2つ以上のものを比較したときの関係性を表す言葉を教える際、意識したい点ー例えば「大きい」「小さい」(ABA自閉症療育テクニック12)

例えば言葉の遅れのあるお子様へ言葉を教えることをイメージしてみてください。

どのようにして教えることができるでしょう?


教え方としてはいろいろあると思いますが言葉を出して表現することが得意ではないお子様の場合はイラストのように何枚かあるカードなどを使って「正しく選択する」ことで教えて行くという方法があるでしょう。

このような特定の刺激を正しく選択させることで物事を教えて行く課題を「受容課題(じゅようかだい)」と呼びます。


受容課題のイラスト

他には「これなに?」と聞いて「りんご」と答えてもらう課題で教えてくこともできるでしょう。

正しく選択させるのではなく、特定の刺激から表現を求める課題を「表出課題(ひょうしゅつかだい)」と呼びます。


表出課題のイラスト

上の表出課題の例では「りんご」を表現させることで教えていますが「りんご」や「飛行機」、「ナス」や「ライオン」には固有の特徴があることに注目してください。


例えば「りんご」は、


・ 丸い形をしてる(上の方が少し太く見える)

・ 赤色である

・ 上に何か棒のようなものが出ていることがある

・ 表面はツルツルしている

・ ツヤがある


という特徴を持っています。

これらの特徴の複合体として私たちは「りんご」や「飛行機」、「ナス」や「ライオン」と判断することが可能です。


Enせんせい

以上の特徴を持つもので『「りんご」以外で何があるか答えよ!』と言われると難しいのではないでしょうか?


しかし本ブログページでテーマとなる「大きいー小さい」や「長いー短い」、「重いー軽い」や「厚いー細い」などについては、形や色など特徴を想像することができません。

このような言葉は「りんご」のような固有の特徴を持たないのです。

「大きいー小さい」や「長いー短い」、「重いー軽い」や「厚いー細い」などは少なくとも2つ以上のものを比較したときの関係性を表す言葉です。


今日はこのことについてABA自閉症療育で「大きいー小さい」や「長いー短い」、「重いー軽い」や「厚いー細い」などを教えるときに個人的に大切だなと感じていることについて書いていきましょう。



ぞうは大きいか?小さいか?

「ぞうは大きいですか?」と聞かれるとほとんどの人は「うん、そりゃ大きいやろ」と答えると思います。

「バスって大きいの?」と子どもに聞かれたら、多くの大人は「うん!バスは大きいぞ!」と答えるでしょう。

教えられたお子様も「そーなんだ!やっぱり大きいんだ」と納得すると思います。


Enせんせい

このような会話は自然に受け入れることができますね?

でも、これはきっと私たちが日常、目にしている多くのものと比較してぞうやバスが大きいから、それらは大きいというように表現して当たり前という感覚があるからだと思います


もしここで「本当?でもジャンボジェットの方が大きいから、ぞうもバスも小さいよ」と言われたら、「まぁ、それは確かにそうかもしれんけど」と思うでしょうか。

「ジャンボジェットと比べたらぞうとバスは小さい」ということは事実だからです。


一般的に私たちはぞうやバスを大きいものとして感じていますが、ぞうやバスもそれよりも大きなものと比べると「小さい」ものになります。


これは「大きいー小さい」は少なくとも2つ以上のものを比較したときの関係性を表す言葉だからです。

「長いー短い」、「重いー軽い」や「厚いー細い」などもそのことは同じでしょう。


例えば、

・ 線香花火に火がついている時間は短いですね?でもリモコンのボタンを押してテレビがつくまでの時間と比べると長いでしょう?(長いー短い)

・ ボーリングの球は重いですね?でも冷蔵庫と比べると軽いでしょう?(重いー軽い)

・ 辞書は厚いですね?でもコンクリート塀に比べると薄いでしょう?(厚いー細い)


このように一般的に◯◯と言われるであろうものも、比較対象が変われば反対の意味をなす立場になるので、「大きいー小さい」などの少なくとも2つ以上のものを比較したときの関係性を表す言葉を教えるときはこのことに気をつけたいです。

ではこのことに気をつけて教えて行くとき、どのような教え方のポイントがあるでしょうか?


