自閉症児・者の不適切な行動にどう対応するか?ローナ・ウィングの著書から(ABA:応用行動分析コラム23)


Enせんせい

ABA:応用行動分析23は「自閉症児・者の不適切な行動にどう対応するか?ローナ・ウィングの著書から」というタイトルで書いていきます


今回のブログではLorna Wing (1996)を参考図書として書いていきます。

皆様はLorna Wing (ローナ・ウィング)という研究者の名前を聞いたことがあるでしょうか?


特に10年ほど前私は学生だったのですが、彼女の名前を文献などで良く目にしたものでした。

自閉症関連の論文とか本とか良く読む人はこの名前、聞いたことがあるんじゃないかなと思う人物です?

最近ローナ・ウィングの本を読んでいてその中で面白いなと思うトピックがあったので今回のコラムではその内容をご紹介します。


Lorna Wing (1996)

Lorna Wing (1996) の著書は時代で言えば少し昔の著書となりますが、例えば自閉症者についての「友人関係と性的関係」や「きょうだい」、「結婚」、「就職」など幅広いトピックが触れられていることは特徴的だと思いました

このようなことは自閉症のお子様を持つ親御様にとってはとても注目されるトピックでは無いでしょうか?


今回はその中から「不適切な行動を少なくすること」という項目内容を参考にして私の意見も入り交えてブログを書いていこうと思います。

「不適切な行動を少なくすること」も自閉症のお子様の子育てを行なっている親御様にとって興味深いトピックでしょう。



目次

ローナ・ウィングが述べた不適切な行動への対処法略

Lorna Wing (1996) は不適切な行動に対処する一般原則を13個リストアップしました。

原文をそのまま打ち込むとかなり長い引用になってしまうことと、あまり長い原文を引用するのもどうかなという私の主義もあって、

噛み砕いた私なりの表現でLorna Wing (1996)の述べた不適切行動に対処する一般原則についてご紹介して行きます。

そのためLorna Wing (1996)の書き方とはかなり異なった文章となっていますが、興味のある人は本書「p142 – p144」にあたってみてください。


また13個のリストは項のタイトルに書き込み、そのタイトルに対しての私なりの解釈について【(X)への私の解釈】という記載でご紹介するという書き方をして行きます。

そのためLorna Wing (1996) の意見そのままの内容になっていないことには注意をしましょう。

以下のリストの紹介からは「不適切な行動にどう対処するか?」ということ紹介しているため、もしお子様の不適切行動にお困りの場合は是非試してみてください。

対応方法も色々とあるのだなということが伝われば幸いです。


それでは以下見ていきましょう!


(1) 環境や日常の習慣を構造化し、体系化し、予測できるようにしておく

【(1)への私の解釈】

(1) 環境や日常の習慣を構造化し、体系化し、予測できるようにしておくは自閉症療育で良く言われることだと思います。

例えば1日のスケジュールを視覚的に分かりやすく提示するとか、日常の習慣(例えば1日の生活スケジュールを固定化する)ことで自閉症の方が不適切行動(癇癪など)を起こす確率を下げることができる、というものになるでしょう。


個人的に思うことは確かに環境や日常の習慣を構造化し落ち着いて生活できるよう構造化することで安定はすると思いますが、

イレギュラーが生じたとき(見通し通りに行かなかった場合や普段のルーティンからの逸脱)に、そのイレギュラーに耐える力は鍛えられないのではないかとも思っています。

あまりこのような目線で療育を行なっている専門家は少ないと思うことが正直なところです。


例えばRobert L. Koegel・Amber A. Bharoocha・Courtney B. Ribnick・Ryan C. Ribnick・Mario O. Bucio・Rosy M. Fredeen・Lynn Kern Koegel (2012) は自閉症のお子様へ「偏食指導」を行い、食べられる物の拡充を狙い成功しました。

Robert L. Koegel他 (2012) は論文の中で自閉症の特徴は柔軟性を欠くことであると述べていて、論文を読んでいると彼らは柔軟性の無さへの治療は大切だと考えているように思いました

私も自閉症児の柔軟性の無さに積極的に介入して行く姿勢には賛成派です。

イレギュラーに弱いという側面があるのであれば、イレギュラーにも(必要である部分にはですが)介入して行くことは大切だと思っています。


Robert L. Koegel・Amber A. Bharoocha・Courtney B. Ribnick・Ryan C. Ribnick・Mario O. Bucio・Rosy M. Fredeen・Lynn Kern Koegel (2012)

Robert L. Koegel他 (2012) では普段のルーティンを崩す(普段食べていないものを食べさせる)ということを介入で行うのですが、これはお子様に対しての、Lorna Wing (1996)が述べている「日常の習慣を予測できるようにしておくこと」とは少し別の意見かもしれません。


イレギュラーに慣れさせるために生活の中でイレギュラー場面をあえて作るか、

もしくは安定して生活することを重視し予測が持てる中で生活させるのか?


