(ABA自閉症療育の基礎86)ABAの考え方、機能的文脈主義と機械主義の比較ー機能的文脈主義をABA自閉症療育に生かす、療育指針

ABA(応用行動分析)の考え方でユニークな考え方の1つが「機能的文脈主義(function contextualism)」という言葉だと思います。


Enせんせい

このブログページでは機能的文脈主義について紹介し、ABAを使用して物事を分析したり、解決したりするときにはそういった考え方をするのかということを知ってもらえれば幸いです


私は「機能的文脈主義」について近年、大人への対人支援を目的とした専門書で良く目にするようになりました。

私が学生の頃の言葉で言えば「機能主義」と呼ばれていた内容と同義語だと思いますが、このような考え方はABAの根幹を成す考え方だと思いますのでご紹介します。

ブログページの最後には、ABA自閉症療育において「機能的文脈主義」の考え方がどのように役に立つか?という視点も少し考察いたしましょう。


このブログページでは「機械主義」と「機能主義」について書いて行きます

機能的文脈主義の対義語として出されるキーワードとして「機械主義(mechanism)」というキーワードがあります。

「機能的文脈主義 VS 機械主義」というテーマは以前、ブログ内でご紹介した「行動モデル VS 医学モデル」というテーマと似ている内容だと個人的には感じるところです。

ブログ内で「医学モデル」と検索すると記事が出てきますので興味がある人は是非ご覧ください。


以下「機能的文脈主義 VS 機械主義」というテーマで内容を見て行きましょう。



機能的文脈主義と機械主義

Enせんせい

機能的文脈主義、機械主義とはどういった意味の言葉でしょうか?


まず機械主義とは?ということについてご紹介します。

JoAnn C. Dahl・Jennifer C. Plumb・Ian Stewart・Tobias Lundgren (2009) は機械論者にとって世界とは機械がパーツやエネルギーを作り上げているようなものであり、科学者の仕事は機械の構成要素を分析し、それらのパーツがどのように働き合っているかを説明することであると述べました。

JoAnn C. Dahl他 (2009) はこのような機械主義の考え方をする心理アプローチは認知療法(cognitive therapy)であると述べています。


「認知療法」とはアーロン・ベックが開発した治療法で特にうつ病に対して効果を上げてきた治療法です。

Aaron T. Beck・A. John Rush・Brian F. Shaw・Gary Emery (1979) は認知の三要素は、自分自身、自分に将来、自分の経験に関してその人特有のやり方で導くような三つの大きな認知パターンから成り立っていると述べています。

認知療法では情報処理モデルというモデルを採用していて感情的に苦痛を感じているときには否定的な先入観にとらわれていて、正常な情報処理能力に問題が生じがちと考えるのです(参考 Michael Neenan & Windy Dryden, 2006)


機械主義についてSteven C. Hayes・Kirk D. Strosahl・Kelly G. Wilson (2012) はねじ巻き時計を例にして説明をしました。

Steven C. Hayes他 (2012) を参考にすれば機械主義とは、ねじ巻き時計はさまざまな構成要素(パーツ)でできており、それらの要素を設計図のような上位の計画に従って構築する必要があり、時計が機能するためにはねじを巻かなければいけない。

このような要素で世界ができていると仮定した場合「このシステムを機能させているのはどの要素とどの力であるか?」という問いが問題解決に必要となる、このような考え方が機械主義です。

Steven C. Hayes他 (2012) は行動科学の分野で言えばほとんどの情報処理や認知神経科学がこのような考え方のよい例であると述べました。


JoAnn C. Dahl他 (2009) Steven C. Hayes他 (2012) が述べている機械主義を考察すると世界はそれぞれの構成要素で成り立っており、何か不備が生じたときはどこかの構成要素が不備を起こしていると考えるということになります。

機械主義に従って物事を考えれば、不備が起こっているのであれば修理すれば良いという解決策を導き出すことになり、

これを心理支援に適用した場合は不安や抑うつという不備が生じているのであれば機械を修理するように、不備の原因を探り治療していくことが解決に導く方法であると捉えることができるでしょう。


正常から逸脱した「不備」を修復すれば正常に戻るという考え方

例えばBerni Curwen・Stephen Palmer・Peter Ruddell (2000) は思考が行動と感情を、さらに場合によっては生理的反応をも導くということが認知行動療法の基本的前提となっており、

