「(ABA自閉症療育の基礎35)オペラント条件付けー「強化」「罰」「消去」まとめ(https://en-tomo.com/2020/09/05/aba-basic-conclusion2/)」
のページでまとめられている内容は下のイラストでいうと、
「ココ」と書かれているところを紹介した内容でした。
このページからは下のイラストの、
「ココ」と書かれている内容について紹介をしていきます。
イラストの「A(Antecedent):行動に先立つ環境、先行状況などと呼ばれる」の部分です。
このブログ内ではABA療育、特にオペラント条件付けを使用した療育では「C:(Consequence):結果」が大切だと書いてきました。
ABA療育で問題行動を減らしたり、教えたいスキルを教えたりする場合「C:(Consequence):結果」が最重要です。
ここまで述べてきたようにオペラント条件付けにでは結果によって行動が強められたり、弱められたりします。
そのため私も含めABAを専門とする専門家は、オペラント条件付けの知見から行動を結果によってコントロールしようとするでしょう。
ABAの専門家は、行動の結果ー行動のあとに続く事象を分析し解決方法を探っていきます。
これからのページでは今までの知識をさらに拡大するための内容です。
これからのページからはオペラント行動が起こる「前」について解説していきましょう。
このページからは「行動の前」、「A(Antecedent):行動に先立つ環境、先行状況などと呼ばれる」の部分についての解説に入っていきます。
このページでからは最初に「A」の部分の「弁別刺激(Discrimination Stimulus)の確立」について学んでいきましょう。
「弁別(べんべつ)刺激」とは、
赤い色の丸で囲まれている「弁別刺激」の確立は「刺激性制御(Stimulus Control)」の確立とも言い換えられます。
このページでは「弁別刺激」が確立されることについてのエピソードの日常例を見てみましょう。
弁別刺激確立のエピソード
例えば朝、人に出会ったときを考えてみてください。
特定の人には「おはよう」とあいさつをしますが、特定の人には「おはよう」とあいさつはしないでしょう。
これはなぜなのでしょうか?
上のイラストは「(ABA療育での行動の見方4)ABAの行動解釈。結果がその後の行動を左右する(https://en-tomo.com/2020/07/03/behavior-view-base2/)」
で紹介したイラストです。
URLが貼られたリンクを踏んでいただくと記事が出てきますが、上の男の子は友達に会ったから「おはよう」とあいさつをしました。
幸いなことにお友達とお友達のお母さんからは「おはよう」とあいさつが返ってきました。
この男の子のエピソードを、
もっと前の時間に戻って・・・、
この男の子がもっともっと幼い頃を見てみましょう
男の子はお母さんに『朝、人にあったら「おはよう」とあいさつをするのですよ』と教えられました。
いや、もしかすると、お母さんが朝起きてきたお父さんに「おはよう」とあいさつをする様子を見ていたときに、観察を通して学習したのかもしれません。
ある日、男の子はお母さんに朝「おはよう」とあいさつをする行動をしました。
そのときのお母さんの優しい笑顔と一緒に頭も撫でてくれて、返ってきた「おはよう」という関わりは、男の子にとって強化子となり、朝のあいさつという行動を強めました。
次いで起きてきたお父さんにも同じようにあいさつをすると、お父さんからもやはり同じような関わりが返ってきて、男の子の「おはよう」とあいさつはさらに強められました。
ある日、祖父・祖母の家に行きお泊まりをする日がありました。
その次の日朝起きて、男の子はおばあちゃんにおはようとあいさつをしました。
おばあちゃんもやはり笑顔でしたが、「お利口さんだね」と口にしました。
男の子はまだ幼いので「お利口さん」という意味をしっかりとはわかっていなかったですが、
今まで男の子が「お利口さん」と伝えられたときは常に、周りの大人からたくさんの笑顔と優しい口調が対提示されてきていた(レスポンデント条件付け)ため、そのときも男の子を嬉しい気持ちにさせました。
※レスポンデント条件付けのまとめページは「(ABA自閉症療育の基礎15)ABA療育、レスポンデント条件付け・エクスポージャーのまとめ(https://en-tomo.com/2020/08/05/aba-basic-conclusion1/)」