研究者によっても答えが違うところかなと思うので、どちらを選択するかは「親御様の教育方針による」という答えになるように思います。



(2) ルーティンを変えるときはできればゆっくり説明することが必要で、できるならば徐々に段階的に変えていく

【(2)への私の解釈】

(2) ルーティンを変えるときはできればゆっくり説明することが必要で、できるならば徐々に段階的に変えていく、

このテーマも(1)と重複する部分もあると思いますが「自閉症者の柔軟性の無さ」をトレーニングするのであれば、急なルーティン変更も場合によっては介入に組み入れるのも良いでしょう。

但し(2)については私もLorna Wing (1996)と同じ意見で、いきなり急なルーティン変更を行うというのは微妙だと思います。

できるならば徐々に段階的に変えていく方が良いでしょう。


例えばABAや行動療法で特に大人に対して「エクスポージャー(曝露療法)」という恐怖症や不安障がい、パニック障がいに使用する手続きがあるのですが、

「エクスポージャー」は例えば恐怖症の場合「恐怖対象」に曝されることを受け入れる中で「順化(慣れ)」を促し、治療していくというものです。

例えば高所恐怖があった場合、実際に高いところに行き恐怖を生じさせます。

治療原理としては、ずっとその高いところで留まっていると慣れてきて恐怖は徐々に減って行くというものです。


支援をするのが大人の場合、基本的には(※ 周りの人に連れてこられたパターンでは違うこともある)「恐怖」や「不安」など克服する必要性を本人が感じカウンセリングを受けることを決意していることが多いでしょう。

この場合1つの支援方法は面接の中で「恐怖」や「不安」の原理などを説明し、エクスポージャーを行う必要性を伝え、納得してもらい「恐怖対象」や「不安対象」に曝す手続きがあります。


「恐怖対象」や「不安対象」に曝す手続きは大きく分けると2種類あり、

<A> 本人が最も怖かったり不安に思っている刺激に曝す

<B> 本人が怖かったり不安に思っている刺激の中で「これだったらできそう」というところから曝すことを始め、段階的に恐怖や不安をもっと感じる刺激にレベルを上げていく


の2種類です。


大人の場合は「納得」して支援をスタートしていくため<A>のMAXに感じる恐怖や不安からスタートするということも有りかもしれませんが、

お子様の場合は「納得」はほとんど得られないケースが多いでしょう。

※ ちなみに大人の場合も普通はドロップアウトのリスクも上がるので<B>を選択します


Enせんせい

自閉症のお子様はルーティンを変更されることに特に自閉症でない人と比較しても大きく「嫌悪感」を感じるのだとすれば?


Lorna Wing (1996)が述べているように「ルーティン変更されること」にまだほとんど経験が無いお子様の場合、しっかりと説明した上で(できれば本人も納得をして)ルーティンを変更する、またルーティンの変更は段階的に徐々に行っていく、という姿勢が賢明です。


ではもし「急なルーティン変更」という場面での体制をトレーニングしたい場合は?

その場合は、

既に何度も「ルーティン変更されること」を経験し、「ルーティン変更されること」への「嫌悪感の耐性」がある程度獲得されたことが期待できるお子様に成長してから、急なルーティン変更場面などをトレーニングの一環として設定する

「負荷の少ないであろう小さいルーティン変更」や「事前に予測を与えてからルーティン変更をすることで負荷を下げた状況で練習する」を積み重ねてから急なルーティン変更場面をトレーニングする、

私はこういった支援の方向性が良いように思います。


こういったルーティンへの固執をどう考えるか、は必要な視点ですね


(3) コミュニケーションの方法は子どもや大人が何を求めているのかわかる方法を採択する

【(3)への私の解釈】

(3) コミュニケーションの方法は子どもや大人が何を求めているのかわかる方法を採択するについて、


Enせんせい

私たちはコミュニケーションと言ったとき一般的には「言葉」を介したコミュニケーションを想像するでしょう?