そこで認知行動療法ではさまざまな心理的問題を乗り越えるためクライアントは自分自身の考え方を変える必要があると述べました。

Berni Curwen他 (2000) 不適切な思い込みをするクライアントに対して、認知行動療法のセラピストであればこのクライアントに対してまずそう考えてしまう理由や証拠は何であるか考えるように促しもしその証拠がない場合にはそこからさらに進んで、そのような思考の底にある思い込みや考え方の根拠を取り除くように試みると述べました。

上記のBerni Curwen他 (2000) が述べている心理支援の方向性は黒色太文字で示した「問題は不適切な思い込みにある」、「思考の底にある思い込みや考え方の根拠を取り除くように試みる」という考え方であるため機械主義の考え方であると思います。


ここまででなんとなく機械主義についてイメージが掴めてきたでしょうか?

「悪いところ(不備)があるから、不備を見つけて修理すれば良い」という感じで支援を行なっていくことをイメージしてみてください。



医学モデルの簡易解説

これは医学モデルと酷似しています。

医学モデルは、

・ 風邪をひいたから、解熱剤を飲めば良い

・ 歯が痛いから、痛み止めを飲めば良い

・ 骨が折れているから、ギプスをはめて治療する


と言った考え方で、これは身体疾患を治療する医学では大きな成功を収めてきました。


医学モデルについて私は昔、杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)で知りました。ABAの代表的な書籍と言えるでしょう

ABAの専門家は医学モデルが心理支援に適切なのか?という疑問を持ち、「行動モデル」というモデルを構築してきました。


医学モデルに沿って心理支援に「風邪」「虫歯」「骨折」にあたる言葉を当てはめるとどういった言葉となるでしょうか?

心の症状は「風邪」や「虫歯」や「骨折」と違って、体温や歯の色が変わっていること、レントゲンでのヒビが目で観察できません。


杉山 尚子(2005)は医学モデルについての解説で「意思」や「やる気」や「性格」などと行動に対してラベルを貼ることで、人は無意識のうちに「こころ」を想定し、問題行動を起こす原因はその「こころ」であると考えてしまうと述べています。

体温の上昇や歯の痛み、骨のヒビという観察可能な事象と違う心の症状に原因を与えるときも杉山 尚子(2005)が述べているように「意思」や「やる気」や「性格」などを原因に考え、それらをなんとかすれば良いと解決策を探ってしまわないでしょうか?

「意思」や「やる気」や「性格」などを原因として捉え、解決策を導き出すとしてどうやって?

これらの事象は目に見えず直接的には観察不可能で、具体的な方略がなかなか出てこないのです。


Enせんせい

もっと直接的で生産的な見方があるでしょう?という内容が行動モデルによる行動の見方と言えます



機械主義は心理支援で成功するだろうか?ABAの考え方、機能的文脈主義

ABAの専門書を見ていると、機械主義でも上で解説した医学モデルと同じように「歪んだ認知」や「低い自己肯定感」などと言った、見えないものにラベルを付け行動を説明していると主張しているように思います。


これから機能的文脈主義について述べて行きますが、先に誤解の無いように言っておきましょう。

「機械主義」の考え方による心理支援が効果がないのか?と言えばそんなことはなくエビデンスが上がっています。

例えば上で例として出したBerni Curwen他 (2000) の紹介した「認知行動療法(Cognitive behavioral therapy:CBT)」、この支援方法はさまざまな心理疾患に対して多くの治療エビデンスを持っています。

認知行動療法は現在、大人の精神疾患に対して、今世界で一番多くのエビデンスを蓄積している支援方法は認知行動療法だと思うくらい、膨大なエビデンスの蓄積があるのです。

そのため機械主義のアプローチが効果がないとかそういったことを伝えたいわけではございません。


また認知行動療法とは「認知療法(Cognitive therapy)」「行動療法(behavioral therapy)」をMIXさせたアプローチです。

少しややこしい歴史的背景があるのですが、もともと別の背景を持つ技法をMIXさせたアプローチであるため、アセスメント・介入において認知療法寄りの技法を多用する人と、行動療法寄りの技法を多用する人がいて実は多様性に富んでいます。


Berni Curwen他 (2000) の紹介した認知行動療法は機械主義の色を濃く反映した内容でしたが、機能文的脈主義の色を濃く反映した形で認知行動療法を実施している専門家もいることでしょう。


Enせんせい

ここまで長く機械主義について説明をしてきましたが、ではABAの推奨する機能的文脈主義とは一体どういったものでしょうか?


