ABA:応用行動分析20は「自閉症者に排泄後のお尻拭きを教えた研究:トイレットトレーニング」というタイトルで書いていきましょう
排泄は生活スキルの中でも重要なスキルだと個人的には感じています
今回ご紹介する研究はJohn V. Stokes・Michael J. Cameron・Michael F. Dorsey・Elizabeth Fleming(2004)の
「TASK ANALYSIS, CORRESPONDENCE TRAINING, AND GENERAL CASE INSTRUCTION FOR TEACHING PERSONAL HYGIENE SKILLS (私訳:衛生管理のための課題分析、対応訓練、代表例教示法)」という研究です。
John V. Stokes他 (2004) は以下のように述べています。
個人が持つ衛生責任として歯磨き、フロス、デオドラントなど生きていく中で必要な生活様式が行動教育者によって教えられます。
行動教育者は口腔衛生のようないくつかの重要なスキルを教えるためのガイダンスとして専門的な文献を提供しているのですが、
一般的に包括された文献基盤はありません。
そして排便後のセルフケアは教えたり研究したりするのに最も魅力的なスキルではないのです。
John V. Stokes他 (2004) と研究冒頭で述べました。
研究をご紹介していく前に私からも2点お伝えをさせてください。
1点目:排泄後のスキルを教えることへの遠慮
1点目は「排泄後のスキルを教えること」について、John V. Stokes他 (2004)が述べた内容に掛かる内容です。
確かに「歯磨き・うがい」や「着替え」、「手洗い」や「食事」と比べると、「入浴時の身体洗い」や「排泄トレーニング」は専門家が教える機会は少ないでしょう。
その理由として個人的にはJohn V. Stokes他 (2004) が述べているように「専門家も嫌厭しがち」ということもあると思います。
しかし親御様からしても、
・ 「これって人(家族以外)にお願いして良い内容なのだろうか」
・ お子様の陰部を人(家族以外)に見せることは、お子様の尊厳に関わるのでは?
という2つの大きな気持ちがあるのではと思うのですがいかがでしょう?
本ブログページでご紹介するJohn V. Stokes他 (2004) の研究では34歳から38歳までの男性3名が参加しています。
参加者の年齢が高いことは驚かれたかもしれませんが、
実は排泄後のケアスキルが上手くできないまま大人になってしまう自閉症の方がいらっしゃるという事実があります。
私もお子様にお尻の拭き方など教えたことがありますが、やっぱりちゃんと教えられることは教えておいた方が良いでしょう。
2点目:トイレットトレーニングの種類
また本題に入っていく前にもう1点、「トイレットトレーニングの種類」についてもお伝えしておきます。
今回ご紹介する研究内容が「排泄後の衛生管理スキル」ということはポイントです。
実は特に幼少期のお子様をお持ちの親御様のニーズで高いスキル「排泄後の衛生管理スキル」というよりも、
・ トイレでおしっこ、うんちをして欲しい(オムツを外したい)
・ おねしょをしなくなって欲しい
の2つのニーズの方が多い印象を私は持っています。
個人的な意見としては、
「トイレでする」、「おねしょをしなくなる」、「排泄後の衛生管理」の3つは分けて考えてそれぞれ教えなければいけません。
理由はそれぞれが独立した別のスキル(課題)だからです。
上の3つを一色単にブログページにするとかなり文章量が多くなってしまうため、
今回は「排泄後の衛生管理」について学んでいこうという趣旨で行っていきたいと思います
「排泄後の衛生管理」は特に専門家に頼みにくいものだとすれば、ご家族様で取り組む機会も多いスキルトレーニングです。
さてここからは本題、本ブログページでご紹介するJohn V. Stokes他 (2004)はどのように「排泄後の衛生管理」を行ったのか、以下見ていきましょう。
John V. Stokes他 (2004)ー自閉症者、重度精神遅滞者への排泄衛生管理
John V. Stokes他 (2004)の研究に参加したのは34歳から38歳の3人の男性でした。
1人は自閉症、2人は重度精神遅滞の診断を受けていました。
3人の参加者は言葉を話すことはできるものの、表現力は限られており、1名は要求を伝えるとき簡単な言葉に加えて手話を使用していました。
John V. Stokes他 (2004)の研究では綺麗にお尻が老けたかどうかについて3段階の評価が導入されています。
以下トイレットペーパーが
(1)きれい
(2)なにも付いていないが変色している
(3)なにか付いている
の3段階評価です。
これは完了した際のトイレットペーパーの汚れの評価です。
研究では「(1)きれい」の状態を目指して介入を進めて行くこととなります。
最終的には「(1)きれい」の状態を目指して介入を行うのですがJohn V. Stokes他 (2004)は「トイレットペーパーを取る」段階から「排泄衛生管理行動」を教えるためにお尻の拭き方をスモールステップに課題分析しました。
研究では「排泄衛生管理行動」を10つのステップに分けトレーニングしています。
このようにターゲット行動を各ステップに分けて教えることを「課題分析(Task Analisis)」と呼ぶのですが、
興味がある人は「(ABA自閉症療育の基礎60)オペラント条件付けー課題分析、行動のアセスメント方法(https://en-tomo.com/2020/11/21/aba-task-analysis/)」をご参照ください。
以下10の各ステップを記載します。
