング課題でできるようになったものは受容課題に持って行く」
「受容課題でできるようになったものは表出課題に持って行く」
ということで課題設計を行えば良いでしょう。
表出課題は基本的に言葉で答えてもらう課題となりますので事前準備として「音声模倣(おんせいもほう)」などで発声が可能かどうか確認、また練習をしておくことをお勧めします。
さいごに
本ブログページはマッチング、受容課題について紹介し、マッチング、受容課題は何をしているのかを意識することについて述べ、そこからマッチング、受容課題について課題設計のコツをご紹介してきました。
マッチング課題は「見た目が同じもの同士を一緒にしている」課題、「視覚刺激ー視覚刺激のマッチング」を行なっている課題でした。
そのことから視覚刺激間のギャップを作ることが課題設計のレベル調整に役立つことをお伝えしてきました。
受容課題では「目の前に置かれた選択肢(視覚刺激)」とどれを選択するかを伝える「言葉掛け(音声刺激)」という、「視覚刺激ー音声刺激のマッチング」課題と言えると書き、
視覚刺激間のギャップだけでなく音声刺激間のギャップも課題設計のレベル調整に役立つという内容でした。
最後に表出課題についても簡単に触れましたがABA自閉症療育では例えば「視覚スケジュール」など環境調整に絵カードを使う場合を除くと、課題として絵カードを使う場合は基本的には本ブログでご紹介した「マッチング課題」、「受容課題」、「表出課題」が主になると思います。
絵カードは基本的には自作することも出てくるでしょう。
例えば「お父さん」「お母さん」「おじいちゃん」「おばあちゃん」を教えるとき、それぞれの人の顔写真を使うことがあるのですが、このような個人的な写真を使用した教材は購入することができません(そこまで個別化した教材は売ってない)。
また身の回りのものを教えるときもお子様が使っている「かばん」が黄色であった場合、買った絵カード教材に入っている「かばん」が青色であったら少し教えにくさも感じる可能性があるでしょう。
そのようになってくると例えばGoogleで画像検索しお子様にフィットした画像を使用してPCのワードやページズで編集し画像を入れ込み、印刷して絵カードを自作する、ということができると便利です。
少し、面倒ではありますが
そして印刷し自作した絵カードは「ラミネート加工」して使う方が良いと思います。
ラミネート加工しないとカードがすぐに傷んでしまうからです。
作るのは手間がかかるので、もちろん最初は売っている絵カードセットを買い、ABA自閉症療育を試してみてからカードの自作はチャレンジする、ということでも構わないでしょう。
一度作ってしまえば何度も使えます。
最初、面倒だなと感じると思うのですが是非チャレンジをしてみてください。
「教材」の章でPDFがダウンロードできますが、私はよくA4用紙に4枚の絵カードが収まるくらいのサイズ感で作っています。
是非「教材」の章もご覧になってください。
自分で作ろうと思ったら少し手間のかかる「ひらがな」などもあるので便利かと思います
本ブログの内容が皆様の日々のABA自閉症療育の参考になれば幸いです。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
【参考文献】
・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】