「(ABA自閉症療育の基礎76)子どもと親の相互作用ー支援者側もお子さんからの影響を受け、強化され、消去され・・・(https://en-tomo.com/2021/02/07/child-parent-interaction/)」
のページでは行動を変化させようと療育をしている親側が、実はお子さんの行動変化により、実は親御様側の方がお子さん側から強化を受け、療育行動が強化される
という内容を書きました。
上のブログページではそのためにしっかりとお子さんの行動変化(成長)を結果として受け、親御様の療育行動が強化される良い循環にハマって行くことの重要性を書いたのですが、
このブログページでは逆に、
お子さんの行動変化に親御様が強化され、問題行動が発展し悪化するプロセスについて書いていきます。
自閉症児の問題行動とは?
まず最初に「問題行動」とは何かということを簡単に考えてみましょう。
私は問題行動について、
「お子さん本人、もしくは周囲の人、または両方が困っている行動」であると考えています。
そう考えれば、ある人にとって問題行動であることは、別のある人にとっては問題にはならない、ということも起こってくるでしょう。
例えば同じ行動でも人・状況によって問題行動と捉えられる場合と問題行動と捉えられない場合があるという意味で曖昧な定義ではありますが、これは自閉症療育だけでなくほとんどの精神疾患に当てはまることだと言えると考えています。
お子さん本人が困っている問題行動は例えば「母親から着替えることを指示され、その期待に答えたいにもかかわらず、お着替えが上手くできなくてイライラする」、「お友達と仲良く遊びたいのに、緊張して上手く話しかけられない」場合などでしょう。
お子さん本人が「上手くやりたい」と思っているのにできていない状態です。
どのようにすれば良いか教えて行くことが大切となってきます。
対して問題行動と捉えられるものにはお子さんが困っていなくて、周囲の大人やお友達が困っている行動は?
例えば「欲しいおもちゃをお友達の許可なく取る」、「先生が絵本を読んでいるときに部屋から出て行く」場合などが考えられるでしょう。
でも周りが困っていてもお子さんから見ると理にかなった行動であることも・・・
「欲しいおもちゃをお友達の許可なく取る」はお子さんからすれば、許可を取るよりも即時におもちゃ(強化子)が手に入るため、強化子を手に入れるという意味だけで考えれば、お子さんから見ると合理的で優秀な行動かもしれません。
また「先生が絵本を読んでいるときに部屋から出て行く」についても、お子さんがつまらないなとかわからないなと思っているときに外に出ればもっと刺激的な楽しい時間が過ごせるのであればお子さんにとっては機能的な行動かもしれません。
このように特に周囲の人が困る場合は「社会的に不適切と捉えられる行動」であることが多いです。
このブログページで主に紹介して行く「子どもと親の相互作用ー問題行動が発展し悪化するプロセス」はこの周囲の人が困るパターンについて解説をしていきましょう
周囲・自分が困る問題行動のパターンは上でオレンジ色の枠で示した不適切な行動以外にも「型が悪い」ときにも生じます。
例えば「貸して」とお友達にお願いすることは字面は適切な社会的行動ですが、その言い方が強い口調で睨みを効かして「貸して」というものであった場合、型が悪く社会的に適切な行動とは言えません。
またJonas Ramnerö & Niklas Törneke (2008)を参考にすれば行動が問題だと考えられるときその行動が「過剰」であったり「不足」であった場合も問題行動と捉えられます。
「(ABA自閉症療育の基礎36)オペラント条件付けー弁別刺激の確立、エピソード(https://en-tomo.com/2020/09/06/aba-operant-stimulus-control-episode/)」
でおじいちゃんにあいさつを褒められた男の子がおじいちゃんと歩いている道の途中すれ違う人全員にあいさつをするエピソードを書きましたが、適切な行動であってもそれが過剰であれば問題行動とみなされるでしょう。
人が自発的に行動する意味
それが問題行動であろうと、適切な社会的な行動であろうと、自発的に行われている行動は何らかの結果によって強化されているとABAでは考えます。
このことは大切なことですので知っておきましょう。
行動の意味(機能)を知る研究として有名なものとしては、