「機能的文脈主義とは?」という内容を上手く説明したなと思う文章があったのでご紹介しましょう。

Russ Harris (2009) 「機能的文脈主義と3つ脚になった椅子」という項を書籍の中で書いています。

以下引用しますがみなさまも出された問いについて考えてみてください。


以下「機能的文脈主義と3つ脚になった椅子」は考えることは学ぶことが多いと思います

ーーーーー

4つ脚の椅子を想像して欲しい。

そこに人が座ったら、脚が1本外れてしまった。

あなたはこの椅子を「壊れている」「欠陥がある」「傷もの」と表現するだろうか?

「機能不全の椅子」であるとか、さらには「適応不良の椅子」などと呼ぶだろうか?

この質問を数百人のセラピストにしてきたが、全員が上記表現のうち1つには「はい」と答えた。

問題なのは「はい。この椅子には不具合や欠陥、不備があります」と即座に回答するとき、文脈が果たすさまざまな役割の重要性が全く考慮されていない、という点だ。

では、今度は、このような事態を別の視点から捉えてみよう。

この椅子が目的を果たすために非常に効果的に働く状況、つまりこの椅子を最大限に生かせる使い道を、3つ4つ考えて欲しい。

ーーーーー


さて、次に読み進む前に以上の問いに是非答えてみてください。

4つ脚だった椅子それが人が座った時に脚が1本取れてしまった。このような椅子の使い道を・・・。文脈というワードがキーワード、ヒントです。


Russ Harris (2009) はどのようにこの椅子の使い道を示すでしょうか?

以下に書いて行きます。

いくつか思いつきましたか?

・・・・・




Russ Harris (2009) は以下のように答えます。

・ 悪ふざけをするとき

・ 壊れた家具の美術展を開催するとき

・ ピエロの芝居やコメディの脚本を考えるとき

・ 家具制作の授業で、欠陥のあるデザインの例を示すとき

・ バランス感覚、調整力、筋力を鍛えるとき

・ 労災の賠償請求をするため、仕事中ケガをするよう願うとき


この答えをみて、どのように思ったでしょう?


Enせんせい

上手く言ったものだと納得しましたか?

またはペテンのような言い回しだと思いましたか?


続けてRuss Harris (2009) 機能的文脈主義はものごとが具体的な文脈の中でどう機能するかに目を向けるのである。機能的文脈主義の観点からすれば、本質的に機能不全、あるいは病的である思考や感情などは存在しないと述べます。

確かにRuss Harris (2009) のオレンジ色で箇条書きにした答えの文脈では3つ脚の椅子は目的を叶える、機能的なアイテムであると言えるでしょう。


機能不全とは実はある特定の文脈においての話であって、全く別の文脈ではそれは機能不全とは呼ばれずむしろ機能的なことがあるのです。

このことは機械主義では考慮されません。

但し、これは重要なポイントです。

このような何事もケースバイケースという機能的文脈主義の視点が世界の真理であるという視点に立てば、悪いところがあるから修理するという心理の機械主義とは違って、心理的な悩みについて、その悩みを生じさせている行動(ABAでは一般的に思考や言語や認知と呼ばれるものも含む)をケースバイケースで機能させることが大切である

という少し違ったニュアンスで解決の方向性を見ることができます。

不備があるから修理しよう!ではなく、今のその行動が機能するように支援する。

これが機能的文脈主義に乗っ取った支援の方向性です。


「この世に、確実に人を苦悩から開放してくれるようなものは存在しない」


このセリフはSteven C. Hayes他 (2012) の著書で描かれた最初の一節です。

絶望的に感じるこの一節に込められたメッセージは、人間にとって不備となるネガティブな感情や思考などは自然なもので取り除くことはできない(そのような必要は実は無い)という内容となります。


Steven C. Hayes・Kirk D. Strosahl・Kelly G. Wilson (2012)

機械主義では苦悩は不備であるためこのような考え方にはなかなか辿り着けないでしょう。

ABAの機能的文脈主義では苦悩は不備ではなく、機能しない文脈で生じ、その文脈の中で苦悩をどう捉え行動するかが問題であると考えます。

例えば苦悩からイメージされる「不安」や「抑うつ」や「脅迫的な思考」について考えてみましょう。

「不安」や「抑うつ」や「脅迫的な思考」は害となる瞬間が確かに多いと思いますが、これらは精神疾患特有の不備でしょうか?

