ABA:応用行動分析19は「自閉症児は方言を使うか?療育で言葉を教えるとき標準語や敬語で教えるか?」というタイトルで書いていきましょう
今日は写真の論文を題材にブログを書いていきます。
また最後にタイトルにある言葉を教えるときは標準語で教えるのか?敬語で教えるか?ということについて個人的な意見を書いていきましょう。
本ブログページでご紹介する松本 敏治・崎原 秀樹・菊地 一文・佐藤 和之 (2014) の論文はかなりキャッチーなタイトルです。
そのタイトルは、
『「自閉症は方言を話さない」との印象は普遍的現象かー教員による自閉症スペクトラム障害児・者の方言使用評定からー』
松本 敏治他 (2014) では、自閉症のお子様が方言を使用しないのは普遍的な現象かどうか?ということについて研究が行われました。
自閉症のお子様が方言を使用するのかどうか気になりますね。
例えば私も昔ABA自閉症療育で自閉症のお子様に言葉を教えるとき、
その地域に合わせた方言で言葉を教えた方が良いのかどうか迷った時期がありました
今後お引っ越しをされるかもしれないし、そうでなくとも汎用性がある言葉は標準語かなぁと思うこともあったり
関西から関東に引っ越して来られた家庭があって、家でご両親は関西弁を使っている場合(家でお子様は関西弁に触れる機会が多い)はどうかとか
今現在の個人的な正解としては、お母様に「どういった言葉で教えますか?」と事前に共通認識を行い、標準語で教えるかとか、教える言葉を選定していけば良いと考えていますが、
みなさまはどう考えますか?
言葉の違いは例えば、
関東では「いや」と教える言葉を、関西での仕事では「いやや」と教えるとか、
関東では「バイバイ」と教える言葉を、関西での仕事では「またな」と教えるとか、
細かい表現の違いですがお子様同志のコミュニケーションでは大切なことで関東・関西に限ったことでなく、その他の地域でもその他の地域に合った言い方を教えるかどうか考えることは大切です。
また同じ地域の中でも親御様から「違うよ」を「そうじゃないよ」と教えて欲しいとか、
「違うで」じゃなくて「アホか」と教えて欲しいとか色々ご家族様によってニーズの違いがあります。
言葉を少し覚えてきたお子様が教えた方言でお話しする瞬間はとても可愛らしいですよ
さて、前置きはこのくらいにしてのブログページでは自閉症児・者が方言を使用するのかどうかということについて松本 敏治他 (2014) の研究を参考に見て行きましょう。
自閉症児は方言を使うのか?
松本 敏治他 (2014) の研究は三部構成となっています。
第一部は「国立特別支援教育総合研究所の研修に参加した特別支援教育担当教員」、「京都、舞鶴、高知、北九州、鹿児島の特別支援学校の教員」、「大分の著者の講演会に参加した特別支援教育担当教員」に対して、
「地域の子ども」、「知的障がい児・者」、「自閉症児」の方言使用について印象評定調査が行われました。
第二部では青森県津軽地方の特別支援学校生徒の方言語彙使用について担任へアンケートを行なった際、非自閉症児と比べて自閉症児は方言の使用が少なかった結果を受け、
同じ現象が他地域でも認められるかを調査するために高知県で調査が行われました。
第三部では「国立特別支援教育総合研究所の研修に参加した特別支援教育担当教員」、「京都、舞鶴、北九州の特別支援学校の教員」、「高知特別支援学校の教員と著者の講演会に参加した特別支援教育関係者」に対して、
教員側の自閉症児への方言使用は非自閉症児と違いはないかということが調査されています。
このような三部構成となっています。
以下それぞれ見ていきましょう。
第一部:教師による自閉症児の方言使用における印象評定
松本 敏治他 (2014) の第一部研究では教員に質問紙を配布し、方言の使用について「よく使う、まあ使う、あまり使わない、ほとんど使わない」の4件法で尋ねることで印象評定を行なっています。
その後、質問紙を回収し方言を使わない地域の先生の回答と「地域の子ども」が「(方言を)ほとんど使わない」と回答した質問紙を除いた186の回答について分析を行いました。