例えばBrian A. Iwata・Gary M. Pace・Michael F. Dorsey・Jennifer R. Zarcone・ Timothy R. Vollmer・Richard G. Smith・Teresa A. Rodgers・Dorothea C. Lerman・Bridget A. Shore・Jodi L. Mazaleski, Han-Leong Goh・Glynnis Edwards Cowdery・Michael J. Kalsher・Kay C. Mccosh・Kimberly D. Willis (1994)があります。
Brian A. Iwata他 (1994) は152の自傷行為を行う人たちの事例から自傷行為の意味(機能)を分析した研究を行ったのですが、
自らを傷つける自傷行為でさえ本人たちにとって何らかの意味を持っていました。
Brian A. Iwata他 (1994)の研究では結果、
・ ネガティブな事象からの回避(escape)が58例(38.1パーセント)
・ ポジティブな注目やアイテムを獲得するため(access to attention/food or materials)が40例(26.3パーセント)
・ 自動強化(automatic (sensory) reinforcement accounted )が39例(25.7パーセント)
・ 複数の意味を持つが8例(5.3パーセント)
・ 不明が7例(4.6パーセント)
自傷行為は以上の意味を持っていたことが示され、実は周りの人が理解できなかった自傷行為も、ほとんどの人が意味を持って行なっていたことが示されています。
「複数の意味を持つが8例(5.3パーセント)」には注目してください。
これは同じお子さんの同じ形の自傷行為であってもシーンによっては意味が違うことを示しています。
例えばBrian A. Iwata・Timothy R. Vollmer・Jennifer R. Zarcone (1990) は行動レパートリーが制限されている子どもは、社会的に消去されたときは手を噛むことで注意を引こうとするが、訓練活動中に手を噛むことは逃避反応として維持されている可能性があると述べています。
1人のお子さんが同じ行動を、場面によっては別の意味を持って使用するのです。
これはちょっとしたポイントで、
例えば「癇癪」を起こすお子さんがいて「この子は寂しくなったときに癇癪を起こすのよ」と理解していたとしましょう
でもこのお子さんは実は同じ形の癇癪を「勉強をやりたくない(逃避)」ときにも行っていたとしたら・・・
そのときに「寂しいのかしら?」と解釈してしまうとお子さんの逃避行動を強化してしまうかもしれません
行動の意味(機能)を知る研究で他にもV. Mark Durand and Daniel B. Crimmins (1988) は自閉症児への自傷行為の研究で「Motivation Assessment Scale :動機付け評価尺度(MAS)」を開発しています。
「MAS」はお子さんの自傷行為の機能(意味)について、
「注意引き(Attention)」
「要求行動(Tangible) ※事物獲得行動とも呼ばれる」
「逃避・回避行動(Escape)」
「感覚刺激行動(Sensory) ※自己強化、感覚強化とも呼ばれる」
のどれにあたるか?を測るためのアンケートです。
療育を仕事にしている人は一度は聞いたことがあるかもしれませんが、人が行動をする意味をざっくり4つに分けるとすれば上記の4つに分類できます。
あくまでざっくりと、なのでこの4つに分ける=介入・支援方略が立つというわけではありませんが、この項では人が行う行動には意味があるんだよ!ということが伝われば幸いです。
この機能分類アセスメントの簡単な入門・解説書としてオススメなのはJames E. Carry・David A. Wilder (1998)Function Assessment and Intervention 【邦訳: 園山 繁樹 (2002)】。
この本は50ページ以下で且つ値段も1000円以下とかなり読みやすいでしょう
お子さんの問題行動を正と負に分類する
さて、前置きも長くなってしまいましたがここから本題に入っていきましょう。
上で書きましたが、このブログページでは「周囲の人が困っている行動」の問題行動パターンが、お子さんと親御様の相互作用(お互いに影響を与え合う関わり)を通して発展し、悪化するプロセスについて解説していきます。
お子さんが問題行動を起こす機能が「注意引き」なのか「要求行動」なのか、「逃避・回避行動」なのか、「感覚刺激行動」なのか?
色々なパターンが考えられますが基本的には
正の強化によって生じている問題行動か?
負の強化によって生じている問題行動か?
