このブログページも引き続き「SST(Social Skill Training:社会的スキル訓練)」の解説です。
どうぞよろしくお願いいたします。
「(ABA自閉症療育の基礎70)言葉の遅れの少ないお子さんへの適正行動増・問題行動減の療育支援ホームワーク(面接・SST・行動契約)(https://en-tomo.com/2021/01/03/hf-homework-setting/)」
では「面接、SST、行動契約」を通してお子さんとホームワークを組む設定を見てきました。
このホームワーク設定を組むことでさまざまな問題行動に対応できたり、お子さんに行なって欲しい適切行動を教えることが可能になります。
適正行動が増える・問題行動が減へるための療育支援の有用な方法に、ホームワーク(面接・SST・行動契約)を通して教える法方があること
ホームワーク設定において面接・SST・行動契約がどのような意味を持っているのか
の2点が伝わっていれば幸いです。
続いて「(ABA自閉症療育の基礎71)SST(Social Skill Training:社会的スキル訓練)のコツ、失敗しない配慮とケースバイケースの分岐パターン(https://en-tomo.com/2021/01/09/social-skill-training-point/)」
では「面接、SST、行動契約」の中の「SST(Social Skill Training:社会的スキル訓練)」にスポットを当てどのような流れでSSTを行っていけば良いかを書いて行きましたが、
教えるスキルはお子さんの持っているナチュラルなスキルを選択する
さまざまな分岐を作っていろいろなパターンに対応できるSSTを計画する
お子さんが教えたいスキルを使用していない理由に注目する
の3点が伝わっていれば幸いです。
これまでのブログページではホームワーク設定、SSTの大枠を説明してきましたが、
毎回のブログページではSSTでスキルが機能するように「モデルを見せる」、「ロールプレイ」、「フィードバックする」、「強化する」などの毎回のSST手続きを紹介していきます。
SSTの構成要素についての基礎知識
佐藤 正二・佐藤 容子 (2006) はコーチングを使用したSSTについて、
※ (” ”の括弧内は私の意見)
1 対象児を選ぶ ”だれに行うか決める”
2 指導すべき社会的スキル(ターゲットスキル)を決める ”何を教えるか決める”
3 指導用の教材(問題場面を描いたもの)を準備する ”紙芝居などのストーリーが表されるものが多いです”
4 ルールを決める、教示を与える ”恥ずかしがらずにやろう、とか、今日は◯◯について練習しましょうと言ったようなことを伝える”
5 主人公の用いたスキルについての話し合い ”ストーリー上で語られたエピソードのどこがまずかったとか、どこがよかったとかを話し合う”
6 モデル提示 ”ターゲットスキルの適切なモデルを見せる”
7 練習とフィードバック ”実際にスキルを使用する練習をして、機能するよう微妙なところをフィードバックしていく”
8 役割交代 ”集団にSSTを行う場合は、全ての子どもがスキル使用の練習ができるよう、スキルを使う側、使われる側を役割交代で行なっていく”
9 日常場面での般化を促す ”学校でも家でも使えるよというように、様々なところでスキルを使用するように促す”
という要素を述べました。
Raymond .G .Miltenberger (2001) は著書の中で「行動的スキル訓練」という章を書いています。
Raymond .G .Miltenberger (2001) によれば「行動的スキル訓練」には4つの要素がるのですが、それは
・ モデル提示
・ 教示
・ リハーサル
・ フィードバック
の要素です。
このブログページでは佐藤 正二他 (2006) とRaymond .G .Miltenberger (2001)の要素を参考に、今回の流れで解説をしているSSTの構成要素を作っていきたいと思います。
実際に私はこうやってSSTで療育をしています、という内容です。
毎回のSSTで行う具体的な手続き
ここまで紹介してきた、
佐藤 正二他 (2006) とRaymond .G .Miltenberger (2001)を参考にこれから紹介していく毎回のSSTで使用する手続きは以下の内容です。
(1) 教示
(2) ロールプレイ & モデル提示
(3) フィードバック & 強化
私は以上の3点の要素を使用し、毎回のSSTで使用しています。
「(2) ロールプレイ & モデル提示」、「(3) フィードバック & 強化」については2つのワードの間に「&」が入っていますが、どちらを先に行うかはケースバイケースで考えていきましょう。
お子さんによっては「先にロールプレイ」をするし、別のお子さんでは「先にモデル提示をする」ということです。
今回も仮想事例として太郎くんに登場してもらいましょう。
このブログページで扱う仮想事例、太郎くん
小学校2年生の太郎くん。