以下、見ていきましょう


2つ以上のものを比較した関係性を表す言葉を教える

O.Ivar Lovaas (2003) は大きさの理解性同定(「大きい」「小さい」の言葉を聞いて、正しい方に触るか指差す)を教える前に、子どもはさまざまな大きさのマッチングを習得していなければいけない。

さらに、大きさの概念を習得するためには、物事を複雑に抽象化することや、物事同士を比較することが必要になる。

そのため大きさのプログラムを始める前に、それほど複雑ではない色や形の概念を習得させておいた方が良いと述べています。


O.Ivar Lovaas (2003) が述べているようにまだ言葉がほとんど未習得のお子様に対していきなり「大きい」「小さい」などの2つ以上のものを比較した関係性を表す言葉を教えるのは難しいかもしれません。

これからご紹介する内容は、O.Ivar Lovaas (2003) を参考にするのであれば、色や形を少し習得したタイミングくらいのお子様が行うプログラム、と思ってください。

※ 私は色や形と同時期に行うこともあります


ここまで述べてきたように「大きいー小さい」や「長いー短い」、「重いー軽い」や「厚いー細い」などは少なくとも2つ以上のものを比較したときの関係性を表す言葉です。


「大きいー小さい」を題材とします。


「大きいー小さい」を教えるとき、できれば、


・ 大きさがそれぞれ違う

・ 形が同じである

・ 色が同じである


の3つ以上のアイテムを揃えてください。

3つ以上、例えば5つなどあればさらに良いですね。


なかなかそのようなものが見つからないのであれば、紙に丸を書いて教材を作っても良いでしょう。

例えば以下のイラストようなものです。


一応今回は3つ以上ということで5つの教材を想定しています。

以下のイラストでは赤色で便宜上それぞれの教材に「A」「B」「C」「D」「E」と記号を振りました。


大きい小さいを教えるために用意した「A」から「E」の大きさの違う5枚のカード

イラストにも記載がありますが、大きさの関係性は大きい順に、


E>C>B>A>D


の順番で丸は大きいです。


以上のような教材を用意したとしましょう。

以下、教え得るときの手続きをみて行きます。



大小を教えるときの手続き

(1)2つ間での関係性ラベリングの確立

例えば最初は、

「A」と「B」を使用して「大きい」のみを何度も選択させましょう。

安定して「A」と「B」を使用して「大きい」が選択できたとき、次は「小さい」を選択させるようにします。

安定して「A」と「B」を使用して「小さい」が選択できるようになりました。

最後に「A」と「B」を使用して「大きい」と「小さい」をランダムで取り分けられるよう練習してください。


このようにして「A」と「B」、2つ間での関係性ラベリングを確立します。


だいたい10回ランダム(大きい5回、小さい5回)で行って90パーセント正解すれば良いでしょう。

丁寧に行くのであれば、時間を空けて(例えば1日空ける)、もう一度10回ランダム(大きい5回、小さい5回)で行い90パーセント正解できるようであれば次のステップに進みます。