Step1 :トイレットペーパーに手を伸ばす
Step2 :手を掛ける
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
Step3 :少なくとも5段はロールを引っ張る(多分切れ目5つ分は引っ張るってこと※写真)
Step4 :紙をちぎる
Step5 :3回折り曲げる
Step6 :裏側に持っていく
Step7 :前から4回拭く
↑↑↑ 必要に応じて「Step3」から「Step7」を繰り返す
Step8 :ペーパーを捨てる
Step9 :便器の水を流す
Step10:トイレのふたを閉める
以上の10つのStepを教えていきました。
上のStepを教えていったのですが、次にどうやって教えていったのかを見ていきましょう。
John V. Stokes他 (2004)ー自閉症者、重度精神遅滞者への排泄衛生管理・教え方と結果
トレーニングは参加者が100パーセントの自立性を示し「(1)きれい」という評価が3連続で続くまで続けられました。
トレーニングは「Total Task Presentation Method」という教え方が使用されています。
「Total Task Presentation Method」は日本語で「全課題提示法」という手続きです。
「全課題提示法」についてRaymond .G .Miltenberger (2001)は対象者が最初から最後まで行動連鎖全体を行うようにプロンプトする方法と述べました。
「全課題提示法」は「チェイニング(Chaining Procedures)」手続きの1つで他にも「順行チェイニング」や「逆行チェイニング」などの方法がありますが、
「全課題提示法」とは簡単に言えば、
1回のトレーニングでStep1からStep10までを一気に教える方法で、上手くできなかったStepではプロンプトを行い、徐々に回数を重ねるごとにプロンプトをフェイディングして行った
という内容です。
加えてJohn V. Stokes他 (2004)の研究では「対応訓練(Correspondence training)」というトレーニングも平行で行われています。
対応訓練の内容は、Stepを間違えたときには指摘すること。そして、Step7でお尻を拭き取ったときに、拭き残しがないかどうか確認をさせ、もう一度拭く必要があるかどうか報告するという内容でした。
研究では拭き残し(例えば紙の変色)があった場合はもう一度拭くように伝え、その後また報告することを求めました。
以上がJohn V. Stokes他 (2004)の研究介入方法です。
めっちゃ普通ですが、その普通のことを教えるスキルをちゃんと課題分析する
そして丁寧に一歩つづデータを取り積み重ねていく活動が大切ですね
以上の手続きでお尻を拭く行動が上手くなっていき、トレーニング期間は人によって違いはあったものの、22セッションから36セッションで完了しました。
完了したということは全員が自立してStep10まで遂行し「(1)きれい」の評価が3連続で達成できたということです。
ここまでがこの研究の1つの結果となります。
この研究にはまだ続きがあってその後の手続きとして「General Case Instruction(代表例教示法)」の手続きがその後加わりました。
「代表例教示法」は「(ABA自閉症療育の基礎90)ABA自閉症療育でのお子様の般化を促す「代表例教示法」(https://en-tomo.com/2021/07/09/aba-general-case-programming/)」のブログページで解説をしています。
John V. Stokes他 (2004)は、
・ トイレの上に置かれているペーパーを使用する
・ プラスティックカバーをスライドさせてティッシュを使用する
・ トイレットペーパーの端が密着している(新品)の場合、端を剥がす
・ ペーパーの端が巻き込まれている場合、ペーパーを回して掴み所を露出させる
以上の4つの一般的なシチュエーションでもトレーニングし、教えた排泄衛生管理スキルがいろいろな場所で使用できることを狙いました。
「代表例教示法」とは簡単に言えばスキル使用に必要な代表例を練習することで般化を狙う方法です。
John V. Stokes他 (2004)の研究では上の4つのスキルが排泄衛生管理スキルの般化を促進する代表例として選択されたということになります。
結果的として、
全員、最初にトレーニングしたアパートの部屋以外の「家族の家」、「職業訓練の場」、「頻繁に訪れる2つのコミュニティの場」などでスキル般化の確認ができました。
またその後のフォローアップ(研究を終えて行動が維持しているか確認する)期間でも教えたスキルは維持していました。
以上がJohn V. Stokes他 (2004)の研究です。
「なんだぁ、普通のことを普通に教えただけじゃん」と思われたかもしれないですが普通の教え方でも充分なんです。
普通のことを綿密に何を教えるかを課題分析し、課題分析したターゲットスキルをプロンプトしてプロンプトは徐々にフェイディングすることが大切と言えるでしょう。
John V. Stokes他 (2004)の研究に手続きの記載はなかったですが上手くできたときには「Good」など、社会的な賞賛(強化)も行われていたと思います。
普通のことをデータを取って継続的に教えることが大切で重要です。
継続、具体的にはこの研究では22セッションから36セッション、研究内で1日に1回のセラピーがあったと書かれているので、少なくとも約1ヶ月介入を続けたことになります
これほど集中して1つのスキルを継続的にデータを取って教えたこと、ありますか?