のざっくりと2つのパターンに分けて考えることができるるでしょう。
「正の強化」、「負の強化」については、
「(ABA自閉症療育の基礎20)オペラント条件付けー正の強化と負の強化(https://en-tomo.com/2020/08/15/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement1/)」
詳しくは↑をご参照いただければと思います
正の強化と負の強化の2パターンから機能を簡単に書けば、
正の強化によって生じている問題行動=注意引き、要求行動、感覚刺激行動
負の強化によって生じている問題行動=逃避・回避行動、感覚刺激行動
と考えてもらって問題ないと思います。
お子さんの問題行動が上の2つのどちらの随伴性によって生じているのか、ということはその後の介入方略にも関わってくることですので、とても大切です。
とはいえ、問題行動が発展し悪化するプロセスについては基本的には一緒ですので以下見ていきましょう。
一応、正の強化と負の強化の両パターンでの問題行動の発展、悪化プロセスについて解説していきます。
正の強化によって生じている問題行動ー基本形
親御様がお子さんと電車に乗っているとします。お子さんの年齢は3歳くらいを想定してください。少し言葉の遅れもあり、なかなか自分の伝えたいことを言葉で親御様に伝えることが難しい、そのようなお子さんです。
お子さんと一緒に電車に乗っているとき、お母様は主にスマートフォンで自分のお気に入りの記事を見ていることが多かったとします
最近のお母様の悩み事は「電車で突然、お子さんが大きな声でわっわっわ」と声を出すことでした。
お母様からすると一斉に周りの乗客の注目も浴びるため、スマートフォンを見るのを辞めて「静かにしなさい」とお子さんに言ったり、気を逸らすためにスマートフォンをお子さんに渡してYoutubeを見させることを繰り返していました。
以上のようなエピソードから、どのようなことが生じている可能性があるでしょうか?
上のエピソードのように「突然」、親御様からの関わりがないのに問題行動が出現する場合は基本的には「正の強化」による行動である場合が特に幼児では多いです。
お子さんはもしかすると「母親からの関わり(注意引き)」か「Youtube(要求行動)」の意味を持って「大きな声でわっわっわと声を出す」行動をしているのかもしれません。
お母様はそれに対してしっかりと強化子(関わりやYoutube)をお子さんに提示していますので、お子さんの「大きな声でわっわっわと声を出す」行動は強化され今後増えて行く、維持する可能性があります。
でも、周りの目もあるから仕方ないじゃない!
と思うかもしれませんが、このパターンを続けていても問題行動が減って行くことは望み薄です
負の強化によって生じている問題行動ー基本形
続いて負の強化によって生じている問題行動をみていきましょう。
続いて負の強化によって生じている問題行動をみて行く前に「正の強化」と「負の強化」を見分けるポイントを解説させてください。
「突然」、親御様からの関わりがないのに問題行動が出現する場合は基本的には「正の強化」による行動である場合が特に幼児では多いですと書きましたが、「負の強化」の場合はどうでしょうか?
「負の強化」の場合、親御様が関わりを持っている中で問題行動が生じることが多いです。
このことの理由なのですが、例えば坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) は
環境に何かを付け加えることによる環境の変化を「提示型」
環境から何かを取り去ることによる環境の変化を「除去型」
と呼んでいるのですが、
「提示型」 = 正の強化
「除去型」 = 負の強化
となります。
行動の前に何かなくても、行動することによって何か出現した場合が「提示型の正の強化」、行動の前に何かあって行動することによって減少した場合が「除去型の負の強化」となりますのでこのロジックから、
関わりがない(行動の前に特段何もない)ときに生じる問題行動は正の強化
関わりがある(行動の前に関わりがある)ときに生じる問題行動は負の強化
が成り立ち、
絶対にそう!とまでの精度ではないですが、ざっくり可能性を絞るときに私は以上のように考えるところからアセスメントを構成することが多いです。
このような理由で「電車の中で関わりがないのに突然」という先程の事例は正の強化である可能性が高いと言えます。
前置きはここまでとし、ここからが負の強化による問題行動の解説です。
負の強化による問題行動の解説としてまた年齢は3歳くらいを想定してください。少し言葉の遅れもあり、なかなか自分の伝えたいことを言葉で親御様に伝えることが難しい、そのようなお子さんを想定してください。
お子さんの食事中スプーンを口元に持っていって食べさせていたのですが、お友達のママ友からお子さんに自分で食事を食べさせたほうが良いよと言われて、その日からスプーンを自分で使って食べるようお子さんに伝えることを決意しました
するとお子さんは食事を食べる行動を起こさず、心配して強く促すと机の上の食べ物をひっくり返して抵抗してくるのでした。
お母様からすると健康面の心配と、その後の片付けのことを考えると億劫になり、やはりお子さんの口元にお母様が食事をすくったスプーンを持っていき食事を取らせることを繰り返していました。
以上のようなエピソードからどのようなことが生じている可能性があるでしょうか?
