片付け嫌いが行うABAの工夫ー必要だけどやりたくない面倒で嫌なタスクをこなすコツ「行動モメンタム」の利用(ABA応用行動分析コラム41)


Enせんせい

ABA応用行動分析コラム41は「片付け嫌いが行うABAの工夫ー必要だけどやりたくない面倒で嫌なタスクをこなすコツ「行動モメンタム」の利用」というタイトルで書いていきます


みなさんは自分の生活活動の中で嫌いな、苦手な活動はありますか?

私のTwitterを見てくれている人は知っていると思うのですが、私は割りかし料理を作ることは好きです。


しかし料理を作ることが嫌い、苦手という人もいるでしょう?

ただ私は料理を作ることはあまり苦になりません。


それどころか「新しい料理を作ってみよう」と誰からも指示を受けていないにも関わらず自発的に自由な時間を使って行ったりするものですから、

ABAの観点から見ても私は料理を作る活動が好き(料理をする行動が強化子となっている)と言っても間違いではないでしょう。


お魚も自分で捌きますよ♪

さて、生活をしているといろいろな活動をする必要があります。


例えば、

・ 掃除

・ 洗濯

・ 日用品の買い物

・ 衣替え


など、生活に必要な活動は多岐に渡ります。

例に出したもの以外にももっともっとたくさんあるでしょう。


特に私は上で例に出した活動で言うと、掃除がかなり嫌い、苦手なんです。

ちなみに掃除は嫌い、苦手なのですが、でも正直自分でも掃除が嫌い、苦手な理由がはっきりわかりません。

ただ「非常に面倒臭いな」という思考が、なぜか掃除をしようとするときは頭を占有するのです。


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子どもの頃から片付けとかが苦手だったからかな?


しかし人と話していると「掃除は好きだけど、料理をするのはめちゃくちゃ面倒臭い」という人もいて、面白いなと思います。

人により好きな(嫌ではない)活動はさまざまなんですね。


さぁ、そんな私ですが一切掃除をやらないというわけではありません(全く掃除をしないとゴミ屋敷になってしまいますからね)。

私は部屋は綺麗とはお世辞にも言えませんが、定期的に嫌悪的な面倒臭さを感じながら掃除をしています。


そんな嫌悪的な掃除をするとき、私が使っているABAのテクニックを今回皆様にご紹介しましょう。

このことは、ABA自閉症療育でも使えるタイミングがあると思います。

本ブログページでご紹介する内容は動き出しの腰が重い行動を行う際、「勢い」をつけ重い腰を動かし、動き出しやすくするテクニックです。


行動に「勢い」をつけるテクニック

上でも書きましたが、そんな私も一切掃除をやらないというわけではありません。

そのため「掃除をする行動」を起こしていますので、そこには何かしらの強化子の存在があるのです。


本ブログページでは最初に、私自身が嫌い、苦手だと感じている「掃除をする私にとっての強化子」を考えて行きます。

そののちに本ブログページのタイトルにもなっている行動モメンタムを利用すると言う点について書いて行きましょう。



私にとっての掃除をする行動の強化子とは?

まずは私にとって「掃除をすること」の強化子を考えてみましょう。


私も定期的に嫌悪的な面倒臭さを感じながらも掃除はしているわけですから、このことをABAで解釈すれば「掃除を行う行動」に伴う何らかの強化子があるはずです。

ABAでは自発的に何か行動が生じているということは、そこに何かしらの強化子があると考えることを覚えておきましょう。


ABAでは何か行動が生じたとき、基本的にはその行動に伴う強化子の存在があるという立場を取ります。


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そのためABAの理論で考えるのであれば、私が定期的に行っている「掃除を行う行動」には何かしらの強化子があるのです


強化子は大きく2種類に分けて考えられます。

1つは「正の強化(子)」、もう一つは「負の強化(子)」です。


例えば坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) を参考にすればこれらの強化(子)は、


正の強化 = 環境に何かを付け加えることによる環境の変化「提示型」

負の強化 = 環境から何かを取り去ることによる環境の変化「除去型」


と呼ばれます。


そして本ブログページ仕様に簡単に上の「正の強化 = 提示型」「負の強化 = 除去型」を言い換えるとすると、


「正の強化」 = 掃除をして綺麗な過ごしやすい状態(気持ちも含め)が新しく生じたとすればそれは正の強化と言える

「負の強化」 = 掃除をして不快な過ごしにくい状態(気持ちも含め)が除去されたとすればそれは負の強化と言える


と言い換えられるでしょう。


「正の強化」と「負の強化」については例えば「(ABA自閉症療育の基礎20)オペラント条件付けー正の強化と負の強化(https://en-tomo.com/2020/08/15/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement1/)」を参照