私たち人間にとって「不安」や「抑うつ」や「脅迫的な思考」は状況によっては適切なものとなりませんか?


例えば、

「不安で、頑張って勉強したんですよ」

「彼女と別れてからの3ヶ月は、ずっとうつうつしていました」

「会社の鍵閉めを命じられたんですが、最初は、駅に行ってから、会社に戻って確認するということを2週間くらいやっていました」


Enせんせい

例えばこのようなシーンでは「不安」や「抑うつ」や「脅迫的な思考」は自然なもので不備と呼べないのではないでしょうか?

ものによっては全く意味がないものとは言えないと思います

またこれらの例に共感できませんか?

これらの例は全員が陥る状態ではないかもしれませんが「そんな人もいるよね」と性格の範囲とみなされるでしょう


果たしてこれらは病的な「不備」と呼べるものでしょうか?


例えば「病的」と認識する問題となってしまう場合はこのようなことが生活の多くを占めてしまい、過剰になってしまう場合です。

適切な行動であっても、その行動が「過剰」であったり「不足」である場合は行動が問題だと考えられます(参考 Jonas Ramnerö & Niklas Törneke, 2008)


ここまでで、なんとなく機械主義と機能的文脈主義の考え方の違いがなんとなくイメージできたでしょうか?

ABAは機能的文脈主義の立場で支援を行います。

このブログは主にはABA自閉症療育をテーマに書いていますので以下、ABA自閉症療育に機能的文脈主義を活かすことをテーマに書いていきましょう。



機能的文脈主義をABA自閉症療育に活かす

Enせんせい

ここまで機械主義と機能的文脈主義を対比してみてきましたが、機能的文脈主義の考え方をどのようにABA自閉症療育に活かすことができるでしょうか?


機能的文脈主義の文献をこのブログページでもたくさんご紹介してきましたが(ここまで紹介してきた文献は全部和訳されている書籍ですので、日本語で読めます)、参考文献を見て貰えばどれに該当するかわかるかと思いますが、

「ACT:Acceptance and Commitment Therapy」というABAベースの心理療法で「機能的文脈主義」というキーワードが出現してきます。

※ 「ACT:Acceptance and Commitment Therapy」は以下ACTと略称


この辺の書籍です

機能的文脈主義をABA自閉症療育に活かすときまず以下のエビデンスを見て行きましょう。

※ ここからは海外文献も使用


Shuvabrata Poddar・Sinha V. K・Mukherjee Urbi (2015) はACTを用いて自閉症児の親御様の「不安」「抑うつ」「心理的柔軟性」「生活の質(QOL)」の改善を目指して介入を行なっています。

Shuvabrata Poddar他 (2015) 自閉症児の親御様は自身にとって特別な教育をしなければいけないことについて高いストレスレベルを感じると述べ、このような子どもたちの問題の多くは少なくともすぐには変化しないと思われるため、自閉症の子どもを持つ親は病理によって課せられた「非正常」な状態に挑戦するのではなくそれを受け入れることが必然となると述べました。

自閉症児を持つ親御様が健常児を持つ親御様と比べて高いストレスを持つことは他の研究でも述べられています(参考 Norah Johnson・Marilyn Frenn・Suzanne Feetham・Pippa Simpson, 2011)


Shuvabrata Poddar他 (2015) の研究では5人の自閉症児の親御様が参加され「反復測定デザイン:repeated measures design」という実験デザインによって効果判定がされました。

外来および入院患者から意図的に選ばれた対象者は、子どもの平均年齢が10.64歳±4.27歳(だいたい6歳から14歳)、両親の平均年齢は39.54±6.84歳(だいたい33歳から45歳)でした。

研究結果では「不安」「抑うつ」「心理的柔軟性」「生活の質(QOL)」の全てにおいて改善が見られました。


この研究は被験者が少なく、またランダム化されていない(RCTではない)ため研究として、エビデンスのヒエラルキーは決して高いとは言えませんが、

機能的文脈主義におけるABAベースの支援が自閉症児の親御様に対して「不安」「抑うつ」「心理的柔軟性」「生活の質(QOL)」などについて効果がある可能性を示した点では、ABA自閉症療育にとって有意義な結果と言えるでしょう。


Shuvabrata Poddar・Sinha V. K・Mukherjee Urbi (2015)

ACTでは言葉を介して介入を行っていくため、ACTを使用しABA自閉症療育に活かすとなると周りの大人(自閉症児・者の親や周辺の支援者)に対して活かすことになると思います。


Enせんせい

以上は自閉症児を持つ親御様に対してのABA自閉症療育のトピックでしたが機能的文脈主義が自閉症児本人に与える影響を次は考えて行きましょう


このブログページで学んできた行動モデルや機能的文脈主義を自閉症のお子様に活かすことはできないでしょうか?

