本ブログページではABA(応用行動分析学)では行動を「型(見た目)」ではなく機能でまとめて考えるということについて書いていきます。
本ブログページの行動の見方はABAでの行動の見方の基本と言えますので、是非ご紹介をしたいです。
例えば、
・ 一人になったときに(寂しくて)泣く
・ スーパーでお菓子が買ってもらえないと分かったとき(悲しくて)泣く
・ 嫌いな食べ物を食べるよう促されたとき(嫌で)泣く
と、こういった上記のようなシチュエーションで泣くお子様がいたとします。
そして泣き方は見た目は全て同じです。
このような行動の見た目が同じであることをABAでは「行動の型(かた)が同じ」である、という言い方をします。
お母様はお子様に「あまり、泣かないで欲しいなぁ」と思って心配になっていました。
お母様はお子様が泣くと「いつまでも泣かない!」と注意をして何とか状況を良くしようと考えていたのですが、なかなか上手くいきません。
お母様は子どもが泣くのは「こころが弱いからだ」と考えており、「いつまでも泣かない!」と注意をして何とか「こころを強くしよう」と思っていました。
うわぁーん!!
いつまでも泣かない!
上の吹き出しのようなイメージです。
このようなエピソードはそんなに珍しくないかもしれません。
本エピソードのお母様はお子様が泣く理由を「こころが弱いから」と考えているのですが、理由は「甘えている」とか「わがまま」とか、なんでも良いでしょう。
以上の3つのエピソードの「泣き」は全て見た目は同じでした。
だから同じ行動としてまとめて考えてしまいます。
でもABAでの行動の見方ではこれらは同じ行動ではありません。
ABAでは見た目が同じ行動でも「機能(きのう)」が違えば、それは別の行動であると考えます。
「機能」というのは「行動の目的」と読み替えてもらっても構いません
本ブログページでは最初に「行動の機能が同じとはどういう意味か?」ということを書いて行き、
その後、冒頭で出した3つの泣きについてどう行動が違うのかについて解説をして行きます。
行動の機能が同じとはどういう意味か?
例えばあなたが東京から大阪へ旅行に行きたいと思ったとき、いろいろな手段が考えられるでしょう。
例えば、
・ 新幹線に乗って行く
・ 飛行機に乗って行く
・ 車に乗って行く
・ 電車に乗って行く
・ 長距離バスに乗って行く
などです。
例えば「新幹線に乗る」ことと「長距離バスに乗る」ことは別の行動だと思いませんか?
例えば新幹線では切符を買って改札機を利用して乗りますが、長距離バスに乗る際は改札機はありません。
新幹線に乗るのと長距離バスに乗るのでは行動の型が違うように思うかもしれません。
かかる時間(乗っている時間)や値段も違いますので、まるで別の行動のように思うこともあるでしょう。
しかし上で「機能」というのは「行動の目的」と読み替えてもらっても構いませんと書きましたが、
もし上で書いた5つの例全てが「旅行で東京から大阪に行く」という目的を持った手段(行動)であった場合は上の5つは同じ機能を持った行動としてABAでは考えるのです。
同じ「新幹線に乗る」という型の行動でも、行く目的が違ったとき(旅行と仕事)、
・ 東京から旅行で大阪に行くために乗った新幹線
・ 東京から仕事で大阪に行くために乗った新幹線
では同じ見た目の「新幹線に乗る」という行動でも別の行動として捉えることも可能です。
理由は、上の同じ見た目の「新幹線に乗る」という行動は同じでも、新幹線に乗って目的地に行く機能(目的)が違うからです。
何か機能(目的)があり、それを達成するために行った行動はひとまとまりにして考えることはABAの基本です。
例えばBrian A. Iwata・Gary M. Pace・Michael F. Dorsey・Jennifer R. Zarcone・ Timothy R. Vollmer・Richard G. Smith・Teresa A. Rodgers・Dorothea C. Lerman・Bridget A. Shore・Jodi L. Mazaleski, Han-Leong Goh・Glynnis Edwards Cowdery・Michael J. Kalsher・Kay C. Mccosh・Kimberly D. Willis (1994) は11年の期間を費やした研究を行っています。
Brian A. Iwata他 (1994) は152人の自傷行為を行う子どものデータを集積し、分析しました。
研究で見られた自傷行為は「身体を強打する」、「頭を叩く」、「身体を噛む」、「食品でないものの摂取」、「目や耳を強く押す」、「髪の毛を引っ張る」などが記録されています。
これらを自傷行為という1つのまとまりとして捉え、データを収集しました。
Brian A. Iwata他 (1994) の研究は行動介入研究というわけではありませんが、Brian A. Iwata他 (1994) の研究は「自傷行動の機能(意味)」を求めようとした有名な研究です。
例えば「身体を強打する」と「目や耳を強く押す」は別の行動に見えると思いますが、
Brian A. Iwata他 (1994) は研究で「身体を強打する」と「目や耳を強く押す」は別の行動に見えると思いますが、同じ自傷行為という反応クラスにまとめたようにです。
同じクラスの行動をひとまとまりにして考えて行くと行動問題に取り組みやすくなることがあります。
