本章最近のブログページでは行動測定の心構えや少し期間を観察してから判断すること、クレバーハンスなどをご紹介していきました。
私たちは行動を観察し測定することでお子様の状態を把握し、支援(介入)方略を考え、そしてその支援を続けるかどうかについてもその後の行動観察、測定によって判断する、
というスタンスを私は推しているのですが、では測定する行動はどのように定義すれば測定しやすくなるでしょうか?
今回は測定する行動を定義するときのポイントについて書いていきます。
死人ができる行動は行動ではないー死人テスト
まず最初にご紹介したいのが「死人テスト」というものです。
杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)は、
「死人テスト」とは『死人でもできることは行動ではない』という考え方で「受け身」「状態」「非行動(~しない)」というものは行動ではない。
広義には「死人にできない活動は全て行動である」と述べ、狭義では「筋肉または腺の活動」であると述べました。
例えばお友達を叩いてしまうお子様のターゲット行動に「叩かないこと」を据え、
トレーニングの対象にすることは「非行動(~しない)」をターゲット行動と捉えているため適切とは言えません
三田村 仰 (2017) は死人テストについて行動をあくまでも運動や活動として理解することで、適切に行動を分析することが可能になるものだと述べました。
例えば「叩かないこと」をターゲット行動とした場合、支援方略は「やってはいけない」と注意することで、行動問題を狙いがちになります。
では行動を「受け身」「状態」「非行動(~しない)」で定義しないのだとすればどうすれば良いのか?
「肯定系や能動態(〜する、〜している)」で定義することが良いでしょう。
もし死人テストについて興味がある人は過去に書いた死人テストのブログページ「死人テスト・行動の過剰と不足(ABA自閉症療育での行動の見方2)(https://en-tomo.com/2020/06/29/behavior-view-base/)」
をご覧ください。
観察対象を決めておく、状況や時間を決めておく、5W1Hで表現する
宮下 照子・免田 賢 (2007) は行動観察のポイントを以下のように紹介しています。
(1) 何を観察するのかあらかじめ決めておく
(2) 観察する状況や時間を決めておく
(3) 行動を5W1Hで言い表せるように観察する
行動観察を行う前に上記のようなことを決めておくことも大切です。
以下ご紹介していきます。
(1) 何を観察するのかあらかじめ決めておく
「(1) 何を観察するのかあらかじめ決めておく」は、「泣いた回数」など決めておきます。
観察する事象は「回数(頻度)」なのか、「泣いている時間(維持時間)」なのか、「派手さ(鳴き声の大きさ)」なのか、あらかじめ決めておく必要があるでしょう。
もちろん「泣いた回数(頻度)」を記録していき、特に派手に泣いた場合のは記録するときにその記録に◯をつけておくなど、「回数+派手さ」を両方を記録しても構いません。
(2) 観察する状況や時間を決めておく
「(2) 観察する状況や時間を決めておく」は、「いつ」「どこで」観察するかを決めておきます。
「泣いた回数を記録する」と言ったとき、生活をしている間24時間全ての行動を記録するということは大変コストがかかるでしょう。
もし2歳児のお子様をお持ちでずっと一緒にいると言った場合には可能かもしれませんが、保育園・幼稚園に通っていたり、祖母の家に遊びに行ったり親御様の元を離れる時間がある場合は難しいと思います。
また食事を作っている、洗濯をしている、掃除をしている間もずっと記録を続けるということは大変です。
そのため例えば「リビングで過ごす1時間だけ」など、場所と時間を区切って観察をしましょう。
それ以上の観察が必要かどうかは状況を見て必要であれば、観察場所・時間を拡大するということで大丈夫だと思います。
どういった時間・場所を選択すれば良いかと言えば、あなたと一緒にいるときで最も観察したい行動が出現する時間を選択しましょう。
例えば「泣き」を減らしたくて、泣きを観察対象の行動としたときに「朝起きてからお出かけの準備をしているときが1番泣く」となった場合は、その時間を選択します。
※ 朝が最も泣いたとしても、「朝は私もバタバタしていて忙しいから難しい」と言った場合には別の場所・時間を観察対象に選択しても構いません
(3) 行動を5W1Hで言い表せるように観察する
「(3) 行動を5W1Hで言い表せるように観察する」は、例えば泣きの場合、「お父様といる(Who)、リビングで(Where)、お父様がチャンネルでTVをつけたとき(How、When)に泣いた」と観察する癖をつけるようにしておきます。
これは行動が出現する前の弁別刺激(きっかけ)の発見につながるでしょう。
何が泣きの行動を引き起こしているのか
の特定に非常に役立ちます。
できればその後お子様が泣いたあとどうなったか(どういう結果が伴ったか)も併せて観察する癖をつけましょう。
行動の前後を見ることで、行動の意味の分析に役立ちます。
行動の意味(目的)をアセスメントして行く方法をABAでは機能分析というのですが、機能分析の方法についてはまた別のページでご紹介させてください。
評定者間一致率
良く定義された行動の定義とはいったいどういったものでしょうか?