お子さんはもしかすると「食事を自分で食べることを拒否する(逃避・回避)」の意味を持って「食べない・食べ物をひっくり返す」行動をしているのかもしれません。
お母様はそれに対してしっかりと強化子(事をすくったスプーンを口元に持って行く)をお子さんに行なってていますので、お子さんが自分で食べなければいけないという状況が除去され、お子さんの行動は強化され今後増えて行く、維持する可能性があります。
このような今ある状況(自分1人で食事を取る)を終了させることを目的とした行動は負の強化です。
でも、食べないから仕方ないじゃない!と思うかもしれませんが、このパターンを続けていても問題行動が減って行くことは望み薄でしょう
問題行動が発展し悪化するプロセス
以上の基本形では、問題行動が強化され増加・維持していくプロセスについての「なぜ」について答えてきました。
ここからは「悪化」、それも「増える」ではなく「強度が増し、変化する」プロセスを書いていきます。
キーワードは「消去バースト」です。
消去バーストとはRaymond .G .Miltenberger (2001)を参考にすれば消去手続きに伴って生じる、
・ 頻度の増大
・ 維持時間の増大
・ 強度の増大
・ 新しい行動が一時的に起きることがある(一時的な行動変容)
という反応になります。
「消去」とは
「行動」に伴う(行動を増加させる)「強化子」を撤去することによる行動減少・消失が起こる現象
のことです。
この現象をABA療育に応用して使用する場合は「消去手続き」というのですが、これが問題行動の発展や悪化にどのように関わっているのでしょうか?
「消去バースト」は「ABA療育に応用して使用する場合は」と記載しているように狙っていなくても日常の中で起こる可能性のある現象です。
先程の「電車で突然、お子さんが大きな声でわっわっわ」と声を出すお子さんの話から考えてみましょう。
お母様はお子さんが電車で声を出す行動が電車に乗るたびに続くので、基本的に電車に乗ったときはお子さんにYoutubeを見せるということで対応をしていました。
いつも無音で動画を視聴していたのですが、あるときお子さんが音量ボタンを見つけ、電車内でも音量を出して動画を視聴するようになってしまったと想定してください。
お母様からしたら困ったもので、Youtubeを見せないと声を出すし、Youtubeを見せても大きな音を出してしまうので周りの乗客の注目を嫌な意味で集めてしまいます。
困ったお母様はYoutubeの動画を渡すものの、音を出し始めるとスマートフォンを没収するということを行いました。
すると・・・
お子さんはまた「大きな声でわっわっわと声を出す」行動を行います。
どうして良いかわからなくなったお母様は、一番端の車両に乗り込んだり、空いている時間を狙って電車に乗るなどしてお子さんが「大きな声でわっわっわと声を出す」行動を起こしても周囲の乗客からの注目をできるだけ浴びないよう工夫し、
お子さんが「大きな声でわっわっわと声を出す」行動を行っても基本的にはスマートフォンは渡さない・Youtubeは見せないという行動を取るようにしました。
お子さんから見たときスマートフォンを渡さないという対応は「消去手続き」が導入された可能性があります。
問題行動を維持させる間欠強化スケジュール
問題行動の発展、悪化とは少しズレますがここで一つ問題行動が長期化する要因について解説しておきます
お母様は以上のような対応を続けていました。
番端の車両に乗り込んだり、空いている時間を狙って電車に乗るなどし周りの目があまり気にならないように工夫しています。
たまに何かのイベントがある日や家を出るのが遅れて人が比較的多く乗っている時間帯に電車に乗ってしまった日、お母様は「今日は声を出さないで!」と祈りながら電車に乗っているのですが、
やはりお子さんが「大きな声でわっわっわと声を出す」行動を起こすのでYoutubeを見せ、音を出したら音を小さくして、、、周りからの視線は気にしないよう努めることを繰り返し、なんとかやり過ごしていました。
たまにあるこのようなイレギュラーな日は、お子さんの要求を充分に満たさないよう注意をしながらも、スマートフォンを渡します。
このような「たまに」行動を強化してしまうことは「間欠強化」と言うのいですが、たまに行動を強化してしまう間欠強化は、
間欠強化=問題行動の消去を遅れさせ、問題行動を結果的に長く維持させてしまう
という結果を招いてしまうのです。
間欠強化は直接的な問題行動が発展し悪化するプロセスというよりは、問題行動が長引いてしまう要因となってしまうでしょう。
本題からはずれましたがこのような問題行動が長引いてしまう一因についても覚えておく必要があります。
※詳しくは「(ABA自閉症療育の基礎23)オペラント条件付けー強化スケジュール(https://en-tomo.com/2020/08/18/aba-operant-reinforcement-schedule/)」
問題行動が発展し悪化するプロセスー消去バースト
本題に戻ります。
以上の間欠強化は問題行動が長引く要因として働くのですが、話を戻して問題行動が発展し悪化するプロセスは?
