本ブログページでは「代表例教授法(General Case Programming、General Case Instruction)」について学んでいきましょう。
ABAでの自閉症者支援に「代表例教示法」という方法があるのですが中身を見て行くと実は私たちも普段の生活で行っているようなテクニックです。
「あーそういう方法を代表的教示法というのね」ということ、
そして「いつもやっていた方法」もしくは「やったことのあるこの方法」が実はどういった科学的な研究がされているかを知ることは有意義なことでしょう。
「ABA自閉症療育の目的は?」と聞かれたとき私は、
「教えた行動、またはやって欲しい行動が、お子様の日常の中で行動化され強化されること」と答えます。
例えば教室内や私の前でできるようになったスキルが別の人、別の場面で出現することを「般化(Generalization)」と言うのですが、
Shira Richman (2001) によれば般化とは直接教えていない様々な場面や状況、人に応じて適切な行動を示すこと。また、教えられた型どおりではない応答を示すことです。
Shira Richman (2001) の内容を簡単に言い換えれば、
般化とは教えた行動が自分の前や教えた場所以外で出現すること、そして教えた行動が少し違う形で出現することになります。
このように般化はABA自閉症療育にとって重要なトピックですが、実は「代表例教示法」とは般化を促す支援です。
ABA自閉症療育の目的が般化を促すことであるとすれば、この支援方法は無視できませんね。
本ブログページでは代表例教示法とは何か、そしてその方法について解説をして行きます。
ABA自閉症療育ー「代表例教示法」とはなにか?
日本行動分析学会 (2019)によれば「代表例教示法」とは般化刺激における刺激と反応のバリエーションを代表した指導例を作成し、それらを計画的に指導することで般化を促す方略です。
刺激や反応の代表例を教えることで、その他のまだ教えていない刺激についても適切に反応(行動)できるよう狙って行く「代表例教示法」ですが、では具体的にはどのような方法になるでしょうか?
まずは例えば私がよく行う手続きをご紹介しましょう
例えば「りんご」、「みかん」、「梨」、「グレープフルーツ」、「もも」の名前を知っているお子様がいたとしましょう。
お子様が名前を知っていることは上のイラストのように名前を聞かれたときにイラストに合った適切な音声刺激を表出できることで確認できました。
上のイラストのようなことについて「りんご」、「みかん」、「梨」、「グレープフルーツ」、「もも」のカードをランダムに見せたとしても、間違えることがなく正当できたとしましょう。
次に名前だけでなく「仲間(カテゴリー)」をお子様に教えて行きたいとします。
「仲間」を教えるとは例えば「りんご」を見せて「なにの仲間?」と聞いたとき「くだもの」と答えられるということです。
「りんご」はりんごでもありますが、同時に「くだもの」でもありますから、名称を聞かれたとき、そして仲間を聞かれたときで、その聞かれた内容に対応した答えを表出しなければなりません。
最初は「りんご」を見せて「なんの仲間?」と聞いてもお子様も初めての質問をされるわけですから、多くは「りんご」と誤答してしまいます。
これは珍しく無いことですから肩は落とさないでください
そこでプロンプトを用いて「なんの仲間?」と聞いたときは「くだもの」と答えることを教えて行きます。
そうすると徐々に「りんご」について「なんの仲間?」と聞かれたとき、「くだもの」とヒント(プロンプト)が無くとも答えられるようになって行くでしょう。
「なんの仲間?」と聞いたとき、「りんご」が問題なく答えられるようになったとき、次は例えば「みかん」に対しても同じ手続きを入れて行きます。
「みかん」についても問題なくできるようになったとき、次は「梨」を、そして「グレープフルーツ」を・・・
と行っていくと、
プロンプトを使って教えていない「もも」は最初から「なんの仲間?」と聞かれたとき「くだもの」と答えてくれるようになる可能性が高いです。
これは果物にある例えば「丸い」、「甘い」、「ほとんど全面が1色で構成されている」などの刺激の共通特性から学び、