おばあちゃんの優しい笑顔と、「お利口さん」というキーワードを聞いてさらに男の子の「おはよう」とあいさつをする行動は強められていきます。
その日、男の子が起きる前の早朝から用事で出かけていたおじいちゃんが夜、男の子が眠る前の時間、家に帰ってきました。
男の子は眠い目をこすりながらも、また褒めてもらいたくておじいちゃんに「おはよう」と言います。
しかしそのとき男の子は初めて違う結果が返ってきたことに驚くことになりました。
『もう夜だぞ。お前は寝巻きも着ている。「おはよう」じゃなくて「おやすみ」だ。明日は早くから遊びに連れて行ってやるから、今日は早く寝ろ。「おやすみ」』
次の日、おじいちゃんと一緒に朝早くから動物園に行くことになっていました。
朝家を出るとおじいちゃんの隣の家の奥さんが「あら、おはよう」と言ってきました。
男の子は「おはよう」と言いましたが、ほとんど顔を見たことがない人に対して「おはよう」と言ったことはこれが初めてだったかもしれません。
少し緊張しながらしたあいさつでしたが、隣の家の奥さんも優しい笑顔を返してくれましたし、隣にいたおじいちゃんも「えらいぞ」と、今日は「おはよう」と言ったことについて褒めてくれました。
動物園までは歩いて20分くらいでしたが、嬉しくなった男の子は人とすれ違う度に「おはよう」というようになりました。
最初は笑顔でその様子を見ていたおじいちゃんでしたが、動物園に着く前にはその笑顔も何か、無理やり笑っているように見えたことを男の子はなんとなく気がついていました。
動物園はすごく楽しくて、テンションの上がった男の子は動物園でも人とすれ違う度に「おはよう」と言います。
動物園は道と違って、人が一つの場所に密集しますから、そこに密集している人たち一人ひとりに男の子は元気に「おはよう」とあいさつをしていきました。
おじいちゃんが無理やり笑っているような様子には男の子は気がついていましたので、おじいちゃんにもっと笑ってもらおうと、喜んでもらおうと男の子は頑張ったのです。
おじいちゃんは『誰にでも、むやみやたらに「おはよう」と言わんでいい』と言いました。
このときおじいちゃんはもう、無理やり作った様子の笑顔すらもなくなっていました。
それから1年もしないうちに男の子は、
(1)朝、起きて最初に会ったときに1回だけ「おはよう」と言う
(2)最初に会ったときでもお昼ご飯を食べたあとは「おはよう」とは言わない
(3)「おはよう」はすべての人間に言うのではない。自分が知っている人に言うことと、これから関わることがあるだろう人に言うことと、相手から「おはよう」と言われたときに言う
これらのことを学んでいきました。
男の子は、
「特定の場面では強化されるが、特定の場面では罰が返ってくる、もしくは消去される」
ということを試行錯誤の経験によって学んでいました。
男の子は、
「こういった状況であれば強化される」
という、朝のあいさつにおける
「弁別刺激」が確立されたのでした。
さいごに
Raymond .G .Miltenberger (2001)はおそらく、自分自身の行動のほとんどすべてが刺激性制御を受けていることに気がつくだろう。行動は手当たり次第に生起するということはなく、過去に強化された状況や環境において生起する。
と述べています。
上で見てきた男の子も、自分が朝「おはよう」とあいさつをしたとき、「強化される場面」と「強化されない場面」があったことでしょう。
経験を通して「強化される場面」で朝「おはよう」とあいさつをすることが増えていきます。
「弁別刺激」は私たちの日常の中にありふれているのです。
冒頭でも記載しましたが、オペラント条件付けはここまでで紹介した行動のあとの結果によって行動が増減するという理論ですが、「弁別刺激」の確立について学ぶことで今までの知識をさらに拡大することができるでしょう。
次のページではもっと専門的な知見から見ていきます。
【参考文献】
・ Raymond .G .Miltenberger (2001)Behavior Modification : Principles and Procedures / 2nd edition 【邦訳: 園山 繁樹・野呂 文行・渡部 匡隆・大石 幸二 (2006) 行動変容方入門 二瓶社】