1つの視点からの答えは「誰が記録しても同じように記録できる」定義です。
例えばお子様の「怒った」という行動を記録した場合、明らかに罵声を吐いているなどの状況でははっきりしているかもしれませんが、
ある状況においてはAさんは「怒った」と記録をして、Bさんは「怒ってない」と記録するかもれいません。
このような人によって記録が変わってしまうレベルの行動の定義は良い定義とは言えないでしょう
日本行動分析学会 (2019) は行動観察によって得られたデータが信頼できるものかどうかを判断するために観察者間一致率という方法が用いられると述べました。
評定者間一致率(ひょうていしゃかんいっちりつ)では、2人以上の人が独立してお子さんの問題行動や教えたい行動(減らしたり、増やしたい)を評価し、その頻度やパーセンテージがどの程度一致するかという確率を求めるのです。
一致率は2人以上の人がそれぞれ独立して記録し、記録後にどの程度一致していたかを評価するのですが、ちゃんと一律が出るかどうか学生時代は緊張したものでした。
Paul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) を参考にすれば一般にABAの専門家は90パーセント程度の一致率を得ることを目的とします。
そしてもし一致率が80パーセント以下であれば何か多くの誤りがある兆候のようです。
そのためもし療育が「上手くいかないな」と思ったときは評定者間一致率について見直してみることで解決に導けるかもしれません。
もしお母様・お父様で協力してABA自閉症療育を行う場合、例えば1週間、2週間に1度、療育の進捗具合について話し合う機会を持つ方が良いでしょう。
その際、O.Ivar Lovaas (2003)を参考にすればそのようなミューティングの機会で評定者間一致率を査定する良い機会となるようです。
さいごに
以上、測定する行動はどう定義すれば良いかについて本ブログページでは記載してきました。
ABA自閉症療育で行動を測定しようと決めたとき、参考になれば幸いです。
ABA自閉症療育の基本はまずは行動を正しく記録することでしょう。
正しい行動の記録がなければ、どれだけ上手く分析ができたとしても「最初から違った」となりかねません(誤った分析結果を招く)。
またブログ内で何度か書いてきましたが、行動の観察・記録というものはやって行けばいくほど上手くなるものだと思います。
最終的には記録した行動を元に対処方略を考えて介入をして行くこととなるので、そのことを繰り返して行くと、
「あぁ、これも記録しておこう」とか「ここは多分使わないから記録しなくてもいいや」など情報の取捨選択ができるようになって行くでしょう。
次のページではお子様が課題ができなかったとき、それにはどういった理由があってどうアセスメントをすれば良いかについて書いて行きます。
【参考文献】
・ 三田村 仰 (2017) はじめてまなぶ行動療法 金剛出版
・ 宮下 照子・免田 賢 (2007) 新行動療法入門 ナカニシヤ出版
・ 日本行動分析学会 (2019) 行動分析学辞典 丸善出版
・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】
・ Paul A. Albert & Anne C. Troutman (1999) Applied Behavior Analysis for Teachers:Fifth Edition【邦訳 佐久間 徹・谷 晋二・大野 裕史 (2004) はじめての応用行動分析 二瓶社
・ 杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)行動分析学入門 産業図書