「こういう類のものの仲間を問われたときは果物というのだな」ということを学んだからだと考察できるでしょう。
実はこのトピックを深く理解するためには「刺激クラス(Stimulus Class)」や「反応クラス(または行動クラス)(Response Class)」というものを深く知る必要があるのですが、
これらクラスについてはABA自閉症療育の基礎の次のページで解説します。
また以上の手続きは「EIBI:Early Intensive Behavioral Intervention (早期集中行動介入)」で主に使用される「DTT:discrete trial teaching(離散型試行訓練)」という手法を用いて療育をする際に私が良く狙うアプローチですが、
以上のようなアプローチは本ブログページでご紹介している「代表例教示法」と言えるでしょう。
刺激(くだもの)の代表例を「くだもの」と教えることで、まだ教えていないくだものについても「くだもの」と答えられるようになった、ということです。
ここまで「知識」についてお子様に教えていましたが、以下アカデミックスキルや生活スキルを教えていった「代表例教示法」の研究をご紹介して行きます。
21歳の自閉症大学生へ「代表例教示法」を用いる
Laura C. Chezan・Erik Drasgow・Kathleen J. Marshall (2012) は大学に通う自閉症の男性に「代表例教示法」を用いて大学生活に必要なスキルを教えることを行いました。
研究に参加したのは「PDD-NOS:Pervasive Developmental Disorder Not Otherwise Specified(特定不能の広汎性発達障がい)」と診断を受けた21歳の男性、名前は「トム」です。
自閉症の診断は「DSM:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders」という「精神障害の診断・統計マニュアル」に載っている基準が適用されることがほとんどなのですが、
「PDD-NOS」は現在2013年のDSM新版アップグレードによって診断基準から無くなってしまいました。
「PDD-NOS」のイメージとしていわゆるIQの高い自閉症の人と思ってもらえると良いと思います。
研究内に書かれているトピックから少しトムについて紹介をしましょう。
トムは5歳の頃に診断を受け、小学校に入学した時点でIQが60台後半で特別支援教室に入学する資格を持っていました。
トムは南東部の大学の知的障がい学生向けの高等教育プログラムに参加し、大学の正規科目を聴講するとともに1対1の指導セッションに参加し課題達成が支援され職業面、社会面、自立生活面での指導を受け、そしてキャンパス内外のフィットネス施設でいくつかのインターンシップを経験しています。
トムは大学のキャンパス内にあるアパートでルームメイトと暮らしていて会話を始めることができたり、会話を続けることができたり、自由形式の質問に答えることなど、良好な会話能力を持っていましたが、仲間や大人の人と会話をすることはほとんどなく、トムは音楽を聴いたりTVを見たりすることに興味を持っていました。
トムは学内外の様々な場所やサービスへのアクセス(例えば商品の購入、フィットネスセンターでのトレーニング)、キャンパス内での移動(例えば歩いて教室や学校に行く)に高い自立性を示しましたが、
家賃を払う、クラスメートに電話して車で送ってもらう、メールをチェックして返信する、仕事用の制服を着るなど自立した生活、社会生活、学業、職業の各領域での活動や作業を行うために常に注意を促す必要がありました。
このような21歳の男性です。
トムは
(1)大学のコースの要件を満たすためにもっと自立して成功したいという願望を持っていた
(2)テクノロジーサービスを利用するとき常に困難を感じていた
ことから今回この介入に参加しました。
以下トムにどのように「代表例教示法」を用いて支援していったのかについて見て行きましょう。
21歳の自閉症大学生へ「代表例教示法」を用いる・手続き
Laura C. Chezan他 (2012) の研究では教えるスキルの代表例として以下の3つが選出されトレーニングされました。
(1)シラバスの情報を探す・・・・・・・・・・・・・要求を受け12秒以内にシラバスから要求された情報を自主的に検索し、見つけ、口頭で回答を開始する