そんなことはありません。

自閉症児の行動を理解するときその前後の文脈から行動を理解することが非常に大切です。

これは行動モデルや機能的文脈主義の考え方になります。


自閉症児の行動を理解するときABAの「オペラント条件付け」の理論が特に重要であるとこのブログ内でもたくさん発信をしてきました。

オペラントに関連した出来事を分析するとき「機能分析をする」と表現します(参考 Niklas Törneke, 2009)


機能を分析するとはいったいどういったことでしょうか?

機能を分析するとは、ざっくり言えば行動の前後の関係(行動の前後の文脈)から行動を理解するということです。

例えば行動の機能分析研究で代表的なものにBrian A. Iwata・Gary M. Pace・Michael F. Dorsey・Jennifer R. Zarcone・ Timothy R. Vollmer・Richard G. Smith・Teresa A. Rodgers・Dorothea C. Lerman・Bridget A. Shore・Jodi L. Mazaleski, Han-Leong Goh・Glynnis Edwards Cowdery・Michael J. Kalsher・Kay C. Mccosh・Kimberly D. Willis (1994)があります。

Brian A. Iwata他 (1994) は152の自傷行為を行う人たちの事例から自傷行為の意味(機能)を分析した研究を行ったのですが自らを傷つける自傷行為でさえ本人たちにとって何らかの意味を持っていました。


Brian A. Iwata他 (1994)の研究では結果、

・ ネガティブな事象からの回避(escape)が58例(38.1パーセント)

・ ポジティブな注目やアイテムを獲得するため(access to attention/food or materials)が40例(26.3パーセント)

・ 自動強化(automatic (sensory) reinforcement accounted )が39例(25.7パーセント)

・ 複数の意味を持つが8例(5.3パーセント)

・ 不明が7例(4.6パーセント)


Brian A. Iwata・Gary M. Pace・Michael F. Dorsey・Jennifer R. Zarcone・ Timothy R. Vollmer・Richard G. Smith・Teresa A. Rodgers・Dorothea C. Lerman・Bridget A. Shore・Jodi L. Mazaleski, Han-Leong Goh・Glynnis Edwards Cowdery・Michael J. Kalsher・Kay C. Mccosh・Kimberly D. Willis (1994)

自傷行為は以上の意味を持っていたことが示されたのですが、実は周りの人は理解できなかった自傷行為について、ほとんどの人は意味を持って行なっていたことが研究からわかりました。

この研究で示された「自傷行為」という同じように見える行動であっても、人によって使用する意味(機能)が違うということは重要です。

この研究からその行動だけをみても、その前後の関係性(文脈)を見て分析しないと行動の意味(機能)が分からない(推測できない)ため、本当の解決には至らないことが示されました。


お母様

最近、うちの子突然めっちゃ泣くのよ。なんでだろう


というお母様。


「うちの子」が泣いている理由(目的、機能)は前後の関係性を見ないと分からないものなのです。

例えば前後の文脈を見てわかることは?

・ 泣いたときに実は、あやすためにバームクーヘンが渡されていた(要求行動、事物獲得行動)

・ 実は課題を課せられたときに泣いていて、泣くことで課題をやらなくても良いという状況が生まれていた(逃避・回避行動)

・ 泣くことで親御様が一緒に遊んでくれるという、暇つぶしが達成されていた(注意引き、注意獲得行動)

・ その他(自己刺激行動や自己強化行動と呼ばれるグループ)

このような行動の機能(意味、目的)の分類が可能になります。

※ 上で紹介したBrian A. Iwata他 (1994)の研究に上の分類を当てはめると「要求行動、事物獲得行動」と「注意引き、注意獲得行動」は「access to attention/food or materials」という同じ行動のグループにまとめられていて、「逃避・回避行動」は「escape」のグループであり、「自己刺激行動や自己強化行動」は「automatic (sensory) reinforcement accounted」のグループになります。他に複合的な機能を持つグループと研究では分からなかったグループの2つのグループにBrian A. Iwata他 (1994)の研究では行動の機能が分類されました


