皆様は「クレバーハンス」を知っているでしょうか?
心理学を専攻した人でも知っている人は少ないのじゃないかなと思うこのキーワード。
クレバーは英語で「賢い」の意味で、ハンスは「馬の名前」です。
この「クレバーハンス」がABA自閉症療育にどのような影響を与えるのでしょうか?
私個人はABA自閉症療育を行っていてクレバーハンス効果をもろに目の当たりにすることが何度かありました
そんなに数があったものではないですが、経験した時は驚いたものです
個人的に思うのはクレバーハンス効果について知らないでいると「今やっている療育の効果がほとんどなくなってしまう」と言っても過言ではないほど強烈な結果をもたらす可能性があります。
だからそんなに数はあるわけではないかもしれませんが、本ブログページでクレバーハンスについて知っていおいて、自らがクレバーハンスを行わないようにすることが賢明です。
以下クレバーハンスについて書いていきましょう。
クレバーハンスとは何か?
私がクレバーハンスについて知ったのは大学院生の時代でした
当時は「自閉症の世界」に行くかどうかなど、自分の進路を考えていた時期で、そのとき読んだ本に書いてあって「へぇー、そんなこともあるんか」と思った記憶があります。
その本はこれ!
色々な分野の心理学の研究が載っていて面白くて当時読み込んだものです。
懐かしい。
自分の世界の広がった1冊です。
豆知識とか好きな人も楽しんで読めると思いますよ!
今は当時ほどは色々な分野の幅広い心理学の知見を広めようという気持ちは少し減ったかもしれません。
今オンラインカウンセリングとかアプリケーションとか他の分野に目が向いていますが、純粋に心理学のみに目を向けていただ時代でした。
私自身ABAが好きという部分はずれていませんが、時代は動いて行くものですね。
興味の幅が広がったけれど本筋はずっとABAに向いています
当時は今とは違う読書の技術を使っていて写真にあるよう、消える蛍光ペンで線を引くことにハマっていました。
消える蛍光ペンは一回線を引いても、ペンのお尻側で擦れば引いた蛍光マーカーが消えると言うものです。
今でいうフリクションペンの蛍光ペンバージョンのような商品でした。
蛍光ペンが無くなるのが怖くてコンビニで見つけてはまとめ買い。
一時期30本くらい未開封の蛍光ペンが家にあったことを記憶しています。
溜めすぎですね・・・。
今は細めの付箋に読書技術が変わりましたが、Twitterを見てくれている人は知っているかもしれませんが、今はこのような細めの付箋を100均で見つけては買い込んでいて、
人間10年経っても変わらないものだなと書いていて思います。
上の写真で紹介した付箋の貼りまくっている本ではなくて、さらにその上で紹介した「心理学を変えた40の研究(Roger R.Hock, 2002)」の著書に有名な「ピグマリオン効果」の論文が紹介されているのですが、
クレバーハンスという言葉はその中で紹介されていました。
ピグマリオン効果はGoogleなどで検索しても出てくると思いますが学級開始時に教師へ「この子はIQ高いよ」と何人かのお子様の情報を与えたクラスがありました。
実際は「IQ高いよ」という情報は嘘で測っていません。
ただランダムに選ばれた子どもに対し教師に嘘の情報を伝えたのですが、研究結果は「この子はIQ高いよ」と言われたお子様は実際にIQが高くなったという結果です。
実際は「IQが高い」は嘘だったにもかかわらず、教師の期待からか、実際にそう言われたお子様のIQが上がった。
この研究は「期待すること」が子どもに与える影響は大きいという結果を導きました。
ピグマリオン効果をABA自閉症療育に活かすとすれば「お前はすごいよ」、「できると思うよ」、「大丈夫だよ」などポジティブな期待をかけ続ければ子どもは伸びるのかもしれません。
さて話を戻すと本著ではクレバーハンスは以下のように紹介されています。
Roger R.Hock (2002) はハンスは読み、書き、計算ができ、前足の蹄(ひずめ)を踏み鳴らして回答することができる有名で賢い(クレバーな)馬だったと述べました。
以下Roger R.Hock (2002)の文章から構成して内容をご紹介します。
果たして馬は本当に人間と同じような知能を持ってこのような問題に回答できるのか?と心理学者のO.フングストと言う人が疑問を持ちました
そして実験を慎重に重ねて行く中で、賢い馬ハンスは質問者が無意識にする行動から正解についての手掛かりを得ていることを突き止めました
なぜハンスが問いに応えることができたのか、結果は以下です。
例えば質問者は問題を出してからハンスが答えを出してくれるのを待っている間ハンスの前足に目を落とします
蹄を踏み鳴らす回数が回答に対し対応した回数に近づくと、ハンスが回答することを期待して、質問者はほんのかすかに目や頭を上げるのです
ハンスは質問者のこうしたわずかな動きを蹄を踏み鳴らすのをやめる合図だと受け取るよう条件付けされているので、正しく回答することができました
観察の結果、これがクレバーハンスが問題を回答できた真実でした。
これは1900年代初頭の出来事です。
質問者が「無意識」であったことはポイントでしょう。
質問者が「ハンスなら答えてくれるだろう(答えて欲しい!)」という期待から生まれた意識していない行動から、ハンスは状況を読み取り正解することを行っていました。
私自身は「そんな些細な行動変化を観察できたハンスすごいな」とも思いますが、結果的には「ハンスは読み、書き、計算ができる」ということではなかった、ということが重要です。
これは「ハンスは読み、書き、計算ができる」を期待した結果生まれた事例でした。
ではこのようなことがABA自閉症療育にどのように影響を与えるのでしょうか?
