このブログページでは私の頭の中にずっと残っている、自閉症を表した梅津耕作の文章をご紹介しましょう。
昔からこの文章は一度、どこかで紹介したいと思っていました
不思議とずっと頭に残っていました、印象的
ブログも結構たくさん書いてきたので、今日はこういう趣向で行ってみます。
この文章は1975年、梅津 耕作によって書かれた本「自閉児の行動療法」冒頭の文章です。
長く引用します。
私は昔この文章を見たときに自閉症の症状を上手く表した内容だと思いました。
梅津耕作が表現した自閉症
『
彼は生まれつき可愛い貴公子のような赤ん坊だった。
いくつもの単語もしゃべりはじめていたのに、3歳前から急にしゃべらなくなった。
誕生日ごとの写真を並べてみると、表情もいきいきとしたはじめの2枚と、それ以後の正気のないよそ見をしているものとの差が歴然としている。
1晩通して眠ったことがなく、必ず夜間目覚めて激しく泣きさわぐ。
足腰の関節がおかしいのかも知れないと疑わせるような動き方で、整形外科医を受診したがなんともない、と。
笑い声、叫び声は理由が判らず、同時にまた薄気味悪い何かを感じる。
食事は大騒ぎだし、今だにスプーンさえうまく持てず、手づかみで口へ持っていく。
靴を逆にはいても平気、知らん顔。
いつまでも動きの乏しい赤ん坊のような子である。
そろそろ幼稚園なのに、ボタンどころかスナップもはめられない。
時々彼の名前を10回ほど呼んでみるが振り向きもしない。
親の愛情を伝えたいと思うのに、どうしても彼の心の奥までは届いていない。
聴覚は異常なしと言われたし、たしかにそっとクレラップを破いても、離れた場所から飛んでくる、それなのに名前を呼んでも反応がない。
スーパーマーケットへの往復で違う道を行こうとするとカンシャクをおこす。
肉親、とくに兄弟をさける。
家の中ではただウロウロするだけで遊びを知らない。
公園などで他家の子が近づいてくるだけで恐怖を示したり突きとばす。
この子の敏感さは単に自分自身のためにのみあるようで、周囲との関係では全く自分勝手である。
発達的進歩どころか段々閉じこもり後退している。
場所とか人間の見分けがつかないようだ。
(梅津 耕作, 1975)
』
梅津 耕作 (1975) はこの文章ののち「ここに書かれた特徴についてかなり思い当たることがあるとすれば、それは本書で対象としている患児かも知れないと疑ってみなければならない」と述べました。
1975年に発行された本書はもう今から約50年も前の本ですが、紹介した文章は自閉症の症状をよく表していると思います
本の時代背景もあって、今では少し不適切と捉えられる表現もあるようにも思いますが、原文をそのまま引用しました。
1980年代、東京で行われた研究
1985年にHIROSHI KURITAが東京都で行った研究のデータでは261人の自閉症児の子どものうち97人(37.2%)は、30ヶ月前に意味のある単語の明瞭性の完全な喪失を示したというデータがあります。
この研究は1975年1月から1980年12月までに東京の国立障がい児福祉財団の児童相談所に初めて来談したお子様の中から、乳児の自閉症を被験者として選択した研究です。
梅津 耕作 (1975) が「3歳前から急にしゃべらなくなった」とエピソードで紹介しているように、産まれてから言葉を話し出したのち、言葉を喪失するタイプの自閉症のお子さんもいるのですが、HIROSHI KURITA (1985) の研究はそのようなお子様に焦点が当てられています。
HIROSHI KURITA (1985) の研究は、研究に参加したお子様261人の自閉症児の子どものうち97人(37.2%)は言葉での要求やあいさつ、返事などの言葉があったにも関わらず、語彙を失い、少なくとも半年間はミュートの状態となったという結果です。
ミュートの状態になる前の子どもの状況としては、
・ 3人の子ども(3.1%)は2〜3語の文章を使用することができた
・ 91人の子供(93.8%)は単一の単語のみ使用できた
・ 7人の子ども(7.2%)は母親の報告ではかなり多くの言葉を話していた
※ 97人の人数に合いませんが、このように記載されています
またHIROSHI KURITA (1985) の研究では多くのお子様がミュートとなる前に言葉が少し少なくなることを感じるが、ミュート以前にはっきりとした異常が無いケースもあると述べられています。
HIROSHI KURITA (1985) の研究では97人中、31人の子ども(32.0%)は意味のある言葉を取り戻しました。
31人の子どものうち29人において、意味のある単語は発症後1年以上あとに再び出現したと述べられています。
子どもたちは両親と一緒に来談しているのですが、日本全国からの来談があったようです(3分の1は東京または近隣地域からの来談)。
この全国から人が来ていることから、私個人としては今から約35年前の日本には、やはり今よりも自閉症の専門機関はなかったのかな?と思いました。
現在はどうでしょう?
私は主に東京で活動をしていますが、各県に自閉症の専門機関は設置されているのでしょうか?
さいごに
また別で自閉症の罹患率などをまとめた「自閉症」の章を作成していこうと思っていますが、
このブログページから少し自閉症というものをイメージすることができるのではないでしょうか?
本ブログで紹介した引用だけ見れば少し自閉症に対してネガティブなイメージを持ってしまうかも知れないことを懸念しましたが、
ブログ内ではどのような療育が効果的か?そしてどういう方法があるのか?
についてたくさんのエビデンスやテクニックを書いてきました。
Norah Johnson・Marilyn Frenn・Suzanne Feetham・Pippa Simpson (2011) は自閉症児を持つ両親は健康関連のQOL(HRQL:Health-Related Quality of Life)に影響を与えるストレスを受けていると述べています。
Norah Johnson他 (2011) の研究以外でも自閉症児を持つ親御様がそうでないお子様を持つ親御様と比較して、より高い子育てストレスを抱えているという研究結果は検索で探すことができるでしょう。
だから私たちはお子様のためにも、そして親御様のためにもお子様に療育を行い、お子様の成長を感じて行く必要があるのです。
現在は幸いなことにたくさんの方からご依頼をいただき多忙な毎日を過ごしているため、すぐにお返事をすることはできないかもしれませんが、
Twitterなどからメッセージいただければお返事はお返しいたしますので、良かったらお気軽にご連絡ください。
「リカバリーできるよ」とまでは言えませんが、何かしら力になれると思いますよ。
【参考文献】
・ HIROSHI KURITA (1985) Infantile Autism with Speech Loss before the Age of Thirty Months. Journal of the American Academy of Child Psychiatry. No 24 , 2 p191-196
・ Norah Johnson・Marilyn Frenn・Suzanne Feetham・Pippa Simpson (2011)Autism Spectrum Disorder: Parenting Stress, Family Functioning and Health-Related Quality of Life. Families, Systems, & Health Vol. 29, No. 3, 232–252
・ 梅津 耕作 (1975) 自閉児の行動療法 有斐閣双書