ABA:応用行動分析コラム第9弾では「個別療育か、それとも集団療育か?」という点について2021年現在の私の考えを書いていきましょう。
今日は児童発達支援という福祉サービスでの「個別療育か、それとも集団療育か?」のお話をしていきます。
上の議題を考える上では、お子さんの年齢によっても意見が割れる問題かもしれません。
記事の内容はイメージする年齢として年少さんから年中さんをイメージしながら書いていきますので、それくらいの年齢帯のお子さんの記事だと思いながら読んでください。
年少さん、年中さんという年齢はこれから療育を初めてはじめるというご家族様が多く、
ご家族様にとって初めての療育先との出会いとなることが多い時期です
年少、年中という時期は未就学(小学校入学前)の時期であり、福祉サービスとしての療育先は2021年現在、児童発達支援というサービスがあります。
実際に私が関わる多くの幼児期のお子さんもタイトルにある「児童発達支援」という公的サービスを利用しているご家庭が多いです。
児童発達支援の事業所ではお子さんに公費で療育を提供してくれていますので、民間の療育先と比較するとお手軽な料金で療育を受けることが可能になります。
そのため現在は私のようなフリーランスの療育家に療育サービスを頼まなくとも公費によってサービスが受けられる時代となりました。
私が働き始めた頃はここまでの環境は揃っていませんでした
2021年現在、児童発達支援はざっくり分けると個別支援型と集団療育型に分けることができます。
個別支援型は基本的にはマンツーマンで療育が提供できるので1人1人に合わせたオーダーメイドのプログラムを組むことが可能ですが1セッション1時間前後と、療育時間が短く感じてしまうかもしれません。
対して集団療育型は個別支援型よりも長い時間の療育時間が提供されるものの、マンツーマンの療育ほどは個人に合わせてプログラムを個別化できないということがあります。
私個人としてはこのハイブリッド型の療育期間の噂も聞いたことがあり、そのようなハイブリッド型の療育先が見つかった人はラッキーだなぁだと思いますが、
そのような療育先はなかなか数も無いように思い、このような事情もあり2021年の現在「個別療育」か「集団療育」かを迷っている人もいるかもしれません。
「数が無い」というのは意味が2点あります。
1点目は地域にそのような事業所がないということがあるでしょう。
2点目は事業所規模によって1日の受け入れ定員人数が決まっています。
私が知っている限りではほとんどが1日の利用人数が上限10人で事業所を開設している場合が多いですので、そのような事業所が近くにあったとしても既に定員がいっぱいで通うことが難しいといったパターンもあるでしょう。
このような理由から、お住まいの地域によっては「ハイブリッド型」が選択できない以前に「個別療育」も「集団療育」も選択できない。
既に定員がいっぱいでどこを尋ねても待機になってしまうということや、1箇所しか空いておらずそこしか選択できないということもあると思います。
話を戻して、
もし今「個別療育の方が良いの?それとも集団療育の方が良いの?」と迷っている
今後「個別療育の方が良いの?それとも集団療育の方が良いの?」と迷うかもしれない
昔「個別療育の方が良いの?それとも集団療育の方が良いの?」と迷っていた
という方へ向け私が考える「個別療育か、それとも集団療育か?」という考察をこのブログページでは書いていきます。
最初は「個別療育」、「集団療育」それぞれの強みについて考察していき、その後二つを比較した内容で考察していきましょう。
今回、児童発達支援ということもキーワードに書いていきますが、民間の療育期間を選択する際にも参考になると思います。
基本的な内容かと思いますので、読んでみて「そりゃ、そうだろ」と思ってしまうかもしれませんが、ご参考になれば幸いです。
注釈として今回書いて行く「個別療育、集団療育」についての意見は「あくまで私が考える」という点を強調させてください。
読み進めてもらえればわかりますが私個人は「個別療育が良い」、「集団療育が良い」という一方的な立場を取っていません
私はどちらが良いかはお子さんのシチュエーションによってケースバイケースであると思っています
また特定のことをお子さんに教えようと思ったとき、個別、集団の一方でしか教えたいことの達成が可能ということもないと思います。