以下そのことについて考えていきましょう。
クレバーハンスからABA自閉症療育で注意したいこと
私はまだ子どもを授かっていないため親が子どもにかける希望、期待などに充分共感できる立場の人間ではありません
が、例えば何かお子様に課題を出したとき「できた」、「できなかった」という結果が返ってくる場面で我が子に対してできれば「できた」という結果が返ってきて欲しい、
は親心としては当たり前でしょう
そのことは理解できます
特に言葉に遅れのある自閉症のお子様で周りのお子様は昨日見たTVの内容について話している中で、
今日あなたは自分のお子様にりんごのカードを見せて「これは 何?」と聞いている。
このときお子様が「りんご」と答えてくれることには充分期待したい気持ちが湧いてくるでしょう。
当然同年代のお子様はりんごを知っていて、それ以上の情報を蓄積していることも目の当たりにし、今日「りんご」の名前が言えるかどうかを尋ねているのです。
このようなとき私が体験したことがあるクレバーハンスのような事例は以下のようなものでした。
上のイラストのようにお母様が「これは何?」と聞いたあと、小さい囁き声で「りんー・・・」とヒントを出しています。
結果的にお子様が以上のイラストの条件で「りんご」と答えられたとしましょう。
親御様のほとんど周囲に聞こえない程度の音量で「りんー・・・」と囁く、これはプロンプトです。
お子様はそのヒント(プロンプト)を聞いて「りんご」と応えるのですが、これでは実は本来の目的であった、
「りんごのカードをみて、りんごという名称を答える」を達成できたと言えません。
例えば私が、
お母さん今、声出てましたよ
ヒントになるからそれはやめてください
と言ったときに「え?本当ですか!?」と答えられることもあります。
「正解して欲しい」という親心から出てきた心の声なのでしょう。
ただクレバーハンスの事例のように無意識のヒントを出し続けると、本来学んで欲しいことを学んでくれないという結果になる可能性が高いです。
本当は「これは何?」と聞いて「りんご」と言えるようになって欲しかったのに、お母様から出てくる音声のヒント(「りんー・・・」という囁き)に反応すれば良いという変な学習が成立してしまいます。
上のイラスト目線でプロンプトを出してしまうことも「正解して欲しい」という期待からくる無意識の行動なのかもしれません。
このようなことを連続して行ってしまうと、本来覚えてほしかった「りんごの名前」ではなくて、賢い馬ハンスのように「課題をどうすればクリアできるか」という、支援者の期待に沿うことだけが上手くなってしまう可能性が高いです。
これは残念ながら療育の結果として意味が無いと思います。
お子様は本来学習して欲しいことではなくて、指導者の素振りから正解を導き出すというテクニックを学んでしまうことに療育的な意味は無いでしょう。
ABA自閉症療育ではあなたの前でできるようになったことが、あなた以外の人の前でもできるようになる、これが最終的な目標だったはず。
このようにして、あなたの前だけでできてもあまりそのことに意味はありません。
だからこそ、このような無意識に行ってしまうプロンプトには注意をして、日々のABA自閉症療育を行っていくことが大切だと私は思います
さいごに
本ブログページではABA自閉症療育で気をつけたいクレバーハンスについて考えてきました。
ABA自閉症療育ではこのような事象を「意図しないプロンプト」と呼んだりもします。
O.Ivar Lovaas (2003) は、
意図せず視覚プロンプトを加えて、子どもが正しく反応することを補助している可能性もある
ーー中略ーー
別の人が全く同じ意図しないプロンプトを使うことはないだろうから、子どもが習得したものを他の指導者や大人に般化させるようにすると良いと述べています。
仮にここまで述べてきたようにクレバーハンスが「無意識」で親御様自身にもコントロール不可だった場合はO.Ivar Lovaas (2003) を参考に別の人に自分の前でできていることと同じことを行ってもらってできるかどうか確かめればクレバーハンスに陥っている可能性を下げることが可能です。
必ずしもでは決してありませんが「あなたの前ではできる、でも他の人の前ではできない」はクレバーハンスを疑う1つの結果となるでしょう。
私自身、ABA自閉症療育を専門家に指導することがあります。
そのとき「ABA自閉症療育に一番大切な能力は何ですか?」と聞かれることがあるのですが、
私のそのときの答えは「自分自身がどんな刺激を出した(何をした)かを観察できる能力」です。
正確に自身が行った行動が何であったかを観察できることは大切でしょう。
クレバーハンスの可能性を下げることができますし、機能分析を行うときにも重要な能力です。
ABA自閉症療育にも上手さと呼ばれるものは色々あると思いますが、私自身は赤色太文字で示した自身が出した刺激をモニタリングできることが一番重要(分析には欠かせない)と思っています。
本ブログページではクレバーハンスについてご紹介をしてきました。
次の本章では測定する行動をどのように定義すれば良いかについて書いていきましょう。
このこともABA自閉症療育で重要なトピックになります。
【参考文献】
・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】
・ Roger R.Hock (2002) Forty Studies That Changed Psychology: Explorations into the History of Psychological Research, 4th Edition 【(監訳) 梶川 達也・花村 珠美 (2007) 心理学を変えた40の研究 ピアソン・エデュケーション】