(ABA自閉症療育の基礎63)オペラント条件付けー速攻で問題行動を減らす「NCR:非随伴性強化法」

このブログページでは「非随伴性強化法(ひずいはんせいきょうかほう)」という支援方法をご紹介します。

「非随伴性強化法」とは「Non Contingent Reinforcement:NCR」の日本語訳です。

私自身も普段「NCR」と呼ぶことが多いので、このブログページでもNCRと呼ぶこととします。


Enせんせい

NCR私もよく使うのですが、

問題行動を速攻で減らすことができるかなりオススメ療育手法です!

このブログページでどのような問題行動に特に効果的かをご紹介します!


NCRは確立操作を利用した方法と私は捉えています

「NCR」はブログタイトルに入っているオペラント条件付けの理論を使用した問題行動を減らすことができる方法で、

記事を読み進めていただけると書いてありますが赤い丸が付いている「確立操作」を使用した方法と捉えるとわかりやすいと思います。


James E. Carr・Sean Coriaty・David A. Wilder・Brian T. Gaunt・Claudia L. Dozier・Lisa N. Britton・Claudia Avina・Curt L. Reed (2000) によれば、

NCRとは行動に依存せず行動を強化する方法です。

NCRの療育効果の有無についてはベースラインの前の状態と比較して減らしたい、もしくは増やしたい行動が良好な方向に変化していれば効果的であったと判断できます。

このブログページでNCRについて分かりやすくご紹介して行きましょう!



問題行動を減らすNCR:非随伴性強化法とは?


問題行動を減らすNCR:行動は結果を飽和化させると生じにくくなる

NCRは「確立操作」の中でも「飽和化」という現象を利用します。

以下、普段私たちが行うであろうエピソードから「飽和化」について理解を深めて行きましょう。


あなたがバーベキューをしたとして、特にお肉が好きだったとします。

あなたはお肉が大好きで、お肉の好き度は自己評価で100点です。

バーベキューが焼き上がると、もちろん最初にお箸を伸ばすのは「お肉」でしょう。

口に入れた瞬間、お肉はあなたの期待通り100点の味で口の中を満たしてくれます。


さぁ、最初に食べたお肉の味が100点だとすると2枚目のお肉の味は何点でしょうか?

1枚目と同じように、100点を維持していますか?

今まであまり考えたことはないかもしれませんが、一旦考えてみてください。

では、3枚目は?4枚目は?・・・10枚目は?


枚数を重ねていくと1枚目から少しずつ点数は下がって行きませんか?

食べた枚数を重ねていくと実はだんだんと100点から点数が下がっていくことが想像できると思います。

※実際は遮断化というものが生じていた場合、最初の数枚程度では「味の点数」は落ちないかもしれませんが、イメージとして枚数を重ねると「味の点数」が落ちることが伝えたいです


日常的な用語を用いれば「少し肉に飽(あ)きた」という状態です。


このようなことが起こる原因は、
「(ABA自閉症療育の基礎48)オペラント条件付けー確立操作「遮断化」「飽和化」「嫌悪化」(https://en-tomo.com/2020/10/19/establishing-operation-type2/)」

のページで紹介をした「確立操作」の1つ「飽和化(Satiation)」が生じたことが理由で起こってきます。


杉山 尚子・島宗 理・佐藤 方哉・リチャード W マロット・マリア E マロット(1998)によれば飽和化とは、

・ かなりの量の好子(※ 強化子のこと)を摂取してしまうこと

・ その好子による新しい行動の獲得や既に獲得した行動の維持が一時的に妨げられること

と定義できます。


上の例で考えてみると、

「ある目的(上の例ではお肉を口に入れる行動など)」の行動のあと、

目的の結果(上の例ではお肉)が多量に手に入るとお肉という結果が飽和化し、

「ある目的(上の例ではお肉を口に入れる行動など)」そのものも行わなくなる

と説明できます。


このような現象をABAでは「飽和化」と呼び、例えば

「飲水」 ・・・ たくさん水を飲んだあとは、「水を飲もうとする」行動が減る

「睡眠」 ・・・ たくさん睡眠を取ったあとは、「寝ようとする」行動が減る

などにも適用できる考え方です。

このように飽和化が生じると行動そのものが減少することを利用したABA自閉症療育の方法がNCRになります。



問題行動を減らすNCR:社会的関与や遊びも飽和する

上ではわかりやすいように「お肉」を例にしましたが、飽和化が生じるのはなにも「食物」、「飲水」、「睡眠」などといった「生理的な欲求」に関わるものだけではありません。