太郎くんは一人っ子で3歳の頃に自閉症スペクトラムと診断が下り、お友達と関わることが年少、年中さんのころはほとんどありませんでしたが、年長さんくらいから周囲のお友達に興味が出てきたのかお友達への関わりが増えてきました。
しかしお友達との関わりは決して適切と言えるものではなく、お友達の遊んでいるところに行って作っている作品を壊す、突然身体を触る、自分の話を一方的にするなどが目立ちました。
お友達が泣いてしまうこともあり、お母さん・お父さん、先生から怒られることが繰り返されるうちに「僕はお友達は嫌い」というようになり、小学校に入ってからは休憩時間、お友達と遊ぶのことはなく1人で校庭の隅でずっとうろうろとして過ごしていました。
お母さん・お父さん、担任の先生は心配をしていましたが、「学校は楽しい?」と聞くと太郎くんは必ず「楽しい」と言います。
今年受けたIQテストの結果では、太郎くんのIQは100という数値でした。
また仮想事例の内容は「(ABA自閉症療育の基礎71)SST(Social Skill Training:社会的スキル訓練)のコツ、失敗しない配慮とケースバイケースの分岐パターン(https://en-tomo.com/2021/01/09/social-skill-training-point/)」
でご紹介をした「エントリースキル」で行うこととします。
毎回のSSTの具体的な手続き:教示
私:じゃあ今からお友達の遊びに入れてもらう練習をしようね
太:うん
私:じゃあ先生が太郎くんのお友達役をするから、どうやって入ってくるか、太郎くん考えてやってみてね
太:うん
と言った感じで今から行う練習の設定を説明します。
お子さんが理解できる言葉で説明することが大切です。
ここで設定が上手く理解できていないとこの先の設定もあまり上手くいきません。
そのため「教示」の最後に、
私:んじゃ、始めるけれど、今からやることわかった?
太:うん、大丈夫だよ
というように理解しているか確認をすることも良いでしょう。
また実際、先に進んでみて(やってみて)わかっていなさそうだったらもう一度「教示」に戻るということでも大丈夫です。
このような感じで「上手く行っていないな」と思ったら前に戻る、
というようなスタンスで行なっていけば良いでしょう
毎回のSSTの具体的な手続き:ロールプレイ & モデル提示
「教示」によって設定をお子さんが理解できたら次は「ロールプレイ & モデル提示」に進みましょう。
どちらから先にやっても良いです。
ロールプレイは太郎くんがスキルを使用する側、モデル提示では私がスキルを使用側になります。
ロールプレイ
私:じゃあ、せんせいがお友達役をやるから、お友達がやっている遊びに上手く入ってきてね
太:うん
私:じゃあスタート(パンっと手を叩くなど「今から始まるよ」という合図を出す)
イラストのように太郎くんがお友達に誘いかける内容のロールプレイを行いましょう。
「(パンっと手を叩くなど「今から始まるよ」という合図を出す)」と書いていますが、
今から始まるよという合図を出すことはポイントだと思います。
モデル提示
「モデル提示」は「ロールプレイ」と役割が逆になったバージョンです。
モデル提示は適切なスキルの方法を提示してお子さんに示す、もしくは不適切なスキルをわざと提示し「どうだった?」と気付きを促すというように使用しています。
今回は適切なスキルの方法を提示してお子さんに示すことにしましょう。
私:じゃあ、せんせいが太郎くん役をやるから、お友達役を太郎くんがやってね
太:うん
私:じゃあスタート(パンっと手を叩くなど「今から始まるよ」という合図を出す)
モデル提示ではロールプレイと役割を変えて行います
「(2)ロールプレイ & モデル提示」を以上のように行いこののち、「(3)フィードバック & 強化」を行なっていきます。
ただ「(3)フィードバック & 強化」を行なったのちはまた「(2)ロールプレイ & モデル提示」に戻り何度も練習を重ねていきましょう。
↑↑この内容については今は良くわからないかもしれません。
読み進めていっていただければ、わかってもらえるのではないかというつもりで続きを書いています。
毎回のSSTの具体的な手続き フィードバック & 強化
「(2)ロールプレイ & モデル提示」の段階で太郎くんが実際にスキルを使ったとき、上手くスキルが機能するようにフィードバックし修正点を指摘し、
上手くできたときにはその行動を強めるために強化していきます。
フィードバックで伝えていく内容は例えば、
・ 相手を見て行う
・ 相手に聞こえる声で行う
・ 相手の注目を得てから(例えば、「ねぇ」と言ったり肩を叩いたり)してから行う
・ 笑顔など、相手が受け入れやすい表情で行う
・ 大きすぎず、小さすぎず、適切な音量、リズム、抑揚で行う
・ 思った通りにならなくても焦らない
といった内容です。
例えばたろうくんがロールプレイの中で、
※ 下のイラストは「ロールプレイ」の内容にあたるのでその点は注意
といった形でスキル使用をしてきたとするとフィードバックで、
私:うん!頑張ったね!あと、お友達の方を見ながらできたらもっと良いな!次はお友達の方を見ながらもう一回やってみてよ!