(2)関係性ラベリングを拡張する

次のステップでも最初、「A」と「B」を使用して「大きい」と「小さい」をランダムで4回(大きい2回、小さい2回)ほど行ってから取り組むことをお勧めします。


「A」と「B」を使用して「大きい」と「小さい」をランダムで4回行ったのち、

「B」と「C」を使用して「大きい」と「小さい」をランダムで行ってみてください。


これまで「大きい」という立場であった「B」が「C」が比較対象になったことで「小さい」という立場に変化したことがわかります。


もしこれでランダムで取り分けることができたら、次は「B」を「E」「B」と「C」を使用して「大きい」と「小さい」をランダムで行ってみてください。


これまで「大きい」という立場であった「C」が「E」が比較対象になったことで「小さい」という立場に変化したことがわかります。


上で青色のハイライト「もしこれでランダムで取り分けることができたら」と記載しています。

「取り分けることができた」というのは、丁寧に行くのであれば10回ランダムで行って90パーセントの正答率を目指してください。

ただ1日の中でポンポンと行きたい場合は4回、6回やって100パーセントであれば次のステップに進んで良いでしょう。

ここは臨機応変にお子様に合わせてください。


もしこれでランダムで取り分けることができたら、最後に「A」「B」「C」「D」「E」を毎トライアル入れ替えて使用し、「大きい」と「小さい」をランダムで行ってみてください。


ここまでの流れ『「A」と「B」』→『「B」と「C」』→『「C」と「E」』そして「A」「B」「C」「D」「E」を毎トライアル入れ替えて使用

ここまで行ってできたとすれば、お子様は2つ以上のものを比較したときの関係性を表す言葉として「大きい」と「小さい」を理解している可能性が高いでしょう。


このようにトライアル中にカードに書かれた丸の立場(大きい、小さい)が入れ替わる形でランダムに「大きい」と「小さい」を取るように示されたとき、それでも取ることができることを目指します。


以上、


(1)2つ間での関係性ラベリングの確立

(2)関係性ラベリングを拡充する


の手続きで2つ以上のものを比較したときの関係性を表す言葉を教えるときのポイントを記載してきました。


上の例では『「A」と「B」』→『「B」と「C」』→『「C」と「E」』というように、カードのペアを変化させるときより「大きい」比較対象が変化する形で行っていますが、

『「A」と「B」』→『「A」と「D」』というようにより「小さい」比較対象が変化する形で行っても良いでしょう。


Enせんせい

トライアル内で特定の立場であったものが比較対象が変わることで立場が変化するペアが成立していれば問題ありません


教えていて、なかなか習得ができないとなった場合は、


・ 1つのペア間で行うトライアル数を多くして、安定してから別のペアを入れる

・ 一旦、やめておいて別の課題(例えば色や形)に取り組み、また時期を見て取り入れるようにする


など、柔軟に対応をしてください。



さいごに

例えば本ブログページ冒頭でご紹介したカードを選択させて名前を教える受容課題のとき、カードの選択肢を3つ以上にして行うことも可能でしょう。


但し本ブログページでご紹介してきたような2つ以上のものを比較したときの関係性を表す言葉を教えるときは、選択肢は2つにしかできません。

そして比較する2つのものはさっきまでの立場と、比較対象が変わったあとでは立場が変わってしまいます。


また状況や見方が変われば答えが変わる事象は本ブログページでご紹介した「2つ以上のものを比較したときの関係性を表す言葉」だけではありません。

例えば以下のイラストをご覧ください。


例えばイラストのものも見方が変われば『「りんご」が同じ』とも言えるし『「絵のりんご」と「実物のりんご」だから違う』とも言える

上のイラストでは「この2つは同じものですか?」と聞いていますが、

『「りんご」が同じ』とも言えるし『「絵のりんご」と「実物のりんご」だから違う』と、

「同じところを教えて」と問題を出したときと、「違うところを教えて」と問題を出したときで答えが変わる事象もあります。


Enせんせい

言葉とはなかなか複雑なものですね・・・


さて、本ブログページではそのような2つ以上のものを比較した関係性を表すときの言葉を教えるときに気をつけたいと思っていることを書いてきました。

2つ以上のものを比較したときの関係性を表す言葉は立場によって答えが変わること、このことは意識しておきましょう。


毎日のABA自閉症療育の参考になると幸いです。

最後まで読んでくださってありがとうございました。



【参考文献】

・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】