(2)テクノロジーを利用した情報へのアクセス・・・・要求を受け2分以内に電子メール、Blackboard、VIPでドキュメントを開いたり、要求された情報を探したりするために、適切なテクノロジー機能を自主的に選択、使用することができる
(3)テクノロジーを利用して情報を得る・・・・・・・要求を受け2分以内に電子メールとBlackboardに文書を追加するために、適切なテクノロジー機能を自主的に選択・使用することができる
以上の3つの行動です(さすが参加者が大学生なだけあって教えるスキルのレベルは高いですね)。
スキル介入は「時間遅延(Time delay)」、「分化強化(differential reinforcement)」、「エラー修正(error correction)」の手続きで行われました。
ざっくりいうと、
課題の要求を支援者が出しトムの反応を待ち(「時間遅延(Time delay)」、研究では3秒)、トムが上手くできたときには褒め(「分化強化(differential reinforcement)」)、間違ったときには修正(「エラー修正(error correction)」)した
という手続きです。
これらの手続きを利用し、「シラバスの情報を探す」、「テクノロジーを利用した情報へのアクセス」、「テクノロジーを利用して情報を得る」というスキルを順にトムへ教えて行きました。
「いや!なんかそれ、普通の方法!!」
と思われるかもしれませんが普通と思われることが支援対象者にとって効果があるかどうかをデータを取って分析しながら支援を進めて行く姿勢こそが大切です
私はエビデンスがあると言われている支援方法で奇抜なものの方が少ないと思います
データを見れば介入の回数は3つのスキル合わせてだいたい20セッション程度で行われています。
今回は教えたスキルが代表例として他の場面やスキルに般化するか?
が研究のミソですので手続きについてはあっさりと記載しましたが、代表例のスキルを教えることで以下のような結果が得られました。
21歳の自閉症大学生へ「代表例教示法」を用いる・結果
Laura C. Chezan他 (2012) の研究結果を見て行きましょう。
Laura C. Chezan他 (2012) は上で記載した「シラバスの情報を探す」、「テクノロジーを利用した情報へのアクセス」、「テクノロジーを利用して情報を得る」ということを教えることを代表的なスキルとして選別しました。
研究の結果、
例えば「シラバスの情報を探す」では介入で「必要な成績を検索する」ことが介入されましたが、
「コースの目的と目標を検索する」行動も般化して上手くなりました。
例えば「テクノロジーを利用した情報へのアクセス」では「トムの持っているメールアドレスを検索する」ことが介入されましたが、
「大学生徒のメールアドレスを検索する」行動も般化して上手くなりました。
例えば「テクノロジーを利用して情報を得る」では「トムの持っているメールアドレスにメールする」ことが介入されましたが、
「大学生徒のメールアドレスにメールする」行動も般化して上手くなりました。
このように直接的に教えていないスキルまで上手くなるということが代表例教示法の狙いです。
トムは研究でシラバスの情報検索という大学生活で必要なスキルやテクノロジーを使って学生と関わるスキルを獲得して行きました
このようなスキルで困っている人は実は多いと思います
シラバスの見方や今の時代で言えばSNSを使った通信手段についてのスキルを学習することは実は大学入学前、特に自閉症の方にとっては必要なスキルかもしれませんね
ABA自閉症療育「代表例教示法」の日本の研究
上では海外の研究をご紹介しましたが日本にも「代表例教示法」を扱った研究があります。
例えば井上 暁子・井上 雅彦・小林 重雄 (1996) は3名の中学生自閉症児に対して代表例教示法を用い料理スキルを教えました。
井上 暁子他 (1996) の研究ではチーズトースト、チャーハン、スパゲッティーの順に、ビデオマニュアルと直接指導、料理カード(多分レシピ?)を使用して料理スキルを教えました。
すると結果として教えたスキルは直接訓練を行っていないピザトーストやカレーライス、ラザニアを作る際に般化して行きました。
