このページはイラストで言えば、
「ココ」と書かれているところの内容です。
「(ABA自閉症療育の基礎39)オペラント条件付けー般化(https://en-tomo.com/2020/09/14/discrimination-learning-generalization/)」
のページでは「般化(Generalization)」という現象について書いてきました。
このページでは「般化(刺激般化)」について
強化されてきた弁別刺激に似た刺激の下で同じように行動したとき、「刺激般化」が生じたと言われる
このような現象を「般化」と説明し、
・ 強化されてきた弁別刺激に似た刺激の下では、同じように行動する確率が上がる
・ 強化されてきた特定の状況(刺激)に似た状況(刺激)の下では、同じように行動が出現しやすい
・ 似た状況では、似た状況で強化されてきた行動を人間(人間以外も)は取りやすい
と「般化」が起こりやすい条件についても紹介しました。
「般化」は「弁別」と同じようにABA療育ではとても大切な知っておくべき知識です。
ABA療育で「般化」が生じた際、その生じた状況が「ポジティブ」なときと「ネガティブ」なときがあるでしょう。
このページではそのことについて書いていきます。
最初に自閉症児にとって「般化」についてどういう傾向があるのかを簡単に解説し、
その後ABA療育で「般化」が生じた際、その状況が「ポジティブ」なときと「ネガティブ」なときがあることを書いていきます。
自閉症児は般化が苦手?
自閉症児のABA療育において、般化が生じたという結果は基本的にはポジティブなことが多いと思います。
なぜなら自閉症児は「般化」が得意ではありません。というより、むしろ典型的な自閉症傾向を持つお子さんは般化を苦手とするでしょう。
例えばO.Ivar Lovaas (2003) は自閉症の人々は、環境から環境へと「自分の経験を携えていく」ことを直接教えられないかぎり、そうすることができない。この欠点を是正するためには、般化そのものを教えなければいけないと述べています。
これは私の言い方になりますが「あなたに教えたこのスキルは、私以外の人や、ここ以外の場所、他の同じような似た物や、今は朝だけれども夜にも、同じようにするのよ!」
と言う、自閉症児以外のお子さんであれば言われなくてもそうするであろう般化行動を自閉症児は示さない
だから、別の人の前や場所などでも行う「般化」という現象から教える必要がある
とLovaasは述べているのだと思います。
ABAで自閉症児の療育を行っていく中で、このことは概ね正しいと思いますが注意すべき点はこのLovaasの発信は2003年のものです。
それから月日が経ち2013年には自閉症の診断基準も変わりました。
そのため現在「自閉症(自閉症スペクトラム症)」という診断を持っている全てのお子さんが「教えたスキルが般化しない」という問題を抱えているかどうかは疑問が残るところです。
ですのであなたのお子さんが「自閉症(自閉症スペクトラム症)」という診断があるためイコール「般化ができない」とまで断定せず、お子さんの行動を観察し判断する必要があります。
私の経験ですがお子さんによって「般化」するお子さんもいますし、確かにO.Ivar Lovaas (2003) が述べたようにかなり「般化」の範囲が限定されているお子さんがいることも事実です。
個人的な意見としては自閉症時にもいろいろなお子さんがいるのですが、
いわゆる健常児と呼ばれるお子さんと比較して、
「自閉症児は教えられた(または自分で学んだ)行動を(健常児と比較すると)般化しない」というイメージはこれからABA療育で自閉症児を教える際には持っていた方が良いでしょう。
そのように思っていることで、例えば「般化学習」というセッティングを組んでフォローすることができます。
William・O’ Donohue & Kyle E. Forguson (2001) は比較的狭い範囲の刺激が弁別刺激になるように学習する場面を弁別学習といい、比較的広い範囲の刺激を弁別刺激になるように学習する場面を般化学習と呼んでいると述べました。
般化は教えることができるのです。
例えばSharon Y. Lee・Ya-yu Lo・Yafen Lo (2017) はビデオモニタリングという手続きを用いて自閉症児に機能的な遊びスキルを教えようとしました。
この研究ではトレーニングで使用したおもちゃ以外のおもちゃでも機能的に遊べるかどうか、「物般化」を検証することを行っています。
もし「般化」していなかった場合にはまた「般化」を促進するセッティングを組んでいく必要があるのですが、頭から「般化するもの」と考えてしまっていてはお子さんに必要な学習機会を逃してしまいます。
「般化は練習できる」、このことを覚えておいてもらった上でABA療育において「ポジティブな般化」と「ネガティブな般化」について以下から見ていきましょう。
ABA自閉症療育におけるポジティブな般化
上の記述からもわかりますが、自閉症児が行動を「般化」させた場合それは基本的には喜ばしいことです。
実森 正子・中島 定彦 (2000) は刺激般化(※ このページで書かれている「般化」のこと)は生体が環境に適応する上で重要である。ある刺激に適応的に反応することを学習すれば、それに類似した新しい刺激にも適応的に反応できるからであると述べています。
実森 正子他 (2000) が述べたように、学んだことを複数の場面で応用できることは、その生体の環境適応につながるでしょう。
例えば、1つの場面で教えられた行動がその場面でしか限定的にしか出現しなかった場合、その教えられた行動は果たして意味があると言えるでしょうか?