そしてこれらの強化子は同じ行動(ブログページで言えば掃除)を行っている間中ずっと、必ずしもどちらか一方が伴うわけではない、ということも知っておいてください。

行動を行っている間中、タイミングによって違うこともあるでしょう。

例えば個人的な体感としては掃除をしていて綺麗な状態が出現すると嬉しいと感じているときは「正の強化」を受けているし、

掃除をしたことで嫌悪感が低減されても嬉しいときは「負の強化」を受けています。


実際は私にとっての「掃除」とは、このように「正の強化」と「負の強化」のエッセンスが日やタイミング、気分などによって入り混じる形で行動が生じている、というのが正直なところでしょう。


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このように1つの行動に「正の強化」と「負の強化」のエッセンスが入り混じる形で行動が生じることがあります

このことはABAの自閉症療育でもあり得ることと思いますので覚えておいてください


正の強化、負の強化、どちらも同じ行動を行ったときに伴う可能性があります。

簡単に今どっちか、「今、正か負かどっちの強化寄りか?」を自己分析するのであれば、どのようにすれば良いでしょうか?


簡単な方法は?

掃除をしていて「楽しい」タイミングのときは正の強化を受けている行動だろうし、

掃除をしていて「あーめんどかった。やっと終わった」と感じるタイミングのときは負の強化の影響を受けている

というように分析すれば良いでしょう。


自分自身の体感を自身で感じそのときの気持ちに当てはめて分析する。

他者の分析では、他者が本当に「楽しかった」か「めんどうくさかったか」は実際のところはわからないので、自分自身の体感を自身で感じることよりもアセスメントが難しいです。

※ 今回は日常行動の掃除なのでそうですが例えば「人間関係」や「恋愛」などで自身も不安感や抑うつ感を感じる場合は自分自身へのアセスメント(分析)の難易度はかなり上がります。私は掃除という日常行動に不安感や抑うつ感はあまり伴わないため、比較的簡単と言えるでしょう


自分のことなので、このような体感で「正の強化」と「負の強化」を判断することも他者がどう感じていたかと比べるとそんなに難しくないのだろうと思いますが、

タイミングは少しは複雑で「あー、めんどい!」と思って掃除をしている途中「ん、ちょっと綺麗になってきた楽しい」と気持ちが切り替わることもあるため、日によって違うというわけでもありません。


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確かに正しくタイミングまでもを正確に分析・予測することは難しいのですが、

私にとっての「掃除」は「正の強化」と「負の強化」のエッセンスが入り混じる形で行動が生じているものの50:50ではないということは言い切れます


私にとっての「掃除」は「負の強化」によって行動が生じている割合が多いです。

私にとっての「掃除」は50:50で「正の強化」と「負の強化」のエッセンスが入り混じる行動ではなく、圧倒的に「負の強化」のエッセンスが多い行動と言えるでしょう。

つまり「あー、めんどい!」と思いながら行うことが多い行動です。


たまに楽しいとき(正の強化を受けているとき)もあるものの、正直楽しくないことの方が圧倒的に多い、私にとって掃除とはそう言った活動と言えます。

だから上で書いたように「非常に面倒臭いな」という思考が掃除をしようとするとき頭を占有することが多いです。


ではABAを利用してこのような感情をマシにするため、どういった対応が可能でしょうか?


「あぁ、やりたくない」と思うことの負荷を下げる


行動モメンタムを利用し掃除行動に勢いをつける

Enせんせい

さて、ここまでで私は掃除が好きでないことが伝わったと思います


私は掃除を楽しいと思って行うこと(正の強化を受けるタイミングはある)はあるものの、基本的には「負の強化」によって行動が生じていることが多く、掃除は好きではない活動です。

私は自発的に掃除をすることを「自由時間」にわざわざ行いたいと思いません。

私にとって掃除とは「この日は掃除をする!」と自分に約束をした日にノルマとして気乗りしない中でする行動なのです。


「自由時間」とは特に制限のかかっていない状態での活動時間と思ってください。

例えば私は誰かからお金をもらって今、ブログを書いているわけではございません。


自分が自由にできる時間を使って、こうやってブログを書いています。

この「ブログを書く」という行動は私にとってはとても楽しいのです。


「自由時間」、特に制限のかかっていない状態での活動時間に私は自発的にブログを書いています。

そして「ブログを書く」という行動は楽しいと思っているので、これは「正の強化」を受けている状態です。


こう言った正の強化を受けている行動は「高頻度行動(こうひんどこうどう)」と言って制限さえなければ日常の中で高い頻度で出現します。


Enせんせい

みなさんも好きな活動はありますね?