但し自閉症の方の中には「言葉」を扱うことが難しい方もいらっしゃいます。

もしそのような方の場合は最初は「言葉」ではなく「カードや写真」、「サイン言語(身振り)」を使用してのコミュニケーションを教えることも大切です。

しかし私は良く「言葉以外でコミュニケーションを教えると、言葉の発達を遅らせるのでは無いか?」という疑問を聞きます。


このことについてLaura Schreibman • Aubyn C. Stahmer (2014)の行った「PRT」と「PECS」を比較したRCT研究があるのですが、

Laura Schreibman他 (2014) は研究の中で「研究結果では、PECSが言語を促進するためのPRTなどの自然言語的言語トレーニングプログラムと同じくらい効果的であることを示唆した」と考察しました。

※ 興味のある人は「(ABA自閉症療育のエビデンス15)PRT VS PECS(https://en-tomo.com/2020/06/11/prt-vs-pecs/)」を参照


「PECS」は日本語で「絵カード交換式コミュニケーションシステム」というものなのですが、絵カードを使用してコミュニケーションの向上を狙います。

※ 本ブログページ以外のブログ内で何度も出て来ているPRTはABA自閉症療育の1つで、PECSほど絵カードを使用して言語促進を狙うものではなく、例えば要求場面ではお子様の発達段階によるものの、発語による要求を狙うことがほとんどでしょう


PECSを検索してみてください。このようなBookが出てくると思います

Laura Schreibman他 (2014) RCT研究結果、そして基礎理論の観点からも、私自身も特に「言葉以外でコミュニケーションを教えると、言葉の発達を遅らせる」という可能性は低いと思います

むしろコミュニケーションを強化する入りとして今お子様が可能なツール(カードでも写真でも身振りでも)を使用し、どんどんコミュニケーションを行なっていった方が良いでしょう。


そのためLorna Wing (1996)が述べている「コミュニケーションの方法は子どもや大人が何を求めているのかわかる方法を採択する」という内容に賛同です。



(4) ストレスの原因となる騒音の程度や明るすぎる照明など、子どもが怯える環境状況に対処する必要がある

【(4)への私の解釈】

(4) ストレスの原因となる騒音の程度や明るすぎる照明など、子どもが怯える環境状況に対処する必要があるは、

自閉症の方が持つ感覚過敏についてのコメントかと思います。

感覚過敏について、「対処する必要がある」ということですが一体どういった対処をして行く必要があるでしょう?


Lorna Wing (1996)の本項目内では「ストレスを感じないような環境調整」の対処なのか、「ストレスに慣れさせていく(エクスポージャー)」の対処なのか、記載がありませんでしたが、

例えばLorna Wing (1996)は本書の中で歯科で使用する器具になれるために電動歯ブラシの使用もできればやってみよう、などの内容の記載もあるためもし可能であれば徐々に慣れていく方向性で練習をしていくのが良いという主張の方かなと思います。


私自身も例えばニーズがあれば特定の音(例えば「騒音」や「子どもの鳴き声」)、触覚(例えば「帽子が被れない」や「偏食」)などにエクスポージャーして行く支援も行うのですが、

例えば「注射を射てるようにする」なども可能でした(私は医師では無いので実物の注射は使用できませんが爪楊枝を注射にみたて、イメージを想起させてエクスポージャーしました)。


Enせんせい

特に困らない場合は放っておいても良いかなとも思いますが、例えばこのことによって家族全体の生活が限定されてしまっている場合(外出や旅行ができないなど)は、エクスポージャーを狙っても良いかもなと思います


意外にお子様の障がいの程度が重かったとしても、計画的に行うことで上手くエクスポージャーをかけることが可能です。

一度本気で困っている人は専門家に支援方略を計画してもらい、実施するのも良いでしょう。



(5) 個人の能力を超えたことは避ける

【(5)への私の解釈】

(5) 個人の能力を超えたことは避けるの意見は難しいところですが、私も概ねLorna Wing (1996)に賛成です。


Enせんせい

私自身は「お子様のできることを徐々に増やして行く」、「本人や周りの人が生活しやすくなる」ということが療育の基本的な目標と思っています

このためには特定の方向にお子様自身が(の)能力を伸ばして行く(成長)必要があるでしょう


そのためお子様自身が嫌になってしまう(成長を促される課題に抵抗を強く示す)ことは悪循環となり、そう考えると課題設定を高くし個人の能力を超えたことを続けることは避けた方が賢明だと思います。