例えばあなたが友達と休日に、朝から夜まで遊んだ日のことを想像してください。

夜、解散してから家に帰ったとき、遊ぶ前と比べて「友達と遊ぶための行動(例えば遊びに誘うことや、友達と話をするために電話をするなど)」これらの行動を起こす頻度が減少

していることに気がつきます。これは気持ちが満足しているからかもしれませんね。


他にも例えば、

すごくゲームが好きで仕事が休みの日に朝から1日中ゲームをやったとき、夜には「うん。満足したし、ちょっと、もう今はゲームはいいかな」と思う気持ちが湧き上がり、ゲームをする(始める)行動が減少

するかもしれません。「やり飽きた」状態です。


このように社会的な関わりや遊びも多量に触れることで、社会的な関わりや遊びを得るために行ってきた行動が減少します。



問題行動を減らすNCRの例:問題行動を減少させる


行動には、行動のあとに伴う目的を得る意味がある

人が行動をする意味をざっくり分けるとすれば4つに分類できます(参考 V. Mark Durand  and Daniel B. Crimmins, 1988)

このような人の行動の意味を分析する方法をABAでは「機能分析(Functional analysis)」と呼ぶのですが、機能分析はABAの重要キーワードですので他の章で充分に解説をさせてください。

今後また機能分析のページで詳しく書いていきますが、

簡単に言えば


「注意引き」・・・・・「人からの注目や関わりという結果を求めて行動すること」

「要求行動」・・・・・「物や活動という結果を求めて行動すること」

「逃避/回避行動」・・「嫌悪的な状況や刺激が出現した際、それらを除去(もしくは低減)させる結果を求めて行動すること」「嫌悪的な状況や刺激が出現しないよう行動すること」

「感覚刺激行動」・・・「身体へ入ってくる感覚や刺激などの結果を求めて行動すること」


の4つに人の行動は分類して考えることができます。


Enせんせい

このような分類について、

療育の専門家から、もしくは自分で調べていく中で聞いたことがある人も多いのではないでしょうか?


このページで以下からお子さんの問題行動に対して「NCR」を導入する仮想事例を書いて行きますが、

仮想事例内ではお子さんの問題行動は「注意引き」によって起こっているものと想定し仮装事例を書いて行きます。



問題行動を減らすNCRの例:注意引きの問題行動を減少させる

NCRをお子さんの突然の泣きに適用した仮想事例です

この仮想事例は私は後輩に研修をする際に行うレベル1の仮想事例です。

以下のエピソードを見て行きましょう。


<母>先生、私困っているんです。2歳半の太郎なんですが、私が夕食をキッチンで作っていると泣くんですよ

<先生>そうなんですね。それは大変ですね。毎日泣くんですか?

<母>いや、週末は夫も気を遣ってくれて、夕食を宅配で取ることが最近は多いので、夫が1日家にいる土曜日、日曜日は泣きません

<先生>そうなんですね。旦那さんのお気遣い、嬉しいですね。でも、全部の土日、全て宅配なんですか?それもすごいですね

<母>あぁ、まあ。そうですね。多いということです。ちゃんと言うと、さすがに全部ではないですよ。夕食を宅配で取ることが多いだけでさすがに土日全部宅配だとお金もかかっちゃいます

<先生>なるほど。ちなみに土日で最近、家でお母様がキッチンでお料理された日はいつでしたか?

<母>そういえば先週の土曜日は私がキッチンで夕食を作りました

<先生>その日はたろうくんは泣いたか覚えていますか?

<母>あれ?んー、そういえば泣いていないかもしれません

<先生>え?そうなんですね。んー、お母様がキッチンで夕食を作られている日でも、状況によっては泣かないこともあるんですね。泣いている日と、泣かなかった先週の土曜日、何が違ったんだと思いますか?

<母>んー、夫が太郎と遊んでくれていたから、かな。それでかしら?

<先生>なるほど。ちなみに平日お父さんがいないとき、太郎くんが泣くときって何かきっかけはあるんですか?例えば、TVが消えてしまったとか?