Enせんせい

だいたい、ざっくりわけるとその瞬間の行動の目的(機能)は上の4つのどれかに分類できるでしょう


このような行動の機能分類は自閉症児特有のものではありません。

大人であれ、健常児であれこのような行動の機能分類は可能です。

また子どものによってはバームクーヘンが欲しいときも、課題を回避したいときも、一緒に遊んで欲しいときも、泣くことで目的を達成する、というパターンがあることは注意しましょう(参考 Brian A. Iwata・Timothy R. Vollmer・Jennifer R. Zarcone, 1990)

このパターンは特にまだできることが少ないお子様(専門的に言えば行動レパートリーの狭いお子様と言われる)の場合に特に出現する印象を持っています。


私たちは「泣く」というインパクトのあるそのとき生じた行動に注目しがちです。

でも実はその前後(文脈)を見て、行動の目的(機能)に注目しなければ本当の解決に至らないことが多いということは覚えておきましょう。


「一緒に遊んで欲しい」ことを泣いて訴えるお子様に教える必要なことは?

「泣いてはダメ!」ではと伝えるのではなく、例えば「一緒に遊ぼうよ」と伝えるスキルを教えることが必要です。


このように行動の意味がわからなければ、お子様に何を教えれば良いかアセスメントすることはできないでしょう。



さいごに

機能的文脈主義や行動モデルの行動の見方は「行動の型」に囚われるのではなく、文脈(行動の前後や取り巻く環境)から行動の意味を理解し、目的に沿った機能的な行動に置換していこうという考え方です。

このような考え方は自閉症児の療育にも生かせるでしょう?


私たちもそのように生活し行動しているはずです。

自閉症児も私たちと同じ行動原理にしたがっているだろう。

私たちは根本は同じなのだ、と考えて解決策を探っていく。


機能的文脈主義をもっと深く考察すれば、機能的文脈主義に添ってあなたのお子様が社会活動で機能する場面はどのようなときなのだろう?

このように考えていくことで可能性は広がっていくように思いませんか?


これは3つ脚の椅子の例をあなたのお子様に比喩して出しているわけではありません。

3つ脚椅子の例があなたのお子様だと言われれば、機能不全の場面が多いと言われているように捉えられてしまうような気がして個人的には怖いです。

ですので決して、そのようなニュアンスで伝えたいというわけでないことをお伝えさせてください。


Enせんせい

例えばほとんどの人が機能的(目的的)でない行動によって、毎日の中で時間を費やしていることでしょう

私も例外ではなくそのように感じています


本当はXがしたいんだよと言いながらXと関係ない労働に時間を費やしたり、本当はXがしたいと思いながら周りの目を気にしてXができずにいる。

私たちのほとんどは全く機能的でない毎日を過ごしています。

こんなことは普通です。

でもあまり問題なく過ごせているでしょう?

もしかする違和感を持ちながらも、ほとんど問題と感じることなく過ごしている(過ごせている)かもしれません。

このような生活は均衡を保つために(は)大切です。


私たちは均衡が崩れるアンバランスを嫌う傾向があるのでしょうか。

アンバランスが崩れる可能性があった場合「本当にしたいこと」や「自分の目的に進む」ことに時間を費やすことを我慢し、それをできずにいるのかもしれません。

しかしこのことが過剰になり、不均衡を起こすとき文脈的機能主義は力を貸してくれると思います。

私たちはこのような均衡を保ちながら生活をし、均衡を保っている状態を正常、均衡が保てなくなった場合を異常と呼んでいるのでしょう。


あなたのお子様、自閉症のお子様が生きている世界もそのような世界です。

現在自閉症は「自閉症スペクトラム症」という精神疾患に割り当てられている症状となります。

自閉症以外の発達障がいも同じように精神疾患に割り当てられる症状です。


このブログページでどのように彼らについて捉え、またあなた自身がどのように捉えるのか?

