先のABA:応用行動分析コラム第9弾「自閉症療育ー個別療育の方が良いの?それとも集団療育の方が良いの?ー児童発達支援の選択(https://en-tomo.com/2021/02/26/individual-or-group/)」
では「個別療育か集団療育か?」というテーマから良い療育先と出会って欲しいという内容を書きました。
このような記事を書いたこともあって、ABA:応用行動分析コラム第10弾では「信頼できる療育の専門家?」、「あなたにとっての良いセラピストとは?」という点について書いていきます。
以下の内容は私の個人的な意見となりますので、その点だけご了承いただき読んでいただければ幸いです
意見の違う方もいらっしゃると思いますのでそういった方はTwitterからご意見ください
このブログページでは、
・ 療育の専門家が提供するサービスの内容は全く同じものなのか?
・ 自分が話を聞いて納得ができるところ、話を聞きたい人
・ 一緒に平等の立場で頑張ってくれる
・ 家族全体を広い視野でバランス良く見てくれる
という内容について書いて行くこととします。
以上の内容から「信頼できる専門家?あなたにとっての良いセラピストとは?」を考えていきましょう。
自閉症療育の専門家が提供するサービスの内容は全く同じものなのか?
「自閉症療育の専門家が提供するサービスの内容は同じものなのか?」という問いがあるとすれば、答えは「No」です。
これが残念なことかどうかは置いておいて、
例えばファストフードのチェーン店やフランチャイズのレストランでしたら、A店舗でサービスを受けてもB店舗でサービスを受けてもサービスの内容は同じ(違いがあったとしても微妙で差を感じない程度)と言っても良いでしょう。
しかし自閉症療育のサービスは機関・事業所・専門家によって提供するサービス内容が変わってきます。
なぜならこれまでブログページでご紹介してきたABA療育だけでも複数の療育方法があるからです。
例えば同じABAでも「NBI(Naturalistic Behavioral Interventions:自然主義的行動療法)」で行うABAと
「DTT(離散型試行訓練:discrete trial teaching)」で行うABAでは微妙にやり方が異なってくるでしょう。
Katarzyna Chawarska・Ami Klin・Fred R .Volkmar (2008) はNBIについて(1)子どもによって開始され、子どもの興味に焦点化されている(2)機能的活動のなかに挿入され、埋め込まれている、(3)子どもがコミュニケートしようとする事柄にしたがって自然な強化報酬を用いるという3点の特徴を述べました。
対してDTTは指導者側が(1)弁別刺激を与え(2)正反応をプロンプトし条件的に強化するまでを1試行とし(3)1拍おいてすぐに次の弁別刺激を出し2試行目を教える、を次々に繰り返す循環的方法(参考 日本行動分析学会,2019)です。
太文字にしたところだけを見比べても例えばNBIでは子ども主導でセラピーが行われることに対し、DTTはセラピスト(大人)主導で行われるという違いがあることがわかります。
とはいえ実際はNBIとDTTに対しての私個人の認識としては、
「(ABA自閉症療育のエビデンス10)NBI(自然主義的行動療法)とDTTの対比(https://en-tomo.com/2020/06/04/dtt-nbi/)」で以下のように記載した
「NBIはDTTの要素を一切取り入れない」ことや「DTTはNBIの要素を一切取り入れない」ということはなく、あくまでどこを強調し意識しているかの違いであることも知っておこう。
「DTTで教える」、「NBIで教える」と方向性を決めたとき、どちらかを捨てて一方を選択する。というわけではなく、「どちらの色を濃くして教えていくか?」という判断であるということを知っておこう。少なくとも私はそう思っている。
上の内容のように、一方の方法だけを行うと言うわけではなく、もう一方の方法もケースバイケースで取り入れて教えて行くとは思います。
このようにABA自閉症療育という同じABAという分野の中にも色々な方法があるのです。
療育分野で支援を行う際、方法は何もABAだけではありません。
そのため自閉症療育の専門家が提供するサービスの内容が全く同じものかと言えばそんなことはないと言えるでしょう
自分が話を聞いて納得ができるところ、話を聞きたい人
上で書いてきたように自閉症療育にもいろいろな背景を持った専門家がいます。
例えば私は家庭療育推奨派ですが家庭療育を推奨しない専門家もいるでしょう。
具体的には「療育先ではなく、家ではお母さんとお勉強というわけではなく、充分に甘えさせてあげてください」という意見を言う専門家もいるかもしれません。
結果的には私とその専門家は全く逆のアドバイスを親御様に送るわけですね
既に複数の専門機関に通われている親御様はこのようなことを実際に体験したことがあるのではないでしょうか?
全く逆のアドバイス、とここまで極端でなくとも自閉症療育では専門家によって親御様へお伝えするアドバイスが多岐に渡ります。
本当にさまざまな意見があるので個人的にはやはり「自分が納得できる」専門家であることは大事かなと思います。
これから一緒に相談をして行くため、やはりこの人に相談したいと思えることは超えておきたいラインでしょう。
個人的に良いと思う関係性は、下のイラストのように共同作業で一緒に1つの方向を向き、タッグで療育に取り組んでいけることが理想的です。
このように考えると、専門家からアドバイスを受けても「本当にそうなのか?」と疑問を持ちながら療育に取り組み続けるのは微妙だと思います。
最初はそれでも良いと思いますが長くやって行く場合、共同タッグのパートナーとしては最適とは言えないかもしれません。
療育では専門家と数年間の付き合いになることは珍しくありません。
一緒に平等の立場で頑張ってくれる
「自分が話を聞いて納得ができるところ、話を聞きたい人」の項で書いてきたように私の思う理想の関係は、親御様と専門家が共同作業で一緒に1つの方向を向き、タッグを組んで療育に取り組んでいけることと書きましたが、それぞれがどういった役割があるのでしょうか?