分析の結果「地域の子ども」、「知的障がい児・者」と比較して「自閉症児」の方言使用は少ないという結果が示されました。
また上記の質問のほかにこの研究では「知的障がい児・者」と「自閉症児」の方言の使用に差を感じたことがあるかどうか?という質問もされており、
地域によって差はあるもののどの地域でも訳50パーセント、多い地域では80パーセントの教員が「差を感じたことがある」と答えました。
どこに差を感じたかという点について以下の4点のどこに差を感じるか?を尋ねています。
(1)イントネーション・発音・アクセント
(2)名詞
(3)接続詞・助詞
(4)終助詞
結果鹿児島を除いて「(1)イントネーション・発音・アクセント」、「(4)終助詞」について5割以上の選択率となったようです。
以上が松本 敏治他 (2014) 研究第一部の研究結果となります。
次いで第二部を見ていきましょう。
第二部:特別支援学校担任から見た自閉症児の方言語彙使用
松本 敏治他 (2014) 研究第二部では高知県の特別支援学校担任の先生に対して、非自閉症児と自閉症児の方言語彙使用についてアンケートが行われました。
研究対象地域である高知県の大学生4名が土佐弁23語を選択し、特別支援学校担任の先生が44名の児童に対して選択された土佐弁を使用するかアンケートに答えるという形で方言語彙使用について尋ねられます。
特別支援学校に在籍する生徒44名(自閉症児26名、非自閉症児18名)の土佐弁使用についてのアンケート結果は、
自閉症児・・・・・・26名中14名が土佐弁を一語でも使用した
非自閉症児・・・・・18名中17名が土佐弁を一語でも使用した
このような集計結果となり、
統計を行なった結果、自閉症児は非自閉症児と比較して方言を使用しないことがわかりました。
※ 但し第二部は高知県且つ1人の担任の先生の評価であることは注意
第三部:教師は自閉症児に方言を使うのか
松本 敏治他 (2014) 研究第三部では研究第二部の結果を受け、教師側が非自閉症児(知的障がい児)と自閉症児に対して関わり方の配慮を行う中で、自閉症児に対しては関わり方を変えている可能性はないか?という視点で調査が行われました。
研究第一部と同じで有効回答数は186件でした。
これは自閉症の特性を配慮して、教師側が自閉症児に対して方言を使用しないなどの配慮を行なっているのではないか?
という視点での調査です。
研究が明かしたいように教師側が自閉症児に対しては方言をあまり使わない、ということが事実であれば、
自閉症児の方言使用が少ない理由はもしかすると教師側が自閉症児に対してあまり方言を使用しないことが1つの原因かもしれません
研究では、
・ 授業中の教師から非自閉症児への関わり
・ 授業中の教師から自閉症児への関わり
・ 休憩中の教師から非自閉症児への関わり
・ 休憩中の教師から自閉症児への関わり
について教師から非自閉症者と自閉症者への関わりを尋ねたり、その他にももっと具体的な場面について非自閉症児と自閉症児への関わりについて質問紙で求められました。
質問紙の内容はそれぞれの場面で教師がどのようにお子様に接するか4件法で以下のどれにあたるかが尋ねられました。
1、共通語で話すようにつとめる(共通語)
2、◯◯弁独特の言葉が出ないように気をつける(準共通語)
3、家にいる時よりは多少丁寧な◯◯弁で話す(丁寧方言)
4、家にいる時と同じ◯◯弁で話す(方言)
また質問紙の内容は方言の使用だけでなく教師から非自閉症者、自閉症者に対しての「心がけ」についても問う内容がありました。
「心がけ」は非自閉症児と自閉症児に対して話しかけるときの心がけを問うた内容で以下4項目
1、短い文章を使う
2、具体的に指示する
3、「です」「ます」で話す
4、漢語より和語(例:昼食→お昼ご飯)
に対して「全くない、あまりない、たまにある、ある」の4件法で尋ねました。
研究の結果、教員も非自閉症児に対して自閉症児よりも方言を使用している傾向がありました。
※但し場面、地域によって統計的に有意な場面地域があります
つまり自閉症児に対しては教師側も方言で関わることは少ない傾向があったようです。
またその他の結果として顕著に教員は自閉症児に対して「です」「ます」という話しかけを使用していることがわかりました。