このことに関しては考え方を発想転換させることも個人的には大切かと思っていて、例えば私はかなり方向音痴です。

私は高校生のとき、道が全然覚えられず買い物に行くにしても、初めての場所から家に帰るにしても友達に頼りっぱなし。

たまに頼られたかと思うと全然違うところに行ってしまい友達に迷惑をかけたことも多かったです。

この場合「道を正しく覚えられる」という能力を鍛えることだけが唯一の正解なのでしょうか?

「正解」は時代によって変わると私は思っています。


例えばなぜかと言えば、私自身はそのように思っていなくて例えば「マップアプリの使い方を教える」など、現代は特に代替手段が豊富です。


マップアプリすごく重宝しています。いつもありがとう!

私自身は「道を覚える能力」そのものはほとんど向上していませんがマップアプリが扱えるため、道を覚えることを行わなくても困ることは無くなって、生活は向上して成り立っています。

そのため無理をしないというのは「できるところから初めて徐々に能力を伸ばして行く」という視点と、「その能力を補える代替手段はないか?」という視点を持って取り組むことが大切かなというところです。



(6) 日々の健康管理、そして怪我や病気のサインに敏感になる

【(6)への私の解釈】

(6) 日々の健康管理、そして怪我や病気のサインに敏感になるは大切なテーマだと思います。


健康管理、例えば生活習慣、「睡眠」「食事」「運動」は大切です。

私もそう思います。これは生活習慣だけでなく、親子の基本的な愛着形成(愛情に溢れた関係性)も含むでしょう。

私自身は療育とは子育ての延長線上にあるもので、基本的な生活習慣がまずありその上に療育があると思っています。

但し生活習慣と言っても、自閉症の方の場合「睡眠障がい」を伴ったり「偏食」や「ルーティンへのこだわり」があるため「睡眠」「食事」「運動」は意識してトレーニングしないと叶わないという可能性があるでしょう。


また怪我や病気のサインに敏感になることもとても大切ですが、これもなかなか難しいです。

特に言葉を上手に扱うことが難しいお子様の場合はそうだと思います。

例えば急に癇癪が増えたお子様がいて原因は不明、でも実は「虫歯が進行していた」などということもあり得るでしょう。

この場合、お子様の癇癪は「歯の痛み」に誘発されている可能性があるのですが、普段の調子から観察をしていないとなかなか気づくことが難しいかもしれません。

ここから得られる示唆としては、問題行動や急に不安な態度が増えた場合など、まずは「怪我をしていないか」、「病気にかかっていないか」と身体的な原因を含めて考えるという視点は大切な視点だと思います。


怪我や病気を疑う、という視点は大切です


(7) 規則正しい身体運動は健康に良いばかりではなく、攻撃行動や常同行動を減らす

【(7)への私の解釈】

(7) 規則正しい身体運動は健康に良いばかりではなく、攻撃行動や常同行動を減らすについて、

規則正しい運動が健康に良いことは同意しますが規則正しい運動が攻撃行動や常同行動を減らすということについて、現在私は知識を持っていません。


Enせんせい

これは私が運動による攻撃行動や常同行動の低減効果の論文を探したことがなかったため、知らないだけの可能性もあると思います

では、理論的にこのことを考えて例えば保育園で特定のルーティンで歩き回る(常同行動)お子様がいたとして、個人的な見解を述べましょう


朝起きて親子で1時間ランニングする(結構ハードだと思うけど)ということを行なったとすれば、

・ 足が疲れます

・ 体力を消費します

結果的に運動に対しての「飽和化」が生じ、保育園で特定のルーティンで歩き回る(常同行動)が減る、ということは理論的に可能な気もします。


「飽和化」とはABAの「確立操作」という現象・手続きの名前です。


杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)は飽和化について、

・ かなりの量の好子(※ 強化子のこと)を摂取してしまうこと

・ その好子による新しい行動の獲得や既に獲得した行動の維持が一時的に妨げられること

と定義しています。


杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)、良い本です

簡単に表現するとすれば、例えば焼肉が大好きでもたくさん焼肉を食べたあとは、食べる前と比べて焼肉に対しての魅力が減少(飽和)するでしょう?

