お子様に不適切な行動があった場合それは問題行動と捉えられ、減らしたい、無くしたいと思うことがあるでしょう。
例えば「園でみんなで活動をしているときに突然、走り出してどっかに行ってしまうんです」などです。
例に出した「その場からの逸脱(突然の走り出し)」などは周囲の大人や子どもから受け入れられる確率が低いため、問題行動であると捉えられます。
問題行動については減らす、もしくは辞めさせなければいけないと考えることでしょう
このとき「問題行動」にのみ注目が行ってしまっていることに注意しましょう
実はできている適切な行動は無視(注目されたり褒められたりせず)され、問題行動が生じるたびに私たちはお子様に注目してしまうことが多いです。
例えば上の例で出した「園でみんなで活動をしているときに突然、走り出してどっかに行ってしまうんです」では、途中まではみんなと一緒に活動ができていたことにはあまり注目がされません。
本ブログページでは適切な行動を増やすことで相対的に不適切な行動を減らすという対応、考え方についてご紹介します。
どういったロジックで適切な行動を増やせば不適切な行動が減るのか、本ブログページで見ていきましょう。
1日は24時間しかないので、活動時間に制限がある
子どもでも大人でも、日本人でも海外の方でも、お金を持っている人でもそうでない人でも、人生に満足している人でも満足していない人でも、全員に共通していることがあるのですが、
それはみんな1日は24時間しかないということです。
M. Hirshkowitz・Kaitlyn Whiton・S. Albert・C. Alessi・O. Bruni・L. Doncarlos・N. Hazen・J. Herman・E. Katz・L. Kheirandish-Gozal・D. Neubauer・A. O’donnell・M. Ohayon・J. Peever・R. Rawding・R. Sachdeva・B. Setters・Michael V. Vitiello・J. Ware・P. J. Adams Hillard (2015) の研究によれば、
3歳から5歳までのお子様が取るべき睡眠時間の推奨時間は10時間から13時間でした。
仮にM. Hirshkowitz他 (2015) が推奨する睡眠時間、例えば1日12時間お子様は寝ていたとすれば、お子様の1日は残り12時間しかありません。
この12時間が活動時間となります。
お子様はきっと活動をしている12時間の間ずっと問題行動を起こしているわけではありませんね?
12時間のうち大袈裟に見積もって生活時間の半分6時間、問題行動を行なっていたとしても(そんなことは無いと思いますが)、
残りの6時間は適切な行動(周囲から受け入れられる行動)を行なっているはずです。
実際には起きている活動時間の半分を問題行動に費やしているということは無いでしょうから、実は半分以上の時間は周囲から受け入れられる適切な行動を行なっています。
しかし私たちはそのような適切な行動は目に留めず、問題行動を起こしたタイミングにのみ反応してしまいがちです。
1日の生活時間が12時間しかないとすれば、適切な行動が強化されて増えていけばどうなるでしょうか?
