「ABA(応用行動分析)、オペラント条件付けの「核」は「強化子」になります」
という一文は私が良くTwitterでブログページを投稿するときに使用している定番フレーズです。
このブログページも入る章ですが、
「ABA自閉症療育で使う基礎理論の章(https://en-tomo.com/aba-basic/)」
のこの章のまとめページがあります。
これまでオペラント条件付けでは「強化」、「強化子」についてたくさんのページを作成してきました。
例えば、
「(ABA自閉症療育の基礎19)オペラント条件付け−強化とは?(https://en-tomo.com/2020/08/13/operant-conditioning-basic-reinforcement/)」
から始まり一番最後の「強化」、「強化子」についてのページは「強化子」の最先端理論、
「(ABA自閉症療育の基礎52)オペラント条件付けー強化子「反応遮断化理論」と「不均衡理論」(https://en-tomo.com/2020/10/31/response-deprivation-theory-and-disequilibrium-theory/)」
でした。
今までは理論的な強化子の展開をご紹介してきたのですがこのブログページでは理論的展開というよりは、実用的な強化子のコントロール方法「トークン(Token)」をご紹介します。
強化子コントロールテクニック「トークン」とは?
私たちの日常でもトークンはさまざまな場面で利用されており、例えば坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) はマイレージや各種ポイントカードなどを例としてあげています。
実森 正子・中島 定彦 (2000) はお金のように貯めておいて後で1次性の強化子と交換できる条件性強化子を特に「トークン強化子」と呼ぶと述べました。
実森 正子他 (2000) はチンパンジーが自動販売機を操作してポーカーチップを受け取り、後でブドウと交換する実験がよく知られていると述べ、ポーカーチップはブドウと交換可能なので条件制強化子として機能を獲得し、自動販売機を操作する反応を強化できると述べています。
トークンとは強化子としての機能を獲得した「条件制強化子」なのですが、
Raymond .G .Miltenberger (2001) は「条件性強化子」について最初は中立であった刺激が、無条件性強化子(※ 1次性強化子のこと)やすでに確立している条件性強化子と対提示されることによって、強化機能を持つようになった強化子であると説明しました。
杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998) はトークンについて
何か他の好子(※ 強化子のこと)と交換されることで好子としての機能をはたしている習得的な好子と解説しました。
トークンとされるものは「シール」、「丸印」、「磁石」、「チップ」、「カード」でも何でも構いません。
それらのものをあとで「既に強化子として機能を獲得している何か」と交換できるように設定すれば、トークンそれ自体も強化力を持っていくようになります。
トークンが強化力を持ったとしても例えば交換を訴えたときに破棄されるようなことがあれば、トークンは強化子としての価値を失っていきますのでその点は注意しましょう。
また「既に強化子として機能を獲得している何か」のことを「バックアップ強化子」と呼びます。
「(ABA自閉症療育の基礎24)オペラント条件付けー強化子のタイプ(https://en-tomo.com/2020/08/19/aba-reinforcer-type/)」
でご紹介しましたがトークンのような既に強化子と機能している何かと結びつけられることで強化力を持つ強化子のことを「条件性強化子(二次性強化子)」と呼ぶのですが、
「相手からの笑顔」や「賞賛」などといった社会的な結果がお子さんの行動の強化子として機能し、適切な行動を行なって欲しいところです。
そのため、
トークンを貯め、交換できる何かはできれば「お母さんと一緒に遊べる」、「お父さんと一緒に動物園に行く」、「お友達を誘って一緒に遊んで良い」などの社会的な活動であれば理想的だと思います。
ただこのような社会的な活動に今のところ強化力を持っていないお子さんの場合は、トークンが貯まったときに交換する内容は
・ (1人で)ゲームをする
・ Youtubeを見る
・ 勉強を中断して休憩する
・ お菓子をもらう
・ (1人で)おもちゃで遊べる
などの1人で完結する活動になることが多いでしょう。
O.Ivar Lovaas (2003) は「よくできたね!」などの言葉を、食べ物のような一次性強化子(無条件性強化子)といっしょに繰り返し与えるようにすると、二次性強化子つまり学習された強化子(条件性強化子)として使えるようになると述べていますが、
何かお子さんが、例えば課題に参加するなど、適切な行動を行なったときはどのような強化子を与えるにせよ「褒める」、「タッチ」、「笑顔」などの社会的な関わりも一緒に返すようにしてください。
強化子コントロールテクニック「トークン」を使う
実はこれまでのブログの中で私もトークンを使用しています。
それは例えば、
これは「(ABA自閉症療育の基礎65)オペラント条件付けー問題行動を減らす、適切行動を増やす効果的な療育技法「分化強化」(https://en-tomo.com/2020/12/11/aba-differential-reinforcement/)」