お母様が一番端の車両に乗り込んだり、空いている時間を狙って電車に乗るなどしてお子さんが「大きな声でわっわっわと声を出す」行動を起こしても周囲の乗客からの注目をできるだけ浴びないよう工夫をするようになって、
だんだんと状況にも慣れてきたこともあって、電車でお子さんが「大きな声でわっわっわと声を出す」行動をしても、お母様も前ほどは気になることがなくなり、スマートフォンは渡さない、Youtubeを見せないという対応があまり気疲れせずできるようになってきました。
お母様もこれで一旦、ひと段落という気持ちです。
お母様は今日もお子さんと電車に乗りました
いつもと同じ何気ない日常のように思っていたのですが・・・
実はこの日、朝からいろいろと活動をしていたため、お子さんが電車に乗るまでにスマートフォンを扱う時間がかなり少なかった(お子さんがスマートフォンに対して遮断化がかかっていた)ということがあったのですが、
そのようなことは特にお母様は意識していませんし、気がついていませんでした。
忘れてはいけないことは、お子さんから見たときスマートフォンを渡さないというお母様の行動は、お子さんへの「消去手続き」の導入がなされた可能性があります。
そのためお子さんは(お母さんは狙ってはいないものの・・・)消去手続きが導入されたことにより、消去バーストを起こす可能性があるということです。
以下、消去バーストがどのように生じて行くのかも注目してください
( )内が消去バーストの解説です
この日もお子さんは「大きな声でわっわっわと声を出す」行動を起こしても強化子が手に入らないので、その日はもっと大きな声で声を出すことを試みました(消去バースト:行動強度の増加)。
お母様も気になったのですが、今日もスマートフォンは渡さないでおこうと心に決めています。
お子さんはいつもよりも多く、長く声を出し続けます(消去バースト:行動頻度・時間の増加)。
するとお子さんはあるとき電車の窓を叩く行動を始めました(消去バースト:一時的な行動変容)。
それをお母様も最初はただ観察していたのですが、窓を叩く行動はどんどん強く(消去バースト:行動強度の増加)なっていっていきます。
お母様が気が気ではない中、スマートフォンは渡さない・見せないという対応を続けていると、
お子さんは靴を脱いで投げる・投げた靴を拾いに立ち上がったときにそのまま他の少ないものの離れたところに座っている乗客に向かって走って行くということを始めます(消去バースト:一時的な行動変容)。
お母様はとうとうスマートフォンは渡さない・見せないという対応を続けることができなくなり、このタイミングでお子さんにスマートフォンを渡してしまいます(問題行動がシェイピングされた)。
「問題行動がシェイピングされた」と記載しましたがこれは、お子さんがスマートフォンを貸して欲しいときの要求行動が、よりスマートフォンを借りることができる行動へと試行錯誤を通して強化されたことを示します。
簡単に言えば、問題行動が発展し悪化するプロセスにハマってしまった
このようにシェイピングされてしまうとどうなるでしょうか?