などとフィードバックし、必要であれば「こうやるんだよ」とモデル提示をしたりします。
「(3)フィードバック & 強化」を行なったのちはまた「(2)ロールプレイ & モデル提示」に戻るという流れですね。
またピンクの下線で「うん!頑張ったね!」と褒めているように、
「それじゃだめだよ」とか「あまり上手くないね」などSSTに参加することの動機付けが下がるような関わりはできるだけ控え、SSTに関わる動機付けが下がらないように配慮することも大切でしょう。
また上のイラストで「お友達の方を見ていない」太郎くんの様子を書きましたが、
・ 友達の方を見ていない
だけでなく、
・ 声も小さい
・ 相手の注目を全く得ていないタイミングで言っている
など複数の修正点が見られる場合があります。
お子さんによっては
私:うん!頑張ったね!あと、お友達の方を見ながらできたらもっと良いな!あと、声はもっと大きい方がいいのと、話しかける前は「ねーねー」って言って、お友達がたろうくんを見てから言うようにしようね。次はそこを気をつけてやってみてね!
このように一気に修正点をフィードバックするということも有りかもしれませんが、
あまりお勧めしません
1つづつフィードバックし、「(2)ロールプレイ & モデル提示」に戻り、1つ修正できたらまた次の修正点をフィードバックして修正すると、積み重ねていくことが良いと思います。
また、既に上手くできているとことやフィードバックによって修正がかかって上手くなった部分については具体的に褒めて(強化して)いきます。
私:声が相手に聞こえる大きさで上手いよ。あとさっき言った相手の方を見ながら言うっていうのも、今すごく上手かったよ!
と強化していくようにしましょう。
ここまでの流れをまとめると、
まとめると上のイラストのように、
「(1)教示」を行なったのち「(2)ロールプレイ & モデル提示」に行くのですが難しそうだったらまた「(1)教示」に戻るし、
「(2)ロールプレイ & モデル提示」ののち、「(3)フィードバック & 強化」を行なって行くのですが、
「(3)フィードバック & 強化」を行なったのちはまた複数回練習をするために「(2)ロールプレイ & モデル提示」に戻り何度も練習を重ねていく。
という流れです。
スキルを日常で使用するように般化推奨
SSTで社会的スキルをトレーニングするときに大切なのは、教えたスキルが「機能すること」、つまり「結果が上手く付いてくる」ことだと思います。
この形でスキルを行なってくれれば、ある程度は成功するだろうと支援者側が見通しを持てたとき、「スキルを日常で使用するように般化推奨」を行いましょう。
このときに「じゃあ、実際に小学校でも使ってみてね」という言葉かけでも良いのですが、
「(ABA自閉症療育の基礎70)言葉の遅れの少ないお子さんへの適正行動増・問題行動減の療育支援ホームワーク(面接・SST・行動契約)(https://en-tomo.com/2021/01/03/hf-homework-setting/)」
で行なったホームワーク、「行動契約」の設定に乗せ、実際にスキル使用するように促す方が良いと思います。
上のイラストは別のスキルのホームワークシートですが、
(1) 標的行動を決める
→ SSTで練習したスキルですね
(2) 標的行動の測定方法を記載する
(3) その行動をいつ行うのかを記載する
(4) 強化と弱化(※ 罰)の随伴性を決める
のような内容でしっかりとスキル使用が促されるよう設定していきましょう。
さいごに
このブログページを含め直近3回のブログページでは「ホームワーク設定」を記載してきました。
ホームワーク設定を組むことでさまざまな問題行動に対応できたり、お子さんに行なって欲しい適切行動を教えることが可能になります。
1つ前のブログページとこのブログページではホームワーク設定の中から「SST」に焦点を当てて書いてきましたが、上手くできるようになるとさまざまなスキルの使用を促すことが可能です。
お子さんに教えた行動を、お子さんに実際に使用して欲しい場面で適切に使用してもらうこと。
これがとても大切です。
厳しい言い方かもしれませんが例えば「家の中でだけできる」というだけでは適切なスキルを学んだ、問題解決に至ったとは言えないのではないでしょうか?
お子さんのスキルがしっかりと適所で発揮されるよう設計を組んでいくことはとても大切です。
次は「トークン」を使用した支援をご紹介します。
【参考文献】
・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】
・ 佐藤 正二・佐藤 容子 (2006) 学校におけるSST実践ガイド 子どもの大人スキル指導 金剛出版