直近のページでは、
「(ABA自閉症療育の基礎62)オペラント条件付けー環境の豊穣化支援、適切に余暇を過ごす方法(https://en-tomo.com/2020/11/29/aba-environmental-abundance/)」
のページでは適切な行動を増やす「環境豊穣化法」について、そして、
「(ABA自閉症療育の基礎63)オペラント条件付けー速攻で問題行動を減らす「NCR:非随伴性強化法」(https://en-tomo.com/2020/12/02/non-contingent-reinforcement/)」
のページで「NCR:Non Contingent Reinforcement(非随伴性強化法)」という問題行動を低減、消失させる方法を学んできました。
私はこれらのABA自閉症療育の方法についてはイラストの「A:Antecedent(先行状況)」に寄った介入方法、
このブログページでご紹介する「先行子操作(Antecedent Control Procedures)」の方法だと考えています。
このページでは主にRaymond .G .Miltenberger (2001)のを参考に他に先行子操作はどのようなものがあるのかについてご紹介して行きましょう。
オペラント条件付けー先行子とは何か?
先行子操作について学ぶ前に「先行子とは?」を少し解説します。
日本行動分析学会 (2015) は「先行子」について反応に対して先行して生じる環境条件の変化を表すものであると述べています。
反応は行動と読み替えてください。
つまり「先行子」とは行動が起きる前の状況のことです。
私のブログではこのページ文等で示したイラストにあるように「先行子」の中に「弁別刺激」と「確立操作」を含めて解説をしています。
Jonas Ramnerö & Niklas Törneke (2008) に先行子をどのように考えれば良いかのヒントが書かれています。
Jonas Ramnerö他 (2008) を参考にすれば「先行子」というカテゴリーを使って私たちが把握したいものは外的な刺激(弁別刺激)から内的な刺激(確立操作)まで含む幅の広いもので、
※ ( )内は私はそう捉えているという内容
簡単に言えば、
「何がある(どのような刺激が存在している)ときに、その人はそのように行動しますか?」
という問いによって問題を解決するために把握したいことを導き出すことができます。
例えばネガティブな行動、
・ お子さんが癇癪を起こすとき
・ お友達を叩いてしまうとき
・ 離席するとき
例えばポジティブな行動、
・ お友達を誘いかけるとき
・ お友達に大丈夫というとき
・ お手伝いを自発的に始めるとき
「何があるときに、その人はそのように行動しますか?」
このような問いに応えることでお子さんの行動の前にある「先行状況」が少し見えてきます。
先行子操作とはこのようにして見えてくる行動の前の「先行状況」を操作することで適切な行動を出現させやすくしたり、問題行動の低減・減少を狙う方法です。
オペラント条件付けー先行子操作の方法
Raymond .G .Miltenberger (2001)によれば
先行子操作とは望ましい行動を生起させたり、望ましい行動の妨げとなる望ましくない行動を減らすために、物理的環境や社会的環境の何らかの要素を操作する方法です。
読んでもらうと「当たり前だろ」と思う方法かもしれませんが、実はそれこそがABA療育の真髄と言えます。
Raymond .G .Miltenberger (2001) は著書の中で先行子操作についていくつか方法を紹介しています。
このブログページではまとめて3つの方法として簡単に解説を行っていきましょう。
この3つの方法は「望ましい行動を起きやすくする方法」と「望ましくない行動を起きにくくする方法」です。
Raymond .G .Miltenberger (2001)を参考にABA自閉症療育にありそうな場面に私なりに変換し紹介を行なっていきます。
先行子操作は知っていると便利なABA自閉症療育の介入方法です
先行子操作1:望ましい行動の弁別刺激の手がかり/望ましくない行動の弁別刺激の手がかりを取り除く
Raymond .G .Miltenberger (2001) は望ましい行動が起きにくい理由の一つとして、その行動の弁別刺激がその人の環境にないことが考えられると述べました。
例えばお子さんに適切な一人遊びをして欲しいと思ったとき、適切な一人遊びをするためのおもちゃがなければ適切な行動が生じる可能性は低くなってしまいます。
例えばお子さんの生活している環境内にかばんや食器、時計、TVなど生活に必要なものしかない場合などです。
お子さんが適切に一人遊びをする可能性を上げるためにはその行動の弁別刺激がお子さんの環境にあることが必要になります。
例えば、トミカやプラレール、積み木や絵本、人形やボールなどといった、適切な一人遊びを促すアイテムが必要です。
また他にも学校からの忘れ物が多いお子さんの忘れ物を減らすために、お子さんの生活の環境内に弁別刺激の手がかりを加えることもこの「望ましい行動の弁別刺激の手がかり」という方法にカテゴライズされます。
それは例えば、学校から持って帰るもののリストを作りランドセルを開けたら見えるところに貼っておくなどです。
「当たり前」のような内容ですが、少しコツもあり、
操作したものが上手く機能するためには、お子さんの生活環境の中でしっかりと目にする(だから、ランドセルを開けたら見えるところに貼っておく)ところに弁別刺激を置いておくなどの工夫が必要になります。
ここまでは望ましい行動を増やす先行子操作の方法でしたが、望ましくない行動を減らすためにはどのような手続きが考えられるでしょうか?