但し松本 敏治他 (2014)はこのことが自閉症の方言使用と関連しているといえる証拠までは認められないと考察しています。
以上が松本 敏治他 (2014) 研究第一部から第三部までを私なりにまとめた内容です。
その後、松本 敏治の研究グループは2020年に「自閉スペクトラム症児・者の方言使用・理解研究の到達点と理論的検討」(松本 敏治・菊地 一文・橋本 洋輔,2020)という研究を発表しました。
松本 敏治他 (2020) では自閉症児が方言を話さないという現象について、2020年の段階で以下のような理論的解釈を述べています。
松本 敏治他 (2020) は、
「現時点の解釈として単に方言と共通語の音声的・言語学的差異にとどまらず、子どもの音声認識の発達、言語習得における共同注意・意図理解・自己化が果たす役割、そしてことば遣いという社会的ルールの背景にある心理的関係の理解に焦点を当てざるを得なかった。そして、さらにその背景として社会的手がかりへの選好の問題を措定(そてい)することとなった」
ということを述べました。
上の文章は少し難しいかなと思うので、上を私的に簡易的に言い換えるとすれば、
自閉症のお子様の方言使用について調べて行く中で、解釈をしていくためには言語習得におけるさまざまな能力が果たす役割やルールや関係性も含めて理解をしていく必要があり、言葉遣いという社会的ルールや心理的関係性、社会的手がかりへの好みについても理解して行く必要があった
と「幅広い視点で自閉症児の方言理解について理解して行く必要があるよ」、
と言い換えることができると思いました。
自閉症の方言使用にしても、その他のテーマであったとしても1つのテーマを研究して深めて知って行くことは本当にさまざまなことが関連してきます。
長い期間1つのことを通して研究して行くこと。
ロマンがありますね!
松本 敏治他の研究グループは自閉症児の方言使用を研究してきましたが、このような研究はとても興味深く、これからも注目していきたいと思いました。
どうだったでしょうか?
いやー、面白かったです!わくわくしました!
以下「松本 敏治他 (2014) の研究から方言について個人的に思うこと」の項で、これまで見てきた内容について私なりの思うことや、ABA自閉症療育で言葉を教えるにあたり注意していることについて書いて行きましょう。
松本 敏治他 (2014) の研究から方言について個人的に思うこと
上の項では松本 敏治他 (2014) 研究第一部から第三部までをご紹介しました。
本ブログページのタイトルは「自閉症は方言を使うの?言葉を教えるときは標準語や敬語で教える?」というものです。
ここから本ブログページタイトルを踏まえて個人的な見解を書いていきます。
自閉症は方言を使うか?ということについては、
方言を使う自閉症のお子様もいるということが答えです。
ただし松本 敏治他 (2014) 研究結果を参考にすれば、定型発達のお子様や知的障がいを持つ非自閉症児と比較すると方言使用をするお子様の割合は少ないことがわかります。
私自身、ABA自閉症療育で言葉を教えるとき方言で教えることで教えた方言を話すお子様もいらっしゃいますので、教えることで方言を使用することも可能となるでしょう。
しかし方言で言葉を教えるときは特に別の地域で使用した場合に意味が違う言葉に捉えられる場合は注意したいです。
例えば「それ、ほおっといて」は京都府(もしかしたら京都市だけ?)では「捨てておいて」という意味として使用できますが、他の地域では「それを放置しておいて」と捉えられるでしょう。
このような場合は注意が必要かと思います。
また教えていなくともお子様が方言を使い出すこともあるでしょう。
例えば幼稚・保育園や小学校で周りのお友達と関わる中で方言を自然と使い出すことも多いです。
多分ですが松本 敏治他 (2014) の研究に参加した方言を話した自閉症児のお子様たちもそのように自然と方言を話し出したお子様なのではないでしょうか。
以下、いくつか言葉を教えるときに悩みそうなポイントについて私の意見を書いて行きます。
言葉は標準語で教えるか?