William .O’ Donohue・Kyle E. Forguson (2001) は電灯のスイッチを自分で押しても、誰かに依頼しても同一機能クラスになる。
いずれも部屋が明るくなる。
クラスという概念なしには、科学はほとんどの自然現象を扱えない。
科学は個別の特定事象について研究するのが普通だが、クラスの概念がなければ、事象の予測は不可能になると述べました。
このように分析対象(行動)を単位(クラス)にまとめることは、科学の発展にも寄与してきました
ABAで問題行動を考えるとき、同一の機能の行動を同じクラスとして捉えて考える考え方をすることが有用なことが多いです
ABA自閉症療育を実践する臨床場面でも研究場面でも、行動を同じ目的を持つクラス(機能)にまとめて捉えて観察、介入をして行くことは有用なことがあります。
行動の型は違っても目的(機能)は同じ行動と考えるとわかりやすいので、以下、そのことについて冒頭に出てきた、
・ 一人になったときに(寂しくて)泣く
・ スーパーでお菓子が買ってもらえないと分かったとき(悲しくて)泣く
・ 嫌いな食べ物を食べるよう促されたとき(嫌で)泣く
上記のようなシチュエーションで泣くお子様について本件について見て行き理解を深めて行きましょう。
ABA自閉症療育で行動を型でなく機能でまとめることの必要性
項目のタイトルを「ABA自閉症療育で行動を型でなく機能でまとめることの必要性」としましたが、
ABA自閉症療育で行動を型でなく機能でまとめることでメリットがなければまとめる必要性はありませんね?
つまりABA自閉症療育で行動を型でなく機能でまとめることは介入をする上で大きなメリットがあるのです
ABA自閉症療育で行動を型でなく機能でまとめることの介入上の大きなメリットとは何でしょうか?
答えは機能(行動の目的)が違うと教える行動(介入方略)が変わってくるからです。
何を教えれば良いか不明確なまま介入を進めることほど、難しい支援はないでしょう。
本ブログページ冒頭でお母様はお子様に「あまり、泣かないで欲しいなぁ」と思って心配になっていて、心を強くすることを狙って、「いつまでも泣かない!」と注意をして何とか状況を良くしようと考えていましたね。
うわぁーん!!
いつまでも泣かない!
お母様は子どもが泣くのは「こころが弱いからだ」と考えており、「いつまでも泣かない!」と注意をして何とかこころを強くしようと思っていましたが、
「心を強くする」ための介入方法を考案し、実施することはとても難しくありませんか?
そのような方法は簡単には思いつきません。
・ 一人になったときに(寂しくて)泣く
・ スーパーでお菓子が買ってもらえないと分かったとき(悲しくて)泣く
・ 嫌いな食べ物を食べるよう促されたとき(嫌で)泣く
は「行動の型」は同じ「泣くという行動」ですが、行動の機能(目的)が違います。
このことに気がついてさえいればどのような方向性で支援を考えていけるでしょうか?
例えば、
・ 一人になったときに(寂しくて)泣く
→ 「ねぇねぇ」と言ってお母様の肩を叩く
・ スーパーでお菓子が買ってもらえないと分かったとき(悲しくて)泣く
→ 泣かずに「買って」と伝える
・ 嫌いな食べ物を食べるよう促されたとき(嫌で)泣く
→ 「いらない」と言葉主張する
「心を強くする」ための介入方法を考案し、実施することと比較してかなり難易度が低くなったように感じないでしょうか?
教える行動がより具体的になり、このように具体的になれば教える方法もより具体的なものが思いつきそうです。
上の例で言えば、ご家庭によっては教えたい行動として、
スーパーでお菓子が買ってもらえないと分かったとき(悲しくて)泣いているので「我慢できることが大切だ」とか、
嫌いな食べ物を食べるよう促されたとき(嫌で)泣いているので「嫌いなものでも食べられるようになる必要がある」とか、
そういった意見もあるでしょう。
まずは機能を推測する、そして介入例をできるだけ機能に合わせた形で考えて行くのですが、
そこで考案される介入方略や介入ターゲットはご家族様のニーズとお子様のできることで違いが出てくることもあります
「我慢」については例えば事前に「今日はお菓子は買わない」とお約束をしていて、お約束が守れれば家に帰ってからより大きな強化子がGETできる、という介入設計が1つの解決策です。
これはABAの「衝動性とセルフコントロール」の理論を扱った介入方法と捉えることも可能でしょう。
「衝動性とセルフコントロール」の理論を織り込んで介入すれば「我慢」も教えるヒントにできます。
セルフコントロールと我慢については例えば、『(ABA自閉症療育の基礎58)選択の選好、ABA自閉症療育が「選択行動理論」から受ける恩恵「我慢」(https://en-tomo.com/2020/11/13/choice-behavior-preference-point/)』をご参照ください。
また「嫌いなものを食べる」ようになるためには、偏食指導が有効です。
ABA自閉症療育では(1)お子様のでいるところから、(2)できるだけお子様が楽しんで(少なくとも納得をして)食べられる食べ物の拡張を行います。
偏食指導は栄養摂取にも関わってくる介入分野です。
お子様の身体の健康のためにも、必要であれば取り入れる意味のある生活の中で行う療育の1つでしょう。
ブログ内で偏食指導の方法については例えば、「(ABA自閉症療育の基礎100)自閉症児に対しての偏食指導ーABA自閉症療育手続き(https://en-tomo.com/2022/09/09/guidance-on-resistance-to-food/)」で記載をしています。