個人的に思うのは、
専門家・・・療育方法の理論やテクニック、問題解決方法などの専門家
親御様・・・お子様のことを誰よりも知っている、お子様の専門家
が一番大きな役割の違いだと思います。
療育の専門家は療育方法の理論やテクニック、問題解決方法などを勉強して来た専門家です。
しかし残念ながら1つの方法が全ての自閉症児にフィットし効果を保証する方法は世界中のどこの国にも存在しないでしょう。
そうなってくると療育の専門家は自分の持っている知識やテクニック、問題解決方法などを活かしそれぞれのお子様や家庭の事情に合わせ、療育方法の理論やテクニック、問題解決方法などをチューニングして行く必要があります。
このとき療育の専門家は親御様に協力してもらい適切なチューニングを行っていくのです。
またチューニングだけでなく親御様からいただいたお話の中から新しい療育アイディアが生まれることもあります
そのため療育の専門家が知識やテクニック、問題解決方法などを提供する側であるべきと決めつけず、親御様と専門家が共同作業で一緒に1つの方向を向き、
時には役割交代をしながら、タッグを組んで療育に取り組んでいける関係を築いて行きたいものです。
家族全体を広い視野でバランス良く見てくれる
療育ではお子様のこと以外にいろいろなことを相談する機会がある可能性にも注目しましょう。
個人的に思うのは療育の専門家はお子さんの成長も大切に考えますが、そのときに家族全体のバランスも見ながら相談に乗ってくれることが理想的だと思います。
例えば普段からおばあちゃんの家にお子様が遊びに行くことが多かったとしましょう。
セラピストもそのようなエピソードをお母様から聞いていて、療育上もおばあちゃんの家に行くことは、おばあちゃんが密な関わりをしてくれるためお子様にとって良い影響を与えるイベントだったとします。
あるときお母様とおばあちゃんの関係が悪くなってしまったことで、お子様をおばあちゃんの家に連れて行くことが(例えば気持ちの面で)難しくなるかもしれません。
おばあちゃんはお子様に良い影響を与えてくれていた人物ですので、おばあちゃんの家に行けなくなったことはお子様にも関係することであり、このような相談もセラピストは受けることがあります。
「最近、おばちゃんの家に連れて行くのが気乗りしないんですよね・・・」
こういったお子様に関わるエピソードについて相談を受けたとき、必要とされればおばあちゃんとお母さんの関係改善などの相談に乗ることもあります
おばあちゃんとの関係改善はお子さんの成長にも繋がる可能性がありますからね
他にも、
「最近、私と夫で意見が合わずに悩むことが多くて・・・」
などの相談内容もあり得るでしょう。
このようにお子様に関わる家族構成員、例えばあなた自身のことも相談する可能性があるのですが、
個人的にはそういったとき、家族全体のバランスやあなたの調子も考慮してくれて、何がなんでも「お子さんのためにー」とならない専門家の方が個人的には良いのかな?と感じるところです。
そういった意味では基本的なカウンセリングスキルや問題解決スキル、簡単でも良いので抑うつや不安の知識を専門家が持っていることも安心できますね
さいごに
親御様は基本的にはお子さんと一生、人生を一緒に歩んでいくことになるでしょう。
専門家はある期間、お子様、親御様と関わることになります。
療育期間が一生ということはないと思いますので、いつか親御様・お子様と療育の専門家は別れが来るわけです。
別れというか、正確には今までのように定期的に会う・連絡を取り合うことはなくなるわけですね。
そうなったとき、例えば「将来的に困ったら、この人に相談したら安心だ」とか、そういったことを思える関係で終われることが私は最高だと思います。
過去、療育の専門家が一緒に頑張ったことがあるパートナーであった場合、療育の専門家はあなたの性格や趣向性も少しは把握していますから、その点も加味して困っていることの解決に取り組むことができるでしょう。
例えばそれが10年後、20年後でも・・・
以前に一緒に頑張っていたパートナーともう一回タッグを組み問題に取り組む、と言われればハリウッド映画の脚本のようですね。
このようなことも意識すると療育の専門家はいずれ自分が密にそのご家族様と関われる期間がいつか終了することも意識し、
日々の療育に取り組んでいく必要があると、
私自身ももっと意識しながら日々、ご家族様と関わりを行っていかなければなという気持ちになります
以上、自閉症療育、信頼できる療育の専門家?あなたにとっての良い療育セラピストとは?というテーマで書いて来ましたが、これは私個人の意見です。
みなさまの参考になれば嬉しいと思いますが、もしご意見がある場合はTwitterからご意見をください。
どうぞよろしくお願いいたします。
【参考文献】
・ Katarzyna Chawarska・Ami Klin・Fred R .Volkmar (2008) AUTISM SPECTRUM DISORDER IN INFANT AND TODDLERS:Diagnosis, Assessment, and Treatment 【邦訳: 竹内 謙彰・荒木 穂積 (2010) 乳幼児期の自閉症スペクトラム障害 診断・アセスメント・療育 クリエイツかもがわ】
・ 日本行動分析学会 (2019) 行動分析学辞典 丸善出版