例えば、お子さんの暴言が多く困っているというお母さんがいたとします。
少し分析をしていくと暴言はほとんど休憩時間に起こっていて、同じ別のクラスの女の子に対して言っていることが明らかになりました。
この場合、休憩時間にその女の子と接触する可能性を少なくする設定を組む、例えば休憩時間が始まると同時に先生が誘導し校庭に連れ出すなどが考えられます。
TVばかり見て勉強をしないお子さんで困っているお母さんがいたとしたら?
勉強をする代わりにTVを見ることで勉強のパフォーマンスが下がっているのだったら例えば、勉強をする場所をTVが見えないところに設置することや、お子さんが勉強している時間はTVの電源は切っておくなどが考えられます。
これも「当たり前」のような内容ですが、実はABA自閉症療育とはこのような当たり前に行っていることによって問題行動をなんとかしようとすることが多いです。
弁別刺激についていくつかブログ内にもページがありますが、
「(ABA自閉症療育の基礎36)オペラント条件付けー弁別刺激の確立、エピソード(https://en-tomo.com/2020/09/06/aba-operant-stimulus-control-episode/)」
が読みやすいと思います。
先行子操作2:望ましい行動の確立操作の設定/望ましくない行動の確立操作を取り除く
確立操作が機能すると、行動のあとに伴う結果の価値を上げたり下げたりすることができます。
ABA自閉症療育では課題を行う際、上手くできたときにお菓子でお子さんの適切な課題遂行行動を強化するという手続きを用いることがあるのですが、
O.Ivar Lovaas (2003) は指導場面以外ではその強化子が手に入らないようにするという方法を解説しており、
例えばポップコーンを強化子として使うのならば、指導場面だけで控えめに与えるようにして、強化子が手に入る可能性を制限する。
指導場面以外でも欲しいときにいつでもお菓子を手に入れられると、指導の間、お菓子によって子どもを動機付けることができなくなってしまうと述べました。
上の文章の中で、
ピンク色のラインマーカーは確立操作の遮断化によって強化子の価値を上げる手続きです。
オレンジ色のラインマーカーは確立操作の飽和化による強化子の価値が下がることを防ぐ手続きです。
上では「お菓子」を例にしましたが、
お菓子だけでなくて例えば「Youtube」や「ゲーム」、「おもちゃ」、「トランプで一緒に遊ぶ」「高い高い」などを強化子として指導する場合であっても上記の確立操作の手続きを用いることで効果的な強化子の提供が可能になり、
課題中にお子さんの動機付けを保つときに役に立ちます。
こういった細かいことを積み上げていくことがABA自閉症療育では本当に大切です
細かいテクニックの集合体がABA自閉症療育!