この場合、適応的と言えるでしょうか?
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あなたが私のところにやってきて、お子さんにABA療育指導をして欲しいと言ったとします。
あなたのお子さんはもうすぐ3歳になるのですが、ほとんど発語はなく、言葉でのコミュニケーションは難しいとお母さんは判断していましたし、実際に出せる音の数も限られていました。
私はお母さんからの情報から、お子さんはクッキーが好きだと言うことは知っていましたので、クッキーが目の前にあるときに「食べたい」と言えるように練習をしました。
2ー3回来てもらったときに、お子さんが「あべい(食べたいの意)」と発音し、言葉で私に不明瞭ではありますが、何度かそのように言葉で伝えることができました。
言葉で伝えられることはだんだんと安定していき、
その後、言葉の明瞭性を上げるプログラムを実施し「あべい」という明瞭性も整い、8回目の今では、私の前ではクッキーを見るとお子さんはある程度綺麗に「食べたい」と言えるようになりました。
めでたし、めでたし♬
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このエピソードを見てどう思ったでしょうか?
このエピソードだけ見ると成長を感じ、とても良い結果のように思いますね。
では、8回目が終わったときの親御様と私の会話が以下のようなものであった場合はどうでしょうか?
今日、ついに「あべい」と言っていた言葉も、
「食べたい」と綺麗に言えるようになりました!
お子さんは、自分が食べたいものがあったとき、言葉で要求することができるようになりましたよ!
私の前ではまだ、一度も「食べたい」と言ったことはありません
お子さんは確かに、クッキーを見て綺麗に「食べたい」と要求するスキルは身につけたことでしょう。
ただし、その身につけたスキルがあまりにも「場面限定的(※ この例の場合は、先生の前でしか言えない)」だと、上のお母さんの気持ちを考えても、正直「あまり意味はない」と思いませんか?
基本的に親御様のニーズというものを正しく捉えたとすると、「スキル(行動)ができるように、教えてください」
ではなく、
「適切な場面で、適切に行動できるように教えてください」
ということでしょう。
ですから教えた行動が教えた人の前や場所以外でも使用されるという、自閉症児が行動を「般化」させるという結果は、基本的にはABAの療育専門家が狙う本筋の、狙わなければいけない大切な成果であると言えます。
ほとんど場合、特に言葉の発達が遅れていたり、まだ幼いお子さんの場合、ABAを通して療育するというのは「教える」ことの比率が多くなるでしょう。
普通は教えている場面と使用している場面が違うことが多いことがほとんどです。
例えば「療育機関に通っている」などは典型的で、その療育機関でできたことがゴールにはなりません。
そのため、自閉症児が教えられた人や場所や物や場面以外で、自発的に行動した場合の「般化」は喜んで受け入れるべきポジティブなものでしょう。
ABA自閉症療育におけるネガティブな般化
さて上では「ポジティブな般化」について述べてきましたが「ネガティブな般化」についても書いていきましょう。
例えば、
「(ABA自閉症療育の基礎38)オペラント条件付けー弁別学習としてのDTT(https://en-tomo.com/2020/09/13/discrimination-learning-dtt/)」
で紹介した、
「りんご」を見せて「りんご」と言えるように教え、次に「ばなな」を見せて「ばなな」と言えるように教えるとき、お子さんが間違って「りんご」と言ってしまう
これは決して「ネガティブな般化」ではないと思います。
お子さん自身が考え、自発的に強化を取りに来る姿勢(お母さんに褒めてもらいたい)で行動した結果です。
まだ教えられていない「ばなな」に対しても積極的に自発的にアプローチしたこの過ちを、
「ネガティブな般化」とは捉えないであげてください
では「ネガティブな般化」とはどういったケースで生じるのでしょうか?