という点については、親御様と相談です。
もし親御様が「先生が決めてくれー」というスタンスであった場合は、個人的には周りのお友達が使用している言葉を教えるようにします。
例えば「先生に周りのお友達がどういう言葉を使っているか聞いてくれません?」と親御様に聞いて調べたり、兄弟児がいれば兄弟の使用している言葉を参考にしたりです。
言葉は敬語で教えるか?
例えば「ケースバイケースで話し方を変えることが難しいお子様」の場合、例えば大人に対しては「ください」、対子供に対しては「ちょうだい」を使い分けるのが難しい場合があります。
この場合は敬語で教えることも考慮しますが、
幼児期に出会ったお子様には「ちょうだい(お友達言葉)」、学齢期に出会ったお子様には「ください(敬語の中の丁寧語)」で教えることが多いです。
但し使い分けることが可能な学齢期のお子様の場合は、そのようなお子様がお友達に「ください」と言っていたら親御様と相談します。
最近はお子様同志のコミュニティでも丁寧語で話をすることが推奨されている地域もあるように思うのですが、そのような場合でもお友達同志で「ください」ではなく、「ちょうだい」が普通であった場合「ちょうだい、というようにしますか?」と親御様と相談することが大切です。
理由ですが、親御様のご意見を優先しますが、個人的にはその子が所属しているコミュニティでメインに使用されている言葉をお子様も使用する方が自然かな、と考えているからになります。
言葉を教えるとき、イントネーションなどにも注目
また松本 敏治他 (2014) の研究第一部で自閉症児は鹿児島を除いて「(1)イントネーション・発音・アクセント」、「(4)終助詞」について5割以上の選択率となったことは注意しましょう。
私自身も例えば自閉症のお子様のイントネーションが平坦でアクセントがほとんどないなどで悩んでいる親御様に出会うことがあります。
また話す声の大きさやスピードでお困り感を持っている親御様も多いです。
このような場合ABA自閉症療育で言えば音声模倣というプログラムを使用することで教えていくことができます(参考 O.Ivar Lovaas,2003)。
私自身がこれらを教える場合は、
(1)良く使用するフレーズから練習をして行って、
(2)お子様がなんとなく感覚を掴んできたときに、(できれば)本人のイントネーション等を修正したいという動機付けをあげた上で、関わりの中で少し変だったときに適宜修正を行う
という方法で教えることが多いです。
イントネーション・発音・アクセント・音量・抑揚・スピードなども療育を通して教えることができる、という点は覚えておいてくいださい
さいごに
以上本ブログページでは自閉症児の方言使用について書いてきました。
いやー書いていて、面白かったです。
私自身、学生時代に自閉症児の方言使用について興味を持ったことがあって、色々な地域の話し方を調査することを考えたことがありました。
そのため今回このような論文と出会えたこととても嬉しかったです。
例えばSST(ソーシャルスキルトレーニング)などでスキルを教えるとき、
どういった言葉を使うソーシャルスキルを教えるかということなど頭を悩ますことがあるかもしれません
そのような場合本ブログページでも書いてきたように、
特に年上のご兄弟がいる場合は「友達はなんていっている?」などコミュニティの言葉をアセスメントしたり、
ママ友に聞く、担任や学年の先生に「どういった言葉を使っていますか?」など聞くのも良いと思います。
そのとき、必要であれば自閉症児にも方言を教えるということを選択肢に入れてみるのも良いのではないでしょうか?
私は方言をお話しする自閉症のお子様もとても可愛くて好きです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
【参考文献】
・ 松本 敏治・菊地 一文・橋本 洋輔 (2020) 自閉スペクトラム症児・者の方言使用・理解研究の到達点と理論的検討. 特別支援教育実践センター研究紀要 第18号,1-10
・ 松本 敏治・崎原 秀樹・菊地 一文・佐藤 和之 (2014) 「自閉症は方言を話さない」との印象は普遍的現象かー教員による自閉症スペクトラム障害児・者の方言使用評定からー
・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】