個人的な意見でどういったシチュエーションだとどっちが良いと思っているか?ということは記載していきますのが、「それは違うよ」という意見もあるかもしれませんが一考察として参考にしていただければ幸いです。
Twitterからご意見をいただいても大丈夫ですので、どうぞよろしくお願いいたします。
自閉症療育ー個別療育の強み
個別療育の強みは療育時間中、お子さん1人に対して1人の先生が付くことによる手厚さと、加えて1人1人に合わせたオーダーメイドプログラムが組めるという点でしょう。
自閉症のお子さんといってもさまざまで十人十色です。
お友達とお話しするのが得意じゃないお子さん、お友達とお話しすることは得意だけれども情緒が安定しないお子さん、お友達にあまり興味を持っていないように見えるお子さんや、お友達と関わりたい気持ちが強いのだけれども話が一方的で上手く関われないお子さん、
このような十人十色のさまざまな個性に対して「自閉症スペクトラム」という1つのラベルが貼られています。
このような現状があるため支援の内容は多岐に渡るだけでなく、お子さんそれぞれの発達レベルに合わせた課題設定が必要です。
このように考えたとき、1人のお子さんに対してオーダーメイドのプログラムでマンツーマンで手厚く療育指導をしてくれるということは個別支援最大の魅力でしょう。
また1人の先生(もしくは数人の先生)で継続的にお子さんを見てくれる場合があります。
この場合、療育期間が経過すれば経過するほど、支援する側もお子さんやご家族様への理解が集団療育と比較してより深まって行くことも一つの魅力でしょう。
個別支援の場合、集団療育ほど、送迎サービス(家や決まった場所まで施設側が迎えにきてくれる)を行なっていない施設も多いかもしれませんが、その分親御様と支援者がしっかりとお話をする時間があります。
このような時間を通して日々の生活の中でお困りごとへの療育相談や、今成長して欲しい点など様々なことを共有できることも強みと言えるでしょう。
しっかりとオーダーメイドプログラムが組めること、
協力関係を持てる密な専門家との関係性が強み
自閉症療育ー集団療育の強み
個別療育と比較して療育時間が長いことが多いと思います。また療育時間が長く集団でお子さんを預かるため、車などで送迎サービス(家や決まった場所まで施設側が迎えにきてくれる)を行なってくれることもあるでしょう。
集団療育最大の強みは、お子さんが環境から受ける刺激が多いことです。
たくさんのお友達が周りにいるため活動中に受ける刺激の量は個別療育よりも多くなります。
お友達と一緒に過ごすことで「好きなお友達ができた」や「すごいと思うお友達ができた」などお友達に対しての意識の変化や、
「お友達と喧嘩をしたけれど仲直りした」や「苦手なお友達に頑張って話しかけることができた」などの対人関係上の成功経験を積むことが可能です。
集団生活でのお友達との関わりの中で大人がサポートし成功経験を積むことができる可能性を上げてくれます。
また個別療育では「対大人」での療育がメインとなりますが、集団療育では活動を通して子供同士の良好な関わり、多くの集団療育を扱う事業所では「対子供」が重視されることも特徴的です。
これはABA自閉症療育でいうところの「スキルの般化設定」のところで直接「対子供」でトレーニングを積むことができ、非常に有効なこととなります。
またイベントごとや年間行事などが組み込まれていることも個別療育と比較すると多いように感じます。
そのため1年を通す中でさまざまな活動を体験することができるでしょう。
環境から受ける刺激が多い、
ABA自閉症療育で問題となる般化設定をあまり考慮しなくて良い
注意点
個別療育の紹介の際「オーダーメイドのプログラム」と記載したため、集団療育は「オーダーメイドではない」と思われたかもしれません。
ここに関しては個別療育の方がオーダーメイドにプログラムをカスタマイズできる割合が多いというイメージで捉えてもらえれば良いでしょう。
個別療育でも集団療育でも「個別支援計画」というお子さんそれぞれに合わせた療育目標が立てられます。
個別療育の方が1回1回のプログラムがオーダーメイドである、ということが伝えたかった内容で、決して集団療育はオーダーメイドで1人1人に合わせないというわけではなりません。
自閉症療育ー個別療育の方が良いのか?集団療育の方が良いのか?