それはあまり建設的ではない、不適切な行動が般化するケースです。
例えばあなたのお子さんが家で何か嫌なことがあった場合、ヘルプを求める意図を表現するために「泣く」という手段を取っていたとします。
このお子さんは一人で着替えをしていて、靴下がどうしても履けないことから困っていたとしましょう。
あなたはお子さんが泣くと少し心配になって、原因はわからないものの
・ お子さんのすきなおもちゃを渡す
・ 頭を撫でて優しく接する
・ 「怖いの?大丈夫だよ大丈夫だよ」と声かけする
など、いろいろな対応を試みます。
いろいろやっているうちに「大丈夫だよ」と言って靴下を履かしたとき、お子さんの「泣き」が終了しました。
このときの状況から、あなたは「あぁ、なんだ。靴下が履けなくて困っていたのか」と解釈し、その場が終了したとします。
これで一件落着となれば良いのですが、
この日から徐々にではありますが、例えば
・ 冷蔵庫が一人で開けられないとき
・ おむつにうんちをしてしまって気持ちが悪いとき
・ Youtubeのお気に入りの動画が止まってしまったとき
お子さんは泣いて訴えかけることが多くなってきたように、あなたは感じていました。
今までは、冷蔵庫が一人で開けられないときやおむつにうんちをしてしまったとき、Youtubeのお気に入りの動画が止まってしまったときは近くに来て指差しをするなどで表現してくれていたのに・・・
明らかに泣いて訴える要求の範囲が、前と比べて拡大しています。
時間が進むにつれて、状況が良くなる見込みはありません。
むしろ今では少し暇になったときにも、何か楽しみを私が提供することを期待するかのように大きな声で泣きます。
そのことを無視していると、部屋にあるリモコンを投げることもありました・・・
TVの画面が割れました。本も破られました。泣きながら自分の頭を打ち付けることもありますし、手を噛むこともあるんです。
今では「泣く」ことが何かとても悪いことのように感じ、できるだけ「泣かないように、泣かないように」と常に子どもの機嫌を伺うようになってしまいました
と、いうように問題行動が「般化」、そして拡大していくことは「ネガティブな般化」の例でしょう。
以上の例のような幼いお子さんや自閉症児、発達に遅れがあるお子さん、発達障がいがあるお子さんの問題行動は「シェイピング(Shaping)」という現象からその成り立ちを説明することが可能です。
お子さんの問題行動の般化、拡大についての「シェイピング」の解説はまた別のページで行っていきます。
やはりこのように、問題行動が他の人や場面に「般化」していくことについては「ネガティブな般化」と捉えて良いと思います。
さいごに
ここまでで学んできた、
・ 強化されてきた弁別刺激に似た刺激の下では、同じように行動する確率が上がる
・ 強化されてきた特定の状況(刺激)に似た状況(刺激)の下では、同じように行動が出現しやすい
・ 似た状況では、似た状況で強化されてきた行動を人間(人間以外も)は取りやすい
このような現象が「般化」を促進しやすい要因であるという内容を知っていれば、
「ネガティブな般化」を止める方法を考えるヒントにもなりますし、
逆に「ポジティブな般化」を促進するヒントにもなるでしょう。
次のページではもっと詳しく、どういった刺激が「弁別」を生み、逆に「般化」を生じさせるのかについて解説をしていきます。
【参考文献】
・ 実森 正子・中島 定彦 (2000) 学習の心理 第2版 サイエンス社
・ O.Ivar Lovaas (2003) TEACHING INDIVIDUALS WITH DEVELOPMENTAL DELAYS 【邦訳: 中野 良顯(2011) 自閉症児の教育マニュアルー決定版・ロヴァス法による行動分析治療 ダイヤモンド社】
・ Sharon Y. Lee・Ya-yu Lo・Yafen Lo (2017) Teaching Functional Play Skills to a Young Child with Autism Spectrum Disorder throughVideo Self-Modeling. Journal of Autism and Developmental Disorders. 47:2295-2306
・ William・O’ Donohue & Kyle E. Forguson (2001) The Psychology of B.F.Skinner 【邦訳: 佐久間 徹 (2005) スキナーの心理学 応用行動分析(ABA)の誕生 二瓶社】