<母>いや、突然泣き出すんです。なんの前触れもなく

<先生>太郎くんが泣いたら、そのあとお母様はどうされるんですか?

<母>「大丈夫?何か怖いことでもあったの?」とあやしに行きます。すると、泣きも収まるので


↑↑↑また機能分析のところで書いて行きますが、

だいたいこんな感じでエピソードがまとめられればほぼ「注意引きによって泣いている」可能性が最も高いと言えるでしょう。

ここからNCRを使った介入法を行なっていきます。


Enせんせい

もしお子さんが泣いている行動がお母さんからの注目(関わり)であったとすれば、どう介入すれば良いのでしょう?

このページで紹介するNCRは使えますよ!


会話を進めていきましょう!ここから介入フェイズです。


ここから介入のポイントを紹介して行きます

<先生>「旦那さんが太郎と遊んでくれていたから」泣かなかったとすれば、太郎くんは大人と関わりがあると泣かない可能性があるのかもしれませんね?

<母>確かに、そうですね

<先生>ちなみに「料理を始めてから、どれくらいの時間で太郎くんが泣き出す」のかわかりますか?まさかずっと泣いているとか、ありますか?キッチンに行ったらすぐに泣き出すんですか?

<母>いや、流石にずっとと言うわけではないですね・・・。んー、多分10分くらいしてからですかね?

<先生>わかりました。では、例えば「料理は太郎くんが見える位置でやる」これは、お母さんがキッチンで料理をするときに太郎くんをキッチンから見えるところに移動させて、そこで遊ぶようにさせる。これは、可能ですか?

<母>それは大丈夫です

<先生>それで、今なんとなくの感覚で10分くらいは泣かないんですよね?でしたら、7分に1回は太郎くんの方を見て、必要であれば太郎くんに近づいていって「上手く、泣かずに遊んでいるね」と声掛けをして褒めてあげる。これは、どうでしょう?

<母>んー、それだけでいいんですか?

<先生>はい。例えば今日、ご馳走を作ると予定されていた場合は難しいと思いますから、できる日からこの介入を始めて欲しいのですが、いつなら大丈夫そうですか?

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かなり端折りましたが、だいたいこんな感じ!

実際は他にも「どうデータを取るか?」、「それでも泣いてしまった時どうするか?」、「どのような声かけのレパートリーがあるか?」など丁寧に聞いて行き、考えることはあるのですが、

本筋は上に書いたような介入内容です。


以上のようなやりとりからお母さんが7分に1回太郎くんに充分な注目を与えたとします。

すると太郎くんから見れば7分の段階で注目がある程度飽和するため、今まで10分で泣いていたのが泣かなくなる。

という療育方法です。


このような

お子さんが問題行動を起こす意味を機能分析し、分析した機能をもとにお子さんが欲しい結果を先出して問題行動を抑制する方法がNCRであり、日常の問題解決にかなり使えます。



問題行動を減らすNCRのエビデンス

Brian A. Iwata・Gary M. Pace・Michael F. Dorsey・Jennifer R. Zarcone・ Timothy R. Vollmer・Richard G. Smith・Teresa A. Rodgers・Dorothea C. Lerman・Bridget A. Shore・Jodi L. Mazaleski, Han-Leong Goh・Glynnis Edwards Cowdery・Michael J. Kalsher・Kay C. Mccosh・Kimberly D. Willis (1994) 11年に渡り、152例という大規模な自傷行為を示す人々へ研究を行いました。


研究の結果152例のうち26.3%の40例が社会的にポジティブな結果によって自傷行為を行なっていたようです。

自傷行為によって得られる人からの注目や得ることができるアイテムによって、自傷行為を行なっていた人たちになります。


もっとも多かったのは社会的にネガティブな結果を回避するために自傷行為を行なっていたグループで58例(38.1%)でした。

自傷行為によって得られる課題の終了などによって、自傷行為を行なっていた人たちになります。


この研究で示されている社会的にポジティブな結果は「正の強化」、社会的にネガティブな結果は「負の強化」と考えるとわかりやすいでしょう。

「正の強化」と「負の強化」については、
「(ABA自閉症療育の基礎20)オペラント条件付けー正の強化と負の強化(https://en-tomo.com/2020/08/15/aba-positive-reinforcement-negative-reinforcement1/)」