答えは今後、お子さんはスマートフォンを借りたいと思ったときに靴を脱いで投げる、離れたところに座っている乗客に向かって走って行くという行動を取りやすくなるのです。
もし、お子さんが普段よりも大きな声を出した段階でスマートフォンを渡していたら?ー答えは、普段よりも大きな声で要求するように学習します。
もし、お子さんがいつもよりも多く、長く声を出した段階でスマートフォンを渡していたら?ー答えは普段よりも多く、長く声を出して要求するように学習します。
もし、お子さんが窓を叩いた段階でスマートフォンを渡していたら?ー答えは、窓を叩くことで要求するように学習します。
上で紹介した他の例、
お子さんの食事中スプーンを口元に持っていって食べさせていたのですが、お友達のママ友からお子さんに自分で食事を食べさせたほうが良いよと言われて、その日からスプーンを自分で使って食べるようお子さんに伝えることを決意しました
するとお子さんは食事を食べる行動を起こさず、心配して強く促すと机の上の食べ物をひっくり返して抵抗してくるのでした
負の強化で維持しているお子さんであっても同じで、
お子さんが机の上の食べ物をひっくり返した段階でお子さんに食事を食べさせる行動を再開したら?
ーもしお子さんが「食事を自分で食べる」という指示・行為を逃避・回避するために行っていたとすれば?
ー答えは今後、机の上の食べ物をひっくり返す行動はさらに出現しやすくなるでしょう。
問題行動が発展し悪化するプロセスにはこのように消去バーストというものが背景にあることを覚えておいてください。
私たちがお互いに関わり合う相互作用を通して、その中で消去バーストが生じどんどんと問題行動が発展し悪化して行くのです。
電車の例、正の強化の場合は提示型ですのでスマートフォンという強化子が手に入るように消去バーストが生じ、行動が巧妙にシェイピングされ、
また食事の例の場合は負の強化だとすれば除去型なので、お母様からの自分で食事をしろという指示が撤回されるまで消去バーストが生じ、撤去されることで行動が巧妙にシェイピングされます。
この悪循環を断ち切るためには、まずこの循環に対して敏感である必要があるでしょう。
さいごに
このブログページでは主に問題行動が発展、悪化して行くプロセスをご紹介してきましたが、
熊 仁美・竹内 弓乃 (2015) は子育て・保護者支援について重要なのは今ある問題行動を減らすことではなく、子どものポジティブな行動レパートリーを1つでも増やし、適切に振る舞える時間を伸ばしていくことが療育の最大の目的であると述べています。
問題行動を減らすことの大切な視点として、この相対的に適切な行動を増やすことで問題行動を減らすという視点は忘れないで欲しいです。
また気がついた人は気がついたかもしれませんが、このページでは主にオペラント条件付けによる問題行動の発展、悪化をご紹介しました。
大人の臨床では良くあるのですが、
自閉症や発達に遅れのあるお子さんで言えば「引っ込み思案」、「怒りのコントロール」、「不安」、「抑うつ」などの自発的にコントロールすることが難しい問題行動では、オペラント条件付けに加えてレスポンデント条件付けや関係フレーム理論といった別の理論での説明も必要となってきます。
またブログページでは途中、間欠強化による問題行動の維持についても解説を挟みましたが、このことも重要で問題行動を消去しようとしても、間欠強化スケジュールにはまってしまうとなかなか消去されないという循環にハマってしまうでしょう。
また「じゃあ問題行動が出現したときはとりあえず消去すべきなのか?」ということも議論になると思いますが、私は「消去手続き」の単独使用は推奨いたしません。
すでに問題が生じてしまっていた場合は「(ABA自閉症療育の基礎69)ABA自閉症療育、問題行動の解決方法導入推奨手順、問題行動を解決しよう(https://en-tomo.com/2020/12/30/problem-behavior-intervention-procedure/)」
で記載した内容を意識して介入計画を立てていきます。
またこのブログページでは消去バーストによって生じる行動を拾って強化することで問題行動がシェイピングされ、問題行動が発展し、悪化するプロセスを書いてきましたが、
シェイピングは上手く使えばできない行動をできるように支援ができます。
三田村 仰 (2017) によればシェイピングとはある未熟な行動を完成形の行動へと強化しながら徐々に発展させて行く技法です。
シェイピングは問題行動の悪化するときにも作用してしまいますが上手く理論立てて使用すれば強い味方になります。
このブログページでは日常の中で意図しない消去バーストにより問題行動が発展、悪化していくプロセスを書いてきましたが、
もしABA自閉症療育であなたが消去手続きを導入するときも、このブログページを一度思い出して考えるようにしてみてください。
消去手続きを導入する場合、あなたは消去バーストに耐えられますか?