以上2021年に私が考えている「個別療育」と「集団療育」のメリットを並べてみました。
それぞれのメリットが一方のデメリットとなるような関係性ではありましたが、いかがだったでしょうか?
最初に書いたように個人的にはどちらが自分のお子さんに合うのか?
を考えるとき全員に対して「絶対にこっち」ということはなく、
お子さんのシチュエーションによってケースバイケースであると考えています
ここまで書いてきた内容をベースとしていくつか例を出していきましょう。
自閉症療育の特徴として日々起こる問題行動への対応に加えて、発達に遅れがみられる場合は発達を促進する課題を並行して行なっていく必要があるということがあります。
「うつ病」「不安障がい」「恐怖症」「パニック障がい」「強迫性障がい」など大人を対象とした支援の場合は、対象となる多くのクライアント様に発達・言葉の遅れがみられるということはありませんので、それぞれのコアとなるところに言語を使ったカウンセリングやセラピーを行なっていくことで解決を目指すことが多いです
これはいわば自閉症療育でいうところの「日々起こる問題行動への対応」にあたる部分をメインに焦点をあてれば良いということなのですが、
自閉症療育では「日々起こる問題行動」と同じくらい「発達を促進する課題」も重視して行なって行く必要があるでしょう。
自閉症療育ー個別療育の方が良いパターン
発達の遅れの症状の1つとして「模倣が極端に少ない、できない」ことや「ジョイントアテンションが少ない、ない」、「異常に自己刺激行動が多い」という状態があります。
「模倣が極端に少ない、できない」・・・周りの人の行動をまねすることが少ない、できない
「ジョイントアテンションが少ない、ない」・・・人が注目したものに同じように注目できない
「異常に自己刺激行動が多い」・・・周囲の刺激に反応することが少なく、1人で手を叩いているなどの時間がほとんどである
このような状態の場合は集団療育に通ったとしても周囲からの刺激を充分に受けることが難しいかもしれません。
集団療育に行っても個人的な活動に従事する時間がほとんどでその場にいるだけ、となってしまっては限りある療育時間がもったいないです。
まずは丁寧なマンツーマンの関わりを通して「模倣」や「目合わせ」、「適切な遊びや課題従事する時間」を増やして行くことが大切なように思います。
また指示が全く理解できないという状態もまだ集団に入るのはまだ早く適していないかもしれません。
音声の指示やジェスチャーを使った指示の理解が乏しく集団活動に全く従事することが難しい場合、個別療育でまずは指示の理解を伸ばす方が良いと思います。
例えばRobert L. Koegel・Arnold Rincover・Andrew L. Egel (1982) は1対1で教えられた行動がグループの中でも発揮できるかどうかを評価するために、子どもと先生の比率を1対1、2対1、8対1と変えて行くことをテストしました。
Robert L. Koegel他 (1982) のテストしたここまでの療育環境を整えることは至難の技ですが、このようにお子さんによっては最初1対1からはじめ、丁寧に徐々に人数比率を変えて行く療育が選択できればベストだなと個人的に思います。
このような療育環境が整えられるよう私個人も動いて行きたいなと思っていることも
今こうしてブログを書いて活動している1つの理由なのです
お子さんによっては最初は1対1での丁寧な関わりの時間を必要とするお子さんがいます
また他に特定の「日々起こる問題行動」に悩んでいる場合も個別療育がフィットする可能性が高いかもしれません。
例えば園にお子さんにちょっかいをかけてくるお子さんがいて心がまいっている場合や、家で弟のことを叩いて困っている場合、人に対して一方的に話を続けてしまう場合などがそれにあたります。
特定の問題に時間を取って取り組めるため、例えば、
「(ABA自閉症療育の基礎70)言葉の遅れの少ないお子さんへの適正行動増・問題行動減の療育支援ホームワーク(面接・SST・行動契約)(https://en-tomo.com/2021/01/03/hf-homework-setting/)」
