この章ではシングルケースデザイン(SCD:Single Case Design)と機能分析(きのうぶんせき)について学んでいきましょう。
本章では最初のブログページではSCDについて書いていき、後半、機能分析についてページを作成し書いて行く予定です。
SCDは「単一事例研究」や「シングルケーススタディ」などと呼ばれるものと同義のものとなります。
まずSCDとは何でしょうか?
SCDとは研究で用いられる研究デザインの1つです。
「研究で用いられる」と聞くとめちゃくちゃ難易度の高いものに聞こえるかもしれませんが、
私は本章を通してSCDをマスターして欲しいまでとは考えていません
SCDはマスターせずとも、あなたのお子様に適応するだけのSCDの知識があれば充分で、それだけでもかなり強い自閉症療育の捉え方をすることができる知識です。
ですので本章ではSCDについてあなたが自身のお子様に適用できれば良い、私が充分だと思うレベルまでの解説を行い、その後「機能分析」についての解説に入っていきましょう。
本ブログページはSCDについて簡単に触れる内容とし、SCDを学ぶと何が良いの?
ということについて簡単に書いていきます。
そして次のページからSCDについて学んでいきましょう。
シングルケースデザイン(SCD)を学ぶ利点
本ブログページでSCDは研究で用いられる研究のデザインの1つと書きましたが、どういった研究に用いられるデザインなのでしょうか?
例えば原田 隆之(2015)は以下のヒエラルキーの内上位に位置するものの方が科学的な根拠が強いと述べました。
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1.ランダム化比較試験(RCT)の系統的レビュー(メタ分析のこと)
2.個々のランダム化比較試験(RCT)
3.準実験
4.観察研究(コホート研究、ケース・コントロール研究)
5.事例集積研究
6.専門家の意見(研究データの比較的吟味を欠いたもの)
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上のもののうち1ー5は研究です
6は専門家の意見ですので例えばTVや雑誌などで専門家が意見を述べているものと思ってください
SCDは1−5の研究の中で「5.事例集積研究」という研究の中で使用される研究デザインです。
「5.事例集積研究」という研究で必ずしもSCDが使用されるかと言えばそのようなことはありませんが、ABAや行動療法のほとんど事例集積研究の論文ではSCDが活用されています。
「5.事例集積研究」はヒエラルキー内で決して上位に位置していませんね?
そのためSCDを使用しても科学的なエビデンスが低く、あまり意味ないのじゃない?と思うかもしれません。
例えば森 博嗣 (2011)は科学というのは簡単にいえば「誰にでも再現できるもの」であると述べていますが、誰にとっても効果が予測できるためにはたくさんの人に対して実験や調査を行い研究を行う必要があります。
SCDは比較的に少ない人数に対して適用するデザインであるため、多くの人を研究対象としていない事例集積研究で用いられます。
SCDが用いられる研究は「1人の自閉症のお子様への攻撃行動低減の介入」や「2人の自閉症児に対して偏食指導を行った」とか、「3人の自閉症者に対して排泄後、清潔に保つための行動(お尻の拭き方)を教えた」など、研究に参加する人数が1桁であることが普通です
そのような参加人数のパイが小さいため「誰にでも再現できるもの」とまで呼ぶことが難しいことも、
科学的な根拠のヒエラルキーが低い位置にある要因の一つと私は考えています
しかしSCDは1人の人間が行う行動について予測することがもの凄く得意です。
例えばGhaleb H. Alnahdi (2013) はSCDについて、
教育者は生徒に対するさまざまな治療法の有効性を評価し、これらの治療法のどれが効果的かを判断することができると述べました。
本ブログで言えば教育者は親御様、生徒はお子様と思ってもらって良いです。
SCDは上手く活用すればあなたが行っている介入、もしくは専門家に任せている療育が効果的かどうかを判断する材料になります。
ABA自閉症療育を学んでいくと、しばしば、できるだけ早いタイミングで療育を開始しろという提言を目にすることが多いでしょう。
例えばKatarzyna Chawarska・Ami Klin・Fred R .Volkmar (2008) は自閉症が疑われればただちに介入プログラムを開始することを自閉症児への効果的な介入要素の1つとしました。
※ Katarzyna Chawarska他 (2008) の述べた自閉症療育の介入効果を上げる要素を紹介したページは「(ABA自閉症療育のエビデンス7)EIBIに必要な要素と診断の課題点(https://en-tomo.com/2020/04/05/eibi-essence/)」を参照
私はできるだけ早いタイミングで始めることと同じくらい、意味のある介入を行うことも必要だと感じています。
SCDを学べば、
・ お子様にとって今行っている結果は強化子として機能しているか?
・ お子様へ行っている発語プログラムは効果があるか?
・ お子様が行う問題行動に対しての今行っている介入が有効か?
・ お子様に行って欲しい向社会的行動(例えば友達と遊ぶ)に対しての今行っている介入は正しいか?
・ お子様と私(親御様)の関係は良好か?
・ 親御様自身のコンディションの整え方として今行っている方法は合っているのか?