それと同じで歩き回りが好きなお子様でも、それ以前にたくさんの歩き回り(例の場合は1時間のランニング)を行うと、歩き回りに対しての魅力が低下する可能性があるのです。

そうすると保育園で特定のルーティンで歩き回る(常同行動)が減るということはあり得るように思います。


さて上記7点についてLorna Wing (1996)自閉性障がいを持つ人に良く当てはまる法則だと紹介しました。

そしてここから書いて行く下記6点についてもLorna Wing (1996)は自閉性障がいを持つ人に良く当てはまるものだと紹介していますが、下記に紹介して行くものは一般的な学習理論からきているとLorna Wing (1996) は紹介しています。

以下、見ていきましょう。


Enせんせい

ABA自閉症療育で扱う理論も学習理論を背景にしていますので、私が書いてきたブログページでご紹介してきた内容のものも結構出てきます



(8) 褒美を与えられなかった行動は繰り返さないわけでは無いが、褒美を与えられた行動は繰り返す

【(8)への私の解釈】

(8) 褒美を与えられなかった行動は繰り返さないわけでは無いが、褒美を与えられた行動は繰り返すとは、

Lorna Wing (1996)は「褒美」と述べていますがこれは「強化の原理」について述べた内容です。


強化の原理はブログ内でたくさん解説させていただいた、ABAの行動原理の核と言っても過言ではないでしょう。

ABAでは「行動のあとに、強化子という結果が伴えば行動が増加する」という強化の原理を用います。


正確には「行動を増やした結果」が観察されたのちそれを「強化子」と呼ぶので、以下の表現は正しくありませんが、親御様向けに簡単に言えば(専門家に対して以下のように定義するとNGをくらいます)、

行動したあと本人にとって例えば嬉しいなど意味のある結果が伴うと、その直前の行動が増えるということを説明した原理です。


この点について今回問題行動をテーマにした内容として意識したいことは、

増やしたい行動を適切に強化すれば、増やしたい行動を増やせる

が但し、

増やしたく無い行動も(意識せずとも)強化してしまうと、増えてしまう

という「良い/悪い」の両面を持っているということでしょう。


増やしたく無い行動も(意識せずとも)強化してしまうと、増えてしまうことは知っておきましょう

特に後者については親御様も意識せず強化してしまって、問題行動が発展して行ってしまっていることも多いです。

このようなときは「機能分析」などを行い対応して行くのですが、まだブログで機能分析をメインい扱ったページは現段階(2021.10.15)では無いのでまた書いたときよろしくお願いします。



(9) 不適切な行動をさせない最良の方法はその行動が起こらないように予防すること

【(9)への私の解釈】

(9) 不適切な行動をさせない最良の方法はその行動が起こらないように予防することについて賛成です。


私はABA自閉症療育で問題行動を捉えるとき「先行子操作」「結果操作」という2点の軸で考えるのですが、最初は「先行子操作」を行うことをお勧めします。

「先行子操作」を行い介入することはLorna Wing (1996)が述べている「その行動が起こらないように予防する」ことです。

「先行子操作」の特徴としては早期に、一気に不適切な行動を減らすことができます。


「先行子操作」と「結果操作」という2点の軸で問題行動を考えるについては以下のブログページを参考にしてください。


「(ABA自閉症療育の基礎69)ABA自閉症療育、問題行動の解決方法導入推奨手順、問題行動を解決しよう(https://en-tomo.com/2020/12/30/problem-behavior-intervention-procedure/)」


(ABA自閉症療育の基礎69)ABA自閉症療育、問題行動の解決方法導入推奨手順、問題行動を解決しようのサムネイル


(10) もし不適切な行動を予防できなければ決してそれに褒美を与えない

【(10)への私の解釈】

(10) もし不適切な行動を予防できなければ決してそれに褒美を与えないについては、現実的には難しい場面も多いでしょう。


理想的にはそのようにした方が良いですが例えば「スマホ貸してくれ」と電車内で言われて、「今はダメ」と言った瞬間、お子様が癇癪を起こしたとします。

この癇癪行動の意味としては「スマホを貸してくれー」という意味があったとしましょう。


Lorna Wing (1996)に従えばこのとき決してスマホを渡してはいけません。

理由は簡単でお子様が今後「要求が叶わなかったときは癇癪を起こせば要求は叶う」という決して学ばせたく無い経験に加担してしまうからです。

これはABAの理論から考えても正しくそのような行いは今後の悪循環を招く可能性を高めるでしょう。

だからしない方が良いというのは、理論的には正しいのです。


Enせんせい

でも現実的に「周りの目」「お子様や周囲の人への怪我のリスク」など、あなたはそのときいろいろなものと未来を天秤にかけた結果、スマホを渡してしまう人の方が多いと思います

これは何も「あなたの意思が弱い」とか、そういうことでは無いと私は考えるのですがいかがでしょうか?