ゲームですか?

Youtubeを見ることですか?

本を読むことですか?

散歩でしょうか?

登山も良いですね

フットサルとか?

スポーツ観戦も良いでしょう

最近、プラモデルを作ることが好きな人に会いました

お店に行ってお酒を飲むことが好きな人もいますね

ジムに行って身体を鍛える人もいるでしょう

寝ることが好きな人もいるだろうし、サウナや銭湯も良いですね


例えば仕事の時間は自由時間ではありませんね?

でも休日は自由時間がありませんか?


そういった休日の自由な時間に「(楽しんで)自発的に」行う行動を「高頻度行動」と捉えてください。


「高頻度行動」という言葉からイメージできたかもしれませんが、対して「低頻度行動(ていひんどこうどう)」という行動もあります。

「低頻度行動」は制限を受けていない状態で、自発的に行う確率が比較的に低い行動です。

私の場合、「掃除」は「低頻度行動」と呼んでよいでしょう。


Enせんせい

「低頻度行動」は基本的には自発的にはやりたくないこと、腰が思いと感じる、難しいと思うことと考えてもらって大丈夫です


「低頻度行動」は「嫌い」、「気乗りしない」、「苦手」などなんでも良いですが、

基本的に好ましい活動である可能性は低く、自発的に行うことに対して行動のし始めにエネルギーが必要になります。

※ 但しコストが高いために「低頻度行動」になっている場合は別かもしれません。例えばゴルフでコースを回るためにはお金が結構かかるのですが、金銭的なコスト面を考えなければ好きなゴルフに行きまくる(高頻度行動になる)と言った場合は、上で挙げた基本的に好ましい活動である可能性が低いということはないでしょう。この場合は金銭的な「制限」を受けていると考えます


さてここから本題です。

ABAには「行動モメンタム」という考え方があります。


例えば島宗 理 (2019) は行動モメンタムの研究は現在も進行中だと述べる中で、


小学校の授業開始時に、教科書や筆箱、下敷きなどを机の上に出して準備しなさいという教師の指示に従うことが難しい児童に、

彼らにも従える簡単な指示をして(「手はひざの上」など)、指示に従った行動を強化してから難しい指示をすると指示に従いやすくなる


という内容を紹介しています。

「行動モメンタム」はABAの参考書に必ず登場するというものでもなく、少しABAの中でもマイナーなものかもしれません。


そのような行動モメンタムについて今、私が考えていることは、

「コストの低い簡単な課題」を行うと、そのあと「コストのもう少し高い課題」を行うとき、楽になる(行動遂行しやすくなる)という考え方です。

このことは、「コストが低く簡単に強化を受けられる行動」を行うことで、「コストが高く簡単に強化を受けられない行動」を行うときの勢いがつくと言い換えられるように思っています。


このことを適用して私は日常、嫌悪的だと感じる「掃除」に立ち向かうことを意識しているのですが、コツは最初から「部屋を今日中に綺麗にしよう」とは思わないことです。


最初から1日で掃除を全部終わらせようと考えない。

「1日で家をピカピカにする」ということは私にとって「コストの高すぎる課題」です。


Enせんせい

この課題は私にとっては面倒臭さが圧倒的で、

圧倒的な面倒臭さから掃除をし始めることがめちゃくちゃおっくうになってしまいます


「部屋を今日中に綺麗にしよう」とは思わないようにする、それはどのようにするのかと言えば、

「今日、今から(とりあえず)机の上の荷物だけ整理しよう」とか「散らかっている洗濯物だけ片付けよう」と「コストの低い簡単な課題」だけに取り組む、

最初、目標設定を「やっても良いかな」というレベルに設定して行うようにする。

それだけの量であればパパッとやれば5分、長くだらだらやっても20分もあれば完了します。


「机の上の荷物だけ整理した」としても「部屋に吊るされている部屋干しの洗濯物だけ片付けた」としても、結構部屋の見た目は変わるものです。

このような少しの変化も個人的には嬉しいことで、ちょっと変わるだけでも強化を受けます。

すると行動に勢い(モメンタム)がつき、次の作業に移りやすくなるでしょう。


そして「嫌だったこと」の負荷が少し下がって「もう少しやってみようか」と感じるようになったならば勢いに任せて、

「次はお皿を洗おう」とか「トイレを掃除しよう」とか、続けて比較的「コストの低い簡単な課題」を行い、そのあと「コストのもう少し高い課題」を行うことを連続して行っていくようにしましょう。