他にも渡部 匡隆・山口 とし江・上松 武・小林 重雄 (1996) は1名の小学6年生自閉症児に対して代表的な買い物スキルを教えることで、買い物のスキル般化を狙った訓練を行っています。
研究では家族と買い物の機会はあるものの支払いが困難な自閉症児に対し、訓練室で100円を1枚ずつ出す、「◯◯を買ってきてください」という指示でロールプレイを行うという訓練の中で行動が強化されました。
現実場面でテストと訓練を行うことでコンビニ、別のコンビニ、スーパーでの買い物実施が可能となったようです。
ここまでご紹介したLaura C. Chezan他 (2012)、井上 暁子他 (1996)、渡部 匡隆他 (1996) は生活に根ざした重要なスキルを自閉症者・児に教えているということで非常に興味深い研究でしょう。
さまざまな研究者がこのように生活に根ざしたいろいろなスキルを教えていますので、もし何か困ったことがあったら一度Googleで検索をしてみると良いと思います。
さいごに
本ブログページ冒頭ABAでの自閉症者支援に「代表例教示法」という方法があるのですが、中身を見て行くと実は私たちも普段の生活で行っているようなテクニックですと記載しましたが、
「◯◯で得たコツや方法を応用してー」など、生活の中で使用する用語だと思います。
例えば「最初英語を学んだときは苦労したけど、そのあとフランス語を学んだときはちょっと英語のときよりも楽で、スペイン語を学んだときは前の2つよりも早く学べたなぁ」
と言った場合は、それを支援として行った場合は「代表例教示法」と言えるでしょう。
ブログページを読んで「普通のこと」と思われたかもしれませんが、普通と思われることが支援対象者にとって効果があるかどうかをデータを取って分析しながら支援を進めて行く、このような姿勢が大切です。
丁寧に、地道に支援を進めて行く。文中でも書きましたが、あまり派手なことで効果的と言われることは実は少ないと思います。
代表例教示法は使ってほしい、教えたいスキル・行動の属するグループから、その代表例をピックアップし教えることで他の同グループ内でもスキル・行動を般化させるトレーニングでした。
ABAでなくとも、このような療育支援は普通に行われていることだと思います。
このブログページを読んだ方は「あー、んじゃあれも代表例教示法って言って良いかも」と思ったかもしれません。
お子様に教えるときのその普段行っている方法は、本ブログページから考察すれば効果的であると考えられます。
本ブログページで少し触れましたが次のページでは「刺激クラス」、「反応クラス(行動クラス)」について書いて行きましょう。
本ブログページでご紹介した「代表例教示法」も少し出てきます。
【参考文献】
・ 井上 暁子・井上 雅彦・小林 重雄 (1996) 自閉症生徒における代表例教授法(General Case lnstruction)を用いた料理指導品目間般化の検討 ー品目間般化の影響ー. 特殊教育学研究. ,34(1) p19−30
・ Laura C. Chezan・Erik Drasgow・Kathleen J. Marshall (2012) A Report on Using General-Case Programming to Teach Collateral Academic Skills to a Student in a Postsecondary Setting. Focus on Autism and Other Developmental Disabilities. 27(1) 22–30
・ 日本行動分析学会 (2019) 行動分析学辞典 丸善出版
・ Shira Richman (2001)Raising aChild with Autism A Guide to Applied Behavior Analysis for Parents 【邦訳: 井上 雅彦・奥田 健次(2009/改訂版2015) 自閉症スペクトラムへのABA入門 親と教師のためのガイド 株式会社シナノ パブリッシング プレス】
・ 渡部 匡隆・山口 とし江・上松 武・小林 重雄 (1996)自閉症児童における代表例教授法を用いた支払いスキルの形成 一複数店舖への般化の検討一. 特殊教育学研究. 36(4)p 59-69