生活時間12時間のうち適切な行動を行う時間が増えていけば相対的に不適切な行動が減っていきます。
そのため不適切な行動を減らそうとするとき、不適切な行動への介入ばかりに注目するのではなく、適切な行動に注目し適切な行動の割合を増やして行けば理論上は不適切な行動は減少して行くのです。
普段、気に留めていない「できて当然」と思うことも褒める
不適切な行動を減らそうとするとき、不適切な行動への介入ばかりに注目するのではなく、適切な行動に注目し適切な行動の割合を増やして行くことについて書きましょう
例えば例で出した「園でみんなで活動をしているときに突然、走り出してどっかに行ってしまう」場合だったら、走り出す前はみんなと同じように活動ができていると思います。
みんな当たり前のようにやっていることだから敢えて褒められることは無いかもしれませんが、そのときが褒めるチャンスです。
園の先生にそのことを伝えると「太郎くんばかり褒めると言う、贔屓はできません」と言われるかもしれません。
※ あなたのお子様の名前を仮に太郎くんとする
しかし可能であれば褒めてもらえると助かります。
走り出す前はみんなと同じように活動ができていることが褒められ強化され増加すれば、相対的に「走り出してどっかに行ってしまう」などの「その場からの逸脱」が減少する可能性があるでしょう。
これは例えばお母様とお子様が一緒にスーパーなどで歩いているときもそうです。
当たり前のように正しく歩けているとき「ちゃんと歩いていて偉いね」、
朝起きておはようとあいさつをしたとき「元気にあいさつができてすごいね」、
椅子に座ってご飯を食べられているとき「美味しそうにかっこよく食べてくれて、母さん嬉しいわ」など、
今「できて当たり前」、「わざわざ褒める必要はない」と思っている普段お子様が行なっている行動(活動)を褒めるようにしてみてください。
お子様が「より褒められたい」と感じ、買い物中正しく歩くいたとき褒めることを続けていると「荷物を持とうか?」とか、
あいさつを褒めることを続けていると「嬉しい、ありがとう」とコメントをしてくれるとか、
椅子に座ってご飯を食べられていることを褒めることを続けていると「母さんもかっこよく食べていて偉いね」とお子様から相手を褒める行動が出現するとか、
今まで見ることのできなかった適切な行動の出現も期待できます。
例えば勉強中に少しすると離席してどっかに行ってしまう場合は?
座ってペンを持ったときに1回褒める「お、自分から鉛筆持てて偉いじゃん」とか、
1問、問題を解いたタイミングで褒める「頑張ってやったんだね」とか、
こまめに褒めることを続けていきます。
すると勉強に従事する時間が、こまめに褒めなかった場合よりも長くなる可能性があるでしょう。
このように問題行動が起こる前に褒め始め、適切な行動を増やすことを目指します。
少し面倒に思うかもしれませんが私たちは何か問題が起こったときに初めて注目し、解決しないといけないと考えることも多いでしょう。
私自身もそうです。
しかし、下のイラストのように1日は24時間しかありませんから、良い行動(適切な行動)が増えれば相対的に良くない行動(不適切な行動)は減って行く、
このことは覚えておきましょう。
相対的に適切な行動を増やす関わりをしながら、ピンポイントな介入も行う
ここまで相対的に適切な行動を増やすことで、不適切な行動を減らすことについて解説をしてきました。
お子様が普段できている適切な行動を褒めて強化し、増やして行くことは日常的な関わりとして行なっていくべきでしょう。
注意する、怒る回数が1回あるとすれば褒めるポイントをなんとか見つけて3回、4回、5回は褒めるぞ!という気概で関わって行くのです。
加えてピンポイントな介入も並行して必要であれば行なっていくことも必要になります。
例えばスーパーに行って欲しいお菓子を買ってもらえなかったら泣くお子様がいたとして、この子に必要なスキルは『「買って」と言葉でお願いすること』や「我慢をする」ことかもしれません。
この場合は適切にできている行動だけを褒めていても介入としては期待できる結果を得るための方略としては弱い可能性がありますので、直接問題行動に対応した介入法略が必要になることもあるでしょう。
『「買って」と言葉でお願いすること』は泣く代替行動として言葉での要求を教えるので、何度かブログ内で出てきている「プロンプト+強化」で代替行動を教え、泣いてしまったときは消去対応をする、などが考えられます
「我慢をする」ことであった場合は、お子様と交渉が可能であれば、スーパーに行くけれども今日はお菓子を買わないで帰ることに事前に納得をしてもらい、買わないで帰れたことについて帰ったら大きく褒めてあげる、などが介入方略として考えられるでしょう
このようなピンポイントな介入こそ必要にはなりますが、このような場合でも、
日常的にお子様の良い行動を見つけて褒めておけば親御様の話にお子様が耳を貸すという療育の土台は整っている可能性も高いので、ピンポイントな介入も行いやすくなるように感じています。