暴れたり走り出したり、物を投げたり叩いたりするかもしれませんが、お子さんや周囲の人の安全は守られるでしょうか?
消去バーストが終了し、行動が消去されるまで待つ時間を充分に取れるのでしょうか?
あなた以外のお子さんをサポートする人たちから充分にその方法の納得を得られていますか?
行動が派手になったとき、周囲からの視線は気になりませんか?
どのような理由があるにせよ、消去バースト中の問題行動に強化子を提供してしまうと、
問題行動はもっと悪化してしまいます
私は親御様にご家庭でのABA自閉症療育を推奨する派ですが、消去バーストによって失敗するリスクが高いであろう「消去の単独使用」は手続きとしてあまりお勧めしていません。
Robert L. Koegel・Arnold Rincover・Andrew L. Egel (1982) は親を支援者として考えるプログラムではまずそれが親にとって受け入れられるものでなければいけないと述べていますが、その通りだと思います。
このブログページ冒頭でも載せたURL「(ABA自閉症療育の基礎76)子どもと親の相互作用ー支援者側もお子さんからの影響を受け、強化され、消去され・・・療育モチベーション(https://en-tomo.com/2021/02/07/child-parent-interaction/)」
で記載したように療育の失敗経験が多いと親御様も療育に対してのモチベーションが下がってしまい、それはそれで悪循環です。
このブログページは今後の問題行動の発展を予防する観点で考えていただき、
既に問題行動が出現してしまっている場合にはこれまでブログページで書いてきた問題行動をいかに解決するかというテクニックを使う方向に切り替えていきましょう
次のページではさまざまな問題行動があったとき、どのように捉えてトレーニングするターゲットに落とし込んでいけば良いのかを書いていきます。
ターゲット行動を具体化し、強化できる(練習する)行動に落とし込むためのコツです。
次のページの内容も問題行動を解決する際、ヒントになります。
【参考文献】
・ Brian A. Iwata・Timothy R. Vollmer・Jennifer R. Zarcone (1990) THE EXPERIMENTAL (FUNCTIONAL) ANALYSIS OF BEHAVIOR DISORDERS : METHODOLOGY, APPLICATIONS, AND LIMITATIONS. Perspectives on the use of nonaversive and aversive interventions for persons with developmental disabilities. p 301-330
・ Brian A. Iwata・Gary M. Pace・Michael F. Dorsey・Jennifer R. Zarcone・ Timothy R. Vollmer・Richard G. Smith・Teresa A. Rodgers・Dorothea C. Lerman・Bridget A. Shore・Jodi L. Mazaleski, Han-Leong Goh・Glynnis Edwards Cowdery・Michael J. Kalsher・Kay C. Mccosh・Kimberly D. Willis (1994) THE FUNCTIONS OF SELF-INJURIOUS BEHAVIOR: AN EXPERIMENTAL-EPIDEMIOLOGICAL ANALYSIS. JOURNAL OF APPLIED BEHAVIOR ANALYSIS. No2, 27, p 215-240
・ James E. Carry・David A. Wilder (1998)Function Assessment and Intervention 【邦訳: 園山 繁樹 (2002) 入門 問題行動の機能的アセスメントと介入 二瓶社】
・ Jonas Ramnerö & Niklas Törneke (2008)The ABCs of HUMAN BEHAVIOR:BEHAVIORAL PRINCIPLES FOR THE PRACTICING CLINICIAN 【邦訳: 松見純子 (2009)臨床行動分析のABC 日本評論社】
・ 熊 仁美・竹内 弓乃 (2015) 「編:日本行動分析学会 責任編者:山本 淳一・武藤 崇・鎌倉 やよい ケースで学ぶ行動分析学による問題解決 金剛出版 p46-47」
・ 三田村 仰 (2017) はじめてまなぶ行動療法 金剛出版
・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】
・ Robert L. Koegel・Arnold Rincover・Andrew L. Egel (1982) Educating and Understanding Autistic Children 【監訳: 高木 俊一郎・佐久間 徹 (1985)新しい自閉症児教育ーその理解と指導ー 岩崎学術出版社】
・ 坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) 行動分析学 行動の科学的理解をめざして 有斐閣アルマ
・ V. Mark Durand and Daniel B. Crimmins (1988) Identifying the Variables Maintaining Self-Injurious Behavior. Journal of Autism and Developmental Disorders, Vol. 18, No. 1