社会的に見て「子どもが癇癪を起こしているのに何でこの親は無視しているの?」という状況に耐えることが可能ですか?


Lorna Wing (1996)に従えばお子様にスマホを貸さないで泣き叫んだとしても、決してスマホを渡しては行けません。

それが電車の中でも、病院の中でも、公園でもです。

私はそれはできる人もいるけれど、なかなか難しいのではないかと思います。


この件については「消去バースト」という現象に気をつけなければいけません。

消去バーストを知らなければあなたのお子様の不適切な行動はどんどんと巧妙に、派手に、発展していってしまう可能性があるでしょう。

今後その行動は「もっと悪くなってしまう」ということです。

消去バーストによる問題行動の発展は以下のブログページで解説しています。

「(ABA自閉症療育の基礎77)問題行動が発展し悪化するプロセスー消去バーストとシェイピング(https://en-tomo.com/2021/02/11/aba-problem-behavior/)」参照


「(ABA自閉症療育の基礎77)問題行動が発展し悪化するプロセスー消去バーストとシェイピングのサムネイル


(11) 不適切な行動をそれに置き換わる建設的な行動を褒美を与えて進めて行く

【(11)への私の解釈】

(11) 不適切な行動をそれに置き換わる建設的な行動を褒美を与えて進めて行くについて賛成です。


不適切な行動を適切なものに置き換えて行くことを行なっていかなければいけません。

このとき置き換えるために必要なキーワードは「強化子」です。

不適切な行動を行う場面で適切(周りに受けいられる行動)を行なったときに「強化子」を提示してその行動を増やし、不適切な行動と代替して行くことが大切になります。


このような支援が王道の考え方ですが私が推奨したいのはこのとき「不適切な行動(があるたびに)適切なものに置き換えて行く」という考えだけでなく、

「適切な行動を増やせば、不適切な行動は減少する」というロジックも持つようにしましょう

ということです。


理論的に考えれば1日は24時間しか無いので、1日の中で適切な行動が増加すれば相対的に不適切な行動を行う時間が減って行きます。


良い行動を増やせば、相対的に生活時間の中で良くない行動は減って行きます

もちろん既に出ている不適切行動については対応し、減らし、代わりとなる適切な行動を教えて行くのですが、

上のイラストのように「適切な行動を増やす」ことを目指すことで不適切な行動を減らせることも覚えておきましょう。


ちなみに「お子様が不適切な行動を行う → 支援者が修正(基本的には消去+代替行動のプロンプト)」だけの支援を行なっていると、

「不適切な行動を行う」がお子様の不適切行動出現のトリガー(代替行動をプロンプトすること始まり結果的に強化子が手に入る)になってしまうので上手くいかないことが多いです。

ここ、「行動連鎖」という言葉がキーワードになる分野なのですが、少し専門的な書き方になってしまいますがこのことについてもどこかで書いて行きます。

問題行動を解決するときに良く陥りがちな失敗パターンです。



(12) その行動を強化するにしても消去するにしてもタイミングが大切

【(12)への私の解釈】

(12) その行動を強化するにしても消去するにしてもタイミングが大切について、

例えばO.Ivar Lovaas (2003) Reynoldの1968年の実験を参考にお子さんが行動をしてから強化するまでの時間について、行動から強化までが1秒の場合と0.5秒の場合と比較すると、行動を強める効果が25%にまで落ちてしまうと述べていました。

O.Ivar Lovaas (2003) だけでなく「適切な行動が生じたとき、早く強化子を提示する」方が行動を効率的に強化できる(行動を増加させることができる)と述べている研究者は多いです。


Enせんせい

私個人は特に言葉の発達が未熟なお子様の場合はこのことに注意すべきだと思います

できるだけ早く強化子を提示することがそのようなお子様には大切です


しかし言葉がある程度扱えるお子様の場合は「強化子がある程度遅れてやってくる」ことも意識して経験させる必要があるでしょう。

この点について例えば「(ABA自閉症療育の基礎73)オペラント条件付けーABA自閉症療育トークンを使用した支援、強化子コントロールテクニック(https://en-tomo.com/2021/01/18/token-reinforcer/)」