などいろいろな判断するときに役に立つでしょう。
「判断」というのは、介入を続けるのか、方向転換して別の介入をするか判断するときに役立ちます。
まずこれが私が親御様がSCDの知識を持つべきだと感じている理由です。
それをするための知識は、研究者になれるほどの知識は必要ありません。
論文を書けるほどの知識は必要ないです。
簡単なSCDの見方を身につけるだけでも充分、毎日の療育に生かすことができます。
次の項では本ブログを通してSCDの何を学ぶかについて概要を紹介しましょう。
本章でシングルケースデザイン(SCD)の何を学ぶ?
SCDには色々な種類があります。
例えばKpolovie Peter James (2016) はSCDデザインとして以下の5つを紹介しました。
・ A→B→A→B design (逆転デザイン)
・ Multiple-baseline design (多層ベースラインデザイン)
・ Interaction design (インタラクションデザイン)
・ Alternating-treatment design (交互治療デザイン)
・ Changing-criterion design (基準変更デザイン)
の5つです。
またこの5つ以外に「AーBデザイン」というものがあります。
「AーBデザイン」はエビデンスがある、というレベルに達しないデザインのためKpolovie Peter James (2016) のデザインに含まれていないと考えられるものの、
島宗 理 (2019) はSCDの考え方の基本となるのがAB法であると述べました。
島宗 理 (2019) の述べたAB法とは「AーBデザイン」と同義です。
しかし、
「AーBデザイン」はエビデンスがあると呼べるレベルには至らないものの知っているとABA自閉症療育を行うとき役に立つでしょう。
実際に私が臨床実践で使用をしているものは、
・ AーBデザイン
・ A→B→A→B design(逆転デザイン)
・ Multiple-baseline design(多層ベースラインデザイン)
・ Changing-criterion design(基準変更デザイン)
くらいです。
本章では私が使用している4つのデザインについて学んでいきましょう
本章では簡単な使用用途も解説し、実際にどのように使用して行くかについて例も出して解説を行っていくつもりなので、必要なとき必要なデザインの使用を検討してみてください。
また使用しなくとも、考え方を知っているだけでも充分意味があると思います。
またSCDで使用するデザインは基本的に全て「ベースライン(Baseline)」という介入をしていない時期と比較しどう変化したか、という経過を見て行くデザインです。
実は扱ってみるとそんなに難しいものではないでしょう。
さいごに
本ブログページは「シングルケースデザインと機能分析」という新章の1ページ目でした。
本章はまず最初にシングルケースデザイン(SCD)を学び、その後、機能分析について学んでいこうという方向性でやって行くつもりです。
本ブログページで見て来た内容としてSCDを用いた研究、「事例集積研究」は研究の科学性ヒエラルキーはあまり高くありません。
その理由は、「事例集積研究」ではそもそも私は研究参加者が少ないため他の研究と比べ、研究の結果が一般的な結果であるという主張が弱いことが一つの要因であると思っています。
しかしSCDは1人の人間が行う行動を予測することには強いということも書いて来ました。
私はABA自閉症療育では、あなたがあなた自身のお子様について理解を深めることが充分だと思うので、
1人の人間が行う行動を予測することができるSCDは向いていると思います
そのあとKpolovie Peter James (2016) の論文から5つのSCDのデザインを紹介しそして「AーBデザイン」について紹介しました。
そして本章ではSCDについて今後、
・ AーBデザイン
・ A→B→A→B design(逆転デザイン)
・ Multiple-baseline design(多層ベースラインデザイン)
・ Changing-criterion design(基準変更デザイン)
を学んでいくと書きました。
そしてこれらは基本的に全て「ベースライン」という介入をしていない時期と比較してどう変化したか、という経過を見て行くデザインであると述べました。
次のページではまず「ベースライン(Baseline)」について学んで行きましょう。
ベースラインの測定は全てのデザインで重要です。
どうぞよろしくお願いいたします。
【参考文献】
・ Ghaleb H. Alnahdi (2013) Single-subject designs in special education: advantages and limitations, Journal of Research in Special Educational Needs, p1-9
・ 原田 隆之 (2015) 心理職のためのエビデンス・ベイスド・プラクティス入門 エビデンスを「まなぶ」「つくる」「つかう」 金剛出版
・ Katarzyna Chawarska・Ami Klin・Fred R .Volkmar (2008) AUTISM SPECTRUM DISORDER IN INFANT AND TODDLERS:Diagnosis, Assessment, and Treatment 【邦訳: 竹内 謙彰・荒木 穂積 (2010) 乳幼児期の自閉症スペクトラム障害 診断・アセスメント・療育 クリエイツかもがわ】
・ Kpolovie Peter James (2016)SINGLE-SUBJECT RESEARCH METHOD: THE NEEDED SIMPLIFICATION. British Journal of Education, Vol.4, No.6, pp.68-95, June 2016
・ 森 博嗣 (2011) 科学的とはどういう意味か 幻冬社新書
・ 島宗 理 (2019) 応用行動分析学 ヒューマンサービスを改善する行動科学 新曜社