円形の物体が転がっていくように勢いがついたら勢いに身を任せる

それを繰り返して行く中で最終的に掃除が終わっていた。

これがベストでしょう。


最初から高い目標(今日中に部屋の掃除を完了する)としてしまうと、動き出しのモチベーションがめちゃくちゃしんどくなるため、途中でやめても良い、ちょっとだけやるという心持ちでスタートすることが大切です。

そしてそのような自分の心持ちに嘘をつかないため、「もうええか」と思ったら本当に行動をやめて、「まだやってもええか」と気乗りしたときだけ続けるようにします。


私の中で掃除はそのような方法で行なっているのですが、私にとって掃除とはそのようにモメンタム、勢いをつける、を使って行動に勢いをつけないとなかなか辛い作業です。

全くやらないというわけにはいかないし・・・


Enせんせい

だから工夫をし、自分が負荷少なく動けるようにすることが大切です

あまり「やりたくない」活動を「やらなければいけない」と思って始めることはみんな苦痛でしょう?


このように最初から「部屋を今日中に綺麗にしよう」と思って面倒臭すぎて動けない状態のようなとき、「コストの低い簡単な課題」だけを行う気持ちで動き始め行動に勢いをつけて行く作業、私はお勧めします。


ちなみに私は以上のようにやっているので「コストの低い簡単な課題」だけを行ったとき、モメンタムが乗らず「あー、これ以上やるの無理」と思ったらそれ以上やりません。

できるだけ自分の気持ちに負荷なく過ごす、という生き方が私が好きということもあるからだと思いますが、私はその日は掃除を辞めるか、少なくとも数時間置いてもう一度考えるようにしています。


例えばこのブログページ、全部で5000文字以上あり、他のブログページでは10000文字以上のブログページもあります。


文字を書くことが嫌悪的な人もいるでしょう?

そのような人にとっては「5000文字以上、文章を書け」と言われるとめちゃくちゃしんどいと思います。

このように「しんどい」と思うこと、負荷がかかることは人によってまちまちなのです。


Enせんせい

私は子どもの頃から作文を書いたりすることが好きだったので、自分で考えたことを文章に起こすことは苦になりません

人によって苦なことはそれぞれですが、例えば文字を書くことが嫌悪的な人は「500文字だけ書く」とか、そういうようにすれば良いのかな?


最初から「今日完成させる」とか気張らないようにして、ABAの行動モメンタムを利用して自分に必要な「低頻度行動」を行いやすくする。

これが今私が行っている、自分自身が好まない、嫌だけどやらなければいけない、必要だけど面倒なタスクをこなすコツです。



さいごに

本ブログページでは「行動モメンタム」という考え方をご紹介しました。

本ブログページでご紹介した「行動モメンタム」について、

James E. Mazur (2006) は重い物体が運動を開始すると、その物体はモメンタム(Momentum:質量と速度の積で表す物体の運動量)を獲得し、停止することに困難を伴うようになる、というような表現を行動モメンタムの文脈で述べていたり、

武藤 崇 (2004) は変化への抵抗と強化との関係をニュートンによる運動の第2法則のアナロジーを援用して分析パラダイムとしたものが行動的モメンタムであると述べていたりしていて、

「おー・・・面白そうだけれど、理論を理解するのは結構が難しそうだなぁー」と思うところが正直なところではあります。


まだはっきり分かってはいないと思うものの、面白そうな分野

ただ個人的にはすごく面白い分野かと感じていますので、また時間を見つけて調べていきたい分野です。


Enせんせい

適用範囲も広そうなABAの理論と言えるでしょう


ABA自閉症療育でも使える分野だと思いますし、例えば「この子は気乗りがすればできるけど、気乗りがしないとやらない」などと言ったお悩みを抱えているケースでは適用できそうだなと感じています。


本ブログページでは私自身があまり好んでいないものの自分の生活に必要な活動をするとき、ABAを使って気持ち楽に行う方法をご紹介し、それを行動モメンタムという理論の枠組みで説明することを試みたページでした。


お子様に対してのABA自閉症療育だけでなく、読んでくださったみなさまの生活の何かのお役立てになれば幸いです。

最後まで読んでくださってありがとうございました。



【参考文献】

・ James E. Mazur (2006) LEARNING AND BEHAVIOR:6Th ed. 【邦訳 磯 博行・坂上貴之・川合伸幸,訳 (2008) メイザーの学習と行動 日本語版 第3版 二瓶社】

・ 武藤 崇 (2004) 「注意」と行動的モメンタム(行威):ADHDの支援方法への示唆(2)1) 立命館人間科学研究 第7号

・ 坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) 行動分析学 行動の科学的理解をめざして 有斐閣アルマ

・ 島宗 理 (2019) 応用行動分析学 ヒューマンサービスを改善する行動科学 新曜社