で紹介したイラストですが、
5回のチャンスがあり、そのうち3回で◯をもらうことができれば「お母さんとどうぶつえんに行ける」というバックアップ強化子と交換できる設定です。
これはホームワークの設定として組んだワークシートの例ですが、トークンはこのように使用することができます。
このときのターゲットは「大休憩にお友達と遊ぶ」ということでしたが、
例えばトークンを使用しなければ大休憩にお友達と遊ぶことができた日は毎日動物園に太郎くんを連れていかなければなりません。
これは介入設計としてあまり現実的とは言えないでしょう
上のどうぶつえんに連れていくというトークン設定は日を跨いで獲得するものでした。
しかし日を跨がない場合、例えば「DTT(離散型試行訓練:discrete trial teaching)」と呼ばれる療育支援を行う際にもトークンは役立ちます。
O.Ivar Lovaas (2003) は著書の中で「ご褒美ボード」というものを紹介しました。
「ご褒美ボード」とは決められた数のトークンを集めたら、子どもがもらえるご褒美を視覚的に示したものです。
子どもは課題を一つ完成させるたびにトークンを獲得します。
貯めたトークンはその数に応じて「好きな食べ物」、「おもちゃ」、「あそび」などに交換することが可能です。
このような設定を組むことができます。
O.Ivar Lovaas (2003) はご褒美ボードの利点として一次性の強化子が遅れてやってくることに子どもを慣れさせることをあげました。
確かに私たちの社会は「お金」というものが存在するため、
(1)お腹がすいた
(2)コンビニでおにぎりを買う
(3)お腹を満たす
というように「おにぎり」(お腹を満たす一次性強化子)を手に入れるために「お金」(一次性強化子と交換できる条件制強化子)を使用することも多いでしょう。
そのためにお腹がすいたという状態を満たすための強化子が手に入るまでに遅延が生じます。
このように考えればO.Ivar Lovaas (2003) が述べているように一次性の強化子が遅れてやってくることに慣れておく経験は自閉症のお子さんには大切なことかもしれません。
欲しいと思ったとき、すぐ手に入ることの方が少ないですものね
トークンを使用した自閉症児への研究
トークンを使用した研究を2つご紹介します。
不登校の自閉症児への支援、奥田 健次 (2005)
奥田 健次 (2005) は高機能広汎性発達障がい児の不登校児に対してトークンを使用した支援を行っています。
高機能広汎性発達障がいとは、今の言い方をすればIQの比較的高い「自閉症スペクトラム」のお子さんのことです。
研究には8歳7ヶ月の女の子(IQ100)と7歳7ヶ月の男の子(IQ83)の不登校の児童2名が参加しました。
研究では学校に登校することを週ごとに以下のように
①登校
②1時間目
③2時間目
④3時間目
⑤4時間目
⑥5時間目
⑦下校
の7つの要素に分け、クリアできたところにシールを貼っていき学校への参加率を求めました。
研究ではこのシートを「登校がんばり表」と呼びました。
介入方法は学校へ参加率の目標を決めておき「登校がんばり表」で目標の参加率が達成できたとき、例えば女の子は「レンタルビデオ」、男の子は「特急〇〇を見に行く」と週末にお楽しみ(バックアップ強化子)が設定されました。
研究では週に1回90分の母子面接を行い、学校参加率の基準を変更しながら支援が進んでいきます。
結果として2人の児童は最終的に100パーセントの学校参加率に至り、不登校が解消されました。
奥田 健次 (2005) は研究の中でいくつかポイントを述べているのですが、
・ 使うシールは子どもの好きなシールを使用した
→ 女の子の場合は星や花、TVのキャラクター、男の子の場合は電車や昆虫を使用しています。これは介入に参加することへの動機付けを上げる手続きだと考えられます
・ 今回支援された不登校児は2名ともいじめなどの深刻な問題がなかったこと
→ 深刻な問題があった場合、学校でいじめ場面に遭遇したときのSSTなどトークン以外の介入方法も行う必要があったでしょう
・ 親御様の再登校への強い動機付けがあったこと
→ カウンセラーが1週間、1ヶ月に1回面接をして日常問題の解決を測る場合、日常の中で親御様が協力してくれることが非常に大切になってきます
以上の3点は個人的にお伝えしておきたいポイントです。
自閉症児への行動問題支援、小笠原 恵他(2013)
小笠原 恵・広野 みゆき・加藤 慎吾 (2013) は12歳2ヶ月の特別支援学校の中学部に所属する自閉症の男の子の示す「他人を叩く」、「他人や壁などに体当たりする」という行動問題に対して介入を行なっています。
男の子のIQは田中ビネーという検査の結果、38でした。
男の子は中学部に所属していましたが、研究で問題行動のアセスメントを行なったところ、男の子は小学校3年性の頃から以下のような随伴性にさらされていた可能性が考えられました。
(先生)課題や活動を提示する →
(男の子)「保健室に行く」、「パソコンをやる」と要求する →
(先生)要求を拒否する →
(男の子)行動問題を起こす →
(先生)制止する →
(男の子)行動問題がエスカレート →
(先生)その場から離すために保健室に男の子を連れていく
このような随伴性を経験していくうちに男の子は結果として課題や活動に参加しなくて良いということも学習していくでしょう
小笠原 恵他 (2013) で示されている上のような悪循環は個人的には結構あるパターンだと思いました