などが参考になると思います。


(ABA自閉症療育の基礎73)オペラント条件付けーABA自閉症療育トークンを使用した支援、強化子コントロールテクニックのサムネイル

ちなみに消去についてはタイミングというよりは、「徹底して行えるか?」が大切だと思いますし、また私自身は「消去手続きの単独使用」は不適切な行動を減らす方略としてお勧めしていません。

※ Lorna Wing (1996)も消去の単独使用を勧めているわけではないかもしれないかもしれませんが



(13) 不適切な行動に行き当たりばったりで対応することは状況を悪化させる

【(13)への私の解釈】

(13) 不適切な行動に行き当たりばったりで対応することは状況を悪化させる、はその通りです。


例えば親御様の対応が強化子となる場合その行動は「注意引き行動」と呼ばれます。

例えば不適切な注意引き行動に「対応する(強化する)」ときと、「対応しない(強化しない:消去)」とき、「怒る」ときなど、毎回親御様の対応が違うことで悪循環を招く可能性があるでしょう。


例えばこれは問題行動がどんどん派手に悪くなって行く、という可能性もあります。

問題行動がエスカレートして行く可能性があるのです。

これは本ブログページ内の上の方で少し書いた消去バーストも関わって来ますし、罰や消去による攻撃行動の誘発なども関わると思います。


またその他「問題行動の修正により時間がかかるようになる」という問題も考えられるでしょう。

例えば行動が「毎回強化される」ときと「たまに強化される」ときでは、その後の行動維持に違いが出てくることが基礎実験から分かっています。

このとき「毎回強化される」ときを「連続強化スケジュール」と呼び、「たまに強化される」ときを「間欠(かんけつ)強化スケジュール」と呼ぶのですが、

坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) は一般的に連続強化スケジュールの方が消去されやすく、間欠強化スケジュールの方が消去されにくいという特徴を持っていると述べました。

つまり問題行動をたまに強化することを行なってしまうことで問題行動が長く続く原因となり、修正が効きにくくなる原因になってしまうということです。


必要であれば専門家と一緒に戦略を練って行くことも大切

このように日々お子様の不適切な行動に対して行う一貫性のない結果対応が、未来のお子様の色々な行不適切な行動の発展を促進してしまう可能性があるでしょう。

そういったリスクもあるため事前にお子様が特定の行動を行なったときにどのように対応するかについて、理論的に考え、そのときの対応を冷静に考えて行くことが大切だと思います。



さいごに

以上Lorna Wing (1996)の著書を参考にリストアップされた不適切な行動に対処する一般原則を13個について個人的な解説を加えて書いて来ました。

個人的に書いていてなかなか面白かったです。

ここまでご紹介して来た13個のリストも大変興味深かったのですが、その他に私自身がこの本を読んでいて他に良い観点だなと思った内容も少しご紹介しましょう。


Lorna Wing (1996)「親は感情的にならず冷静に対応する」ということを本著中に何度か書いています。

このことを体得するのは非常に難しいと思う人も多いと思いますが、どのレベルでもそれを実行する必要があるのかと言えばLorna Wing (1996) によればお子様の行動に「イラッとした」などの状況だけでなく例えばお子様の性的な行動を見てしまったときもです。


Enせんせい

例えば「自慰行為」などですが、これは実に「言うは易く行うは難し」だと思います

例えば男の子のお子様を持つ母親が息子の自慰行為を発見したら混乱しそうでしょう?


しかしそのような場面でも確かにLorna Wing (1996)の述べたようにABA自閉症療育(いや、療育全般と言っても過言ではないか・・・)を建設的に進めて行くためには、

感情的にならず冷静に対応するという態度でお子様と接することが大切です。

そのような態度でお子様と接する方が最良(少なくとも無難)な結果を招くことが多いと思います。


「え?なんで急に泣き出したの?」とか「マジかここで癇癪?」、「うわ、友達叩いたん?」、「走り出さないでよ危ないわ!死んじゃうよ!!」とか、

自慰行為という性的な行動以外でもそういう状況になると焦ると思いますし注意しない自分に注がれる周囲の目もあったり、その日のあなた自身のコンディションなどいろいろなことが影響してくるでしょう。

そのようなとき、情緒的にお子様と接してしまうこともあると思いますができれば「親は感情的にならず冷静に対応する」


これはいわゆる健常と言われるお子様を育てている親御様にも共通すると思うのですが、特に発達に遅れのあるお子様を育てている場合、親御様自身が抱える想いとして、


あなた

なんで私だけそうしなきゃいけないの?

