ABA:応用行動分析コラム32は『行動のあとを観察し解決する方法と「医学モデル」』というタイトルで書いていきます
生活をしていて「あなたがそのように行動した理由は?」と聞かれたとき、「お腹が減っていたから」、「イライラしたから」、「体調が悪かった」など、行動を起こす前の事象に焦点を当てて説明することが多いと思います。
でも本当に行動した理由はそれで正しいのでしょうか?
例えば「お腹が減っていたから」という理由で「ラーメン屋さん(名前をEn麺ラーメンとしましょう)に入ってラーメンを注文し食べた」とします。
あなたのお腹は満たされてそのとき空腹という欲求不満は解決され、満足感を得られる可能性が高いでしょう。
あなたは「En麺ラーメン」でもう過去何度か食事をしていて美味しかったので、何度か「En麺ラーメン」に食べに訪れたことがありました。
さてここで、あまり現実的ではありませんが「En麺ラーメン」で注文をしたところ「今日出せる品物はもうないです」と店主に言われたとします。
飲食店は食べ物を出し料金を取ることで成立しているので、
のれんが掛かっている状況で入店し注文しても食べ物が来ないことはありえないでしょうが、
このようなことがあったと考えてください
あなたはお腹が減ったまま店をあとにするわけですが、あなたは「En麺ラーメン」で過去何度か食事をしていて美味しかったのでその後も何度か「En麺ラーメン」に食べにいきました。
しかし何度もこのようなことが続いたとしたら?
いよいよあなたは「お腹が減っていたから」という理由が生じたときにとる行動として「En麺ラーメン」に入る確率はとても低くなってしまうでしょう。
このように考えると実は行動を起こす決定因は行動の前の理由ではなく、行動したあとにどういった結果が返ってきたかという過去の経験が重要なのです。
上の例で言えば「En麺ラーメン」に何度訪れても空腹という欲求不満が解消されなかったということが続くと、その後「En麺ラーメン」に訪れる頻度が徐々に減少して行くだろう、ということが予測できます。
行動の前の理由、状況は行動を引き起こすきっかけを与えてくれる。
これは確かに真実なのですが、そのきっかけがあったときにどのように行動するかについては、過去行動したときにどうなったか、行動をしたあとの結果が大きく関わってきます。
これは行動を起こす原因は実は行動のあとに理由があるよ、という考え方です。
行動の後ではなく、行動の前に原因を求めることを「医学モデル」と呼ばれます。
例えば杉山 尚子(2005)は医学モデルについて「意思」や「やる気」や「性格」などと行動に対してラベルを貼ることで、人は無意識のうちに「こころ」を想定し、問題行動を起こす原因はその「こころ」であると考えてしまうと述べました。
体温の上昇や歯の痛み、骨のヒビという観察可能な事象と違う心の症状に原因を与えるときも杉山 尚子(2005)が述べているように「意思」や「やる気」や「性格」などを原因に考え、それらをなんとかすれば良いと解決策を探ってしまうことが私たちは多いのです。
私が新しく出会った親御様に「ABAとは?」を簡単に説明するときによく使う言い回しがあります
『
例えば、お子さんが突然一人で泣き出したとしましょう
そのとき、多分「機嫌悪いのかな?」とか「寝不足なのかな?」、「嫌なことがあったのかな?」って考えませんか?
それは確かにそうかもしれないのですが、お子さんが泣いた後にどうしているかに注目する
例えばお母さんがお子さんが泣いたあと「大丈夫?何か嫌なことがあった?よしよし」って頭を撫でていたとしましょう
もしかすると、お子さんは暇な時にお母さんに相手をして欲しくて泣いたのかもしれませんね?
どう思います?
』
このような話をするとお母様が「あぁ確かに・・・」とおっしゃることが多いです。
他に、以下のような感じで話すこともあります。
『
例えば、お子さんが突然一人で泣き出したとしましょう
そのとき、多分「機嫌悪いのかな?」とか「寝不足なのかな?」、「嫌なことがあったのかな?」って考えませんか?
それは確かにそうかもしれないのですが、お子さんが泣いた後にどうしているかに注目する。
例えばお母さんがお子さんに何か課題を出したり指示をしたとき、お子様がやっている活動を中断させて別の活動に移そうとしたときに泣いていて、お子さんが泣いたら家事も進まないし、
「わかったよ。じゃあやらなくていいよ」と対応していたとしましょう。
もしかすると、お子さんは泣くことで状況を拒否しているのかもしれませんね?
どう思います?