以下、最後にちょっとした注意点も書いていきます。
普段できていることに注目する場合、強すぎる強化子は使用しない
お子様を誉めることの頻度が日常の中でかなりの数になっていき、お子様も安定してきた(適切な行動の量が増えてきて、不適切な行動が減ってきた)ら、「スーパーに行って欲しいお菓子を買ってもらえなかった場合」など特定の場面でのみほとんどの問題行動が出現する、
という状態になるかもしれません。
このような状態は悪くありません。
この状況は見方を変えれば、何か特定の場面がなければお子様は適切に過ごすことができているのです。
以前はいろいろな場面で問題行動が多かったとすればこれはいろいろと細かく、親御様が褒めてきた成果かもしれません
以前「(ABA自閉症療育の基礎43)オペラント条件付けー強化子のリダクションとプロンプトフェイディング(https://en-tomo.com/2020/10/04/reduction-fading/)」のページで、
ABA自閉症療育には「強化子のリダクション」が必要だということを書きました。
島宗 理 (2019) は、
新しい行動を形成した後、その行動を維持するのに、「好子(こうし ※ 強化子のこと)」の量を減らしたり、頻度や確率を減らしていく手続きをリダクションと呼び、臨床・実践ではよく行われている技法
と強化子のリダクションについて述べています。
強化子のリダクションを参考にすれば例えば正しく歩くという既にできている行動に対してこまめに褒めるとき、大袈裟に身体を持ち上げて「すごいぞー、かっこいいぞー」とまではやる必要はありませんし、オーバーにやりすぎると却って悪影響になってしまう場合もあります。
例えばお子様にとっても歩くと言う行動は今まで、強化子が伴うとまでは思っていない普段の行いだったにも関わらず、あまりにも大きな強化子が来ると学んでしまうと、今後その強化子がもらえない状況が来ると「あれ?」と思って、その大きな強化子を求め、不適切な行動を取ってでも大きな強化子を求めに来るかもしれません。
「あれ?今日、高い高いしてくれないな。何か変だな、ちょっと走ってみるか!」とか思い、
実行するかもしれません
そのため日常的にお子様の良い行動を見つけて褒めて行く場合は、笑顔で温かい声で周囲の大人(先生や祖父母など)が褒めてくれるレベルの強さであなたなりの褒め方をしてあげれば十分です。
お子様の既にできている適切な行動を見つけ、褒めてあげるということを是非、習慣にしてみてください。
さいごに
初めて療育施設に行かれた方で「お子様の良いところを3つ教えてください」と専門家に言われたことがある人もいるのではないでしょうか?
「子どもは褒めて育てよう!」と言われ出した昨今、お子様の良いところを親御様が探すというのは結構スタンダードな療育手法になってきていると思います。
親御様の中には「褒めるところなんてないですよ・・・」とおっしゃる方がいるのですが、何かできていること、本ブログページで書いてきたような当たり前のことでも大丈夫ですので、
お子様が今、できているところを探す
ということを是非やってみてください。
可能であれば寝る前にできていたことを3つくらいは思い返して日記に留めておく、などすれば、お子様の良いところやできていることを探す能力が上がって行くと思います。
そしてできていることを褒めてあげてください。
本ブログページは「ABA自閉症療育テクニック」という章です。
明日から使えるABA自閉症療育のテクニックについてご紹介をして行きます。
本ブログページでご紹介しため不適切な行動を減らそうとするとき、不適切な行動への介入ばかりに注目するのではなく、適切な行動に注目し適切な行動の割合を増やして行くということ、
是非、明日から継続して行なってみてください。
【参考文献】
・ M. Hirshkowitz・Kaitlyn Whiton・S. Albert・C. Alessi・O. Bruni・L. Doncarlos・N. Hazen・J. Herman・E. Katz・L. Kheirandish-Gozal・D. Neubauer・A. O’donnell・M. Ohayon・J. Peever・R. Rawding・R. Sachdeva・B. Setters・Michael V. Vitiello・J. Ware・P. J. Adams Hillard (2015) National Sleep Foundation’s sleep time duration recommendations: methodology and results summary. Sleep Health Volume 1, Issue 1, March p40-43
・ 島宗 理 (2019) 応用行動分析学 ヒューマンサービスを改善する行動科学 新曜社