怒りたいんだけどなんで我慢しなきゃいけないの!?

(周りの親御様は自分のお子様を怒ることで、充分お子様が変化している様子も見ているのに!なんで私だけ我慢するの!?)


と思うかもしれません。


難しいことにこのことはあまり大きな声では他人には言えないと思います。

例えば「あなたが産んだ子はあなたの責任で育てなさい」と世間は言ってくるように思いますし、あなた自身もそう言われれば返す言葉を持っていないかもしれません。


Enせんせい

私だったらそう思うかなと思うところもありますから、充分にその気持ちも理解できます

そして特に反論もあまり思いつきません


そして別に私が何かしたわけじゃないのに自分だけが高いハードルを飛べと言われたように感じ、すごく辛くなることもあるでしょう。

こういうとき一旦「あなたはお子様にどうなって欲しかったのか(どうなって欲しいのか)?」という視点を思い出す癖を持って欲しくて少し長期的な視点を持ち、俯瞰的な気持ちで対応できるよう私自身は応援しています。

そういった少し長期的な視点を持てるようになると感情を今よりもコントロールしやすくなるでしょう。


発達に遅れのあるお子様を育てるとき「自分自身が負担に思ってはいけない」と思い込まないことも大切だと思います。

例えばYun-Ju Hsiao・Kyle Higgins・Tom Pierce・Peggy J. Schaefer Whitby・Richard D. Tandy (2017)は過去研究から健常発達や他の障がいのある子どもの親と比較し、自閉症児の親はストレスのレベルが高くまた幸福度(FQOL:Full Quality of life)が低いと述べました。


このようなデータを見て悲観的になる、というよりは「発達に遅れのあるお子様を育てる親御様は他の人もちょっと大変って思っていて、私も大変だなって思っていいんだ」と考え、

その上でどう建設的にお子様、あなた自身の人生を豊かにする方向性を考えて行くことが大切だと思います。

お子様だけでなく、親御様も自分自身の人生についてどのように見て考えるかという視点も大切です。

子育てをする前、旅行が好きだった、ライブに行くのが好きだった、だったら例えば週末お子様をショートステイに預けて、旅行に行っても良いと思います。

そのようなことに罪悪感を抱える親御様もいらっしゃいますが、私はあなたの人生も豊かになるべきだという考えです。


本ブログページではLorna Wing (1996)を参考図書として書いてきました。

「問題行動をどう扱うか?」はABA自閉症療育でも主なトピックになるでしょう。

日々の療育で是非、試してみて下さい。



【参考文献】

・ Laura Schreibman • Aubyn C. Stahmer (2014)A Randomized Trial Comparison of the Effects of Verbaland Pictorial Naturalistic Communication Strategies on SpokenLanguage for Young Children with Autism. Journal of Autism and Developmental Disorders, May;44(5)p1244-51

・ Lorna Wing (1996) THE AUTISTIC SPECTRUM A guide for parents and professionals 【邦訳: 久保 絋章・佐々木 正美・清水 康夫(1998) 自閉症スペクトル 親と専門家のためのガイドブック 東京書籍】

・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】

・ Robert L. Koegel・Amber A. Bharoocha・Courtney B. Ribnick・Ryan C. Ribnick・Mario O. Bucio・Rosy M. Fredeen・Lynn Kern Koegel (2012) Using Individualized Reinforcers and Hierarchical Exposure to Increase Food Flexibility in Children with Autism Spectrum Disorders. Journal of Autism and Developmental Disorders. 42(8): 1574–1581

・ 坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) 行動分析学 行動の科学的理解をめざして 有斐閣アルマ

・ 杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)行動分析学入門 産業図書

・ Yun-Ju Hsiao・Kyle Higgins・Tom Pierce・Peggy J. Schaefer Whitby・Richard D. Tandy (2017) Parental stress, familyquality of life, and family-teacher partnerships: Families of children with autism spectrum disorder. Research in DevelopmentalDisabilities p152-162