他には夜寝られないお子さんがいたとして、日中の活動量を増やし、夜の睡眠を促すというのもこの「望ましい行動の確立操作の設定」という手続きに入るでしょう。
例えば普段よりも早く起こすことや公園に連れて行って1時間遊ばせるなどがこれにあたります。
ここまでは望ましい行動を増やす先行子操作の方法でしたが、望ましくない行動を減らすためにはどのような手続きが考えられるでしょうか?
例えば「スーパー」に連れていくとお菓子を買って欲しいと癇癪を起こすお子さんがおり、お母さんが困っていたとします。
解決するかもしれない1つの方法は、例えば夕飯の材料を買いに行くのだとしたらお昼ご飯を食べてすぐか、3時のおやつを食べてすぐの時間帯に行くようにすることです。
ある程度の満腹感(飽和化)がある状態でお子さんをスーパーに連れていくことは、お子さんがお菓子を買って欲しいと癇癪を起こすリスクを下げてくれる可能性があります。
ダイエットや節約をしている人にもおすすめの方法です。
お子さんが半袖しか着ないことに困っているお母さん、この場合はどういった「望ましくない行動の確立操作を取り除く」手続きが考えられるでしょうか?
例えば部屋の室温を下げてみる(嫌悪化)の手続きなどは有効かもしれません。
寒いという嫌悪的な状況を設定することで、寒さを和らげるために長袖を着る行動の確率が上がる可能性があります。
基本的に確立操作によって問題行動を減らしたい場合は「飽和化」か「嫌悪化」、適切な行動を増やしたい場合は「遮断化」と覚えておけば大丈夫でしょう。
確立操作についていくつかブログ内にもページがありますが、
「(ABA自閉症療育の基礎48)オペラント条件付けー確立操作「遮断化」「飽和化」「嫌悪化」(https://en-tomo.com/2020/10/19/establishing-operation-type2/)」
のページで、このブログページで出てきた「遮断化」と「飽和化」を紹介しました。
先行子操作3:望ましい行動の反応努力を減らす/望ましくない行動の反応努力を増やす
Raymond .G .Miltenberger (2001) は望ましい行動を起きやすくする方法として、
その行動に必要な努力が少なくなるような先行状況を設定する方法があり、もし強化子が同じであれば「反応努力(Response Effect)」が大きい行動よりも小さい行動の方が起きやすい
と述べました。
例えば私は「コカコーラ」の方が「ペプシコーラ」よりも好きです。
そのため基本的にはコーラが飲みたいと思ったとき、家から同じ距離、同じ値段で「コカコーラ」と「ペプシコーラ」が売っていれば「コカコーラ」を購入することが多くなります。
この場合、反応努力は同じです。
しかし「ペプシコーラ」が家から半分の距離に売っていたり、また半値で売っていたりすれば(反応努力が小さい)、「コカコーラ」ではなく「ペプシコーラ」を購入することが多くなるかもしれません。
子どもへの療育で考えてみると、どういった例があるでしょうか?
例えば余暇を楽しく過ごすという結果を得るための行動として、アプリで遊ぶという活動が機能する場合を考えてみましょう。
アプリケーションの中で生じるコミカルな動きや音によって楽しさをお子さんが感じるのであれば、せっかくだったら知育アプリを行って欲しいと思いませんか?
知育アプリではないゲームアプリをダウンロードせず、知育アプリを入れたタブレットを用意すればこの問題は解決します。
お子さんがゲームアプリを手に入れるためにはストアに行ってパスワードも入れるという超えることがかなり難しい「反応努力」が必要になるからです。
望ましくない行動を減らす場合はどうでしょうか?