そこで小笠原 恵他 (2013) は新しい随伴性を用意します。
課題に従事することを増やすことをターゲット行動としました。
課題に従事することが増えれば相対的に「他人を叩く」、「他人や壁などに体当たりする」という行動問題が減るだろうということを狙いターゲットスキルに選定されています。
(先生)課題や活動を提示するのと同時にタイマーとトークン表を提示する →
(男の子)タイマーが鳴るまで課題従事する →
(先生)タイマーが鳴るまで課題従事できたらトークンを渡す →
(男の子)トークンが基準の数溜まったら「パソコンをやる」か「保健室に行く」
このような新しい随伴性を設定することで介入を行なっていきました。
特に新しい随伴性では今まで叶わなかった「パソコンをやる」という結果が伴うことはキーポイントだと思います。
トークンはシールが使用されています。
「(先生)」は担任の先生なのですが、男の子が課題に取り組まないときは「◯◯(課題)します」と声掛けを行なったり、タイマーやシールを示し「鳴るまで◯◯したらもらえます」と指示を出しました。
それでも課題に取り組まない場合は「タイマーがなっていないのでシールはもらえません」とシールは渡しませんでした。
研究は1年以上の行動データが記載されていますが、結果として以上の介入手続きは課題従事率を上げることに成功しましたが、行動問題についてはわずかな減少を示し終了しています。
行動問題については現象は少なく上手くいったとは言えなかったと思います
小笠原 恵他 (2013)から参考にしたいことは行動問題の著しい低減こそ見られなかったものの上記の研究手続きのように、
現在、問題行動が起こっている随伴性を分析し、新しい随伴性を作り、それが機能するようにトークン(強化子)を設定していくという考え方は非常に重要です。
また適切に行動できたときに「今までになかったパソコンで遊ぶ」という大きな強化子が(トークンがあることによって)遅延してやってくる設定は見方を変えれば、
「(ABA自閉症療育の基礎56)選択行動のABA療育応用研究、子どもの攻撃行動を減らす「衝動性と我慢」Timothy R. Vollmer・John C. Borrero, 1999(https://en-tomo.com/2020/11/10/timothyr-vollmer-johnc-borrero-1999/)」
などの「選択行動の理論」からみてきた「我慢(セルフコントロール)」の理論です。
URL内で紹介していますがTimothy R. Vollmer・John C. Borrero (1999) は待つことで大きな強化子が手に入る設計で介入計画を組み、9歳の自閉症児と9歳の重度精神遅滞児に我慢を教える研究を行いました。
そのためこのような介入設計は「我慢」を練習していることにもなるでしょう。
さいごに
ブログページでは「トークン」について紹介をしてきました。
トークンとは「既に強化子として機能を獲得している何か」と交換できるように設定することで、それ自体も強化力を持っていくものです。
・ 週末のお出かけなどの活動を強化子とする場合に使いやすい
・ 持ち運びやすい
・ 強化子の獲得を遅延させることができる
などがトークンの利点と言えると思います。
トークンを利用することで強化子のコントロールの幅を広げることが可能です。
その後トークンを使用した事例研究を2本ご紹介いたしました。
奥田 健次 (2005) では本研究を参考にして作成した表のイラストがありますので、トークンを使用して介入する場合の参考にしていただければと思います。
小笠原 恵他 (2013) では現在、問題行動が起こっている随伴性を分析し、新しい随伴性を作り、それが機能するようにトークン(強化子)を設定していくという考え方は非常に重要ですので、問題行動解決に取り組むときには意識してみてください。
次のページでは無発語・言葉の少ないお子さんの発語を出現させる、量を増やす方法について書いていきます。
どうぞよろしくお願いいたします。
【参考文献】
・ 実森 正子・中島 定彦 (2000) 学習の心理 第2版 サイエンス社
・ 奥田 健次 (2005) 不登校を示した高機能広汎性発達障害児のための行動コンサルテーションートークン・エコノミー法と強化基準変更法を使った投稿支援プログラムー 行動分析学研究 20, p 2-12
・ 小笠原 恵・広野 みゆき・加藤 慎吾 (2013) 行動問題を示す自閉症児へのトークン・エコノミー法を用いた課題従事に対する支援 特殊教育学研究 51(1) p 41-49
・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】
・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】
・ 坂上 貴之・井上 雅彦 (2018) 行動分析学 行動の科学的理解をめざして 有斐閣アルマ
・ 杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)行動分析学入門 産業図書
・ Timothy R. Vollmer・John C. Borrero (1999) EVALUATING SELF-CONTROL AND IMPULSIVITY IN CHILDREN WITH SEVERE BEHAVIOR DISORDERS. JOURNAL OF APPLIED BEHAVIOR ANALYSIS. 32, p451–466 No. 4 (WINTER)