「(ABA自閉症療育の基礎71)SST(Social Skill Training:社会的スキル訓練)のコツ、失敗しない配慮とケースバイケースの分岐パターン(https://en-tomo.com/2021/01/09/social-skill-training-point/)」
「(ABA自閉症療育の基礎72)SST(Social Skill Training:社会的スキル訓練)の具体的な手続きモデル提示・練習とフィードバック・日常場面への般化推奨(https://en-tomo.com/2021/01/10/social-skill-training-point2/)」
で紹介したその子の事情にあったトレーニングをピンポイントに組むことが可能です。
「個別療育」の中でホームワークを設定しピンポイントに課題を解決して行くことができるでしょう。
特定の場面や特定のスキルで困っている場合に力を発揮します。
自閉症療育ー集団療育の方が良いパターン
対して集団療育は発達に大きな遅れが少ないお子さんで人と関わる自信があまり持てていないことが心配であったり、全体の指示に従うことに少し遅れてしまうようなお子さん、少し怒りっぽいことが原因で日常生活でお友達と上手くやれていないお子さんなどのケースで力を発揮するでしょう。
集団療育の強みはお友達と関わる時間を日常の中に多く組み込めることと、そのお友達と関わる時間に大人のサポートがつくという点です。
お子さんがお友達や仲間に対して良質の経験(学習)を積むことができる場が集団療育でしょう。
例えば集団の中で生活をしているとお友達との衝突があります。
大人のサポートがなければなかなかそのような衝突場面で成功体験を積むことが難しいお子さんも、衝突があったときに大人が仲介に入り、お互いが納得する形で場を収めることができれば、
お子さんは衝突があったときにどのようにすれば良いのかの良い学習機会を持つことができるでしょう。
また大人だけではなく同年齢のお子さんが周囲にいることで、模倣が促進されることが強みです。
実森 正子・中島 定彦 (2000) を参考にすれば、モデル個体の行動を観察した結果、モデル個体と同じ行動することを模倣と呼びます。
このような観察が生じやすい集団という中に大人のサポート体制が加わり、そのことによって良いモデルが頻繁に生じる集団が形成されているとそのグループ内で過ごすことがお子さんにとってかなり良い経験になるでしょう。
このように考えると模倣する力が(少なくともちょっとは)あり、ジョイントアテンションも生活の中で見られ、自己刺激行動に従事することは少ないものの、周囲のお子さんに対しての興味関心が薄くあまり日常生活の中でお友達と馴染むことができていないといったケースでも集団療育は有効と言えそうです。
大人がお友達への関わりを本人がやりやすいような方法で促進するため、本人も無理なく集団活動の経験を積むことができるでしょう。
設定された活動はお子さんが「楽しい」と感じられるように設定されているので、参加さえして仕舞えば楽しかった = 「お友達と一緒に活動することは楽しい」という経験を積むことができるのは大きな経験です。
さいごに
このブログページでは児童発達支援という日本に現在あるサービスについて「個別療育」と「集団療育」の切り口から、それぞれを紹介し個人的に思う、どっちにはどういうお子さんが向いているのだろうか?
ということについて書いてきました。
このブログページでは「年少、年中」のお子さんを想定して書いてきましたが、冒頭書いたように年少さん、年中さんという年齢は、これから療育を初めてはじめるというご家族様が多く、ご家族様にとって初めての療育先との出会いとなることが多い時期です。
初めてである療育施設は良質なところであり、皆様にとって頼りになる専門家と出会える機関であることを願っています。
【参考文献】
・ 実森 正子・中島 定彦 (2000) 学習の心理 第2版 サイエンス社
・ Robert L. Koegel・Arnold Rincover・Andrew L. Egel (1982) Educating and Understanding Autistic Children 【監訳: 高木 俊一郎・佐久間 徹 (1985)新しい自閉症児教育ーその理解と指導ー 岩崎学術出版社】