例えば「本を破る」、「特定の棒を振る」、「窓からものを投げる」などの問題行動に悩んでいる場合、
「本を破る」、「特定の棒を振る」 ・・・ 本や棒を隠す
「窓からものを投げる」 ・・・ 子どもの手の届かないところにガードロックを取り付ける
などが考えられます。
隠されると、本を破ったり棒を振るために探すという反応努力が必要になりますし、窓からものを投げるためにもガードロックを解除するという反応努力が必要となり、いっきに行動するのが面倒くさくなるはずです。
この「行動と行動に伴う努力」という内容について、私のここまでのブログページで見れば「選択行動研究」の分野からヒントが得られるように思います。
「(ABA自閉症療育の基礎55)オペラント条件付け選択行動ーHoward Rachlin・Leonard Green, 1972(https://en-tomo.com/2020/11/08/howard-rachlin-leonard-green1972/)」
では「選択行動研究」でかなり有名なHoward Rachlin・Leonard Greenが行った1972年の研究を紹介しているのですが、
研究内容を読み解くと、ハトが行動のあとに来る結果(エサ)を得るために先行子を操作した研究になりますので、行動の前が変わることでどういった行動の変化があるのかのヒントとなるかもしれません。
さいごに
このブログページではRaymond .G .Miltenberger (2001)を参考に先行子操作について、
1:望ましい行動の弁別刺激の手がかり/望ましくない行動の弁別刺激の手がかりを取り除く
2:望ましい行動の確立操作の設定/望ましくない行動の確立操作を取り除く
3:望ましい行動の反応努力を減らす/望ましくない行動の反応努力を増やす
の3つについてご紹介しました。
例を見ていくと、
どれも当たり前のように思われたかもしれませんがABA自閉症療育で行う介入方法はそんなに特別なものではありません。
むしろ当たり前のことをデータをとったりしながら積み上げていくことがABA自閉症療育の王道です。
ABA自閉症療育はしっかりと分析して当たり前のことをやって効果のエビデンスを出してきた方法だと思います。
このページから「先行子操作」を用いて行動を増やしたり減らしたりするためには、
・ 弁別刺激
・ 確立操作
・ 反応努力
の3点がポイントであると覚えていただければ幸いです。
「先行子操作」を使用する場合は「弁別刺激」「確立操作」「反応努力」を操作すること(掛け合わせてもOK)で、行動の増減を狙うことを覚えておきましょう。
ブログページ冒頭、このブログページまでの直近でご紹介をしてきた
「環境豊穣化法」と「NCR:Non Contingent Reinforcement(非随伴性強化法)」という方法についても先行子操作であると述べました。
「環境豊穣化法」は望ましい行動を増やす先行子操作であり、対照的に「NCR」は望ましくない行動を減らす先行子操作です。
望ましくない行動、問題行動を先行子操作によって減らしたい場合に気をつけたいことがあります。
「(ABA自閉症療育の基礎63)オペラント条件付けー速攻で問題行動を減らす「NCR:非随伴性強化法」(https://en-tomo.com/2020/12/02/non-contingent-reinforcement/)」
のページでNCRの最大のメリットは「速攻で問題行動が減少する」ことと書いたのですが、
基本的にNCR以外でも、先行子操作での問題行動介入はうまくはまれば速攻で問題行動を減少させることが可能です。
しかし忘れてはいけないこととして、
先行状況という環境側を操作して問題行動が起こりにくくしているだけなので、本質的に、お子さん自身で問題を解決できる行動を身につけたわけではないことは忘れてはいけません。
本質的にお子さん自身で問題を解決できる行動を身につけるためには結果操作、
「C:Consequence(結果)」に寄った介入方法が必要です。
次のページではこの結果に寄った方法「分化強化(Differential reinforcement)」をご紹介して行きます。
ABA自閉症療育でかなりメジャーな支援方法です。
【参考文献】
・ Howard Rachlin・Leonard Green (1972) COMMITMENT, CHOICE AND SELF CONTROL1 . JOURNAL OF THE EXPERIMENTAL ANALYSIS OF BEHAVIOR 17,15-22 No. 1(JANUARY)
・ Jonas Ramnerö & Niklas Törneke (2008)The ABCs of HUMAN BEHAVIOR:BEHAVIORAL PRINCIPLES FOR THE PRACTICING CLINICIAN 【邦訳: 松見純子 (2009)臨床行動分析のABC,日本評論社】
・ 日本行動分析学会 責任編集:山本 淳一・武藤 崇・鎌倉 やよい (2015) ケースで学ぶ行動分析学による問題解決 金剛出版
・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】
・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】