』
このような話をするとお母様が「あぁ確かに・・・」とおっしゃることが多いです。
伝えるときは、お子様の状態を少し確認し、ご家庭に合わせ形で言い回しを調整してお母様に説明します。
どちらの言い回しでも良いですが、
お母様が「あぁ確かに・・・」とおっしゃったあと以下のように伝えることが多いです
『
もし今「あぁ、確かにそうかもしれないな」と思ったとしたら行動のあとにお母様がどうしているのかにも注目することが大切です
ABAがユニークなところは行動を起こした理由を行動の前に求めるだけでなくて、行動のあとにも理由があるのではないかと分析するところだと思います
これはとても行動の問題、問題行動を解決することに有効です
そしてまた新しいことを教える時にも有効になります
ABAは行動の前後からその行動の理由を分析して、解決して行くことも特徴の1つです
』
このようなお話をします。
さて次になぜ私がこのような話をするのかについて今回のコラムでは簡単に書いていきましょう
行動のあとにも理由を求めるわけ
杉山 尚子(2005) と同じように私も心の問題を扱うとき「意思」や「やる気」や「性格」などを原因に考え解決を測ってもあまり上手くいかないというように考えています。
例えば「仕事にやる気が起きなくてしんどい」というニーズを持って私が専門家のところ相談に行ったとしましょう。
専門家が「じゃあ、人間のやる気を上げる研究結果の出ているエクササイズを行いましょう!」と言ったとしたらどうでしょうか?
一旦私は「それってどれくらいの割合の人に効果があるんだろう」と考えると思います。
そしてまた「ん?この人、私のこと何もまだ知らないのに何を言っているのか?」とも思うでしょう。
私がやる気が起きない理由を聞かないのだろうか?とかも思うと思います。
確かにやる気が起きない、というニーズで行ったとしても、やる気が起きなくなった原因はケースバイケースでしょう
私自身が思っていることは以下のことです。
人それぞれが悩んでいる問題はケースバイケースであると共に、その人が持っているスキルや社会的背景などのリソースもさまざまなので、全ての人に対して「意思」や「やる気」や「性格」など全体をアップさせる方法は無い。
これが基本線だと思います。
「意思」や「やる気」や「性格」などに行動の理由を求めることを「医学モデル」と呼ぶと本ブログページの上で書いてきました(参考 杉山 尚子,2005)。
「医学モデル」とは行動の理由を行動の前に求めることを言います。
「やる気がない」から、と理由づけてそれをどうこうしようという方法です。
「医学モデル」に価値が無いと言うわけでは決してありません
ここまでの時代、「医学モデル」はかなりの成功を納めてきたようです。
例えば医学モデルとは、
・ 風邪をひいたから、解熱剤を飲めば良い
・ 歯が痛いから、痛み止めを飲めば良い
・ 骨が折れているから、ギプスをはめて治療する
と言った考え方でこれは身体疾患を治療する医学では大きな成功を収めてきました(参考 杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット,1998)。
私自身も体調不良などは人生で過去にもちろんあったわけで、とてもお世話になったモデルの考え方です。
例えば、以上の身体異常においては「医学モデル」はかなりの成功を納めて来たのですが、これが行動や心の問題となってくると話は変わってくるでしょう。
奥田 健次 (2012)は『人や動物の行動の原因について考えるときは「真逆」に見なければならないのである。つまり、その行動がなぜ起きるのかについての理由を考えるとき、その行動の前に何が起きたのかを考えるよりも、その行動の後に何が起きたのかを考えなければならない』と述べていますが、私もそう思います。
本ブログページでは私が良く使う新しく出会った親御様に「ABAとは?」を簡単に説明するフレーズをご紹介しましたが、
もしあなたも「確かに・・・」と思ったとすれば、一度お子様が行動したあとに何が起こっているかを観察してみてください。
行動のあとに理由を求める、ちょっと逆さから見る方法です。
さいごに
私も今日までブログ内でいろいろ書いて来ましたがABAは自閉症療育に効果があるというエビデンスがあります。
例えば「(ABA自閉症療育のエビデンス5)EIBI(早期集中行動介入)のメタ分析(https://en-tomo.com/2020/03/30/eibi-metaanalysis/)」でいくつかのメタ分析研究についてご紹介をしました。
このようなエビデンスのあるABAの基本は行動のあとの結果によってその後の行動の増減が左右されるという考え方に立っています。
もしあなたがお子様の療育で困っていたとすれば一度、お子様が行動したあとにどういった結果が伴っているかにも注目してみるのはいかがでしょうか?
本ブログではABAの参考書でときどき目にするであろう「医学モデル」について書いてきました。
医学モデルとは行動の前に原因を求める方法です。
それは行動問題に置き換えたとき、例えば「意思」や「やる気」や「性格」などが原因であると捉えます。
行動問題の原因に対して、心にラベルを貼る方法です。
ここまで書いてきたように医学モデル以外の行動の見方として、「行動のあとに行動の原因を求める」という方法があります。
ABAはそのように行動を見て分析をすることが特徴です。
もしお子様の行動問題で困っているなという場合は「行動のあとに行動の原因を求める」ことを一度試してみても良いと思います。
【参考文献】
・ 奥田 健次 (2012) メリットの法則 行動分析学・実践編 集英社新書
・ 杉山 尚子 (2005) 行動分析学入門ーヒトの行動の思いがけない理由 集英社新書
・ 杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)行動分析学入門 産業図書