当サイトはABA自閉症ブログですので、何かあなたにとって一考の価値があれば幸いです。


次のページではABA自閉症療育において「子どもに選択させること」が動機付けを上げる、ということについて書いていきます。

ABA自閉症療育でも結構使えるテクニックです。

「NBI(Naturalistic Behavioral Interventions:(自然主義的行動療法)」の1つ「PRT:Pivotal Response Treatment(機軸行動発達支援法)」で主に使用されている療育テクニックとなります。



【参考文献】

・ Aaron T. Beck・A. John Rush・Brian F. Shaw・Gary Emery (1979) Cognitive Therapy of Depression 【邦訳 監訳:坂野雄二 共訳:神村 栄一・清水 里美・前田 基成 (2007) うつ病の認知療法 <新版> 岩崎学術出版社】

・ Berni Curwen・Stephen Palmer・Peter Ruddell (2000) Brief Cognitive Behaviour Therapy 【邦訳 監訳:下山 晴彦 (2004) 認知行動療法入門 短期療法の観点から 金剛出版】

・ Brian A. Iwata・Timothy R. Vollmer・Jennifer R. Zarcone (1990) THE EXPERIMENTAL (FUNCTIONAL) ANALYSIS OF BEHAVIOR DISORDERS : METHODOLOGY, APPLICATIONS, AND LIMITATIONS. Perspectives on the use of nonaversive and aversive interventions for persons with developmental disabilities. p 301-330

・ Brian A. Iwata・Gary M. Pace・Michael F. Dorsey・Jennifer R. Zarcone・ Timothy R. Vollmer・Richard G. Smith・Teresa A. Rodgers・Dorothea C. Lerman・Bridget A. Shore・Jodi L. Mazaleski, Han-Leong Goh・Glynnis Edwards Cowdery・Michael J. Kalsher・Kay C. Mccosh・Kimberly D. Willis (1994) THE FUNCTIONS OF SELF-INJURIOUS BEHAVIOR: AN EXPERIMENTAL-EPIDEMIOLOGICAL ANALYSIS. JOURNAL OF APPLIED BEHAVIOR ANALYSIS. No2, 27, p 215-240s

・ JoAnn C. Dahl・Jennifer C. Plumb・Ian Stewart・Tobias Lundgren (2009) The Art and Science of Valuing in Psychotherapy: Helping Clients Discover, Explore, and Commit to Valued Action Using Acceptance and Commitment Therapy 【邦訳: 熊野 宏昭・大月 友・土井 理美・嶋 大樹 (2020) ACTにおける価値とは クライアントの価値に基づく行動を支援するためのセラピストガイド 星和書店】

・ Jonas Ramnerö & Niklas Törneke (2008)The ABCs of HUMAN BEHAVIOR:BEHAVIORAL PRINCIPLES FOR THE PRACTICING CLINICIAN 【邦訳: 松見純子 (2009)臨床行動分析のABC 日本評論社】

・ Michael Neenan & Windy Dryden (2006) Cognitive Therapy in nutshell 【邦訳 監訳:大谷 彰 訳:玉井 仁 (2007)わかりやすい認知療法 二瓶社】

・ Niklas Törneke (2009) Learning RFT An Introduction to Relational Frame Theory and Its Clinical Application 【邦訳 監修:山本 淳一 監訳:武藤 崇・熊野 宏昭 (2013) 関係フレーム理論(RFT)をまなぶ 言語行動理論・ACT入門 星和書店】

・ Norah Johnson・Marilyn Frenn・Suzanne Feetham・Pippa Simpson (2011) Autism Spectrum Disorder: Parenting Stress, Family Functioning and Health-Related Quality of Life. Families, Systems, & Health Vol. 29, No. 3, 232–252

・ Russ Harris (2009)ACT Made Simple: An Easy-To-Read Primer on Acceptance and Commitment Therapy 【邦訳: 武藤 崇・岩渕 デボラ・本多 篤・寺田 久美子・川島 寛子 (2012)よくわかるACT アクセプタンス&コミットメント・セラピー 星和書店】

・ Steven C. Hayes・Kirk D. Strosahl・Kelly G. Wilson (2012) Acceptance and Commitment Therapy The Process and Practice of Mindful Change 【邦訳: 武藤 崇・三田村 仰・大月 友 (2014) アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)第2版 星和書店】

・ Shuvabrata Poddar・Sinha V. K・Mukherjee Urbi (2015)Acceptance and commitment therapy on parents of children and adolescents with autism spectrum disorders. International Journal of Educational and Psychological Researches Vol 1 July-September

・ 杉山 尚子 (2005) 行動分析学入門ーヒトの行動の思いがけない理由 集英社新書

・ 杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)行動分析学入門 産業図書