「そこまではしたことない」場合、そこまですれば実はできるようになることは多いです
さいごに
本ブログページではJohn V. Stokes他 (2004) の34歳から38歳までの自閉症、重度精神遅滞の男性3名へ排泄衛生管理スキルを教えた研究をご紹介しました。
本ブログページ冒頭で、「ちゃんと教えないと排泄後のケアスキルが上手くできないまま大人になってしまう自閉症の方がいらっしゃるという事実がある」と書きましたが、
例えば同じような排泄をターゲットとした研究として奥田 健次 (2001) の研究があります。
奥田 健次 (2001) の研究では28歳の強度行動障がいを持つ重度知的障がいの男性1名が参加しました。
奥田 健次 (2001) の研究に参加した男性も28歳と年齢が高いように感じないでしょうか?
John V. Stokes他 (2004) も奥田 健次 (2001) の研究でもターゲットスキルを教えることに成功していますが、
「できるようになるのを待つ」のではなく、必要であれば教えていく努力も必要でしょう。
ちなみに奥田 健次 (2001) の研究はJohn V. Stokes他 (2004) とは違い「排尿」の失敗をトレーニングした研究でしたが、研究に参加した男性はズボンやパンツを履いたまま排尿をしてしまうことがあったようです。
※奥田健次 (2001) の「重度知的障がい」はJohn V. Stokes他 (2004) の「重度精神遅滞」は同義語
奥田 健次 (2001) の研究でもJohn V. Stokes他 (2004) と同じように「課題分析」と「全課題提示法」が使用されており、同じようにプロンプトフェイディングによって課題達成が叶っています。
※小さな違いとしては奥田 健次 (2001) の研究では拍手や賞賛といった社会的強化が提供され、「対応訓練(Correspondence training)」は行われなかった
もし「排泄」が専門家にお願いしにくい分野だったとしても、なんとかしないわけにはいかないでしょう。
子どもの頃は「かわいい」「仕方ない」と思われたことも、もしかすると大人になると状況も変わってくるかもしれません。
そのようなことを考えたとき、本ブログページでご紹介した方法が参考になれば幸いです。
もし必要であれば専門家に相談をしてください。
お願いしても良いし、もちろん相談してもいいんですよ!
排泄後の処理はとてもデリケートな問題で、問題として捉えて相談することは他の問題と比べて難しい問題だと思います。
しかし「排泄」は「寝る」「食べる」「着る」と同じくらい、毎日の生活に欠かせない活動です。
ですから必要であればなんとかしなければいけません。
本ブログページでは「トイレでする」、「おねしょをしなくなる」、「排泄後の衛生管理」の内「排泄後の衛生管理」についての研究をご紹介してきました。
また別で「トイレでする」、「おねしょをしなくなる」についても書いていければと思います。
最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。
【参考文献】
・ John V. Stokes・Michael J. Cameron・Michael F. Dorsey・Elizabeth Fleming(2004)TASK ANALYSIS, CORRESPONDENCE TRAINING, AND GENERAL CASE INSTRUCTION FOR TEACHING PERSONAL HYGIENE SKILLS. Behavioral Interventions. 19: p121–135
・ 奥田 健次 (2001) 強度行動障害をもつ重度知的障害を伴う自閉症成人におけるトイレット・トレーニング. 特殊教育学研究. 39 (3) p23-31
・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】