いずれにせよ「心を強くする」よりは何をすれば良いか不明確ではないため難易度は低くなるはずです
「何を教えれば良いか」がわかることが、ABA自閉症療育で行動を型でなく機能でまとめることの介入上の大きなメリットです。
ここまでは行動の型が同じで、機能が違う、というケースを考えてきました。
逆に、行動の型が違っても行動の機能(目的)が同じであった場合は、同じクラスの行動として捉えて介入することが可能です。
例えば、
・ 一人になったときに(寂しくて)泣く
・ 一人になったときに相手をして欲しくて頭を壁に打ち付ける
以上の行動は「型」は違いますが、同じ機能(目的)であった場合は1つのグループ(クラス)としてまとめ、
「不適切に周囲から注目を引く行動」として捉え、適切に注意を引く行動を教えて行くことで減って行くことが期待できます。
この場合は見た目(型)は違っても機能が同じです。
そしてここまで紹介してきたように行動の型が同じで、機能が違うケース、
・ 一人になったときに(寂しくて)泣く
・ 課題がやりたくなくて泣く
この場合は見た目(型)は同じでも機能が違います。
以上のことから、見た目ではなく機能に注目し介入方法(支援方法)を選択して行く取り組みはいかがでしょうか?
私個人としてはそのような取り組みの方が実際に療育効果を上げるようにも感じています。
ここまでのことは、以下のように考えることができるでしょう。
ポイント
「型」が同じでも機能が違う場合は「別の行動」
「型」は違っても機能が同じ場合は「同じ行動」
このように捉えて介入を行っていくことを是非、実践して行ってみてください。
行動の機能は基本的には行動の前とあとにどのような結果を得ているか、という行動に伴う前後の事象を見ることで判断することができます。
※ 行動に伴う結果の方が大切な比重は大きい様に思いますが、できれば行動の直前の状況も観察しましょう
※ 行動の機能を分析する方法を「機能分析」というのですが、機能分析についてはまた将来的にブログでも記事として扱い具体的な方法をご紹介いたします
さいごに
私はABAで行動を「型(見た目)」ではなく機能でまとめて考えるということは行動を分析するときの基本だと思っています。
「良く泣くんです」とか「お友達を叩いてしまうことが多い」など、そういったエピソードがあったとき、
「泣く」とか「叩く」という行動だけに注目するのではなく、行動に伴う前後の状況も織り込んで分析するのはいかがでしょう。
そうすることでお子様の行動をより、理解することが可能でしょう
ABAでは「行動の前」、「行動」、「行動に伴う結果」の三つの項目で行動を見ることを「三項随伴性(Three-term Contingency)」と言います。
三項随伴性(さんこうずいはんせい)はABAの基礎ワードです。
三項随伴性は、例えば、
「A(Antecedent):行動に先立つ環境、先行状況などと呼ばれる」
「B(Behavior):行動」
「C:(Consequence):結果」
の3つのタームに分けて行動を観察することで行動の分析が可能となります。
三項随伴性にあてはめていくつもの事例を集め、行動を分析することで機能の特定を試みるものです。
過去ブログにも三項随伴性について述べたページがあるので検索窓から検索してみてください。
Raymond .G .Miltenberger (2001) は三項随伴性は先行事象と行動と結果事象の関係性を意味すると述べており、
島宗 理 (2019) はABAの分析の基本単位として、オペラントにおいては先行事象、行動、後続事象からなる「三項随伴性」が基本単位となると述べています。
ABA自閉症療育では行動を「型」ではなく機能でまとめて考える、そしてそのために行動の前後にある状況を織り込んで分析をする。
是非、このような行動の見方をABA自閉症療育を行う際に実践をしてみてください。
【参考文献】
・ Brian A. Iwata・Gary M. Pace・Michael F. Dorsey・Jennifer R. Zarcone・ Timothy R. Vollmer・Richard G. Smith・Teresa A. Rodgers・Dorothea C. Lerman・Bridget A. Shore・Jodi L. Mazaleski, Han-Leong Goh・Glynnis Edwards Cowdery・Michael J. Kalsher・Kay C. Mccosh・Kimberly D. Willis (1994) THE FUNCTIONS OF SELF-INJURIOUS BEHAVIOR: AN EXPERIMENTAL-EPIDEMIOLOGICAL ANALYSIS. JOURNAL OF APPLIED BEHAVIOR ANALYSIS. No2, 27, p 215-240s
・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】
・ 島宗 理 (2019) 応用行動分析学 ヒューマンサービスを改善する行動科学 新曜社
・ William .O’ Donohue・Kyle E. Forguson (2001) The Psychology of B.F.Skinner 【邦訳: 佐久間 徹 (2005) スキナーの心理学 応用行動分析(ABA)の誕生 二瓶社】