をご参照ください。


Brian A. Iwata他 (1994) 上で示した太郎くんの例のような注意を親御様から示すような方法はほとんどの自傷行為が注目によって維持しているタイプの人たちへ非常に効果的で有効であったと述べています。

加えてBrian A. Iwata他 (1994) 「注意」や「叱咤」は効果がなかったとも述べました。

「注目」と言ってもお子さんが欲しいタイプの注目が大切です。

Brian A. Iwata他 (1994)NCRが有効と言ったのは、社会的にポジティブな結果によって自傷行為が維持していたグループの中で、特に人からの注目によって自傷行為を行なっていたグループになります。

お子さんの示す問題行動が「人からの注目」であった場合、このブログページでご紹介したようなNCRによって問題行動の低減を目指してみるのはいかがでしょうか?



さいごに

このブログページではNCRを正の強化、特に「人からの注意」によって問題行動を起こしている場合に効果的であり有効と書いてきました。

しかしRaymond .G .Miltenberger (2001)はさまざまな文献からNCRが注目や逃避によって維持されている問題行動への介入法として有効であると述べています。

逃避や回避という「負の強化」で維持している問題行動にもNCRは有効なようです。


ここまで簡単に書いてきましたがNCRを専門的に言えば、

強化スケジュールに基づく手続きで、強化子を固定間隔スケジュールまたは変動間隔スケジュールにおいて、ターゲット行動とは無関係に送り込む方法(参考 James E. Carr, 2000)

と言えます。

NCRはとても効果的で有効な療育手段です。


私自身もよく使いますが個人的にNCRで注意しておかなければいけないと思う点をご紹介します。

このブログページで紹介した太郎くんは7分おきにお母さんに話しかけられることで「泣く」という問題行動が消失しました。

しかしこれは「太郎くんが人から注目が欲しいときに、泣く以外の適切な行動を学んだ」というわけではない。

ということです。


太郎くんは10分間お母さんに相手にされなければまた泣いてしまうかもしれません。

本当は「ねーねー、母さん」と言って泣かずに話しかけてくると言うような、適切に注目が得られる代替手段が太郎くんにとっては必要なのかもしれません。


NCRの最大のメリットは「速攻で問題行動が減少する」ことです。

お子さん以外の家族にも生活がありますから、即効性の問題解決は重宝します。

ただ長期的に根本の問題解決に至っていないだろう?と言われると、そうかもしれません。


ここまでご紹介をしてきたNCRそして、

「(ABA自閉症療育の基礎62)オペラント条件付けー環境の豊穣化支援、適切に余暇を過ごす方法(https://en-tomo.com/2020/11/29/aba-environmental-abundance/)」

で紹介をした「環境豊穣化法」は、


A(Antecedent):先行状況

「ココ」と書かれた「A(Antecedent):先行状況」に寄った介入法です。


このような先行状況に寄った介入法は「先行子操作(せんこうしそうさ)」と呼ばれるのですが、

次のページでは先行子操作について他にどのようなものがあるかを紹介して行きます。



【参考文献】

・ Brian A. Iwata・Gary M. Pace・Michael F. Dorsey・Jennifer R. Zarcone・ Timothy R. Vollmer・Richard G. Smith・Teresa A. Rodgers・Dorothea C. Lerman・Bridget A. Shore・Jodi L. Mazaleski, Han-Leong Goh・Glynnis Edwards Cowdery・Michael J. Kalsher・Kay C. Mccosh・Kimberly D. Willis (1994) THE FUNCTIONS OF SELF-INJURIOUS BEHAVIOR: AN EXPERIMENTAL-EPIDEMIOLOGICAL ANALYSIS. JOURNAL OF APPLIED BEHAVIOR ANALYSIS. Nov.2 27,215-240

・ James E. Carr・Sean Coriaty・David A. Wilder・Brian T. Gaunt・Claudia L. Dozier・Lisa N. Britton・Claudia Avina・Curt L. Reed (2000) A review of “noncontingent” reinforcement as treatment for the aberrant behavior of individuals with developmental disabilities. Research in Developmental Disabilities. 21, 377–391

・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】

・ V. Mark Durand  and Daniel B. Crimmins (1988) Identifying the Variables Maintaining Self-Injurious Behavior. Journal of Autism and Developmental Disorders, Vol. 18, No. 1